公爵令嬢、過保護な父と毒舌な弟に結婚を妨害されています~誰かこの家の男どもを止めてください~【完】

午前3時の雨音

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第18話『王弟の矜持、王子の決意』

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夜の王宮。
外は風が強く、空に浮かぶ月さえ雲の影に揺れていた。

王子の執務室。
机に広げられた公文書には、まだ書き終わらぬ署名欄がひとつ――

「……リセル」

不意に、ノックもなく扉が開いた。
現れたのは、王弟・ジークフリート。緋の正装をゆったりと羽織ったまま、
まるで昔のように、気軽に扉を開けてくる。

「兄上……」

「堅苦しくなる前に、少しだけ“兄弟”として話してもいいか?」

リセルは少し驚いた顔をしながらも、静かに椅子を引いた。

「……どうぞ。兄として、という言葉が少しだけ懐かしいです」

ジークは対面の椅子に腰を下ろし、足を組んだ。

「お前が10歳で、俺が15のときだったな。
無理やり連れ出して、城の裏庭で剣の素振りを教えたっけ」

「“無理やり”どころか、あれで手の皮が剥けました。
でも、父の前で剣を構えるよりもずっと、自由で」

ジークの口元が緩む。

「……あの頃のお前は、まだ“弟”だったのにな」

「……僕の目には、兄上はずっと遠い背中でしたよ」

「そうか?」

ジークは少し黙り、それから真剣な眼差しで言った。

「俺はずっと、王位継承なんて“ただの義務”だと思ってた。
正室の子として産まれたから、自動的に“王になる可能性”を与えられて……
でも一度も、それを“欲しい”と思ったことはなかった」

「……知っていました」

「だがな――母上が亡くなり、父上が病に伏して政務を宰相に委ねるようになってから、
この国が“芯をなくしていく”のが分かったんだ。
お前が姿を消して、俺が“なんとかしなきゃ”って思ったのは、ある意味、当然だったのかもな」

リセルはその言葉に、はっと息を飲んだ。

「……兄上……」

「だけど今の君は――違う。逃げていたわけじゃなかったんだ。
君は、自分自身の答えを探しに行ってた。
リアーナ嬢と出会って、変わったな」

「……はい。
“王子だから”じゃなく、“この国を守りたい”という気持ちがようやく育ちました。
リアーナを“この国に迎える”と決めたときから、それは僕の中で確かなものになったんです」

ジークは立ち上がり、窓の外を見つめる。

「父上は今も、王宮の奥で静かに暮らしておられる。
だがもう、国を背負う体力も、言葉も少ない。
なら――お前が新しい始まりになれ。俺は……兄として、それを支える」

振り返ったジークの顔には、かつてと変わらぬ“家族”としてのぬくもりがあった。

「その代わり……リアーナ嬢を泣かせたら、兄として全力で殴るからな」

リセルが思わず笑って、すぐに神妙な顔で頭を下げる。

「ええ。約束します。彼女を幸せにすることが、この国の幸せに繋がるような未来を――僕が創ります」


---

翌朝。
リアーナが謁見の準備をしていると、リセルが訪ねてきた。

「リアーナ」

「おはようございます、リセル様。顔色が昨日よりも穏やかですわ」

「兄と話してきました。……ようやく、腹を割って。
彼は王位を継がないと宣言しました。そして、僕を支えると」

「……それは、とても大きな一歩ですわね」

「父は今も健在ですが、すでに政務から退いています。
この国には、もう“実質的な王”がいない。だからこそ、僕が立たねばならない」

リアーナは頷く。

「この国の空席を埋めるのは、義務ではなく、決意によってであってほしいですわ。
わたくしもその決意の隣に立つ覚悟はあります」

リセルはそっと彼女の手を取った。

「君と一緒に、この国の未来を創りたい。
王妃ではなく、リアーナという“人”と歩む国にしたい」

「わたくしも、“国のための王妃”ではなく、“人のために選ぶ王妃”になりたいですわ」


---

その日、王宮評議会室にて。
ジーク・フリート王弟は、静かに一枚の文書を提出した。

「私は、王位継承権を放棄する。
王として選ぶのは弟――リセル・ド・マルセリーヌ。
私は、兄として、その背を見守る者となろう」

評議会は、静かに、それでいて確かに頷いた。

その日、王国の“未来”が、一つ、動いた。
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