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1章 異世界転移編
15話 夜光草がなぜ光るのか俺はまだ知らない
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「よっしゃー! やっと着いた!」
太陽が西に傾きかけた頃、ショウトたちは夜光草の群衆地に辿り着いていた。
群衆地は山の頂上付近に位置し、その部分だけ吹き抜けのように木々が生えておらず、夜光草だけが原っぱのように一面に広がっている。
ショウトは着くなり、夜光草の上に大の字になった。
「あっ、ショウトそんな急に寝たら……、ってもう遅いか」
ショウトの行動を見ていたマーカスは注意をしようとしたのかハッとしたような表情でショウトに声を掛ける。
「なんだよマーカス。寝転がっちゃまずかったか?」
「ショウトは夜光草がなぜ光か知っているかい?」
「そんなの知らねぇよ。日中に取り込んだ光が暗くなると光って見えるあれみたいな感じだろ?」
ショウトは以前、部屋に置いてあった。ティラノサウルスの骨組みの蓄光の置物と同じ原理だと思いそう口走ったのだが、実際は……
「あれが何かは分からないけど、違うよ。実は……、夜光草には私たち人間には感じることの出来ない独特の臭いがあるんだ。わかる人にはわかるらしいんだけどね……、その臭いに釣られて夜光虫がたくさん集まってくるんだよ。だから……」
その話を聞いた途端、ショウトは飛び上がる。むしろ、飛び上がる他ない。虫と聞いたらそうせずにはいられなかった。そして、しゃがみ込んで夜光草をまじまじと見つめる。
「うわっ……、マジかよ……」
なんと、夜光草には数えきれないほどのちいさな虫がびっしりと群がっていた。その光景に寒気が走る。ショウトは直ぐに背中をはたいた。
「おい、マーカス! 付いてないか? 大丈夫か?」
「多分、大丈夫じゃないかな。夜になれば分かるよ。それにしてもショウト、君はここまで本当によく生きていたよね」
マーカスは意地悪を言っているのか、それとも素がこうなのか、にこやかな表情をショウトに向けた。
ここまで来る途中、マーカスの言った通り、様々な魔物と遭遇した。
最初に出会った猪の魔物ボアフォレスト、蜂の魔物フォレストニードル、狼の魔物森ウルフ、蟻の魔物ビッグアント、どれもマーカスが先陣きって倒していた。
ショウトはと言うと、群れで押し寄せたビッグアントの内の一匹、しかもマーカスが打ち損じて手負いになったやつを、貰った短剣でとどめを刺したくらいだ。
「いや、返す言葉がねぇよ。でも一匹はちゃんと仕留めたじゃないかよ。マーカスみたいにあんな動き出来る方が尋常じゃねぇんだよ」
ショウトはそんな話をしつつも身体に違和感を感じていた。
マーカスに貰った短剣を手にしてからと言うものの身体の奥で吐き気とはまた違うような、何かがモヤモヤ感覚。それに、やけに身体が軽くなった気さえした。
――何も食ってないからか?
ショウトがそんな気持ちを巡らせていると、急に辺りを見回していたサイクルが叫んだ。
「ショウト! あそこに何か落ちてるよ!」
強い口調で叫ぶサイクルが指を指しているのは、群衆地の更に奥、ひときわ目立つ大木が生えている所だ。
声に反応したショウトは一目散に大木に向かって走り出した。
「おい! サイクル! 何が見える!?」
「ここからじゃよく分からないけど、靴かな?」
ショウトもサイクルも喧嘩していた事などまるでなかったかのように普通に話す。その姿をマーカスは後方で見つめる。
大木の下に着くと、サイクルの言った通り、靴が片方だけ落ちていた。
「おいこれって……」
その靴には見覚えがあった。
靴は茶色の皮ので出来たブーツで、前を紐で結ぶタイプものだ。ビーンズ村の人たちが履いている物と良く似ている。しかも、
「このブーツって確か村長の……、ナッツの親父さんが履いてなかった?」
「僕も見覚えがあるよ。でも、もしそうだとしたら……」
「あぁ、ここにナッツの親父さんが来たのは間違いなさそうだな……」
ショウトの背中に戦慄が走る。
ここでなにがあったのか? なぜ姿を消したのか? 考えても分かるはずもなくただ祈る。
――頼むから無事でいてくれよ!
その時、木の反対側からマーカスの声が響いた。
「ショウト! こっちに来てくれ! 木の裏に道があるよ!」
おそらく、ショウトたちが靴に夢中になっている間に辺りを散策でもしたのだろう。
ショウトとサイクルはお互いに目を合わせると、一回うなずき、木の裏手に回る。するとそこにはマーカスの言う通り道があった。
「おい、おい……、これって道って言うのかよ……」
ショウトの目に映ったその道は、何かが無理やり通ったように、木々が薙ぎ倒され、生えている草も潰されて枯れている。しかも、
「ショウト、これって血だよね……。絶対に危ないよ! 今のショウトには無理だから帰ってモミジを呼ぼうよ!」
サイクルは道に引きずられたように伸びる血を見て、ショウトに危険を促す。しかし、ショウトは自分の弱さを加味した上で無謀な他人任せの正義感を振りかざす。
「いや、ここまで来たんだ。先に進もう。なぁに、マーカスもいるし大丈夫だって!」
すると、サイクルはマーカスに聞かれないようにかショウトの耳元へと近づき呟いた。
「勇敢と無謀は違うよ。だから、引き返そうよ。それに僕は、あのマーカスって男、何か信用出来ないんだよ……」
「何言ってんだよ。あんなに助けてくれたじゃなねぇかよ。今さらしょうもないこと言うなよな」
その様子を見つめていたマーカスがショウトたちの会話を終わらせるように、
「さぁ、ショウト。ここから先は私が先頭に立つから、離れないで着いてきて! 気を締めていこう」
そう言ってそそくさと荒れ果てた獣道へと入って行った。
サイクルは断固として拒否していたのだが、ショウトはマーカスを一人で行かせるわけにはいかないと、マーカスの後に続いた。そのショウトの行動にサイクルも仕方なく後を追うしかなかった。
巨大な何かが通った後に出来た獣道は、ひたすら奥へと続いている。
奥に行くにつれ、辺りがだんだんと暗くなり、不気味さを増していく。さらにその演出を助けるようにカラスまで鳴き声をあげる始末だ。
血の後を追うように、少し奥へと歩みを進めると、広くなっている空き地のような場所があった。そこは全体が踏み荒らされ、まるでミステリーサークルのように円形に広がっている。そこへ着くなり、マーカスが声を発した。
「ショウト! あれ!」
マーカスが指を指した場所には、がたいの良い男が横たわっている。
「あれは……っ! ナッツのオヤジさんだ!」
ショウトは荒れ地の丁度中心に倒れている男の元へと行くと、抱き抱えて声をかけた。
「おっさん! 大丈夫か! オレが分かるか!?」
すると、男はゆっくりと目を開けて、今にも消え入るような声で、
「お前は……、にげろ……、ここは危険だ…………」
男がそう言った瞬間、サイクルが発狂したように声を荒げた。
「ショウト! 危ない!!」
ショウトがサイクルの声に振り向いた瞬間だった。
抱き抱えていた男を置き去りにするように、ショウトの身体は真横に弾き飛ばされた。
「――うっ!?」
宙に投げ出された身体は抵抗することすら出来ず、サークルの端に柵のように生えているいる木に見事に叩き付けられ、そのまま地に落ちる。
意識が飛びそうになりながらも、手足が動く事を確認、丈夫に生んでくれた親に感謝しつつ、ショウトは膝に手を起き、必死に立ち上がった。
「うっ、おぉおおっ! ――つっ!」
叩き付けられた衝撃で背中に激痛が走る。痛みに耐えながら腰を伸ばそうとみぎてを腰に添える。その姿にマーカスが我先にとショウトの元へと駆け寄った。
「ショウト! 大丈夫かい!?」
マーカスが身体を支えるようにショウトに肩を貸す。
「あぁ、悪いな……、何が起きたんだ?」
「あれを見てごらん」
マーカスは一点を見つめ、あれの方へ顎で合図。ショウトはマーカスの言うあれの方へ視線を移す。
「今日いちじゃねぇかよ……」
ショウトは自分をぶっ飛ばしたであろう、あれの姿に息を飲んだ。
その目に映るその姿は、今朝の遭遇したボアフォレストよりも数倍でかい、青色の蜘蛛のような化け物だった――。
太陽が西に傾きかけた頃、ショウトたちは夜光草の群衆地に辿り着いていた。
群衆地は山の頂上付近に位置し、その部分だけ吹き抜けのように木々が生えておらず、夜光草だけが原っぱのように一面に広がっている。
ショウトは着くなり、夜光草の上に大の字になった。
「あっ、ショウトそんな急に寝たら……、ってもう遅いか」
ショウトの行動を見ていたマーカスは注意をしようとしたのかハッとしたような表情でショウトに声を掛ける。
「なんだよマーカス。寝転がっちゃまずかったか?」
「ショウトは夜光草がなぜ光か知っているかい?」
「そんなの知らねぇよ。日中に取り込んだ光が暗くなると光って見えるあれみたいな感じだろ?」
ショウトは以前、部屋に置いてあった。ティラノサウルスの骨組みの蓄光の置物と同じ原理だと思いそう口走ったのだが、実際は……
「あれが何かは分からないけど、違うよ。実は……、夜光草には私たち人間には感じることの出来ない独特の臭いがあるんだ。わかる人にはわかるらしいんだけどね……、その臭いに釣られて夜光虫がたくさん集まってくるんだよ。だから……」
その話を聞いた途端、ショウトは飛び上がる。むしろ、飛び上がる他ない。虫と聞いたらそうせずにはいられなかった。そして、しゃがみ込んで夜光草をまじまじと見つめる。
「うわっ……、マジかよ……」
なんと、夜光草には数えきれないほどのちいさな虫がびっしりと群がっていた。その光景に寒気が走る。ショウトは直ぐに背中をはたいた。
「おい、マーカス! 付いてないか? 大丈夫か?」
「多分、大丈夫じゃないかな。夜になれば分かるよ。それにしてもショウト、君はここまで本当によく生きていたよね」
マーカスは意地悪を言っているのか、それとも素がこうなのか、にこやかな表情をショウトに向けた。
ここまで来る途中、マーカスの言った通り、様々な魔物と遭遇した。
最初に出会った猪の魔物ボアフォレスト、蜂の魔物フォレストニードル、狼の魔物森ウルフ、蟻の魔物ビッグアント、どれもマーカスが先陣きって倒していた。
ショウトはと言うと、群れで押し寄せたビッグアントの内の一匹、しかもマーカスが打ち損じて手負いになったやつを、貰った短剣でとどめを刺したくらいだ。
「いや、返す言葉がねぇよ。でも一匹はちゃんと仕留めたじゃないかよ。マーカスみたいにあんな動き出来る方が尋常じゃねぇんだよ」
ショウトはそんな話をしつつも身体に違和感を感じていた。
マーカスに貰った短剣を手にしてからと言うものの身体の奥で吐き気とはまた違うような、何かがモヤモヤ感覚。それに、やけに身体が軽くなった気さえした。
――何も食ってないからか?
ショウトがそんな気持ちを巡らせていると、急に辺りを見回していたサイクルが叫んだ。
「ショウト! あそこに何か落ちてるよ!」
強い口調で叫ぶサイクルが指を指しているのは、群衆地の更に奥、ひときわ目立つ大木が生えている所だ。
声に反応したショウトは一目散に大木に向かって走り出した。
「おい! サイクル! 何が見える!?」
「ここからじゃよく分からないけど、靴かな?」
ショウトもサイクルも喧嘩していた事などまるでなかったかのように普通に話す。その姿をマーカスは後方で見つめる。
大木の下に着くと、サイクルの言った通り、靴が片方だけ落ちていた。
「おいこれって……」
その靴には見覚えがあった。
靴は茶色の皮ので出来たブーツで、前を紐で結ぶタイプものだ。ビーンズ村の人たちが履いている物と良く似ている。しかも、
「このブーツって確か村長の……、ナッツの親父さんが履いてなかった?」
「僕も見覚えがあるよ。でも、もしそうだとしたら……」
「あぁ、ここにナッツの親父さんが来たのは間違いなさそうだな……」
ショウトの背中に戦慄が走る。
ここでなにがあったのか? なぜ姿を消したのか? 考えても分かるはずもなくただ祈る。
――頼むから無事でいてくれよ!
その時、木の反対側からマーカスの声が響いた。
「ショウト! こっちに来てくれ! 木の裏に道があるよ!」
おそらく、ショウトたちが靴に夢中になっている間に辺りを散策でもしたのだろう。
ショウトとサイクルはお互いに目を合わせると、一回うなずき、木の裏手に回る。するとそこにはマーカスの言う通り道があった。
「おい、おい……、これって道って言うのかよ……」
ショウトの目に映ったその道は、何かが無理やり通ったように、木々が薙ぎ倒され、生えている草も潰されて枯れている。しかも、
「ショウト、これって血だよね……。絶対に危ないよ! 今のショウトには無理だから帰ってモミジを呼ぼうよ!」
サイクルは道に引きずられたように伸びる血を見て、ショウトに危険を促す。しかし、ショウトは自分の弱さを加味した上で無謀な他人任せの正義感を振りかざす。
「いや、ここまで来たんだ。先に進もう。なぁに、マーカスもいるし大丈夫だって!」
すると、サイクルはマーカスに聞かれないようにかショウトの耳元へと近づき呟いた。
「勇敢と無謀は違うよ。だから、引き返そうよ。それに僕は、あのマーカスって男、何か信用出来ないんだよ……」
「何言ってんだよ。あんなに助けてくれたじゃなねぇかよ。今さらしょうもないこと言うなよな」
その様子を見つめていたマーカスがショウトたちの会話を終わらせるように、
「さぁ、ショウト。ここから先は私が先頭に立つから、離れないで着いてきて! 気を締めていこう」
そう言ってそそくさと荒れ果てた獣道へと入って行った。
サイクルは断固として拒否していたのだが、ショウトはマーカスを一人で行かせるわけにはいかないと、マーカスの後に続いた。そのショウトの行動にサイクルも仕方なく後を追うしかなかった。
巨大な何かが通った後に出来た獣道は、ひたすら奥へと続いている。
奥に行くにつれ、辺りがだんだんと暗くなり、不気味さを増していく。さらにその演出を助けるようにカラスまで鳴き声をあげる始末だ。
血の後を追うように、少し奥へと歩みを進めると、広くなっている空き地のような場所があった。そこは全体が踏み荒らされ、まるでミステリーサークルのように円形に広がっている。そこへ着くなり、マーカスが声を発した。
「ショウト! あれ!」
マーカスが指を指した場所には、がたいの良い男が横たわっている。
「あれは……っ! ナッツのオヤジさんだ!」
ショウトは荒れ地の丁度中心に倒れている男の元へと行くと、抱き抱えて声をかけた。
「おっさん! 大丈夫か! オレが分かるか!?」
すると、男はゆっくりと目を開けて、今にも消え入るような声で、
「お前は……、にげろ……、ここは危険だ…………」
男がそう言った瞬間、サイクルが発狂したように声を荒げた。
「ショウト! 危ない!!」
ショウトがサイクルの声に振り向いた瞬間だった。
抱き抱えていた男を置き去りにするように、ショウトの身体は真横に弾き飛ばされた。
「――うっ!?」
宙に投げ出された身体は抵抗することすら出来ず、サークルの端に柵のように生えているいる木に見事に叩き付けられ、そのまま地に落ちる。
意識が飛びそうになりながらも、手足が動く事を確認、丈夫に生んでくれた親に感謝しつつ、ショウトは膝に手を起き、必死に立ち上がった。
「うっ、おぉおおっ! ――つっ!」
叩き付けられた衝撃で背中に激痛が走る。痛みに耐えながら腰を伸ばそうとみぎてを腰に添える。その姿にマーカスが我先にとショウトの元へと駆け寄った。
「ショウト! 大丈夫かい!?」
マーカスが身体を支えるようにショウトに肩を貸す。
「あぁ、悪いな……、何が起きたんだ?」
「あれを見てごらん」
マーカスは一点を見つめ、あれの方へ顎で合図。ショウトはマーカスの言うあれの方へ視線を移す。
「今日いちじゃねぇかよ……」
ショウトは自分をぶっ飛ばしたであろう、あれの姿に息を飲んだ。
その目に映るその姿は、今朝の遭遇したボアフォレストよりも数倍でかい、青色の蜘蛛のような化け物だった――。
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