公爵令嬢、過保護な父と毒舌な弟に結婚を妨害されています~誰かこの家の男どもを止めてください~【完】

午前3時の雨音

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第35話『王妃の席へ』

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王宮の白亜の回廊を、静かに靴音が刻んでいく。

金糸の刺繍が施された純白のローブ。
肩には薄紅のケープ、胸元には王家の紋章をかたどったブローチ。
その姿はもう誰が見ても、堂々たる“アルヴェルトの王妃”。

けれど、リアーナの胸の奥には――
まだほんの少し、言葉にならない緊張が宿っていた。

(本当に、ここまで来たのね)

思えば、王宮に足を踏み入れたあの日から、すべてが始まった。
誰かに「ふさわしいか」と問われ続けた日々。
母の言葉、父の沈黙、弟の視線。
ひとつひとつが背中を押し、あるいは問いかけてきた。

(もう、私は“誰かの娘”ではなく、“この国の王妃”なのだ)

リアーナは小さく息を吐く。
目の前で、重々しく装飾された扉が、侍従の手によってゆっくりと開かれた。

静かな光が差し込む玉座の間。

その中央に、若き王――
リセル=オルヴィス=アルヴェルトが凛として立っていた。

彼の装束は王位を象徴する深紅と金。
その瞳はいつもの柔らかさを秘めつつも、今日ばかりは、
王としての決意を宿している。

「……お待たせしました、陛下」

「いや。君が来るのを、ずっと待ってた」

その声に、リアーナはふっと微笑んだ。
言葉は短くとも、そこに込められた思いは、誰よりも強く優しい。


---

玉座の隣。
王妃の席へと、リアーナは案内される。

王の隣に立つ者だけが座ることを許された、唯一の席。
血筋や生まれではなく、自分で選び取った場所。

ほんの一瞬、足が止まりかける。
(ここに座るのは、誰かに許されたからじゃない。
私が、自分で選んでここに来たのよ)

「リアーナ。君がその椅子に座ることを、誰にも否定させない。
僕が選んだ、僕の王妃だから」

そう告げたリセルの右手が、そっと差し出される。
リアーナは迷わずその手を取り、優しく笑った。

「……ふふ。望むところですわ」

その瞬間、重臣たちが静かに立ち上がり、頭を垂れた。

“王妃リアーナ”――
その名が、正式にこの国に刻まれた。


---

そしてその夜。

玉座の間は、式のために装飾が施されていた。

銀のシャンデリアに灯る光、
赤と白の花々が咲き誇るアーチ、
静かな音楽が夜空に溶ける中、王と王妃は歩み寄る。

リセルの表情は凛として、それでいて柔らかく。

「君の隣に立つ未来を、僕は何より望んでいた」

「私の居場所は、ここにありました。あなたとともに――この国に生きることを、誓います」

誓いの言葉とともに、銀の指輪が互いの指に納められる。

その瞬間、奏でられた祝福の旋律が、式場を包み込んだ。


---

参列席の片隅に、クラリスとセシル、そしてレオンが並んで座っていた。

クラリスは娘の姿に目を細め、冷静な表情の奥に、確かな満足の色を浮かべていた。
声には出さずとも、その目は「立派になったわね」と静かに語っている。

そしてセシル――

彼は無言のまま、ただ娘を見つめていた。
けれどその眼差しは、ほんのわずかに揺れていた。

祝福と寂しさ。
誇らしさと、ほんの少しの悔しさ。
そのどれもが混ざり合った、複雑な眼差し。

それでも、静かに頷いたその仕草は、
――何よりも確かな祝福だった。

その隣で、レオンがぼそりとつぶやく。

「……まあ、国王にしては、合格点です。たぶん」

だがその声は、わずかに震えていた。
拗ねたような顔の奥に、誰よりも姉を想う気持ちが滲んでいる。


---

式はやがて終わり、静けさの中に余韻が残る。

夜空には星が瞬き、王宮の屋根をやさしく照らしていた。

リセルとリアーナは、肩を並べて歩いていく。

「……やっと、ですね」

「うん。でも、ここからが本当の“始まり”だよ」

「ええ。覚悟はできていますわ」

リアーナは静かにリセルを見上げ、微笑んだ。

その瞳には、もう少女の迷いはなかった。
“選び取った未来”を歩んでいく者の光が、確かに宿っていた。

星が瞬く夜、王宮の深奥で交わされた誓いは、
静かに、新たな時代の扉を開いた。
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