罪ノ贄

黒砂糖

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第一話

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 真冬の冷気に、思わず身震いをした。白い吐息を、気休め程度に両手へ吹きかける。
  その日のバイトを終えた森下利樹は、閉店後の飲食店の裏口から外に出て、従業員専用の駐車場まで足早に歩いた。
  自分の車に乗り、煙草のフィルターに火を点けた。紫煙を深々と肺に取り込んでから、携帯を耳にあてる――うんざりするほど甘ったるい男性歌手の声が、利樹の神経をささくれ立たせる。
  留守電に切り替わり、利樹は舌打ちをした。
  
 「――ふざけやがって……」
  
 苛々と煙草を吸う。サイドウィンドウから灰を外へ落とし、口にくわえ直す。
もう一度、同じ相手に電話をかける――一向に出る気配はない。
  電話を切り、乱暴なハンドルさばきで、車を駐車場から出した。制限速度ぎりぎりまで、速度をあげる。
  いくつ信号無視をしたか分からない――強引な車線変更と割り込みもした。事故を起こさなかったのことが不思議なくらいだ。そうでなくとも警官の目にとまれば免許停止になってもおかしくはない。
  利樹が向かったのは、通話相手が住んでいるアパートだった。路地の片側に車を寄せて停め、二階にある部屋の様子を窺う。
  部屋の薄緑色のカーテンは引かれたままで、灯りもまったく漏れていない。昨日、一昨日、一昨々日――更にその前から何度もやって来たが、まるで変わってなかった。こっそり覗いた郵便受けの中身も変化はない。
 部屋の主が、ここへは帰ってきていないのは明らかだ。
 利樹が付き合っている彼女の連絡が途絶えてから、かれこれ十日が経過しようとしていた。
 
 「くそ女……どこに行った?」

 ハンドルを殴りつける――自分の拳を痛めただけだった。
アパートの部屋を睨みながら、利樹は電話をかけた。予想通り、また留守電になる。
 
 「いいか、見つけたら殺す……おれは本気だ……覚悟してろ」
  
 ありったけの憎しみを込めた脅迫の台詞を留守電に吹き込み、利樹はアクセルを踏んでアパートの前から去った。
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