僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ

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73.男としての格の差

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 格が違う、とでも言えばいいのか。

「な、何しやがる!」
「それはこっちのセリフですよ。女の子を怒鳴って、手を出そうとして、何もする気がなかった、なんて言いませんよね?」
「うっ……」

 大迫くんの眼光に気圧されて、先輩男子は呻いた。
 手を振り払おうとしているみたいだけど、大迫くんの力が強いのかビクともしていない。
 体格は明らかに先輩男子の方が大きいはずなのに。どちらが格上なのか、誰が見てもハッキリしていた。

「ちっ。もういい! 放せよこの野郎!」
「彼女に危害を加えないと約束できますか?」
「わ、わかってるっつーんだよ」

 大迫くんの登場で松雪さんに何もできないと察したのだろう。先輩男子は逃げるようにこの場を後にした。

「いきなり怒鳴り声が聞こえてきたからびっくりしたよ。松雪さん大丈夫だった?」
「え、ええ……。健太郎くんのおかげで助かりましたから」

 大迫くんは自分のしたことを誇るでもなく、松雪さんの心配をしていた。
 な、なんて格好いいんだ……!
 彼は乱暴な先輩相手に一歩も退かなかった。それどころか怯ませていたほどだ。
 体格が良いわけでも、顔が怖いってわけでもない。
 それでも彼の威圧感は離れたところにいる僕にも伝わってくるほどだったのだ。

「あれ、矢沢くん?」

 あっ、見つかった。
 松雪さんを助けようと曲がり角から身体を出したところで固まっていた僕。
 出遅れたにもほどがある。しかも大迫くんが登場してくれなかったら危なかった。
 僕は何をしているんだろう……。自分の間抜けさに、気まずすぎて目を逸らしそうになってしまう。

「もしものことを考えて、比呂くんにお願いしてついて来てもらっていたのですよ。ここに呼び出された時から不穏なものを感じていたので」
「そうなんだ。そこまでの考えに至っているなら、こんな人気のない校舎に来る必要はなかったと思うけどね」

 確かに! 相手は最初から怒鳴る気満々だったし。もっと近くに人がいそうな場所に変えてもらうとか、他にやりようはあったのかもしれない。

「いつもの松雪さんならそれくらい……いや、僕が口にするべきじゃなかったね。ごめん」
「い、いえ……。健太郎くんの言う通りです。私がもう少し考えを巡らせるべきでした」
「……」
「……」

 え、何この空気。
 松雪さんと大迫くんは互いに目を逸らしながら黙り込んでしまった。
 大迫くんのことはまだよくわからないけれど、松雪さんなら助けてくれた相手をもっと褒め称えるだろう。少なくとも黙り込んだりしないはずだ。
 なのに、二人に漂うこの気まずい空気はなんだ?

「矢沢くん、後は任せた。僕は先生に荷物運びを頼まれているから行かなきゃいけないんだ」
「あ、う、うん……」

 僕がぎこちなく頷くと、彼は「ありがとう」と言って背を向けた。
「ありがとう」は、助けに入れなかった僕が言わなければいけない言葉だった。
 小さくも大きい背中。それを眺めて、僕は情けない気持ちになった。

「い、行こうか松雪さん」
「は、はい……」

 気まずい空気を変えられないまま、僕たちはこの場を後にしたのだった。


  ◇ ◇ ◇


 期末試験が近づいてきたので、城戸さんと松雪さんは試験が終わるまでボクシングジムには来ない。
 僕も試験勉強に集中するつもりだったんだけど……。この間松雪さんを助けられなかった自分が不甲斐なくて、トレーニングして鍛えずにはいられなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「しっかり休憩とってね矢沢くん。無理は禁物だからねー」
「で、でも……。僕はまだまだやれます!」
「気合いは素晴らしい! ……でも、フォームがバラバラになっているよ。がむしゃらにやればいいというものでもない。一つずつ丁寧にやっていこう」

 トレーナーのおじさんにたしなめられてしまった。

「はい……」

 おじさんの言う通りだ。僕は息を整えることに集中する。
 ……僕がボクシングを始めたのは、松雪さんを守りたかったから。
 別に彼女に危害を加えようという相手をボコボコにしてやろうと思ったからではない。
 僕が欲しかったのは安心感だ。
 どんな人が相手でも、どんな状況であろうとも助けに入れるだけの度胸が必要だった。
 お面を被って、見よう見まねでラッパー気取りになって、自分が自分ではないと言い聞かせなくてもいいように。
 僕は、当然のように松雪さんの前に立って、心配ではなくて安心させられるような男になりたかったのだ。

「はぁ……」

 呼吸を整えながら、小さなため息が混じる。
 それは思った以上に遠い道のりのようだった。
 あの時……。松雪さんが先輩男子に怒鳴られて、手を伸ばされた時、僕は萎縮したから出遅れたのだ。
 なんのために頼まれてあそこにいたのか……。ビビっていた自分を軽蔑する。
 そんなことばかりが頭の中に浮かんでしまい、身が入り切らないままトレーニングを終えてしまった。
 せっかく試験勉強する時間を削ってきたというのに何やってんだか……。

「あっ、矢沢くん。よければ一緒に帰らないか?」

 背中を丸めながら帰路に就こうと足を踏み出してすぐに、格好いい大迫くんに呼び止められたのだった。
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