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第34話『さよならの代わりに、行ってらっしゃい』
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王都に朝の霧が立ち込めるなか、
王宮近くの離宮の前には、一台の豪奢な馬車が静かに佇んでいた。
今日は、リアーナ=フォン=ラクリエルが、
正式にアルヴェルト王宮に入る日。
“王妃リアーナ”としての歩みが、ついに始まろうとしていた。
それを見届けるため、家族は静かに彼女を送り出そうとしていた。
---
「行きなさい。もう、言葉は十分でしょう?」
そう言ったクラリスの声には、
感傷も涙もなく、ただ毅然とした母の覚悟があった。
けれど、リアーナのマントの留め具を最後まで整えていたその手は、
ほんの少しだけ、離れるのを惜しむようだった。
「……ありがとう、母上」
クラリスは何も返さず、静かに頷いた。
---
セシルもまた、ほとんど口を開かなかった。
リアーナが乗車のために扉へ向かおうとしたとき、
背中にだけ、短く声をかける。
「振り返るな。背中を見て、我慢するから」
その言葉にリアーナは微笑み、
振り返らずに、深く一礼だけを残した。
---
「姉上、ちょっと待ってください!」
レオンが駆け寄ってきて、手にしていた小さな包みを差し出す。
「これは、僕からの……非常用です。これ、もし王宮で“変な輩”が姉上に近づいたら――迷わず使ってください」
「変な輩?」
「つまり、“国王陛下以外の男”です」
リアーナはふっと笑う。
「あなた、まさかこれ……香水じゃなくて、撃退用の魔導スプレー?」
「もちろんです。
怪しい男を一瞬で遠ざける、優秀なやつです。……一応、無害ですけど」
「……ありがとう。でも、なるべく使わずに済むよう、努力するわね」
「それじゃ、僕の安心が足りません」
そう言いながら、レオンは小さく視線を落とす。
口元を少しだけ引き結び、照れ隠しのように顔をそむけた。
「本当は、まだ行ってほしくないです……けど。
行くって決めたの、姉上ですもんね。だったら、見送ります。……王妃になっても、帰ってきてください」
「……ええ。帰るわ、必ず。だから、行ってきます」
リアーナはレオンの頭をそっと撫でて、馬車に乗り込んだ。
---
馬車が静かに動き出す。
見送りの言葉は、もうどこにもなかった。
でも、誰もが立ったまま、その背中を見送っていた。
リアーナは窓越しに家族の姿を見つめ、
静かに手元の小箱――セシルから贈られた品に触れる。
「さよなら、じゃないわ。……行ってきます」
そう呟いた声は、もう誰にも聞こえないほどに小さかった。
けれどその想いは、確かにこの国に、そして家族に、届いていた。
王宮近くの離宮の前には、一台の豪奢な馬車が静かに佇んでいた。
今日は、リアーナ=フォン=ラクリエルが、
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それを見届けるため、家族は静かに彼女を送り出そうとしていた。
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「行きなさい。もう、言葉は十分でしょう?」
そう言ったクラリスの声には、
感傷も涙もなく、ただ毅然とした母の覚悟があった。
けれど、リアーナのマントの留め具を最後まで整えていたその手は、
ほんの少しだけ、離れるのを惜しむようだった。
「……ありがとう、母上」
クラリスは何も返さず、静かに頷いた。
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「振り返るな。背中を見て、我慢するから」
その言葉にリアーナは微笑み、
振り返らずに、深く一礼だけを残した。
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「変な輩?」
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「あなた、まさかこれ……香水じゃなくて、撃退用の魔導スプレー?」
「もちろんです。
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「……ありがとう。でも、なるべく使わずに済むよう、努力するわね」
「それじゃ、僕の安心が足りません」
そう言いながら、レオンは小さく視線を落とす。
口元を少しだけ引き結び、照れ隠しのように顔をそむけた。
「本当は、まだ行ってほしくないです……けど。
行くって決めたの、姉上ですもんね。だったら、見送ります。……王妃になっても、帰ってきてください」
「……ええ。帰るわ、必ず。だから、行ってきます」
リアーナはレオンの頭をそっと撫でて、馬車に乗り込んだ。
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馬車が静かに動き出す。
見送りの言葉は、もうどこにもなかった。
でも、誰もが立ったまま、その背中を見送っていた。
リアーナは窓越しに家族の姿を見つめ、
静かに手元の小箱――セシルから贈られた品に触れる。
「さよなら、じゃないわ。……行ってきます」
そう呟いた声は、もう誰にも聞こえないほどに小さかった。
けれどその想いは、確かにこの国に、そして家族に、届いていた。
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