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第24話『過保護な父、王宮に現る』
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「――公爵夫妻が、王宮に?」
王宮の朝は、その一報によってざわついた。
リセルが公式な招待を出したわけではない。
にもかかわらず、ラクリエル王国の公爵家が――
しかも、かの“クラリス”と“セシル”が王宮へ姿を現すという。
宰相が慌てて文書を確認し、護衛隊が慌ただしく配置される中。
王宮の正門前に、静かに馬車が止まった。
「久しぶりね。……この石畳、昔はもう少し綺麗だった気がするわ」
ゆったりと馬車を降り立ったのは、
優雅なドレスを身にまといながらも、微笑に一分の隙もない女性――クラリス。
そしてその隣に立つ、漆黒の髪と目を持つ静かな男。
クラリスの手をそっと取ってから、王宮を見上げた。
「……変わっていない。そういうものだな、城というのは」
セシル・フォン・ラクリエル。
ラクリエル王国の現公爵、リアーナの父。
その姿に、出迎えた王宮の高官たちがざわりとした空気をこぼす。
「――あの方が、公爵閣下……?」
「なんというか、印象が薄いというか……いや、違う。
この静けさ、何か……引っかかる……」
ざわめきが広がる中、セシルは淡く微笑んだ。
「今日は“父親”として来ました。
この国に、娘を預けた家族の一人として。
それだけの理由でしかありませんので、ご心配なく」
「ええ。わたくしも、娘の環境が気になってついてきただけですの。
今さら“悪役令嬢”と呼ばれるのも飽きましたし」
クラリスの一言に、案内役の高官が思わず姿勢を正す。
一歩、また一歩と進む彼らの姿に、王宮の空気が静かに凍る。
---
リアーナは報せを聞いて、廊下を早足に進んでいた。
(なぜ、今……!?)
もちろん、父と母が来ること自体は拒む理由などない。
けれど、事前の連絡もなく“突然に”というのは、あまりにも不自然だった。
応接の間の扉を開けた瞬間、クラリスが優雅に笑って振り向いた。
「まあ、リアーナ。あなた、ずいぶん痩せたんじゃなくて?」
「母様……! 父様も……どうして……?」
「連絡しなかったのは、現地調査の基本だとお父様が」
「君だって、突然“王宮に馴染みます”などと言い出しただろう?」
セシルは穏やかに言ったが、その瞳の奥にあるものは――
いつもより、少しだけ研ぎ澄まされていた。
リアーナは言葉を詰まらせ、やがて微笑む。
「……でも、会えて嬉しいわ。ありがとう」
その言葉に、クラリスは肩の力をふっと抜き、ソファに腰を下ろす。
「安心したわ。……まったく、心配させるんだから」
「母様……?」
「誰かがあなたに花を贈ったと聞いたのよ。
好みじゃない花。……あなたはそれを捨てなかった」
「……」
「“強い子”を育てたつもりだったのだけれど、
“優しい子”に育ってしまったわね。セシルに似たのかしら」
セシルは黙って紅茶を口に運び、
窓の外の庭園に視線を落とした。
その横顔は、どこか憂いを帯びていた。
---
その日、王宮中では“ある噂”が静かに広がり始めていた。
――あの男、セシル公爵。
出自に関する公式記録が、やけに曖昧だ。
本来なら載るはずの“出生地”が伏せられている。
「……まさか、“あの筋”の血を?」
「でも黒髪黒目だぞ?」
「記録では“ラクリエル王家の庶子”とされていたらしいが……?」
あやふやな情報と過去の記憶が、じわりと王宮内を満たしていく。
---
一方、執務室で手帳を閉じたカミルはつぶやく。
「セシル・フォン・ラクリエル……。
……ようやく、動いたか」
彼の目は笑っていたが、どこか冷えていた。
「王族の血。もしもそれが“娘に受け継がれていた”としたら――
この婚姻は、“ただの縁談”では済まなくなる」
薄闇に沈むその顔に、王国間の駆け引きの匂いが満ちていた。
王宮の朝は、その一報によってざわついた。
リセルが公式な招待を出したわけではない。
にもかかわらず、ラクリエル王国の公爵家が――
しかも、かの“クラリス”と“セシル”が王宮へ姿を現すという。
宰相が慌てて文書を確認し、護衛隊が慌ただしく配置される中。
王宮の正門前に、静かに馬車が止まった。
「久しぶりね。……この石畳、昔はもう少し綺麗だった気がするわ」
ゆったりと馬車を降り立ったのは、
優雅なドレスを身にまといながらも、微笑に一分の隙もない女性――クラリス。
そしてその隣に立つ、漆黒の髪と目を持つ静かな男。
クラリスの手をそっと取ってから、王宮を見上げた。
「……変わっていない。そういうものだな、城というのは」
セシル・フォン・ラクリエル。
ラクリエル王国の現公爵、リアーナの父。
その姿に、出迎えた王宮の高官たちがざわりとした空気をこぼす。
「――あの方が、公爵閣下……?」
「なんというか、印象が薄いというか……いや、違う。
この静けさ、何か……引っかかる……」
ざわめきが広がる中、セシルは淡く微笑んだ。
「今日は“父親”として来ました。
この国に、娘を預けた家族の一人として。
それだけの理由でしかありませんので、ご心配なく」
「ええ。わたくしも、娘の環境が気になってついてきただけですの。
今さら“悪役令嬢”と呼ばれるのも飽きましたし」
クラリスの一言に、案内役の高官が思わず姿勢を正す。
一歩、また一歩と進む彼らの姿に、王宮の空気が静かに凍る。
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リアーナは報せを聞いて、廊下を早足に進んでいた。
(なぜ、今……!?)
もちろん、父と母が来ること自体は拒む理由などない。
けれど、事前の連絡もなく“突然に”というのは、あまりにも不自然だった。
応接の間の扉を開けた瞬間、クラリスが優雅に笑って振り向いた。
「まあ、リアーナ。あなた、ずいぶん痩せたんじゃなくて?」
「母様……! 父様も……どうして……?」
「連絡しなかったのは、現地調査の基本だとお父様が」
「君だって、突然“王宮に馴染みます”などと言い出しただろう?」
セシルは穏やかに言ったが、その瞳の奥にあるものは――
いつもより、少しだけ研ぎ澄まされていた。
リアーナは言葉を詰まらせ、やがて微笑む。
「……でも、会えて嬉しいわ。ありがとう」
その言葉に、クラリスは肩の力をふっと抜き、ソファに腰を下ろす。
「安心したわ。……まったく、心配させるんだから」
「母様……?」
「誰かがあなたに花を贈ったと聞いたのよ。
好みじゃない花。……あなたはそれを捨てなかった」
「……」
「“強い子”を育てたつもりだったのだけれど、
“優しい子”に育ってしまったわね。セシルに似たのかしら」
セシルは黙って紅茶を口に運び、
窓の外の庭園に視線を落とした。
その横顔は、どこか憂いを帯びていた。
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その日、王宮中では“ある噂”が静かに広がり始めていた。
――あの男、セシル公爵。
出自に関する公式記録が、やけに曖昧だ。
本来なら載るはずの“出生地”が伏せられている。
「……まさか、“あの筋”の血を?」
「でも黒髪黒目だぞ?」
「記録では“ラクリエル王家の庶子”とされていたらしいが……?」
あやふやな情報と過去の記憶が、じわりと王宮内を満たしていく。
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一方、執務室で手帳を閉じたカミルはつぶやく。
「セシル・フォン・ラクリエル……。
……ようやく、動いたか」
彼の目は笑っていたが、どこか冷えていた。
「王族の血。もしもそれが“娘に受け継がれていた”としたら――
この婚姻は、“ただの縁談”では済まなくなる」
薄闇に沈むその顔に、王国間の駆け引きの匂いが満ちていた。
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