2 / 24
第一話
しおりを挟む
真冬の冷気に、思わず身震いをした。白い吐息を、気休め程度に両手へ吹きかける。
その日のバイトを終えた森下利樹は、閉店後の飲食店の裏口から外に出て、従業員専用の駐車場まで足早に歩いた。
自分の車に乗り、煙草のフィルターに火を点けた。紫煙を深々と肺に取り込んでから、携帯を耳にあてる――うんざりするほど甘ったるい男性歌手の声が、利樹の神経をささくれ立たせる。
留守電に切り替わり、利樹は舌打ちをした。
「――ふざけやがって……」
苛々と煙草を吸う。サイドウィンドウから灰を外へ落とし、口にくわえ直す。
もう一度、同じ相手に電話をかける――一向に出る気配はない。
電話を切り、乱暴なハンドルさばきで、車を駐車場から出した。制限速度ぎりぎりまで、速度をあげる。
いくつ信号無視をしたか分からない――強引な車線変更と割り込みもした。事故を起こさなかったのことが不思議なくらいだ。そうでなくとも警官の目にとまれば免許停止になってもおかしくはない。
利樹が向かったのは、通話相手が住んでいるアパートだった。路地の片側に車を寄せて停め、二階にある部屋の様子を窺う。
部屋の薄緑色のカーテンは引かれたままで、灯りもまったく漏れていない。昨日、一昨日、一昨々日――更にその前から何度もやって来たが、まるで変わってなかった。こっそり覗いた郵便受けの中身も変化はない。
部屋の主が、ここへは帰ってきていないのは明らかだ。
利樹が付き合っている彼女の連絡が途絶えてから、かれこれ十日が経過しようとしていた。
「くそ女……どこに行った?」
ハンドルを殴りつける――自分の拳を痛めただけだった。
アパートの部屋を睨みながら、利樹は電話をかけた。予想通り、また留守電になる。
「いいか、見つけたら殺す……おれは本気だ……覚悟してろ」
ありったけの憎しみを込めた脅迫の台詞を留守電に吹き込み、利樹はアクセルを踏んでアパートの前から去った。
その日のバイトを終えた森下利樹は、閉店後の飲食店の裏口から外に出て、従業員専用の駐車場まで足早に歩いた。
自分の車に乗り、煙草のフィルターに火を点けた。紫煙を深々と肺に取り込んでから、携帯を耳にあてる――うんざりするほど甘ったるい男性歌手の声が、利樹の神経をささくれ立たせる。
留守電に切り替わり、利樹は舌打ちをした。
「――ふざけやがって……」
苛々と煙草を吸う。サイドウィンドウから灰を外へ落とし、口にくわえ直す。
もう一度、同じ相手に電話をかける――一向に出る気配はない。
電話を切り、乱暴なハンドルさばきで、車を駐車場から出した。制限速度ぎりぎりまで、速度をあげる。
いくつ信号無視をしたか分からない――強引な車線変更と割り込みもした。事故を起こさなかったのことが不思議なくらいだ。そうでなくとも警官の目にとまれば免許停止になってもおかしくはない。
利樹が向かったのは、通話相手が住んでいるアパートだった。路地の片側に車を寄せて停め、二階にある部屋の様子を窺う。
部屋の薄緑色のカーテンは引かれたままで、灯りもまったく漏れていない。昨日、一昨日、一昨々日――更にその前から何度もやって来たが、まるで変わってなかった。こっそり覗いた郵便受けの中身も変化はない。
部屋の主が、ここへは帰ってきていないのは明らかだ。
利樹が付き合っている彼女の連絡が途絶えてから、かれこれ十日が経過しようとしていた。
「くそ女……どこに行った?」
ハンドルを殴りつける――自分の拳を痛めただけだった。
アパートの部屋を睨みながら、利樹は電話をかけた。予想通り、また留守電になる。
「いいか、見つけたら殺す……おれは本気だ……覚悟してろ」
ありったけの憎しみを込めた脅迫の台詞を留守電に吹き込み、利樹はアクセルを踏んでアパートの前から去った。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる