公爵令嬢、過保護な父と毒舌な弟に結婚を妨害されています~誰かこの家の男どもを止めてください~【完】

午前3時の雨音

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第26話『舞踏会、偽りを裂く光』

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ラクリエル王国王宮、北翼の大広間。

天井の高いホールには、銀細工の魔導シャンデリアが吊るされ、
きらきらと魔力の光が舞い踊っていた。

今宵は、新王リセルによる政務初の公式舞踏会。
目的は明確だった――王妃候補・リアーナのお披露目。

各国の使節、名家の貴族、王宮関係者や魔導院重鎮まで、
総勢200名を超える招待客が、その動向を見守る。


---

「……ずいぶん賑やかね」
クラリスはシャンパンのグラスを傾け、視線を巡らせる。

「派手に仕掛けたほうが目立つ。新王としては、悪くない戦術だ」
セシルは壁際で静かに立ち、目を細めていた。

「それにしても、気配が濃いわね。……隠しきれていないんじゃなくて?」

「魔導具が少し、くたびれてきたのかもしれないな」
セシルは自嘲気味に笑った。

「出すつもり?」

「もし“見えた”としても、それはただの“演出”さ。
……誰にも本当の姿は、わからない」

クラリスは静かに笑った。
「ふふ、なら……せいぜい、格好よくね」


---

一方――舞踏会控室。

リアーナは鏡の前で、最後の仕上げを終えた。

纏ったのは、淡い銀と藍のグラデーションが流れるロングドレス。
装飾は最小限。けれど、その凛とした立ち姿には、
どんな宝石よりも強い気品と、気迫が宿っていた。

「姉上、緊張してます?」

「ええ。でも、これくらいで崩れるなら、母に育てられていませんわ」

「名言。では、突撃ですね」

「だから戦ではありませんってば」

くすりと笑い合い、姉弟は扉を開けた。


---

会場に一歩、リアーナが足を踏み入れた瞬間――
空気が変わった。

ざわめきが音楽の上に重なり、視線が一斉に集まる。

「なんて……威厳……」

「クラリス様の娘と聞いてはいたけど、これは……まるで別物」

「見下ろされる感じがしないのに、背筋が自然と伸びる……」

ざわつく声が、誰の口からともなく零れていた。

リアーナは気後れすることなく、まっすぐリセルのもとへ進んだ。

「お待たせしました。……王妃候補として、ふさわしく見えますか?」

「うん。……堂々としすぎてて、俺が緊張してきたくらいだ」

「だったら私の方が先に笑いますわ。……ほら、“微笑みで黙らせる訓練”は母直伝ですもの」

リセルは思わず吹き出す。

だが、直後。

空気が、揺れた。


---

場の中央――装飾用に設置されていた魔力感応石が、
突如として淡く、青白く光を帯び始めた。

「……感応石が……反応してる?」

「まさか、あれって本当に動作するんですか……?」

「飾りじゃ……なかったのか……?」

ざわめきの中、セシルが立つ壁際に――光が伸びる。

石は高密度な魔力の存在に反応する。
そして今、それが“何か”を捉えたのだ。

ふ、と。

セシルの髪が揺れた。
黒の髪が、光の瞬きに照らされ――

一瞬、銀と藍が混ざり合う色が覗いた。

その瞳もまた、わずかに、冷たい藍に染まっていた。

会場全体が、静止したように凍りつく。

「……あれは……王家特有の……」

「まさか、本当に……」

「いや、見間違い……でも……」

誰も言葉を続けられない。
誰もが「ありえない」と思いつつ、「確信してしまう」あの一瞬。

そのとき。

「――見せすぎよ、あなた」

クラリスの涼やかな声が、場を貫いた。

彼女は笑っていた。
だが、その瞳はすべてを見通すように鋭い。

セシルは静かに微笑み返し、何事もなかったかのようにグラスを傾ける。

「……ああ。すこし、気が緩んだかもしれない」

その一言が、すべてをぼかし、同時に、すべてを肯定した。


---

舞踏会は、その後も粛々と続いた。

けれど、誰もが心に焼きつけていた。

一瞬の“光”。
一瞬の“素顔”。

そして――
王妃候補リアーナの“父”が、いったい何者なのかを。

それは、明確な言葉ではない。
けれど確実に、全員の記憶に刻まれた“真実”だった。
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