罪ノ贄

黒砂糖

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第七話

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 翌日――修平たちは朝食の後に、さっそく町へ繰り出すことにした。
 二人はそれぞれ、真紀の顔写真を手にしている。出発する前に、利樹が携帯の画像をパソコンに取り込み、拡大してプリントしたものだ。その写真を元に手分けして捜索し、夕方に合流することにする。
  まず最初に訪ねた家は、玄関脇のインターフォンが壊れているため、直接ドアをノックして呼びかけた。すると屋内から、しわがれた声が返ってきた。
  
 「いったい、何の用だい?」
  
 しばらくして現れたのは、白髪と皺の目立つ腰の曲がった老人だった。
  
 「すみません、ちょっと人を捜していて……」
  
 恐縮しつつ、修平は写真を取り出す。
  
 「人を? 事情はよう分からんが、まぁわしで力になれることなら、何でも訊いとくれ」
  
 協力的な老人の態度に、修平は安堵した。さっそく、真紀の写真を見せる。
  
 「それで、この人なんですが」
  
 写真を受け取った老人は、両目を細め、顔がつきそうなぐらいに近づけた。
  
 「すまんね、目が悪うて……どれどれ――」
  
 突然、老人の表情が強張った。顔を写真から離すと、ぞんざいな態度で修平に突き返す。
  
 「――知らんな」
  
 「え? でも、今……」
  
 あまりの豹変ぶりに、修平は困惑した。老人は明らかに、真紀について何かを知っている。
  
 「知らんものは知らん。役に立てずに申し訳ないが」
  
 そうして老人は、さっさと家の中に戻ってしまった。
  それからも住民一人一人に根気強く聞き込みをしていったが、真紀の写真を目にした反応は、誰もが似たり寄ったりだった。まともに話を訊いてすらもらえないことがほとんどだった。これでは真紀の行方を捜す以前の問題だ。
  この町の住民にとって、真紀のことに触れることは禁句のようだ――分かったことといえば、それくらいだった。結局のところ、謎が更に増えただけだ。
 答えの出ない思考を巡らせながら、民家の並んだ路地を歩く。すると前方に人だかりがあるのが目に入った。塀に寄せるように停まっているのは、警察のパトカーに違いない。
  近づくと、そこは昔ながらの木造の平屋だった。家の前には規制線が貼られている。
  
 「……すみません。何が遭ったんですか?」
  
 主婦らしき女性に訊ねると、いきなり見知らぬ男に声をかけられたせいか、いくらか機嫌を損ねたようだ。
  
 「殺人よ殺人事件。昨夜遅くにね」
  
 「殺人? いったい誰が?」
  
 「このお宅の奥さん。身重だったのに、旦那さんも可哀そうに」
  
 「身重……妊娠中だったんですか?」
  
 「そうなのよ、男の子らしいんだけど……そんなことよりも奥さん、惨い殺され方だったそうよ。警察の人が話してたのを聞いちゃった」
  
 先ほどの不機嫌さとは打って変わり、興奮したようにまくしたてる。
  
 「何でもお腹を割かれて、中にいた赤ちゃんが持ち去られたって話よ。そんなの普通じゃないでしょ? 犯人は頭がおかしいのよ……でも、そうなると逮捕されても、精神鑑定っていうのに引っかかったら、罪に問われないってこともあるのよねぇ……こんな小さな町にねぇ……本当に怖いわねぇ……」
  
 言葉とは裏腹にまったく怯えた様子もない――どころか野次馬な好奇心を丸出しにした主婦に礼を言い、修平はその場を離れた。
  真紀のことといい猟奇殺人といい、本当にこの町はどうなっているのか――もしかすると自分は、とんでもないところに来てしまったのではないかという不安が、修平の脳裏を渦巻いた。
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