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第33話『未来の名前で呼ばせて』
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王宮・花の間。
控えめな金装飾と花々に彩られた祝宴の間に、静かな緊張が走る。
今日、アルヴェルト王国の王妃となる者――リアーナ・フォン・ラクリエルの“婚約発表”が行われる。
それは、政治の儀式であると同時に、
彼女が“他国の人間”から“この国に生きる者”へと歩み出す節目でもあった。
壇上に立つリアーナの横には、王冠を戴く若き国王――リセル=オルヴィス=アルヴェルト。
そして、広間を囲むように王族・重臣・各国使節が並んでいた。
王宮侍従長が静かに宣言する。
「本日をもちまして、リアーナ=フォン=ラクリエル殿は――
陛下リセル=オルヴィス=アルヴェルトの王妃となられることが、ここに正式に発表されました」
拍手が広がる。だがリアーナは、その中で一歩、壇の前へ進んだ。
白金の髪が光を受けて静かに揺れる。
視線を前に向け、落ち着いた声で口を開く。
「私は、ラクリエルという地に生まれ育ち、
家族とともに、言葉と理と責任を学びながら歩んできました」
「そして今、縁あってこの国に迎えられ――
王妃という新たな立場と名をいただこうとしています」
「けれど、どんな名になろうとも、私は私です。
クラリスとセシルの娘であり、弟を持つ姉であり、
そしてこれからは――この国と共に在り、歩む一人の者として、生きてまいります」
会場には再び、しかし今度は穏やかに、確かな拍手が起こった。
---
発表後、控室に戻るリアーナを迎えたのは、母・クラリス。
「ずいぶんと、柔らかく喋っていたじゃない。
あなたらしくて――よかったわ」
「ありがとうございます、母上。少し……緊張しました」
「当然よ。王妃になるというのは、名前が変わるだけじゃない。
“見られる側”として生きるということ。……自覚しなさい」
「……はい」
クラリスは小さく笑い、リアーナの肩を軽く叩く。
「でもね、名前が変わっても、あなたは私の娘。
それは変わらないから」
リアーナはその言葉を静かに胸に刻んだ。
---
次に現れたのはセシル。
「……おめでとう」
「父様。今日はまた一段と寡黙ですわね」
「……あれ以上言ったら、たぶん泣く。
だから、これ以上は黙ってることにする」
リアーナは、ふっと目を細めて笑った。
「じゃあ、代わりに……今まで守ってくださって、ありがとうございます」
セシルは黙って頷き、そっとリアーナの頭に手を置いた。
---
そして最後に、レオン。
「姉上、名前が変わるって、やっぱり妙な感じですね」
「そう? 私は、しっくりきているわよ。
名前よりも、“どこに立つか”が大事ですもの」
「でも、王妃って。なんか、やっぱり遠くなる気がして……」
「それでも、私はあなたの姉。
……その事実は、変わらないわ」
「うん。……それなら、いいです」
一瞬だけ、彼の顔に子どものような表情が浮かんだ。
「……あ、でも義兄上って呼ぶのはまだ無理です」
「聞こえてるよ、レオン」
「わざとです」
背後から現れたリセルが苦笑し、レオンはふんと鼻を鳴らす。
---
その夜、リアーナは窓辺でそっと手帳を開いた。
新しい名前が書かれたページ。
『リアーナ=アルヴェルト』
本来、王族の中間名――たとえば「オルヴィス」――は、
血統の証として男子にのみ継がれるもの。
リアーナは王妃となったが、あくまで“家族に迎えられる者”として名を授かる立場にある。
だからこそ、自身の名の隣に――彼女は自らの手で一行だけ書き添える。
――「私は、私。」
新しい国、新しい役目、新しい名。
けれど、芯にあるものは変わらない。
それだけを確かに抱きながら、リアーナは新しい一日を迎えようとしていた。
控えめな金装飾と花々に彩られた祝宴の間に、静かな緊張が走る。
今日、アルヴェルト王国の王妃となる者――リアーナ・フォン・ラクリエルの“婚約発表”が行われる。
それは、政治の儀式であると同時に、
彼女が“他国の人間”から“この国に生きる者”へと歩み出す節目でもあった。
壇上に立つリアーナの横には、王冠を戴く若き国王――リセル=オルヴィス=アルヴェルト。
そして、広間を囲むように王族・重臣・各国使節が並んでいた。
王宮侍従長が静かに宣言する。
「本日をもちまして、リアーナ=フォン=ラクリエル殿は――
陛下リセル=オルヴィス=アルヴェルトの王妃となられることが、ここに正式に発表されました」
拍手が広がる。だがリアーナは、その中で一歩、壇の前へ進んだ。
白金の髪が光を受けて静かに揺れる。
視線を前に向け、落ち着いた声で口を開く。
「私は、ラクリエルという地に生まれ育ち、
家族とともに、言葉と理と責任を学びながら歩んできました」
「そして今、縁あってこの国に迎えられ――
王妃という新たな立場と名をいただこうとしています」
「けれど、どんな名になろうとも、私は私です。
クラリスとセシルの娘であり、弟を持つ姉であり、
そしてこれからは――この国と共に在り、歩む一人の者として、生きてまいります」
会場には再び、しかし今度は穏やかに、確かな拍手が起こった。
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発表後、控室に戻るリアーナを迎えたのは、母・クラリス。
「ずいぶんと、柔らかく喋っていたじゃない。
あなたらしくて――よかったわ」
「ありがとうございます、母上。少し……緊張しました」
「当然よ。王妃になるというのは、名前が変わるだけじゃない。
“見られる側”として生きるということ。……自覚しなさい」
「……はい」
クラリスは小さく笑い、リアーナの肩を軽く叩く。
「でもね、名前が変わっても、あなたは私の娘。
それは変わらないから」
リアーナはその言葉を静かに胸に刻んだ。
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次に現れたのはセシル。
「……おめでとう」
「父様。今日はまた一段と寡黙ですわね」
「……あれ以上言ったら、たぶん泣く。
だから、これ以上は黙ってることにする」
リアーナは、ふっと目を細めて笑った。
「じゃあ、代わりに……今まで守ってくださって、ありがとうございます」
セシルは黙って頷き、そっとリアーナの頭に手を置いた。
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そして最後に、レオン。
「姉上、名前が変わるって、やっぱり妙な感じですね」
「そう? 私は、しっくりきているわよ。
名前よりも、“どこに立つか”が大事ですもの」
「でも、王妃って。なんか、やっぱり遠くなる気がして……」
「それでも、私はあなたの姉。
……その事実は、変わらないわ」
「うん。……それなら、いいです」
一瞬だけ、彼の顔に子どものような表情が浮かんだ。
「……あ、でも義兄上って呼ぶのはまだ無理です」
「聞こえてるよ、レオン」
「わざとです」
背後から現れたリセルが苦笑し、レオンはふんと鼻を鳴らす。
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その夜、リアーナは窓辺でそっと手帳を開いた。
新しい名前が書かれたページ。
『リアーナ=アルヴェルト』
本来、王族の中間名――たとえば「オルヴィス」――は、
血統の証として男子にのみ継がれるもの。
リアーナは王妃となったが、あくまで“家族に迎えられる者”として名を授かる立場にある。
だからこそ、自身の名の隣に――彼女は自らの手で一行だけ書き添える。
――「私は、私。」
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けれど、芯にあるものは変わらない。
それだけを確かに抱きながら、リアーナは新しい一日を迎えようとしていた。
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