公爵令嬢、過保護な父と毒舌な弟に結婚を妨害されています~誰かこの家の男どもを止めてください~【完】

午前3時の雨音

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第17話『民の声と女王の器』

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「……王宮の外に?」

リアーナの言葉に、リセルが目を見開いたのは、午前の執務室。

「はい。“王妃になる者”として、わたくしが知らねばならないものは、王族の言葉より、民の声です」

「でも、危険が――」

「もちろん、護衛はつけます。目立たぬように行動しますわ」

「……君は、本当に“選ばれる”だけでは気がすまない人だ」

「リセル様が“選ばせてくれた”方だからこそ、わたくしも責任を持ちたいのです」

リセルが小さく息をつき、ふと微笑んだ。

「……君のそういうところ、父も母もきっと気に入る」

「リセル様、お父上とお母上はどういう方なのかしら?」

「父は……厳格。でも、正義を貫く人。母は静かで優しい。でも“見透かす目”をしている」

リアーナは微笑を浮かべた。

「では、お会いするその日が楽しみですわ」

その時、執務室の奥から現れたレオンが低く咳払いした。

「会いに行く前に、姉上はまず“民の目”に耐えられるか確認です。
お城の内側だけで美辞麗句を語っても、空回りですから」

「……あなたは相変わらず鋭いですわね」

「当然です。僕は姉上の“最も信用できる批判者”ですから」


---

王宮の城下町――東市街区の路地裏。
王族の行事や観光では訪れない、素の暮らしが息づく街並み。

土の香り、焼き魚の煙、果物の甘い香り。
子どもたちのはしゃぐ声と、屋台を巡る人々のざわめき。
すべてがリアーナにとって、どこか懐かしく、そして新鮮だった。

マントを羽織り、帽子を深くかぶって、目立たぬように歩く。

(……ここは、誰の目も、肩書きも気にしなくていい世界)

「姉ちゃん、買うかい? 今日のキスモはめっちゃ甘いよ!」

声をかけてきたのは、頬を赤らめた少女。
栗色の髪を三つ編みにし、小さな布エプロンをつけていた。

「じゃあ、ひとつだけくださいな」

少女がにっこりと笑いながら、布に包んでくれる。

「お姉ちゃん、話し方が上品だね。お城の人?」

「さあ、どうでしょうね?」

「うちの母ちゃん、言ってたよ。
“お城の人たちは雲の上に住んでる。
私たちの暮らしなんか、見えてない”って」

リアーナはその言葉に、ゆっくりと膝を折って少女と目を合わせた。

「でも、あなたのことは、わたくしにはちゃんと見えていますよ。
それじゃあ“雲の上”じゃありませんわよね?」

「……へんなお姉ちゃん。でも、やさしいね」

「貴女のお名前は?」

「サラ」

「サラちゃん。わたくしの名前は……リアーナ」

「リアーナ……なんか、きれいな名前」

その一言に、胸がじんとした。

(“リアーナ”という名前を、誰かにそう言ってもらえる日が来るなんて――)

少女は続けた。

「ねえ、リアーナお姉ちゃん。王子様って、どんな人なの?」

リアーナは少し考えてから、こう答えた。

「不器用で、ちょっと頑固で、でも――優しい人よ。
誰かの涙を見て、自分のことのように悩んじゃうような」

「へぇ……すてき」

「その人の隣に立つために、わたくしはこの国に来たの」

「……お姉ちゃん、王子様と結婚するの?」

「そのつもりですわ」

サラが、ぱちくりと目を瞬かせたあと、ぽつりと呟いた。

「じゃあ……王子様が王様になったら、お姉ちゃんは“王妃様”なんだ」

「……ええ。そうなるといいわね」

「じゃあさ。王妃様になったら、またここに来てよ」

リアーナはその申し出に、心の奥からこみ上げるものを感じた。

「ええ、必ず。サラちゃん、また果物を売っていてね?」

「うん! いっぱい甘く育てておく!」


---

王宮に戻ったリアーナは、執務室で静かに報告を終えた。

「……やはり、わたくしの知らない世界が、こんなにも近くにあったのですね」

リセルは静かに頷いた。

「民と共に生きる覚悟。それを見せてくれたら、きっと国も君を“選ぶ”」

「選ばれるだけではなく、“理解される”ことの大切さを、今日のサラちゃんが教えてくれました」

レオンが不意に現れ、手を組んで言った。

「姉上、民との会話も悪くなかったですが、甘やかされてはいけません。
“王妃”は、笑顔だけじゃやっていけませんから」

「当然です。わたくし、言葉でも行動でも“この国に必要な人間”になる覚悟はできていますわ」

レオンは頷きながら、そっと言った。

「……じゃあ、きっと母様も、紅茶を飲みながら微笑んでますよ」
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