公爵令嬢、過保護な父と毒舌な弟に結婚を妨害されています~誰かこの家の男どもを止めてください~【完】

午前3時の雨音

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第16話『王妃候補の決闘(ディベート)』

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アルヴェルト王宮――“大広間”と呼ばれる格式高き空間が、今日だけは異様な緊張に包まれていた。

王妃候補意見公聴会。
それは貴族・宮廷官僚・外国使節に至るまでが出席する、政治と社交の交差点である。

「参加者、王妃候補リアーナ・フォン・グランツレーヴ嬢。
対するは、フューリ侯爵令嬢、アレッタ・ディア・フューリ」

司会の声が響いた瞬間、空気が一段と冷え込む。


---

控室の鏡の前。
リアーナはひとり、落ち着いた表情で立っていた。

そこへ、控えめなノック音。

「姉上」

静かに扉を開けたのは、深緑の礼服に身を包んだレオンだった。
手には小さな銀盆。ティーカップと、ひと口サイズの甘い焼き菓子。

「糖分と皮肉は、姉上の武器です。
今日はその両方を忘れないようにと思って」

「……ありがとう、レオン。毒舌の中にも優しさが見え隠れしますわね」

「誰にでもじゃありませんよ。
王宮にいる人たちの半分くらいには、今日、姉上が言葉で斬りかかるんでしょう?」

リアーナは微笑し、焼き菓子を一口かじる。

「それで、あなたはわたくしの味方かしら?」

「敵でなければ充分でしょ。
でも……姉上に近づく人間の“査定”なら、僕が一番厳しいかと」

「リセル様には随分と厳しかったようですけれど?」

「当然でしょう。僕の姉を泣かせるような男は、誰であろうと許しませんから」

レオンは、冗談めかした笑みを浮かべながらも、瞳の奥は本気だった。

「行ってらっしゃい。“王妃候補”じゃなくて、“姉上”としての勝利を」


---

壇上の中央。
リアーナは白と銀のドレスをまとい、落ち着いた所作で椅子に腰を下ろした。

正面には、アレッタ・フューリ侯爵令嬢。
王弟派の筆頭で、才知と冷静さで名を馳せる若き令嬢。

最初の質問が飛ぶ。

「“貴女のような外の者”に、この国の民がついてくるとお思いですか?」

その言葉に、会場内がわずかにざわついた。
けれどリアーナは、何の反応も見せず、ただ涼やかに視線を向けた。

「民が“ついてくる”かどうかは、わたくしの努力次第ですわ。
貴女の問いは、“この国の人々を信じていない”という意味にも聞こえますけれど」

アレッタの眉が、わずかに動いた。

「……なるほど。反論は冷静に返す方なのですね。
では、もう少し踏み込みましょう」

アレッタは手元の書面を取り出した。

「“王妃”とは何か。その定義を貴女の言葉で伺いたい」

リアーナはグラスの水を一口飲み、ゆっくりと応じた。

「王妃とは、“語る者”ですわ。
剣にも、楯にもなれないとき。
それでも“声”で国を支えるのが、王妃の役目です」

「言葉で支える? それは“飾り”ではありませんの?」

「飾りは、置かれたまま動きませんわ。
わたくしは“並び立つ者”でいたい。
時に黙り、時に言い、時に……盾として民の前に出る。
王が矢を受けぬように、わたくしが先に矢を受ける覚悟がございます」

アレッタが息を止めたように目を見開き、やがて静かに笑んだ。

「では、もう一つだけ。
“この国の伝統”を壊す覚悟はありますか?」

リアーナは目を細めた。

「守る価値のあるものは守ります。
壊すべきものがあるならば、時間をかけて、理解される形で――
“少しずつ変えて”まいります。急激な変化は、民の心を壊しますもの」

広間がしんと静まりかえった。
数秒の沈黙ののち、端にいた1人の老貴族がぽつりと呟いた。

「……よう言うたな」

やがて、散発的だった拍手が、次第に広がりはじめる。


---

控室に戻ったリアーナの前に、レオンが現れる。

「……まあまあ。6点ですね。辛口評価ですが」

「6点?」

「残り4点は“行動”で獲得してください。
でも……姉上らしかったですよ。王妃っていうより、剣より怖い言葉の魔術師」

リアーナは小さく吹き出した。

「それは褒めているのかしら?」

「姉上が笑ってくれたら、それで満点です」


---

その夜。
リセルの元へ、宰相リステラ公が書類を携えてやってきた。

「本日の公聴会における総評をまとめました。
王妃候補としての基準は、全て満たしてございます」

「……ありがとう」

リセルはそれだけ言って、机に手を置く。

その指先が、ほんのわずかに震えていたことに、リステラは気づいていた。

それは――
安堵と、そして誇りによる、王子の“微かな喜び”だった。
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