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1章 異世界転移編
17話 男の意地
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――熱い!? なんだこの熱さは!?
短剣の赤い石から放たれる光が収まり視界がよみがえると、ショウトの目に飛び込んだのは、短剣が火を纏い刀身を赤く染める姿だった。
「これがサイクルの言っていた俺の力……、なのか?」
正直疑っていた。そんなゲームじゃあるまいし、生まれてこの方魔法なんて使った事がないのだから当然だ。それなのに、まさか本当に自分にこんな力があったなんて。ショウトはただ驚いていた。
――でもなぜだ? なんで発動したんだ?
確証はないが、強い気持ちに反応するかのように発動したように思えた。だが、ショウトに今、そんな悠長に考えている暇はなかった。
さらに短剣を強く握り、重くなった足を無理やり踏み出す。
「うおぉぉぉ!」
自分が思うより動きがさっきとは比べ物にならないくらい遅い。だがそれはフォレストスパイダーとて同じこと。よく見ていなかったのもあるが、マーカスによって半分の足が切断され、様々な場所に切り傷が付いている。
「これでも喰らいやがれーー!!」
ショウトは渾身の一撃を繰り出した。だが、その一撃はいとも簡単に交わされてしまった。そのタイミングを見計らってか、フォレストスパイダーはカウンターで長い足を横一線に振り抜く。
その足はショウトの左側面にめり込む、ショウトの身体はメキメキと音をたてて吹き飛んだ。それと同時に口からは胃液が吹き出した。
ショウトは右肩で滑るように地面を滑走。止まった瞬間すぐに立ち上がったが、肋骨にずきずきと痛みが走る。
「くっ……、肋骨逝ったな、これ」
おそらく肋骨が折れたのだろう。だが思ったほどの痛みじゃない。アドレナリン様々といったところだ。
「負ける訳には……、いかねぇんだよ!!」
そう言ってショウトは自分の信念のために再び走り出した――。
その後、何度も何度もショウトはフォレストスパイダーに挑んだ。
しかし、その度に、ショウトは上手くあしらわれ、その刃は届く事はなく、いたずらに時間だけが過ぎていった。
ショウトの身体がボロボロになる頃には、短剣の火は消え、戦意までもが消えかけていた。
「くそ……、なんでだよ! なんで届かねぇんだよ! なんで……、俺は弱い……、弱すぎる! なにも……なにも守れねぇ! サイクルも! マーカスも! 自分の信念を貫く事さえ!! 力が欲しい……、全てを守れるくらい強い力が!!」
そう嘆いた瞬間、ショウトの脳裏に声が聞こえた。そう、それはまるで現実世界でサイクルが話しかけてきた時のように。
――小僧……、力が欲しいか?
「お前は……、誰だ?」
――俺様か? 俺様はウルカヌス……、火の神ウルカヌス様だ!
「ウルカヌス?」
――そうだ。小僧、もう一度聞く、力が欲しいか?
今の俺は弱すぎる。このままでは何も守れない。サイクルも、マーカスも、ナッツの親父さんも、ナッツたちとの約束も……、己の信念さえも! 守られてばっかりの自分はもう嫌だ! だから剣を抜いたんだ。そう思い叫ぶ。
「ああ! 力が欲しいっ!!!!」
――なら、渡せ。貴様の身体を俺様に渡せぇ! さすれば、すべてを焼き付くしてみせようぞ!!
その瞬間、ショウトの精神は真っ暗な空間に誘われた――。
動かそうにも身体が動かない。手と足になにかが絡み付いているように感じる。
ショウトは手足の違和感に視線を送った。すると、ショウトの目に映ったその先には、四方から自分の手足を拘束するようにガッチリと鎖が巻き付いていた。
――なんだ……、何だよこれ……
さらにショウトは気付いた。真っ暗な空間にある唯一の光の存在。それは大型ビジョンのように影像が写し出されている。
その映像には、さっきまでショウトが対峙していたフォレストスパイダーの姿が映っていた。
すると突然、不快極まりないウルカヌスの笑い声が空間に響いた。
「はぁ~っはっはっは! いいねぇ~、いいねぇ~! やっぱり人の身体は最高だよ!」
――お前、俺に何をした!?
「何をしたかだってぇ~? 貴様は馬鹿か? そんなの決まってるだろぉ~。乗っ取ってやっのさ! どうだ? 他人に身体を支配したされる気分は?」
――いいわけねぇだろ! 何だよ支配って! 説明しろよ!
「説明? じゃあこれはなぁんだ?」
そう言われ、ショウトは目の前に映る映像を見る。すると、
――サイクル!!
猫のように首根っこを捕まれ、気絶しているのか、ぐったりしたサイクルの姿が映し出された。
――おい! 止めろよ! そいつを放せ!
「放す? これは貴様のやってる事だぜ? 周りからみたら俺様はお前なんだぜぇ~」
ショウトは悔やんだ。力が欲しかったがこんなことは望んでなんかいない。それなのに……。すると、ウルカヌスは更に言葉を続けた。
「ひゃっひゃっひゃっ! いいねぇ~、いいねぇ~! 貴様の無様な気持ちが手に取るように分かるぜ! 今から俺様が力って奴を見せてやるから、よぉ~く見とけよ小物!」
そう言うと、ウルカヌスはサイクルを視界の外に投げ捨て、フォレストスパイダーめがけて走り出した。
――おい! 何するつもりだよ!
ショウトはウルカヌスに叫んだ。しかし、ウルカヌスは聞く耳を持たない。
「消えろゴミ虫。フレイム……」
映像に映し出された光景は、あの短剣がショウトの時よりも大きな炎を纏い刀身が短剣どころか両手剣ほどのサイズに膨れあがった。
そして、ウルカヌスはその炎の刃でフォレストスパイダーを一刀両断する。
フォレストスパイダーは切られると言うよりも、焼かれるように燃え上がり、それと同時に、断末魔の叫びに似たフォレストスパイダーの鳴き声が辺りに響いた。
その光景にショウトは、
――おい! もういいだろ! 頼むからもう止めてくれよ!
倒したかった相手が無惨に燃える姿。それを見て後悔が増す。
敵を倒す事は嬉しいはずなのに……、良いことのはずなのに……、これが強さか? いや違う。これは強さでもない何でもない。弱い自分が招いたただの虐殺……。弱い自分を呪い殺してやりたくなる。辛い、止めてくれ、頭がおかしくりそうだ。頼むから……、
――止めてくれ!!
ショウトが想いを巡らせているうちに、映像に映る光景は荒れ地の全てを焼き払うような火の海と化していた。
「はぁ~っはっはっは! 久しぶりの外は最高だぜ! 燃えろ! 燃えろ~!!」
すると、炎の中を歩く手負いの男が映像に映り込んだ。
その姿はナッツの父親だった。
ナッツの父親は片手で脇腹を抑えながらウルカヌスに支配されたショウトの身体に近づく。よく見ると腹からは大量に血が流れ出ていた。その表情は、怒りに満ちているのか、鬼の形相だ。
「お前はあの兄ちゃん、ショウトじゃないな?」
「あぁ~ん? なんだ貴様は?」
「やはり、悪魔憑きか……、お前! ショウトをどこにやった!」
「悪魔~? ショウト~? お前も馬鹿か? 小僧なら精神ごと闇の中に閉じ込めてやったぜ~!」
ウルカヌスは嘲笑うように甲高い笑い声を響かせた。その姿を目にしたナッツの父親は、
「俺はビーンズ村の次期村長! エンドウ! 我が村の名誉のため! 村の恩人を救ってみせる!」
そう言うと、ナッツの父親エンドウはウルカヌスの両肩を掴んだ。
「おい、人間。無理すんなよ。今こいつの身体は灼熱だぜぇ~?」
ウルカヌスの言うとおり、エンドウの両手は、まるで肉を焼いているかのように音をたて、煙まで上げている。
「なぁに。こんな熱さ屁でもないさ! ナッツの入れた風呂の方が熱いくらいだよ」
ショウトの目に映るエンドウは笑っていた。本当は熱くて、痛くてたまらないはずなのに、それでも必死に掴み離そうとしない。なぜこんな弱い自分のためにそこまでするだ。そう思った時、ショウトは自分の目から涙が流れるのを感じた。
すると、映像に映るエンドウが再び口を開いた。
「お前……、泣いているのか?」
「何言ってやがんだ人間! 俺様が泣くわけなかろぉ! そろそろ離さないと本当に手が無くなるぜぇ?」
「やはり、そう言うことか……、ショウト!お前は今、辛いのか? 悲しいのか?」
その言葉にショウトは涙が止まらない。自分のせいで誰かが傷つくのなんてもう見たくない。
――辛い、悲しい、頼むから! ……もう止めてくれ……
エンドウに願いが届いたのエンドウはさらに、
「そうだよな! 辛いよな! 悲しいよな! 任せとけ! 俺が必ず救ってやるからな!」
そう言葉を発し、エンドウは、ウルカヌスに乗っ取られたショウトの身体を引き寄せ、頭突きを入れた。だが、そのまま、エンドウは自分のでこをショウトのでこから離そうとしない。
「悪いな。こう見えて俺は悪魔払いが得意なんだよ。今の身体でどこまで出来るか分からないが……。手荒ですまんなショウト……、すぐに終わるからな」
エンドウがそう言ったとたん、ショウトのいる暗闇の世界が真っ白に染まっていく。そして、ウルカヌスが苦しむように叫ぶ。
「くっ……、許さんぞ人間! 俺様を完全に引き離す事なんて出来ると思うな――」
何が起こったのか分からなかった。
ただ言えることは、気付いたときには、燃え盛る炎と倒れたエンドウの姿が目の前にあったということだ。
我に返ったショウトは倒れたエンドウを抱き抱えた。
「おい! おっさん! なんで! なんでだよ」
「おぉ、ショウト……、良かった……、無事だったか……」
「なんで! こんなになってまで……、俺のせいで……」
「お前は村の英雄だからな……。助けられてばっかりじゃ、申し訳ないだろ……?」
今にも消え入りそうな声で話すエンドウは満足そうに笑っている。
「それに、俺はどのみち助からなかった……、お前のせいじゃない。この腹の傷を見ろ、この傷は内臓まで貫いているんだ……」
エンドウの腹の傷はサイクルが突き飛ばされた時に、フォレストスパイダーの爪が突き刺さったものだ。それでも、燃え盛る炎の中を必死で突き進み、ショウトを助けたのだ。
「いや、助けてみせる! 俺はナッツと約束したんだ! だから絶対に連れて帰る!」
ショウトはエンドウの身体を担ごうと持ち上げた。しかし、ショウトの身体も既に限界を迎えていた。
「もういい……、ショウトお前だけでも逃げろ……直にここにも火が回る! その前に早く!」
「いけるかよ! おっさん置いて行けるかよ……」
「いいから早く行け! これは俺の意地だ……」
その言葉で涙が溢れだす。意地……その言葉を聞いて行かない訳には行かない。ショウトはそう思った。すると、エンドウは更に言葉を続けた。
「済まないな。お前の言葉使わせてもらったぞ……。それから……ナッツに伝えてくれ……、お前を愛していると」
エンドウの言葉を聞いたショウトは側で倒れていたサイクルを抱き抱えると走り出した。重たい足を無理矢理動かし、生きるために必死に……
そして、夜光草の群衆地につくと、眠るように意識を失った。
その時、夜光草の群衆地は群がる夜光虫の光で、まるでエンドウを追悼するかように、ただ儚げに輝いていた――。
短剣の赤い石から放たれる光が収まり視界がよみがえると、ショウトの目に飛び込んだのは、短剣が火を纏い刀身を赤く染める姿だった。
「これがサイクルの言っていた俺の力……、なのか?」
正直疑っていた。そんなゲームじゃあるまいし、生まれてこの方魔法なんて使った事がないのだから当然だ。それなのに、まさか本当に自分にこんな力があったなんて。ショウトはただ驚いていた。
――でもなぜだ? なんで発動したんだ?
確証はないが、強い気持ちに反応するかのように発動したように思えた。だが、ショウトに今、そんな悠長に考えている暇はなかった。
さらに短剣を強く握り、重くなった足を無理やり踏み出す。
「うおぉぉぉ!」
自分が思うより動きがさっきとは比べ物にならないくらい遅い。だがそれはフォレストスパイダーとて同じこと。よく見ていなかったのもあるが、マーカスによって半分の足が切断され、様々な場所に切り傷が付いている。
「これでも喰らいやがれーー!!」
ショウトは渾身の一撃を繰り出した。だが、その一撃はいとも簡単に交わされてしまった。そのタイミングを見計らってか、フォレストスパイダーはカウンターで長い足を横一線に振り抜く。
その足はショウトの左側面にめり込む、ショウトの身体はメキメキと音をたてて吹き飛んだ。それと同時に口からは胃液が吹き出した。
ショウトは右肩で滑るように地面を滑走。止まった瞬間すぐに立ち上がったが、肋骨にずきずきと痛みが走る。
「くっ……、肋骨逝ったな、これ」
おそらく肋骨が折れたのだろう。だが思ったほどの痛みじゃない。アドレナリン様々といったところだ。
「負ける訳には……、いかねぇんだよ!!」
そう言ってショウトは自分の信念のために再び走り出した――。
その後、何度も何度もショウトはフォレストスパイダーに挑んだ。
しかし、その度に、ショウトは上手くあしらわれ、その刃は届く事はなく、いたずらに時間だけが過ぎていった。
ショウトの身体がボロボロになる頃には、短剣の火は消え、戦意までもが消えかけていた。
「くそ……、なんでだよ! なんで届かねぇんだよ! なんで……、俺は弱い……、弱すぎる! なにも……なにも守れねぇ! サイクルも! マーカスも! 自分の信念を貫く事さえ!! 力が欲しい……、全てを守れるくらい強い力が!!」
そう嘆いた瞬間、ショウトの脳裏に声が聞こえた。そう、それはまるで現実世界でサイクルが話しかけてきた時のように。
――小僧……、力が欲しいか?
「お前は……、誰だ?」
――俺様か? 俺様はウルカヌス……、火の神ウルカヌス様だ!
「ウルカヌス?」
――そうだ。小僧、もう一度聞く、力が欲しいか?
今の俺は弱すぎる。このままでは何も守れない。サイクルも、マーカスも、ナッツの親父さんも、ナッツたちとの約束も……、己の信念さえも! 守られてばっかりの自分はもう嫌だ! だから剣を抜いたんだ。そう思い叫ぶ。
「ああ! 力が欲しいっ!!!!」
――なら、渡せ。貴様の身体を俺様に渡せぇ! さすれば、すべてを焼き付くしてみせようぞ!!
その瞬間、ショウトの精神は真っ暗な空間に誘われた――。
動かそうにも身体が動かない。手と足になにかが絡み付いているように感じる。
ショウトは手足の違和感に視線を送った。すると、ショウトの目に映ったその先には、四方から自分の手足を拘束するようにガッチリと鎖が巻き付いていた。
――なんだ……、何だよこれ……
さらにショウトは気付いた。真っ暗な空間にある唯一の光の存在。それは大型ビジョンのように影像が写し出されている。
その映像には、さっきまでショウトが対峙していたフォレストスパイダーの姿が映っていた。
すると突然、不快極まりないウルカヌスの笑い声が空間に響いた。
「はぁ~っはっはっは! いいねぇ~、いいねぇ~! やっぱり人の身体は最高だよ!」
――お前、俺に何をした!?
「何をしたかだってぇ~? 貴様は馬鹿か? そんなの決まってるだろぉ~。乗っ取ってやっのさ! どうだ? 他人に身体を支配したされる気分は?」
――いいわけねぇだろ! 何だよ支配って! 説明しろよ!
「説明? じゃあこれはなぁんだ?」
そう言われ、ショウトは目の前に映る映像を見る。すると、
――サイクル!!
猫のように首根っこを捕まれ、気絶しているのか、ぐったりしたサイクルの姿が映し出された。
――おい! 止めろよ! そいつを放せ!
「放す? これは貴様のやってる事だぜ? 周りからみたら俺様はお前なんだぜぇ~」
ショウトは悔やんだ。力が欲しかったがこんなことは望んでなんかいない。それなのに……。すると、ウルカヌスは更に言葉を続けた。
「ひゃっひゃっひゃっ! いいねぇ~、いいねぇ~! 貴様の無様な気持ちが手に取るように分かるぜ! 今から俺様が力って奴を見せてやるから、よぉ~く見とけよ小物!」
そう言うと、ウルカヌスはサイクルを視界の外に投げ捨て、フォレストスパイダーめがけて走り出した。
――おい! 何するつもりだよ!
ショウトはウルカヌスに叫んだ。しかし、ウルカヌスは聞く耳を持たない。
「消えろゴミ虫。フレイム……」
映像に映し出された光景は、あの短剣がショウトの時よりも大きな炎を纏い刀身が短剣どころか両手剣ほどのサイズに膨れあがった。
そして、ウルカヌスはその炎の刃でフォレストスパイダーを一刀両断する。
フォレストスパイダーは切られると言うよりも、焼かれるように燃え上がり、それと同時に、断末魔の叫びに似たフォレストスパイダーの鳴き声が辺りに響いた。
その光景にショウトは、
――おい! もういいだろ! 頼むからもう止めてくれよ!
倒したかった相手が無惨に燃える姿。それを見て後悔が増す。
敵を倒す事は嬉しいはずなのに……、良いことのはずなのに……、これが強さか? いや違う。これは強さでもない何でもない。弱い自分が招いたただの虐殺……。弱い自分を呪い殺してやりたくなる。辛い、止めてくれ、頭がおかしくりそうだ。頼むから……、
――止めてくれ!!
ショウトが想いを巡らせているうちに、映像に映る光景は荒れ地の全てを焼き払うような火の海と化していた。
「はぁ~っはっはっは! 久しぶりの外は最高だぜ! 燃えろ! 燃えろ~!!」
すると、炎の中を歩く手負いの男が映像に映り込んだ。
その姿はナッツの父親だった。
ナッツの父親は片手で脇腹を抑えながらウルカヌスに支配されたショウトの身体に近づく。よく見ると腹からは大量に血が流れ出ていた。その表情は、怒りに満ちているのか、鬼の形相だ。
「お前はあの兄ちゃん、ショウトじゃないな?」
「あぁ~ん? なんだ貴様は?」
「やはり、悪魔憑きか……、お前! ショウトをどこにやった!」
「悪魔~? ショウト~? お前も馬鹿か? 小僧なら精神ごと闇の中に閉じ込めてやったぜ~!」
ウルカヌスは嘲笑うように甲高い笑い声を響かせた。その姿を目にしたナッツの父親は、
「俺はビーンズ村の次期村長! エンドウ! 我が村の名誉のため! 村の恩人を救ってみせる!」
そう言うと、ナッツの父親エンドウはウルカヌスの両肩を掴んだ。
「おい、人間。無理すんなよ。今こいつの身体は灼熱だぜぇ~?」
ウルカヌスの言うとおり、エンドウの両手は、まるで肉を焼いているかのように音をたて、煙まで上げている。
「なぁに。こんな熱さ屁でもないさ! ナッツの入れた風呂の方が熱いくらいだよ」
ショウトの目に映るエンドウは笑っていた。本当は熱くて、痛くてたまらないはずなのに、それでも必死に掴み離そうとしない。なぜこんな弱い自分のためにそこまでするだ。そう思った時、ショウトは自分の目から涙が流れるのを感じた。
すると、映像に映るエンドウが再び口を開いた。
「お前……、泣いているのか?」
「何言ってやがんだ人間! 俺様が泣くわけなかろぉ! そろそろ離さないと本当に手が無くなるぜぇ?」
「やはり、そう言うことか……、ショウト!お前は今、辛いのか? 悲しいのか?」
その言葉にショウトは涙が止まらない。自分のせいで誰かが傷つくのなんてもう見たくない。
――辛い、悲しい、頼むから! ……もう止めてくれ……
エンドウに願いが届いたのエンドウはさらに、
「そうだよな! 辛いよな! 悲しいよな! 任せとけ! 俺が必ず救ってやるからな!」
そう言葉を発し、エンドウは、ウルカヌスに乗っ取られたショウトの身体を引き寄せ、頭突きを入れた。だが、そのまま、エンドウは自分のでこをショウトのでこから離そうとしない。
「悪いな。こう見えて俺は悪魔払いが得意なんだよ。今の身体でどこまで出来るか分からないが……。手荒ですまんなショウト……、すぐに終わるからな」
エンドウがそう言ったとたん、ショウトのいる暗闇の世界が真っ白に染まっていく。そして、ウルカヌスが苦しむように叫ぶ。
「くっ……、許さんぞ人間! 俺様を完全に引き離す事なんて出来ると思うな――」
何が起こったのか分からなかった。
ただ言えることは、気付いたときには、燃え盛る炎と倒れたエンドウの姿が目の前にあったということだ。
我に返ったショウトは倒れたエンドウを抱き抱えた。
「おい! おっさん! なんで! なんでだよ」
「おぉ、ショウト……、良かった……、無事だったか……」
「なんで! こんなになってまで……、俺のせいで……」
「お前は村の英雄だからな……。助けられてばっかりじゃ、申し訳ないだろ……?」
今にも消え入りそうな声で話すエンドウは満足そうに笑っている。
「それに、俺はどのみち助からなかった……、お前のせいじゃない。この腹の傷を見ろ、この傷は内臓まで貫いているんだ……」
エンドウの腹の傷はサイクルが突き飛ばされた時に、フォレストスパイダーの爪が突き刺さったものだ。それでも、燃え盛る炎の中を必死で突き進み、ショウトを助けたのだ。
「いや、助けてみせる! 俺はナッツと約束したんだ! だから絶対に連れて帰る!」
ショウトはエンドウの身体を担ごうと持ち上げた。しかし、ショウトの身体も既に限界を迎えていた。
「もういい……、ショウトお前だけでも逃げろ……直にここにも火が回る! その前に早く!」
「いけるかよ! おっさん置いて行けるかよ……」
「いいから早く行け! これは俺の意地だ……」
その言葉で涙が溢れだす。意地……その言葉を聞いて行かない訳には行かない。ショウトはそう思った。すると、エンドウは更に言葉を続けた。
「済まないな。お前の言葉使わせてもらったぞ……。それから……ナッツに伝えてくれ……、お前を愛していると」
エンドウの言葉を聞いたショウトは側で倒れていたサイクルを抱き抱えると走り出した。重たい足を無理矢理動かし、生きるために必死に……
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