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1.美少女をお持ち帰りですか?

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 近所にコンビニがあると便利だ。
 高校生になったのを機にマンションで一人暮らしを始めてから一年。近くにコンビニがあるという状況になって、その利便性に気づかされた。もし引っ越すことがあったとしても、近所にコンビニがあることを条件にしたいと思っている。
 思い立ったら気軽に夜食を買いに行けるし、発売したばかりの漫画雑誌を手に取ることができる。二十四時間営業に感謝である。
 そんなわけで、まだ肌寒さを感じる四月の月明かりの下を歩き、今夜も夜食と漫画のためにコンビニに訪れた。

「あれ? ……誰だっけ?」

 コンビニに入店すると、入口横にある雑誌コーナーから聞き覚えのある女子の声がした。反射的に声の方を向けば、俺と同じ高校の制服を着た金髪ギャルがこっちを指差していた。
 内心で「げっ」と漏らす。
 クラスメイトの渡会さんだ。俺は彼女が誰なのかすぐにわかったが、自分から声を上げた渡会さんの方は俺の名前を思い出せないようだった。「見たことあるはずなんだけどなぁ~」と首をひねっている。見たことあるっていうか、クラスメイトですけどね。
 渡会さんとはまともに話したことがないけれど、勝手ながら一方的に苦手意識を持っていたりする。金髪にピアスって、俺のような人畜無害な男からすればそれだけで恐怖の対象だ。
 だからって、回れ右をして帰るのは逃げだ。ビビっていないことを主張するためにも、ここは気づかない振りをして買い物を済ませるのだ。

「どうしたのアスカ?」
「どっかで見たことある男子がいてさぁ……。んー、ここまで出かかっているのに出てこない~」
「あれ、室井くんじゃない」

 渡会さんの後ろからひょっこり顔を出した女子に、あっさり名前を言い当てられてしまった。
 内心で冷や汗を流す。そんな胸中を悟られないように、聞こえない振りをしてお目当ての食品売り場に直行した。漫画は諦めるしかない。
 ていうか、今俺の名前を当てた女子って桐生さんだったんじゃないか?
 典型的なギャルの渡会さんと、真面目で清楚な見た目の桐生さんという組み合わせは、なんだかアンバランスに感じた。
 桐生さんも同じクラスだけど、二人が一緒にいるという印象はあまりなかった。まあ俺が知ってるのって教室の様子だけなんだけども。
 とにかく、早く買い物を済ませてしまおう。近くにクラスメイトがいるのってなんか落ち着かない。これもぼっちの宿命か。
 心の中で「補導される前に早く帰るんだぞー」と制服姿の二人に注意を促しておく。実際は目も合わせないけどね。

「よっ、室井。偶然じゃない」
「あっ、ども」

 俺の心の声が漏れたわけじゃないんだろうが、レジに向かおうとしたタイミングで渡会さんに声をかけられた。咄嗟に会釈しながらあいさつを返す。
 同い年相手でも反射的に頭を下げちゃうのってなんなんだろうね? 自分自身の行動だけどわかんない。認めたくないものだが、陰キャの習性なのかもしれない。

「何よそれー。すっごい他人行儀なんだけど」

 俺の反応がよほど面白かったのか、渡会さんはケタケタと笑った。
 そりゃあ他人ですからね。ていうか笑いすぎだよ。店員さんに見られて恥ずかしいだろ。

「ごめんね室井くん。アスカったら急に声かけるから驚かせちゃったよね?」
「えー、あたしのせいなの?」
「そう言っているじゃない」
「うぅ~。紗良が冷たーい」

 見た目正反対の渡会さんと桐生さんは仲良しのようだ。俺はお邪魔のようなのでさっさと退散させてもらおう。

「おっと室井。どこ行こうとしてんのよ? まだあたしの話が終わってないでしょうが」
「あっ、話あったんだ……」

 立ち塞がる渡会さんの横を通り抜けようとしたら腕を掴まれた。
 女子に触れられてドキッとしてしまう純情な俺。イケメンなら「可愛い」と言われる反応なのだろうが、相手が俺だと「キモッ」という感想に早変わり。現実とは無情である。
 なので極力感情を表に出さないように顔を向けた。俺と目が合った渡会さんがニカッと笑った。

「室井にお願いがあるんだけどー。ちょっとだけ話を聞いてくんない?」

 自分が可愛いってことを自覚しているのか、上目遣いで「お願い」を口にする渡会さん。絶対にちょっとじゃ済まないパターンだよね?

「……」

 俺が無言でいると、渡会さんは上目遣いのまま根気強く返事を待っていた。見守っている桐生さんは黙って微笑みながらも、俺の返事を期待しているように思えた。

「まあ……ちょっとだけなら……」

 断れない自分が恨めしい。「ノー」と言える人に、俺はなりたい。

「よっしゃ! で、話なんだけどさ。室井って一人暮らししてるって本当?」
「あ、ああ……そうだけど?」

 なぜそれを知っているんだ? そう俺が聞くよりも早く、渡会さんの口から爆弾が投下された。

「だったら今夜、室井んちにあたしと紗良を泊めてくんない?」

 貞操観念が逆転した世界にでも迷い込んだか? そう考えた俺は悪くないと思う。
 だってそうだろう。別に親しくもない男子の部屋に、クラスの美少女が二人同時にお泊まりを希望しているのだ。こんなのラブコメ漫画でしか知らない展開だ。

「あ、うん……」

 そしてやっぱり断れない俺だった。「ノー」と言える人に、俺はなりたい。……切実に。
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