Ocean

リヒト

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Ocean 7

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その後、菜花を送って行った俺は、改まって家に上げてもらい菜花の母ちゃんに事情を話した。

もちろん、俺の体外離脱については除いて、だ。


「えー⁈ マジかー!ってかいつの間に?

あの辺り、あんた達大会で超忙しかったっしょ??」


驚きつつも菜花の母ちゃんは案外すんなりと事実を受け入れて、菜花の妊娠を喜んでくれ、問題は学校よね、ちょおっとあんた達早いのよ、あと半年待てなかったの?んー待てなかったかー、そうだよね、ヒロくん命の危機に瀕して急激に盛り上がっちゃったのよね、分かるーなんて、自分が菜花の兄貴を授かったときのことを話してくれた。

菜花とはちょうど10歳離れてる、菜花の兄貴。

菜花の母ちゃんが妊娠したのは19の時で、1コ上の菜花の父ちゃんは、バイクで事故って脚を折り、療養中だったらしい。


「あたしはもう就職してたけどさー、あの人まだ学生だったから、1回しかしてないのに出来ちゃって、ほんとどうしようかって思ったわよ。

親からもチョー怒られたし。特に向こうの親がねー…… まぁ、解るよね、あたしも親になってみたら、自分が親にどれほど心配掛けてたか分かったわ。

…… 覚悟出来てんでしょ。産むって言うからには」


と、菜花に向かって言う。


「うん…… 退学になるかもね」


「いや、そうはさせねぇよ」


キロって菜花の母ちゃんが俺を見る。

大っかい目。

菜花そっくりだけど、人生の経験分、菜花よりも更に凄みがある。


「俺ら、別に悪いことした訳じゃない。

妊娠を理由に学校から『辞めろ』って言われたら、徹底抗議する。

妊娠してたって、学ぶ権利はあるだろ。

周りから固めていくんだ、信頼できる仲間とか大人を味方に付けて。

それでもダメなら、拡散して世論を味方にする。

俺達の卒業に間に合うか分かんねぇけど、ただ泣き寝入りすんのはダメだ。

変えていくんだよ、俺達で」


「ヒュー!ヒロくん、かぁっこいいー!」


茶化してんのか感激してくれてんのか、よく分からない菜花の母ちゃんの隣で、驚いて何も言えずに固まっている菜花。

いやいや別に理由考えたらカッコ良くはないですけどね、と俺がこれからのプランを説明する。


先ずは入籍して結婚の事実を成立させる。

学校へは、学祭が終わって22週を過ぎてから学生情報の変更届けを提出する。

そのときに、俺は校長に直談判だ。

それには巻き込むことになって申し訳ないけど、菜花の父ちゃん母ちゃん、ウチのは多分母ちゃんだけになるけど、いずれにしても学校側から話し合いの場を持ちましょうなんて言われる筈だから、そのときはとお願いする。

菜花の身体のことは養護教諭と保健体育の教師に、特例措置を相談する。

卒業まであと半年、たった半年だ。

一生の内の半年なんて、ちょっとの間のことだろ。

何年生きるか分かんねぇけど、今ここが、一番の踏ん張り時だ。

さて、これからクソ忙しくなるなー。



思った通り、学校側は、菜花には体調を理由とした休学からの転学を勧めてきた…… 妊娠は既に安定期に入り、体調は至って良好だってのに。

前例を作っちゃうと軽い気持ちで後に続く輩が出るといけないから、在学中に妊娠なんかするとこうなるんだぞ、って、俺達を見せしめにしたいんだろう。

でも、ここで怖気付いたり頭に血が昇って辞めちまったら元も子もない。

俺は、冷静に抗議した。

PTAや県の教育委員会、人権擁護委員会にも直接連絡を取って相談した。

だって、国の法律上18歳の人間には結婚が認められてることはもちろん、学則にも『真剣に交際して結婚、妊娠したら退学』だなんて一言も書いてない……『異性との交友は学生としての節度を持ってうんたらかんたら』としか書いてねぇもん。


俺と菜花は何度も別々に呼び出しを受けて、各個撃破とばかりに個別面談を受けた。

面談とは言うけど、校長、教頭、教務主任、進路課長、学科長、学年主任、担任の7人の大人達に囲まれての、実質、尋問だ。

学生一人に対してこの人数の大人が寄って集って大人気なくね?

これは社会的なイジメじゃねぇのかな?って思った。

1回目の面談後、妊娠中の菜花は精神的にも不安を抱えてるのに酷い話だ、これ以降は個別の呼び出しはどうか俺だけにしてくれ、と女性の学年主任の先生に訴えたところが、男性の主任補佐によって棄却されたようだ。ほんとに酷でぇ話だ。

俺は野球部で部長を勤めてる上に生徒会の執行部で議長やってることもあって、大抵の先生とは懇意になってるから、裏では個人的に“卒業まであと半年もないことを考えると、どうにか卒業させてやりたいと思っている先生が大半だ”という話を聞かせて貰えた。

ならそうしてくれたらいいじゃん?て思うのに、菜花の方には、やっぱり学校としての体面に関わる大問題であるし、出来れば穏便に済ませたい…… って、暗に自主退学を勧めるようなことを言ってきた。

学科長は俺に“就職先に知られたらどうなるか分かってんだろうな?”的な圧を掛けてきたけど、元々学校の就職課を介した就職じゃなく、俺自身のコネで内定もらった就職で、結婚のこともGMには早々に話を通してあるから、脅されたところで屁でもねぇ。

むしろGMも店長も、応援してくれてる。

「ハー!おまえ結婚したの⁈ んでもう春には親父になんの⁉︎ スゲェな」

「え、奥さんソフト部のあの娘⁈ 知ってるよ、いつも買いに来てくれてたから」

菜花が5月に出産予定だって伝えたら、じゃあもう仕事覚えとけば?それにいくらでも収入あった方がいいだろ、って、店長が12月から手始めにバイトとして働くことを提案してくれた。

理解してくれて、協力してくれて、激励までしてくれて、ありがたい。

本当に、ありがたいの一言に尽きる。

俺、一生懸命働いて恩返ししますとGMに頭を下げると、


「本社にとっても社員にとってもいい刺激になると思うよ。

働き方改革とか言って、その実全然改革出来てないから、結婚も出産も迷って出来ないヤツ多いんだよな、女の子だけじゃなく男もさ。

気が付いたら30なんてあっという間だ。

仕事軌道に乗ってから、とか言ってる内に仕事上での責任増えてって、40目前にして焦り始めても、若い頃みたいにはいかないよ。

芸能人がそうだから自分も同じく出来ると思ってるのか知らないけど、40過ぎて子ども持ってみろ、産むのも育てんのもマジ大変だぞ?自分だけじゃなく自分の親も歳とって面倒見なきゃいけなくなってくるしさ。

俺が見る限り、家庭が安定してるヤツは仕事も安定して頑張れてる。

両立っていうより、全部引っくるめての人生だから、会社としても社員の人生そのものを応援したいとこなんだけど。

自分自身の人生頑張ってるヤツは、何か想定外のことがあってもその時々で適応して行けんだよ。仕事上でもな。

早けりゃいいってもんじゃないけどさー、俺も大学卒業してすぐ22で出来婚したから、親からは反対されたし、職場じゃ上から白い目で見られたり同期から哀れまれたりもしたけど、今こうやって仕事に打ち込めてんのは早く家庭持って子育てもひと段落してるからだ。

少々割食うことはあっても、早くて良かったと思ってる。

俺は、おまえみたいなバイタリティのあるヤツがウチに来てくれて、嬉しいよ。

仕事上でも新しいこと始めるの面倒臭がるヤツ、多いんだよねー」

バイタリティも何も、俺、一度死んで生まれ変わったようなもんだ。

最期に悔いを残すことの辛さを思い知ったから、後悔しないよう全力で生きてこう、って思ってるだけだよ。


一部の教師には、何それ嫌がらせのつもり?みたいなことを言ってくるヒトもいるし、学生の間でも、事情を良く知らんであることないこと噂するヤツはいる。

けど、おまえら本当にそれ、自分の意見?自分で考えてなくね?って思う。

親かセンセの受け売りか、もしくは自分高める為に誰か蔑めるヤツが欲しくて、攻撃対象にしたくて言ってるだけじゃね?

“常識”振りかざして旧式の一般論に乗っかって、色んな人の色んな事情に合わせたもっといい社会にして行くのを阻止してんの、おまえらみたいなヤツらだかんな。

親になるってなってからますます思うことだけど、子どもや子どもを持つ親を蔑ろにする社会は終わってる。間違ってる。病んでる。

狂ってると思うよ。

社会全体に、未来を担っていく一番大事にされるべき存在を軽視する風潮があって、それが政策にも現れてる。

電車とかバスに乗り込んできた妊婦や子連れの母親に舌打ちするオッサンオバハン、なんなの。

ベビーカー畳め、とか当たり前みたいに言ってんの、この国だけじゃねぇのかな。

自分がどんだけ偉いと思ってんのか知らねぇけどさ、店ん中でギャン泣きしてる子ども抱えて謝ってる母親に、ちょっとでも、“大丈夫気にしてないよ、子育て大変だね、頑張ってね”って笑顔向けてやれる余裕も無ぇのかよ。

公園で遊んでる小中学生達がうるさいって学校に苦情の電話入れて謎の正義感満足させてるジジイババア。

その一方で、公園に集まって携帯ゲーム機で通信してるような子ども達を見て“最近の子どもは……”って、それ周りの大人がそうさせてんだからな。

伸び伸び遊ばなきゃ身体の動かし方も覚えねぇし、スポーツ選手も育たねぇぞ。

おまえらには子どもだった時代は無かったのかよ。

子どもを持つ持たないは自由だとしても、自分の子や孫じゃない他人の子だからってどうなってもいいのかよ。

子どもなんて、迷惑かけて叱られて学んで大きくなってくもんだろ。

自分だけは、赤ちゃんの頃から歳取って死ぬまで誰にも迷惑かけずに生きて行けるつもりかよ。

これから歳取って、自分が面倒見られる立場になるってことが想像出来ないんだろうな。

車椅子や盲導犬使うのは、眼鏡掛けるのと一緒だろ?

誰も彼も自分のことしか考えられなくて、他人の行動にどんな事情があんのかは考えらんねぇヤツ、多過ぎんだよ。

…… って、まぁそこは俺もヒトのこと言えねぇか。


負けねぇよ。

負けてられっかよ。

いつどんな状況だって、攻めの姿勢が大事なのは、今までの短い人生経験の中で分かり過ぎる程分かってる。

守りに入って良かったことなんて、一度もなかったから。

誰かのせいにして何か変わるなら、責任って言葉自体要らないだろ。


俺のことはいいとして、問題は菜花だ。

女子は同性に厳しいからなー。

孤立してねぇといいけど……。


なんていう俺の心配は杞憂だったらしい。

あいつはあいつで、きっちり自分の意志を説明した上で、極少数ではあるが教師にも学生の中にも理解者を得てるようだ。

このまま何事も無く、卒業を迎えるまで、菜花が余計なことを心配せずに居られることを祈る…… 。


そんな日々に、びっくりするような知らせが舞い込んだ。

『妊娠出産を理由として退学を勧告することは原則的に認めない』『学びたい10代の妊産婦を保護、サポートする』っていう条例が、県議会で可決、施行されることになったっていうニュース。

俺が嘆願書を出した県の教育委員会からは、決議を記した返信が来た。

ウチは公立高校じゃないから、学校法人としての決定の方が優先されんだろうなーって覚悟してたとこも正直あったけど、俺の知らないところで署名活動があったらしく、何百人分もの署名が届けられたらしい。

これで学校辞める選択肢は無くなった。

良かった。助かった。安心した。

…… 実はスゲェビビってたから。



年が明け、菜花のお腹が目立つようになってきて、アホな男子からやらしいこと言われたりもしてるようだが、そんなのは強い菜花は相手にしない。

女子からは同性としての同情が寄せられるようになり、一部の親達からも心遣いを受けて、菜花は学校や先生からも守ってもらえてる。

一部のヤツの陰湿な嫌がらせには困ったもんだけど、菜花が妊娠前と同じく毅然とした態度で堂々と振る舞い、気にしてる様子を見せないようにしていたら、興味を失ったのか、いつの間にか無くなった。


ウチの両親には、平に頭を下げて、早過ぎる結婚を許してもらった。

母ちゃんはやっぱり泣かせてしまったけど、俺が生きてるってだけでありがたいって言ってくれて、父ちゃんは、おまえその歳でそんなにちゃんとしてて偉いよなんて言ってくれて、学校でのことも就職先でのバイトのことも認めてくれた。

入籍して、菜花は本人の希望で俺ん家の岡田姓になった。

けど、俺と菜花は親と学校と話し合い、学校では今まで通り菜花は菜花ん家の姓で通し、卒業まではそれぞれの家で暮らそうってことにしてる…… 校則の“節度を持って”の部分を遵守してるとこを見せてるつもりだ。

だから、2月に入ってからも菜花とは別々に登下校して、休み時間や放課後に会ったり電話やメッセージのやり取りをするだけの、普通の高校生のカップルと変わらない生活を続けてる。


毎日車で菜花を送り迎えしてくれてる菜花の母ちゃんには、ほんとに頭が下がる。

俺が出来りゃいいんだけど、車での通学なんか許可される訳もない。

一緒に乗ってく?なんて言ってくれたりもするけど、生徒会議長が他の学生達の手前、そんな訳にもいかないだろ……。


野球部の監督には、ついこの前、菜花と2人で改めて挨拶に行った。

部長がこんなことやらかしてさぞかし迷惑被ってるだろうと思いお詫びのつもりで行ったんだが、逆に“しっかりやれよ”と激励を受けた。

俺達の進退に関して一番尽力してくれたのは、実は監督と顧問の先生だったことを、俺は後から知ることになる。


野球部の連中には、病院でのチュウを目撃されてることもあり、愛のあるイジりを受け続けてる。

表立っては言うこともないけど、陰で陰湿なことを言ってたヤツらを片付けてくれたのも、署名活動を起こしたのも、あいつらと、俺が菜花に告白るのを手引きしたサッカー部の基樹が先に立ってのことらしい。

卒業してもどっかで会う度に、一生イジられんだろうな。

俺も今後は主に用具の面で、精一杯部をサポートしていきたいと思ってる。


夜、就職先のスポーツ用品店でのバイトが終わってから菜花ん家に行って、家に帰るまでの僅かな時間が、俺の癒しだ。

毎度のことながら、ちょっと緊張しながら菜花の両親に挨拶して、家に上げてもらう。

菜花ん家は、母ちゃんもそうだけど、父ちゃんも大概ユルい。


「ヒロくんも一緒にどう?一杯」


「えっ、俺18っスよ」


「あっ…… そうだ、そうだよね!

なんかすごい老成してるからもう30くらいかと」


「ヒロくん菜花と同級生でしょ⁈ 

こーんな可愛いコ捕まえて何言ってんの、この酔っ払いが!」


未成年者に飲酒勧めんな‼︎と気の強い妻から新聞で叩かれて、ごめーんごめーんと頭を抱えながら笑ってる菜花の父ちゃんを見ていると、自分の未来を見てるような気になる。

しかし……性格的に世話焼きのオバハン臭いせいでクラスの連中からは“オカン”とか呼ばれてるけど、本物のオヤジから老成してるとか言われると結構ショック。

自他共に認める童顔の俺だけど、中身のせいでそんな老けて見えんのかな……。


ぎゃーぎゃー騒ぎながらもなんだかんだ仲の良い菜花の両親を置いて、菜花の部屋がある二階へ上がる。

菜花、疲れて寝ちゃってるときもあるけど、そんなときはしばらく寝顔を見てから帰る。

あ、今日も寝てる。

最近は“お腹大きくなって来たから仰向けに寝るの苦しい”って、横向きに寝てることが増えてる。

軽く握った拳を顔の前に、すうすうと寝息を立てている菜花が可愛いくて…… 愛おしい。

そんな愛おしい菜花の、お腹の…… 俺の子ども。

名前をあれこれ考えて候補は幾つか上がってるけど、まだ決まってはいない。

菜花と2人、“顔見てから決めよう”ってことにしてる。


最近は腹ん中が狭くなってきてるみたいで、今ぎゅーんって踏ん張ってる!って菜花が見せてくれたときには、腹の上からも小さな足の形が浮き出してるのが分かった。

内側からパンチしてる!って言われて腹に手を当てたら、確かに団子くらいの拳が触れて、ちょんちょんてつついたら、びっくりして引っ込めてた。

可愛い。

この力強いパンチは、母ちゃん譲りかな。


順調に育ってくれてんだな。

不甲斐ない父ちゃんでごめんな。

毎日俺の代わりに母ちゃん守ってくれて、ありがとな。


腹に向かって呟いてて、どっかで聞いたような台詞だなーと思ったら、昔父ちゃんから言われたことの内容そのままなことに気付いた。

父ちゃんも、こんな風に母ちゃんと俺達子どもを想ってたんだな。


いつの間にか菜花が目を開いて、明かりも点けずに俺が傍に胡座かいて腹に向かってぶつぶつ言ってんのを、苦笑いしながら見てる。


「何ぁに、夜中に…… キモいんだけど」


「ハハ、やっぱり?俺もちょっと思った。

けど、会えんのこの時間くらいしかないからさー」


ベッドの上、ちょっと寄って場所を空けてくれた菜花の隣に、何食わぬ顔で横になる…… 自然と股間が反応しちゃってるのは内緒だ。


「ヒロ、少し痩せた?」


菜花が手を伸ばして俺の頭に触り、髪伸びたね、なんて微笑む。

…… なんか照れ臭い。


「んー、元が過体重だから、ちょい落とした。

したら、膝痛いの良くなってきたよ。

腰は多分、もうどうにもなんねぇな。

騙し騙しだな、これからも」


俺の身体との間、迫り出したお腹の中の赤ん坊に向かって、父ちゃん腰痛いんだってさー、まだ18なのにねー、もうオッサンだねーとか話しかけてる菜花。

そして俺の下半身の異変に気付いて、ジロリと睨んでくる。


「オッサン、何か当たってるんですけど。気のせいかな」


あ、しっかりバレとりましたな。


「あーオッサンねー、疲れてんの多分。生理現象だから気にせんでください。

つーか本物のオッサンはこんなバカみたいに上向きませんて…… いや実際どうか知らんけど。

あくまで俗説だけど、手の指で勃起の角度例えたりすんじゃん…… 親指から、10代、20代、30代…… ってさ」


「何それ。初めて聞いた」


自分の手をパーにしてみて、ケタケタ笑ってる菜花。


半分冗談、半分は…… 俺ヤバいな、ガチで変態かも、って思う。

ちょっと前から、菜花の胎内はらに俺の子が…… って思うと、何故か性的にものすごく興奮することに気付いてた。

赤ん坊のこと考えると何かあったらって心配で、菜花自身も不安だろうしそんな気にもなれないだろうから、と思ってあれから一度もペッティングはおろかキスすらしてないけど、実は菜花と会って帰った後、ズリネタにしている。

妄想が菜花のお腹以上に膨らんで、そりゃあもう何杯でもイけちゃうくらいオイシイおかずに興奮して…… それで連続4回抜いて自己ベストを更新してしまった。

大きなお腹で俺におっぱい揉まれて乳首から白い母乳を飛び散らせる菜花を後ろから鬼ピストンしてイかせまくるとこを妄想したら、非常に捗り、1回じゃ治らずに2度3度……。

ま、あくまで妄想だし、そんな危険を犯す気は更々無いんだけども。

気になって、母乳っていつぐらいから出んの?って菜花に聞いたら、「産まれてからだよ!バカ!変態!」って、まさか俺の妄想がバレてる訳は無いと思うけど、なんか怒られた。

出るようになったら俺にもちょっと飲まして欲しいな……。

あ、ヤバいヤバい…… 押さえ付けられてて、もう痛いくらい。


「ヒロってさ…… あれからずっと我慢してるの?」


我慢する訳ないだろ…… 俺、見かけはオッサン臭いかもだけど、中身はピチピチの18歳よ?

中1から毎日寝る前に抜く習慣付いちゃってて、もう6年だ。

ルーティンになってるから1日でも抜かないとどことなく調子悪くなるし、ただでさえ性欲強いのにオナ禁なんてしようと思っても出来る訳ないでしょ…… 我慢しようとも思ったことねぇけどな。

等と思いつつ、


「んー、まぁね。してるっちゃしてるかなー」


つい本音が出てしまう。

どんどん大きくなるお腹抱えて頑張ってる菜花に対して悪い気がして、セルフプレジャーも大分控えている。控えてるんだ、これでも…… 俺にしては。


「したいって思ってるの?」


「ん?え?あぁ、まぁ……。

んでも別に…… ほら、自分で処理出来るし」


菜花としたいのを我慢してる、って意味で言ったのに、菜花は何か勘違いした風で、ショボンとしてる。


「いや何?なんで?」


「だってヒロ…… キスもしてくれないし、…… あたしとはもうしたくないのかなーって」


「な訳ねぇだろ!」


俺がどんだけ我慢してると思ってんだ。

唇にキスしちゃったらタガが外れて何かやらかしちゃいそうだから、おでこやほっぺにしてんだよ!


「だってさぁ…… ほら、よく言うじゃん…… 妻の妊娠中に欲求不満が募った夫が浮気…… とか」


妻て。夫て。

そうかぁ、俺、菜花の夫で、菜花、俺の妻。

…… なんか…… アハ~ン…… その響き良いなぁ~!


じゃなくて。

ええ⁈

まさか……、


「おまえ、俺の浮気疑ってんの⁈」 


「…………。」


やっぱり疑ってるっぽい。

俺が焦ってるのを益々疑わしそうにジト~って見つめながら、


「だってヒロ、モテるから…… 女の子だけじゃなくてさ……。

まさか男の子とは…… しないとは思うけどさ…… 中村くんとか基樹くんとか、ナベちゃんもヒロのこと大好きだし……」


って待ておまえ、何泣いてんの⁈

もう俺があいつらと浮気してんの確定みたいになってんじゃん!


「ええ⁈ バカおまえ、俺こんな毎晩会いに来てておまえ、疑うとかおまえ…… はぁ⁈ 中村ァ⁈ 基樹ィ⁈ ヒィ…… ナベとか絶対あり得ねぇだろ⁈ なぁにバカなことおまえ…… うわぁぁ冗談でもやめて⁈ 鳥肌立ったわ‼︎」


あいつらとBLとかマジ勘弁…… 一気に萎えたわ…… つーかおまえって腐だったの⁈ 


「うっ…… うん…… 分かってる。…… うっく…… 分かってるけどぉ……」


シクシク泣き始める菜花の身体をそぉっと抱き締めて宥め、頭や背中を撫で撫でしながら、何度もおでこや頬にキスする。

あぁ…… ほらな。

これだけで俺、もうギンギンになっちゃうんだもの。

唇にチュウなんかしたら絶対舌入れたくなるし、その後どうなるか、想像するのもヤバいわ。


「ヒロ、したいなら言ってね。我慢しないで」


「はぁ?…… あぁ…… 大丈夫だよ、そこまで我慢してねぇから」


陰であらぬ妄想して抜きまくってて後ろめたいのが声に出ちゃってたのか、俺の動揺を敏感に察した菜花が再び感情を爆発させる。


「やっぱりぃ~!やっぱり浮気してるんだぁ~!

“あなた、ご飯にする?先にお風呂?それとも、あ・た・し……?”

“あぁ、全部外で済ましてきた”

ってヤツだぁ~!」


器用に妻と夫の声色を変えて演じた後で、うわ~ん!と泣き出す菜花。


何これマタニティブルーってヤツなの?

なんかすげぇ面倒クサ…… つーか情緒不安定?

どうした菜花、俺のことグーでぶん殴ってた菜花、どこいった?

戻って来い、戻って来いよ、俺の最強の拳士、菜花……!


浮気ねぇ……。

わざわざそんな面倒いことするヤツの気持ち、理解出来ねぇんだけど。

それって元々パートナーにそれ程愛情無くて、単にヤりたいだけか、浮気相手に背徳感からの刺激求めてるだけなんじゃねぇの?

俺は相変わらず生身の女じゃ菜花以外には全く興奮しないし、妊婦の菜花に対してますます興奮しちゃって困ってるくらいなんだけど…… 後者は絶対伏せといた方がいいよなー。いくら菜花でもドン引きされそうだ。


「あのなぁ…… いい加減分かってよ、俺、ず~っとおまえだけなの。

おまえ以外となんて考えらんねぇし、考えたこともねぇよ」


「じゃあ…… キスして?」


腕の中から菜花が見上げてくる。

涙に濡れた大きな瞳で口付けを乞う、愛しの妻。

俺コレ、あと3ヶ月も我慢出来るかな……って不安になる。


口を閉じたまま、唇にそっと触れるだけに留めて顔を離すと、恍惚とした顔で菜花が誘う。


「安定期入ってて無理の無い程度になら、エッチしてもいいんだって…… 」


「はぁ⁈」


おおおおおい。

やめて。やめてくれ。

そんな表情で迫られたら俺、…… ハァンッ‼︎ 甘イキしちゃっただろ⁉︎


「…… して?」


目と目が合う。


「…… いやいや」


慌てて目を逸らす。

チラ、と目を戻すと、菜花、まだ見てる。じーっと見てる……。


「いやいや、…… いやいやいや」


「…… 嫌なの?」


「いや、…… いやいや、そういういやじゃなく……てっ⁈」


菜花が自分のお腹に当たってる俺のモノをジーンズの上から摩っていたかと思ったら、チィーッとジッパーを下げ…… 当然中で猛っていたモノがパンツの前開きから飛び出してアタマを覗かせる。

さっきの甘イキで既に先っぽがヌルヌルしてるのを指先で撫で撫でされたら、否が応でもギンッ!ってなって、完全に勃ち上がる。

菜花が布団の中をゴソゴソと下に移動して俺の両膝の上に跨ってきて…… 何する気だ菜花……?


「な…… 菜花…… サン…… ?」


………… ちゅぷ。


先っぽが温かくて柔らかくてヌルヌルした感触に包まれて、突然訪れた強烈な快感にガクリと仰け反る。


「ハァァッ⁈ ちょっ…… 菜花ァッ⁈」


何⁈ 今何が起こってんの俺のチンコに……⁉︎


「なの……かっ、何してんのおまえェッ……⁉︎」


顔を起こして布団を捲って見ると、菜花が小っちゃい口を一生懸命開いて俺のを咥えてるのが目に飛び込んでくる。

カリ首を唇で引っ掛けながら吸われ、裏を舌先で撫で回されてるのが分かる。


何だコレ何だコレ何だコレ……ヤバいヤバいヤバい……‼︎


「なぁ…… いいって、そんなこ……とッ…… してくれなくてもォッ……⁉︎」


腹這いで俺の両脚の上に跨ってる菜花。

お腹が膝に当たって圧迫されないよう少し脚を開いて、余裕あるフリで言ってみるものの、次の瞬間、鈴口を舌先でツンツンされて再びガクリと仰け反る。


「ゥアッ⁈」


「…… ひもひいい?」


俺のを咥えたまま、菜花が聞いてくる。

気持ちいいなんてもんじゃねぇ、オカン、昇天しちゃいそう……!

菜花が俺に乗っかってる事実と、前より明らかに重量感を増してるおっぱいがのっしりと腿に押し当たってるってだけでも妄想ヤバいのに、予測不能の動きをする菜花の少しザラザラした舌と口ん中の熱くてヌメヌメした柔らかい感触にヤられて、即刻上り詰めちゃわないよう堪えるのに必死だ。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ…… ダメだ菜花ッ…… 口離して」


「ひもひおうあいお?」


「きっ…… 気持ちィッ…… いいけど、…… ほんとダメだ俺もうイきそ」


「お~お?」


菜花が追い討ちを掛けるように竿を掴んでた手を動かし始める。

輪っかにした指が根元を締め付け、パンツ越し、下になってる指先がタマにサワサワと当たる。

竿の中心を握ってる方の親指がイイ感じに裏筋を擦り上げてて、先っぽは菜花の口ん中で吸われながらレロレロ撫で回され…… あぁもうダメだ、こんなん我慢出来る訳ねぇッ…… !


「菜花…… なの…… ちゃん、やめてもう…… マジムリ……」


股間にある菜花の頭を撫でながら必死で頼むけど、菜花は更に深く咥え込んで大きなストロークでジュポジュポしてきて、声が上擦る。


「なぁ、って…… ダメだって…… ハアァッ!…… ほら、オエッてなってんじゃん…… 無理すんなよ……」


喉の奥のザラザラしたとこに鬼頭が当たってヤバいどころじゃない。

気持ちいい。俺は良過ぎるくらい気持ちいいけど、菜花、絶対苦しいだろコレ。

妊婦にこんなことさせてる俺、鬼畜かよ……。


「ティッシュ……! ティッシュどこ菜花…… 」


無言で首を振る菜花。

ウゥ~ンと呻きながらキョロキョロ見回すと、あった…… 遥か彼方の勉強机の上に。

絶望感、諦観と共に精子が上がってきて、間髪置かず襲ってくる激烈な快感、射精感。


「ダメだ菜花ごめんッ…… イク、イッ…… クゥッ!…… ァハァッ ‼︎」


なすすべもなく菜花の口ん中にビュクビュク射精すると同時にジュウッと吸われて悶える。

余さず吸い取られてる感じに一瞬頭ん中真っ白になるけど、あんなもんを口一杯に溜めてる菜花のことが気になって快感の余韻に浸るどころじゃない。

まだ吸い付いてる口からチンコを引っこ抜いて菜花をコロンと脇へ転がすと、先っぽ押さえながら起き上がり、ティッシュの箱を引っ掴んで即座にベッドへ戻る。


「出せよ、ほら…… 出して 」


口元にティッシュを差し出すと同時に、俯いてた菜花がゴクッと喉を鳴らす。


「え…… おま…… 」


「…… 変な味。口ん中イガイガする」


「ハァーッ⁈ 飲むなよ、あんなもん…… 」


罪悪感と恥ずかしさで股間をティッシュで押さえながら床にへたり込む俺に、口を拭った菜花が悪戯っぽく言う。


「ヒロのも赤ちゃんの栄養になるよ」


「何言ってんだよバカだろおまえ、精液なんてほとんど水分で栄養なんかほぼほぼ無ぇし汚ねぇよ、腹壊したらどうすんだよ!

妊娠中って免疫低下してんだろ?俺何かビョーキ持ってたりしたらさぁ……」


「ヒロが他に誰ともしてないならビョーキとかうつることも無いでしょ」


ぷるんと赤い唇をして、菜花が言う。

この口で俺のを……って思うと、ティッシュで包んでるモノがキュンとなる。


うわぁ…… またしてもやらかしましたわ俺。

気持ち良さに全然抗えなかった……ワイはサルや、プレジャーシーカーサルや……!


ハァ、と反省の溜め息を吐いて手で顔を覆う。


「…… キモチくなかった?」


ベッドの上にペタンと座ってショボーン顔で見つめてくる菜花。


「ヒロの為に色んなの観て勉強したのになぁ」


「…… 何観て何を勉強してんだよおまえは」


いや、正直すげぇ良かった。良かったのは認める、けど。

AVやエロ漫画ではフェラって当たり前みたいに描かれてるし、当たり前にザーメン飲んだり口から垂らして見せたりしてるけど、実際自分の愛する人にあんなことさせる気は起きない…… 少なくとも俺は。

イラマチオ強要するのに興奮するって鬼畜も居るみたいだけど、あれって嗜虐嗜好の特殊性癖だからな?

下手したら窒息するし、気管に唾液やザーメン入り込んで肺炎とかの病気になっちゃうかも知れない危険な行為だ。

ただでさえアブないことなんだから妊婦のやることじゃねぇよ、と俺が言うと、


「ヒロだって…… アソコに舌挿れたりしたじゃん」


と、ものすごく恥ずかしそう且つ不満気な菜花。


あぁ…… したね。確かに俺、しましたわそんなこと。

んで、イき狂う菜花観てめっちゃ興奮しましたわ……。


思い出すと再び股間が疼き始めて、ブルッと身震いする。

でもあのときは俺、もう死ぬかもって時だったし半分夢ん中みたいな気持ちでいたから、あんなに大胆になれたの。

現実に帰ってみたら、つくづくとんでもないことしたなーって…… アァッ、ヤバ。また勃ちそ……。


「あのときヒロ、あたしのこといっぱい気持ち良くしてくれたから、あたしもヒロのこと、うんと気持ち良くしてあげたいなぁ、ってずっと思ってたの。…… 分かった?」


なんて純粋ピュアなんだ、菜花。

こんなサルの為に……。

健気過ぎて、哀れにすら思えてくる。


「……分かったよ…… ありがと。

でもほんと、今は身体大事にしてくれよ。

 俺、おまえのこと心配でしょうがないの。

別に今はエッチなんか出来なくてもいいからさ…… 後からいっぱい出来んじゃん」


そうだよ、俺今からソレが楽しみで頭ん中いっぱいだよ…… まずは母乳プレイ、そんでもってアレしてコレして、それからそれから…… クッソ…… おまえ、性欲インフィニティな俺を選んだこと、卍解見てから後悔しても遅いんだかんな⁉︎


「今はやっぱりしたくないの?」


ウッ、と詰まる。

それを言われたら…… 何と答えていいものか。


「あたし、ヒロにしてもらえないから一人でしてるんだよ」


ドキッ。

一人で……?

え、どんなことしてんのおまえ、一人で……?

すごく気になる。


「ヒロが悪いんだよ…… あたしのことこんなエッチにしたの、ヒロなんだから!」


ドキドキッ。

確かに。

可愛いらしいチクニー専だったおまえに、色々色々しちゃって目覚めさせちゃったの、俺だよな……。

ってか、こんなってどんなだよ?

どれくらいエッチになっちゃったの、菜花ちゃん……?


「したくないならしたくないって言って。

気持ち悪いんでしょ、あたし…… 妊婦だから。

すごい太ったし、なんかお腹にゴーゴー毛ぇ生えてきたし、汗っかきになっちゃったし、こんな…… 情緒不安定だから…… 嫌になったんでしょ、あたしのことなんか……」


えーん、って子どもみたいに泣き始める菜花。


むむむしろ逆なんだが⁉︎

太った、つってっけどおまえ、主におっぱいとお尻だろ?

元々が細っこいから、俺からしたら今でちょうどいいくらいだと思う。

ボテ腹が性癖とか自分でもヤバいと思って隠してたけど、これ、言っても良いのかな?

言ってやるべき?俺の本音……。
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