異世界に転移した落ちこぼれ、壊れた右腕で世界を救う!?

夜月 照

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1章 異世界転移編

幕間2 草結びの契約 アイネとクライネ

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 これは川辺で、ショウトがあの緑の球体を放つに至るまで、すなわち魔法を使うまでの話である。
 
「あぁ! ダメだよ~、集中しなきゃ。……ほらぁ、もうマナが元に戻っちゃった」
 
「悪い、悪い。よし! もう一回だ!」
 
 ショウトはそう言って目をつぶると再び意識を右手に集める。
 
 (なぁ、草に宿る霊よ……。オレの声が聴こえるなら返事をしてくれ)
 
 すると右手にくすぐられているような、むず痒い不思議な感覚が伝わってきた。今まで力を使ったどれとも違う感覚、一回目のウルカヌス、二回目の大木じいさん、そのときとは全く違う感覚。
 
 その感覚は、鮮明にふたつの言霊になってショウトの脳に語りかけてきた。女性と、少年の声、
 
((――誰? 私を、僕を呼ぶのは?))
 
 ショウトは戸惑いつつも、しっかりと答えた。
 
(オレだ。オレが呼んだんだ)
 
((あなたは……、君は……、あの人? ……いや、違うわね。うん。ちがうね。))
 
 あの人? 確か森で大木のじいさんも似たような事を言っていた。ショウトの中に疑問符が浮かぶ。そんなショウトの気持ちが伝わるのか、声たちは笑う。
 
((ふふっ、ははっ。戸惑っているわね。うん、いるね。でも、気にしないで。昔似たような事があったってだけだから。そうそう、だけだけ))
 
 声たちの言うとおりだ。他人の空似なんてよくあること。気にしてもしょうがない。それに、今は修行中。目の前の事に集中する必要がある。
 
(頼みがある。オレに、力を貸してくれないか?)
 
((ええ。うん。あなたがそう言うと思っていたわ。うん、いたいた。だって))
 
(だって?)
 
((私と、僕と、話が出来るっていうのは、そういうこと……だから))
 
 声たちがそう言うと、ショウトの右手にあった感覚が消える。そして、
 
「さぁ、目を開けて」
「あけて、あけて」
 
 ショウトの鼓膜をさっきの声たちが叩く。でも、声はさっきと違い重なっていなかった。ショウトはゆっくりと目を開き、暗かった世界に光を取り戻す。
 
「って、お前たちは?」
 
「こんにちは、はじめましてですね。私はアイネ」 
「やあ、はじめましてだね! 僕はクライネ」
 
 ショウトの目に映ったのは宙に舞う小さい二人の妖精? だった。
 
 一人は女性アイネ。
 二十代半くらいの落ち着いた雰囲気のアイネは、金に近い黄緑色のウェーブかがった長い髪に澄んだエメラルドグリーンの瞳。植物を連想させるような緑色の体のラインがはっきりと分かる腰にリボンと大きな花の付いたドレスを身に纏っている。真ん中で分けた長い前髪をとめるためか、額には花冠が巻かれている。
 
 もう一人は少年クライネ。
 クライネは小学生低学年くらいのやんちゃな印象。髪は短くアイネ同様黄緑色、着衣もアイネ同様に植物を連想させるノースリーブの上着に、短パンスタイルだ。頭には花のすずらんのような帽子を乗せている。
 
 二人は顔を見合わせ「うん」と頷き笑い合うと、ショウトに視線を向けた。
 
「それでは、早速ですが始めましょうか」
「それじゃ、さっそくだけど始めようよ!」
 
 状況変化のスピードに着いていけていないショウトは、左の掌を前に向け話を中断。
 
「待て、待て! まず確認させてくれ! お前たちは何なんだ? てか始めるてどういうことだ?」
 
 二人は不思議そうな表情を浮かべると同時に首をかしげる。
 
「何って言われましても……アイネです」
「なにって言われても……クライネだよ」
 
「それは知ってるよ! さっき聞いた! そういう事じゃなくて! ……ああぁっ、もう! 意味分かんねぇ! お前たちは何者だって事だよ!」
 
 ショウトの言葉に二人は、なるほどと言うように、手をでポンと叩く。
 
「私たちは植物の妖精です。あなたの声に引き寄せられてやって来ました」
「うん、うん、やってきた!」
 
「植物の妖精?」
 
 妖精というのは精霊の加護を受けた物質界に存在する生物の総称である。ようするにシルフやドワーフのような存在だ。
 しかし、アイネたちは、その中でも極めて小さな存在。個々の意識はあるものの、実体を持つことが難しかった劣等種のようだ。だから、こうして実体を作るためには多くの植物からマナを集め、結合させる必要があったのだ。
 
「その結合の役割を果たしたがオレの力だってことか?」
 
「はい! そうです! ご理解頂けたようで何よりです」
「何よりだね!」
 
 ショウトの知らない知識。いや、知ってるようで知らない知識と言った方が良いかもしれない。サイクルから聞いた話が力の表面的、結果の話なら、こっちは本質的、つまり過程の話。
 ショウトの力は霊を呼び起こすことと呼び起こした霊と会話をすること。あと、彼自身が体験したことを追加するなら、呼び起こした霊に身体を乗っ取られることもあるということだ。
 前者二つに関しては、アイネたちが言った事が本当であれば、実体を持たない者たちはショウトなくして会話をすることも出来なければ、力を発揮することも出来ない。
 後者一つは、おそらく強行策。実体を持たないからこそ、乗っ取り、自由を手に入れようとしたのかもしれない。
 
「だから、不安定な私たちの存在をより強固なものにするため、あなた様と関係を構築することが必要不可欠なのです」
「なの! なの!」
 
「関係を構築って……。それが力を貸すことに関係してくるのか?」
 
「はい。それがないと、自由に私たちを呼ぶことも出来なければ、力を引き出し使うことも出来ません」
「できないんだなー」
 
 二人の様子や言葉から嘘を言っているようには思えない。なんなら、“あなた様”と言っているくらいだ、尊敬されているようにすら感じる。
 この先、ビーンズ村の時のように何が起こるかわからない。それに立ち向かうためには力がいる。そして、なにより、ウルカヌスの時のような失敗は絶対にしたくない。そう思うとショウトの握る拳に力が入る。

「それで、オレは何をすればいい?」
 
「私の言ったことの後に、私たちを受け入れてくれれば良いだけです」
「受け入れて! 受け入れて!」
 
「受け入れるって言ってもなぁ」
 
「大丈夫です。私たち二人はとても小さな存在……万が一あなた様が受け入れてくれなければ、またバラバラになってさまようだけ……」
「さまようだけ、……だけ」
 
 ショウトの反応に寂しそうに顔を伏せるアイネとクライネ。さっきまで元気に飛び回っていた、相づちを打っていたクライネまでそんな顔をされては、
 
「ああっ! 分かったよ! やればいいんだろ? これで断ったらただの嫌な奴じゃないかよ」
 
「はい!」
「うん!」
 
 一瞬にして表情が明るくなる二人。そんな二人を見て、ショウトは気付く。
 
(はめられた……) 
 
 そんなショウトの心情を知らない二人は、「それでは、気を取り直して」というと、アイネは右手、クライネは左手を真横に水平に上げ、互いの掌を合わせた。
 
「これより契約の義、草結びの契約を行います。あなた様は右手を私たちの方へ……あ、握った草はそのままでお願いします…… 」
 
 アイネの声に従ってショウトは上がらない右手をそっと前に差し出す。そして、
 
「我、植物を介して癒しを司るものアイネ也」
「われ、植物をかいして和をつかさどるものクライネなり」
 
「「我ら、妖精の名において、ここに誓う。この者を主とし、いかなるときもその意思に従い、共にあらんことを!!」」
 
 その瞬間、三人を囲むように緑色の光が溢れた。同時に不思議な感覚がショウトを包む。
 体が軽い、まるで風に揺れる葉のようにゆらゆらと体が揺れる。
 陽射しが心地いい、体の中を浄化するように血液が巡る。
 音が聴こえる。鳥のさえずり、虫の声、川のせせらぎ、風に擦れる植物たち、全ての音が混ざりあって一つのメロディーを奏でている。
 その時、ショウトの握る草がするりとショウトの手の中から抜け出した。
 草は、アイネとクライネ、そしてショウトの周りをぐるぐると円で囲むように周る。
 
「主よ……、我々を受け入れてはくれませんか?」
「くれませんか?」
 
 アイネの言葉にショウトは迷わず答える。
 
「ああ。オレは、お前たちを受け入れる」
 
「それでは、誓いを……」
「言葉を……」
 
「オレの名前はショウト! オレはこの者たちを受け入れ、共にあると誓う!」
 
 ショウトが叫ぶと、飛び回っていた草が一枚づつ、三人の目の前に止まる。
 
「さあ、ショウト様、我々の指にその葉を結びつけてください」
「ショウトさま! 結んで!」
 
 初めての契約、だけど戸惑いはない。むしろ清々しいほど気分がいい。さっきの不思議な感覚は多分、アイネとクライネ、いや、植物たちの感じる世界。そんな世界を擬似的にも体験して、感じて、彼女らを信頼する以外選択肢があるわけがない。
 ショウトはアイネとクライネの右手の小指にそれぞれ葉を結ぶ。そして、ショウトの右手の小指にも……、
 
「アイネ、クライネ。これから、よろしくな」

「「はい。ショウト様」」
 
 ショウトは笑顔で二人に話し、二人は笑顔で答える。徐々に三人のを囲んでいた光が消え、景色がもとに戻った。しかし、そこには、
 
「あれ? アイネ? クライネ?」 
 
 さっきまで目の前にいたはずの二人の姿はなかった。
 
 辺りを見回してみてもやはりいない。
 それでもあの二人の気配を力を小指を通して確か感じる。
 
「よし! いける!」
 
 
 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『アイネ』と『クライネ』
 植物の姉弟妖精
 元々は姿すら現すことすら出来なかった極小妖精。ショウトとの契約によってその姿と存在を確立した。
 
 拘束や回復などの魔法を得意とし、攻撃型の魔法は苦手。
 
 二人を呼ぶためには植物が必要となる。呼んだときの効力は植物の格、強さ、大きさに比例する。
 
 契約時にショウトの右手の小指の付け根には指輪のようなつる草模様がついた。
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