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しおりを挟む「302号室!」
「新しいおっちゃん!」
白々しく偶然を装った事にアラタは気付いたのか気付いてないのか。
ふふ、これは多分気づいてない。気まずさと動揺で思考が停止しているのが見て取れる。ふふふふふ。
「もしかしてチェンジ希望?」
「いや……デリヘルじゃないし……」
「だねー。取り敢えず帰る場所は一緒だし、ホテル代勿体ないから帰ろ?」
手を差し出すとアラタはおずおずと油の染み付いた手を掌に乗せた。
冷えたその手をぎゅっと包み、小走りで来た道を戻って行く。
この手の中にある感触。恋い焦がれた人の手を今握りしめている現実。
─────捕まえた!
─────遂にやった!
逸る心で体が踊り出しそうだ。心臓が煩くて耳までが熱い。脳内もアドレナリンの分泌が止まらない。タプンタプンだ。
「ちょ、ちょい待てたんま! 302っ!」
「大家なのに店子の名前も知らないの?」
「いっ……今岡くん……?」
「ミナト!」
勢いって大事だ。
『腹減ってない?』とか『どこかで一杯』とか提案されても悉く蹴る。
だって一拍置いたら冷めるだろ?萎えるだろ?既成事実を作り上げキッチリ型に嵌めるまで、俺はこの手を緩めない。
これは運命なんだから。
もう諦めて腹を括れよアラタ。
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