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第五話
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真紀の地元は都内からはほど遠く、最短の交通手段でも、行きだけで丸一日かかってしまう。本腰を入れて捜索をするとなると泊りがけということになるが、まとまった日程の確保に、修平は難儀した。泊まる宿の手配は利樹が済ませるとのことで、その点の心配はなかった。
真紀の部屋に立ち入った日、修平は利樹と別れた後で、上着のポケットに隠し持った薬袋を改めて調べた――するとどうやらそれが、避妊薬の一種らしいということが分かった。
真紀は子どもを産む気がなかった――もしくは、産みたくない理由があった。だがそれが分かったからといって、彼女の突然の失踪と関係があるのかどうかすら怪しいものだった。
それでもこの事実に、修平は少なからず自己嫌悪を覚えた。知らなかったとはいえ、真紀の苦悩をまるで考えようともしなかった。そんな有様ではとても利樹のことを言えたものではない。すぐにでも彼女に謝罪したかった。
真紀を捜し出さなければならない理由が、また一つ増えた。
結局、修平たちが出発したのは、翌月の下旬だった。大学の講義やアルバイトのシフトを含めた諸々の用事のことを考えた結果だった。
ひたすら南東に進み、高速道路のサービスエリアで軽い昼食を摂る。長い道程なため、途中で修平は利樹と運転を代わった。道中の車内における会話はほぼ皆無だったが、二人とも特に何も話すつもりもなかった。
目的地に着いたのは午後五時を過ぎていた。二人を乗せた車はまっすぐ宿に向かう。
「……なあ、本当にここなのか?」
その民宿の表に立つなり、修平は思わず利樹に訊ねてしまった。
木造の民宿は、いつ建てられたものかは知らないが相当に年季が入っており、一度台風などがあればひとたまりもないだろうことは、容易に見て取れた。
まともに改修していないのか、頭上の《民宿 きりむら》と書かれた看板は右側が外れて傾いており、今にも落ちてきそうだ。外壁や柱もところどころが黒ずみ、腐りかけている。これではいつ倒壊してもおかしくない。
「本当に……ここに泊まるのか?」
修平は、二度も問いかけた。否定されることを望むように、利樹の顔を見る。
「しょうがねえだろ。急なことで他は予約がとれなかったからな」
そう言う利樹の表情も、憮然としている。彼としても不満なようだ。そこで修平も、これ以上は何も言えなくなってしまった。
引き戸を開けてロビーに入る。フロントにある呼び鈴を鳴らすと、奥から四十代後半の中年男性といった外見の、角刈りの人物が姿を見せた。この人物が民宿のオーナーなのだろう。
桐村純というそのオーナーから部屋の鍵を貸り、修平は礼を言って利樹とともに与えられた部屋に向かった。
部屋の広さは、修平が今住んでいるアパートの部屋と同じくらいだった。二人では少し狭いように感じられたが、贅沢は言っていられない。
二人とも疲労がピークに達しているため、本格的な活動は翌日からにし、荷物を部屋の隅に置くと、夕食の時間までをまったりと過ごした。
食後は入浴を済ませ、変色した畳の上に布団を敷き、修平たちは眠りについた。一連の行動を二人は黙々とやり、これからのことについて話し合うこともなかった。
考えることも多く、きっと熟睡はできないだろうと修平は覚悟していたが、思いのほか早く睡魔はやってきて、彼は寝息を立てはじめた。
真紀の部屋に立ち入った日、修平は利樹と別れた後で、上着のポケットに隠し持った薬袋を改めて調べた――するとどうやらそれが、避妊薬の一種らしいということが分かった。
真紀は子どもを産む気がなかった――もしくは、産みたくない理由があった。だがそれが分かったからといって、彼女の突然の失踪と関係があるのかどうかすら怪しいものだった。
それでもこの事実に、修平は少なからず自己嫌悪を覚えた。知らなかったとはいえ、真紀の苦悩をまるで考えようともしなかった。そんな有様ではとても利樹のことを言えたものではない。すぐにでも彼女に謝罪したかった。
真紀を捜し出さなければならない理由が、また一つ増えた。
結局、修平たちが出発したのは、翌月の下旬だった。大学の講義やアルバイトのシフトを含めた諸々の用事のことを考えた結果だった。
ひたすら南東に進み、高速道路のサービスエリアで軽い昼食を摂る。長い道程なため、途中で修平は利樹と運転を代わった。道中の車内における会話はほぼ皆無だったが、二人とも特に何も話すつもりもなかった。
目的地に着いたのは午後五時を過ぎていた。二人を乗せた車はまっすぐ宿に向かう。
「……なあ、本当にここなのか?」
その民宿の表に立つなり、修平は思わず利樹に訊ねてしまった。
木造の民宿は、いつ建てられたものかは知らないが相当に年季が入っており、一度台風などがあればひとたまりもないだろうことは、容易に見て取れた。
まともに改修していないのか、頭上の《民宿 きりむら》と書かれた看板は右側が外れて傾いており、今にも落ちてきそうだ。外壁や柱もところどころが黒ずみ、腐りかけている。これではいつ倒壊してもおかしくない。
「本当に……ここに泊まるのか?」
修平は、二度も問いかけた。否定されることを望むように、利樹の顔を見る。
「しょうがねえだろ。急なことで他は予約がとれなかったからな」
そう言う利樹の表情も、憮然としている。彼としても不満なようだ。そこで修平も、これ以上は何も言えなくなってしまった。
引き戸を開けてロビーに入る。フロントにある呼び鈴を鳴らすと、奥から四十代後半の中年男性といった外見の、角刈りの人物が姿を見せた。この人物が民宿のオーナーなのだろう。
桐村純というそのオーナーから部屋の鍵を貸り、修平は礼を言って利樹とともに与えられた部屋に向かった。
部屋の広さは、修平が今住んでいるアパートの部屋と同じくらいだった。二人では少し狭いように感じられたが、贅沢は言っていられない。
二人とも疲労がピークに達しているため、本格的な活動は翌日からにし、荷物を部屋の隅に置くと、夕食の時間までをまったりと過ごした。
食後は入浴を済ませ、変色した畳の上に布団を敷き、修平たちは眠りについた。一連の行動を二人は黙々とやり、これからのことについて話し合うこともなかった。
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