公爵令嬢、過保護な父と毒舌な弟に結婚を妨害されています~誰かこの家の男どもを止めてください~【完】

午前3時の雨音

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第25話『王家の影、父の本心』

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「――公爵殿。お時間をいただき感謝いたします」

王宮西棟の応接室には、宰相と重臣数名、そして王太子リセルの姿があった。
対するのは、ラクリエル公爵セシル・フォン・ラクリエル。その隣には、変わらぬ気品と威圧感を纏うクラリス。

「娘の縁談で、わざわざここまで来てくださるとは……並の父親ではできませんね」

「我が家ではこれが“普通”なんですよ。
心配性と過保護は、たぶん遺伝するものなんです」

セシルは柔らかく微笑みながらも、まっすぐにリセルを見つめていた。

「本日このような場を設けたのは、閣下のご出自に関して一点、確認を取らせていただくためです」

リセルが立ち上がり、真正面から問う。

「閣下は……ラクリエル王家の血を引く者なのですか?」

静寂が落ちる。

クラリスは視線を伏せ、セシルはゆっくりと立ち上がった。

「……母は、アルヴェルト王国の姫でした。
ラクリエル王と真に愛し合い、私を授かりましたが……王統には加えられず、公式には正妃の子として育てられました」

セシルは懐から、銀と藍の入り混じる小さなペンダントを取り出す。

「母が最後に私に残した、魔導具です。
髪と瞳の色を隠すために、ずっと身につけてきました。
私は、この国では“黒髪黒目の公爵”として、ただの臣下として生きることを望みました」

「それでも……今日、明かしてくださった理由は?」

リセルの問いに、セシルはクラリスと目を合わせ、そして答えた。

「娘が、自分の意志で未来を選んだ。
ならば私も、父としてその選択を守る覚悟を示すべきだと思ったのです」

静かな言葉は、誰の胸にも深く響いた。

リセルは、深く頭を下げた。

「……リアーナ嬢を、必ず大切にします。
あなたが“王家”としてではなく、“父”として託してくださったその想い、決して裏切りません」

セシルは頷いた。

「ありがとう。……あとは娘の力を、信じるだけですね」


---

その夜。リアーナは父の部屋を訪ねていた。

「……驚きました。父様が王族だったなんて」

「言うべきか悩んでいたよ。王族の名が、時に枷になることもあるからな」

リアーナは、少し微笑んだ。

「でも、知ることができてよかった。
“あなたはあなた”――そう言ってくれた父様が、誰であっても、私は変わりません」

セシルは、懐から小さな箱を差し出した。

「これは、私の母がくれた魔導具だ。
本来の髪と瞳を隠すための指輪。……血筋の証ではないが、心の拠り所としてずっと持っていたものだ」

リアーナは箱を開け、指輪を手に取る。

銀と藍の柔らかな光。
どこか温かく、どこか懐かしい――そんな不思議な色合いだった。

「……お前に、似合う気がしてな。
贈り物だ。娘にしか渡せないものだから」

リアーナはそっと胸元にしまい、深く頷いた。

「ありがとう、父様。大切にします」


---

そして、その会話を――
隣室の扉の陰から盗み聞いていたレオンは、ぽつりとつぶやいた。

「……父様、王族だったの……?
姉上は王妃になって、しかも血縁上の“高貴さ”も備えていて……」

彼は腕を組み、真顔で呟く。

「……身内が最強って、警戒しようがないじゃないですか。
もはや僕が警戒すべきは……婚約者でも貴族でもなく、実の家族……」

しばし本気で悩む、毒舌弟であった。


---

その翌日。
王宮には一枚の招待状が回されていた。

――新王リセル主催の、舞踏会の開催。

王妃候補・リアーナ嬢の正式な“お披露目”として。
そして、各国要人を招いた社交の中心として。

「……わざわざ舞踏会なんて、面倒なことを。
でも、必要よね。あの子に必要な“立ち位置”を見せるには」

クラリスが呟き、セシルは遠い目をした。

「……あの場で、どこまで隠し通せるだろうな。
この髪も、瞳も。そろそろ……偽るには限界が近い」

「まさか、見せるつもり?」

「否定はしないよ。
――見せるべき時が、来たのなら」


---

その夜、リアーナはドレスルームで鏡に向かっていた。

指輪をひとつ、胸元に光らせながら。
彼女の背中には、確かな緊張と、決意が宿っていた。

「――さあ、“舞台”は整いましたわね」
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