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第八話
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次の朝――修平が起床したときには、利樹は大口を開き、いびきをかいて眠っていた。その様子ではしばらく目を覚ましそうにない。
利樹から貰った真紀の写真は、何の用も為さなかった。昨日は俊樹の方の進展も確認したが、訊くまでもなく成果はあがらなかったようだった。
あの町民の様子だと、何日続けようと無駄なことは、火を見るより明らかなことだ。まだ一日しか動いていないが、修平たちの聞き込みは完全に失敗に終わった。彼らは早くも、真紀の捜索に躓いてしまった。
ロビーから表に出ると、オーナーの桐村が駐車場で掃き掃除をしていた。今は枯葉を一ヵ所に集めているところだ。
「おはようございます」
修平が挨拶をすると、桐村は手を止めて目を丸くした。
「――あれ? お客さん、お出かけですか? 早いですね」
「ちょっとぶらぶらと散歩を。頭をすっきりさせようと思いまして」
「そうですか……といっても観光地ならともかく、このような辺鄙な土地には見るべきものはありませんけど。むしろ、ないものの方が多いくらいですよ」
「はあ……そうですか」
同意するのも反論するのも妙だと思い、そんな間の抜けたことしか言えなかった。
「そうだ……ひとつお訊ねしたいことがあるんですけど」
「? どうかされました?」
「この町に住んでいると思うんですが、『鈴沢』という家を、ご存じありませんか?」
駄目もとで、修平は訊ねた。
「――え? 鈴沢?」
途端、桐村は目を見開いた。だがそれは昨日、町民に聞いて回ったときのような忌み嫌う様子とは違い、意外な名字を耳にしたことで、つい驚いただけに見えた。
「……その家に、何か?」
修平は自分がこの町に来た経緯を、正直に話した。相手の口を軽くするには、下手に誤魔化さない方が得策だと考えた。
「……行方が、分からない?」
桐村はますます信じられないといった表情をした。
「真紀ちゃんが……どうして……」
「知ってるんですか? 彼女を」
それも、かなり近しい間柄にあることは間違いなさそうだ。修平は内心の興奮をできる限り抑え込む。
「知っているも何も……わたしの姪ですから」
「そうなんですか?」
「ええ。妹夫婦の長女です」
「長女?」
「もともと三人姉妹……だったんですよ」
「だった……?」
「真紀ちゃんには双子の妹がいたんですが、生まれてから二か月後に、病気で亡くなっているんです」
「じゃあ今、鈴沢家にいるのは?」
「妹夫婦と末っ子の美紀ちゃんですね」
そして修平は桐村から、鈴沢家の住所を訊くことができた。もしそこで真紀の行方に関する手がかりが何も得られなければ、さすがにお手上げだった。
利樹から貰った真紀の写真は、何の用も為さなかった。昨日は俊樹の方の進展も確認したが、訊くまでもなく成果はあがらなかったようだった。
あの町民の様子だと、何日続けようと無駄なことは、火を見るより明らかなことだ。まだ一日しか動いていないが、修平たちの聞き込みは完全に失敗に終わった。彼らは早くも、真紀の捜索に躓いてしまった。
ロビーから表に出ると、オーナーの桐村が駐車場で掃き掃除をしていた。今は枯葉を一ヵ所に集めているところだ。
「おはようございます」
修平が挨拶をすると、桐村は手を止めて目を丸くした。
「――あれ? お客さん、お出かけですか? 早いですね」
「ちょっとぶらぶらと散歩を。頭をすっきりさせようと思いまして」
「そうですか……といっても観光地ならともかく、このような辺鄙な土地には見るべきものはありませんけど。むしろ、ないものの方が多いくらいですよ」
「はあ……そうですか」
同意するのも反論するのも妙だと思い、そんな間の抜けたことしか言えなかった。
「そうだ……ひとつお訊ねしたいことがあるんですけど」
「? どうかされました?」
「この町に住んでいると思うんですが、『鈴沢』という家を、ご存じありませんか?」
駄目もとで、修平は訊ねた。
「――え? 鈴沢?」
途端、桐村は目を見開いた。だがそれは昨日、町民に聞いて回ったときのような忌み嫌う様子とは違い、意外な名字を耳にしたことで、つい驚いただけに見えた。
「……その家に、何か?」
修平は自分がこの町に来た経緯を、正直に話した。相手の口を軽くするには、下手に誤魔化さない方が得策だと考えた。
「……行方が、分からない?」
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「真紀ちゃんが……どうして……」
「知ってるんですか? 彼女を」
それも、かなり近しい間柄にあることは間違いなさそうだ。修平は内心の興奮をできる限り抑え込む。
「知っているも何も……わたしの姪ですから」
「そうなんですか?」
「ええ。妹夫婦の長女です」
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「だった……?」
「真紀ちゃんには双子の妹がいたんですが、生まれてから二か月後に、病気で亡くなっているんです」
「じゃあ今、鈴沢家にいるのは?」
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そして修平は桐村から、鈴沢家の住所を訊くことができた。もしそこで真紀の行方に関する手がかりが何も得られなければ、さすがにお手上げだった。
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