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1章

46話 相場を知る。

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 五百個ものアクセサリー作りを休み無しで続けたおかげか、俺は物凄い疲労感を感じてソファーにぐったりと寝転んでいた。
 暫くは、こうして休んでいたかったが、既に現在の時刻は昼を過ぎていて、次の行動に移らなければならない時間になっている。

「あー、商人になったら、ほのぼのとした楽な暮らしになると思ってたけど、まさか冒険者よりも安全ってだけで商人ってかなり忙しいのか?」

 俺はそんな独り言を呟かずにはいられないくらい忙しさを感じていた。
 いや、ほんと、風呂に入ってる暇がないくらい忙しいぞ。
 え? さっき入ってたじゃないかって? 細かいことは気にするな。

 とまあ、休憩はこのくらいにしておいて、そろそろ本当に動かないと行けないな。次やることは余り気乗りがしない......というよりも全く気乗りしない。ていうかやりたくない......が、次やることは絶対にやっておかなければいけない事なので、仕方なく自分を騙して無理にでもやるしかない。

 本当に本当に行きたくないが、とりあえずこの家から出ないことには始まらないので、俺は重い腰を渋々上げて、ソファーから立ち上がる。
 作ったアクセサリー類は、アイテムボックスの中に全て収納しているので、完全に手ぶら状態だ。

 服は学生服でこの世界では浮いてしまっているが、今は学生服以外の服は持っていないので仕方ないと割り切る。

 
 準備もう整っているので、後は家を出るだけ。
 
 .........よし! うじうじといつまでも考えていてもキリが無い。なるようになる。考えるな感じろの精神で望めば何でも大丈夫だ。と、自分を騙して動かなかった足を無理やり動かして家を出る。

 家を出たところで、マップを発動させ、最初の目的地の場所がどこにあるのかを確認する。
 マップを少し見たところで、目的地が発見できたので、俺はゆっくりとした足取りで目的地へと向かった。



 てことで、やって来ました防具店!!!

 なんでテンションが高いのかは、察してくれ。
 あっ、ちなみに防具店に来ることは別に嫌な訳じゃないよ? むしろ、異世界の甲冑とか盾とか見れてテンションは上がる。問題はこの後に行くとこなんだけど......今考えるとテンションが下がるので考えない。
 折角異世界の防具店に来れたんだから、やらなければ行けないことを済ませつつ、存分にロマンの品々を楽しまないとな。

「失礼します!」

 俺はテンションが高いままに防具店のドアを開け、中に入る。中に入ってすぐに、厳ついおっちゃんがレジであろう場所に威風堂々と鎮座していたので、踵を返そうと防具店を出ようとしたが、寸でのところで踏み止まる。

「いらっしゃい......ってなんだ、ガキじゃねえか! 冷やかしなら間に合ってんぞ!!」

 怖っ!! 怖いよおっちゃん!! 

 いや、怯むな俺。怯んだらそこで試合終了だ。

「あっえっと、す、すいません。ひ、冷やかしじゃなくて、あ、あの、自分で作りましたアイテムをあのうう、売りに来ましたあ!」

 至って冷静に淡々とそう告げる俺。 
 え? めちゃくちゃ吃ってたって? 気にするなっ!!!

「ん? お? なんだ、お前、そんな歳で鍛冶師か錬金術師か? すげぇじゃねえか! 冷やかしなんて言って悪かったな!」

 俺が冷静に淡々と告げた事によって、厳ついおっちゃんの厳つい顔が少しだけ穏やかになり、おまけに俺を恫喝したことまで謝ってくれた。

 この人、見かけに寄らずいい人なんだなー。って、人を見かけで判断するのはいけないよな。怖い顔の人だって優しい性格の人もいれば見たまんまの人もいるんだ。見た目差別はいけない。

「いえ、その、見た目が幼く見えるのは覚悟しているので、えっと、大丈夫です! それで、あの、早速アイテムを売りたいんですけど、い、いいですか?」

「ん? おお! いいぜ! 何でも......ってわけには行かねえが、防具関係の物なら何でも買い取るぜ!!」

 顔は最初と比べれば大分いいんだけど、声がおっきくて怖いな?
 まあ、悪い人じゃ無さそうだし、早速アクセサリーを買い取ってもらおう。

 俺はおっちゃんの手前にあるテーブル前まで移動すると、アイテムボックスに収納していたアクセサリーを手元に出す。
 とは言いつつも全てを出す訳では無い。
 出したのは、鉄のネックレスと指輪を10個。銅のネックレスと指輪を10個。銀のネックレスと指輪を10個だ。

「おお! お前アイテムボックス持ちか? 益々すげえな! まあ、早速見させてもらうぜ.......って、なんだこのネックレスと指輪わ! 数もすげえと思ったが、造りもしっかりとされてる。熟練の錬金術師と比べても遜色ない出来だ。ははっ、人は見かけによらないと言うが、お前は正にそれだな!!」

 最後の台詞は完全にお前が言うなって台詞だったけど、気にしちゃダメだ。
 錬金術のスキルレベルは7だし、一応熟練の錬金術師と言われても不思議ではないけど、他の人からそう言われると、スキルのお陰とはいえかなり嬉しい。

「うんうん、効果も申し分ないな」

 そう続けたおっちゃんは、続けてそれぞれのアクセサリーの値段を順々に説明してくれた。

 まず、鉄のネックレスと指輪の値段が、一個一万ゴル。
 次に、銅のネックレスと指輪が、一個五万ゴル。
 最後に、銀のネックレスと指輪が、一個十万ゴル。
 全部の合計で三百二十万ゴルだった。

 うん、正直かなりびっくりした。
 予想の数倍の金額だ。てか、普通に考えてただの鉄で出来たネックレスと指輪が一万超えるとは思わないだろう。
 
 まあ、お金はいくらあっても困らないので、多い分には文句なんてないんだけどね。

「でも、本当にここで売っちまっていいのか?」

 俺が予想以上に多かった収入に喜んでいると、おっちゃんがそんなことを聞いてきた。ここで売っちまっていいのかってどういうことだ? 俺は疑問に思ったので、すかさずそのままその真意を聞くため聞き返す。

「それは、どういうことですか?」

「あー、なんだ。お前もしかして何も知らねえのか? こういう防具にもなるネックレスや指輪は冒険者ギルドに直接卸した方が高く買い取ってもらえるんだぞ? まあ、そうだな。大体1.5~2倍位の値段で買い取ってくれるはずだ。それで、その話をした上でもう一度聞くが、本当にここで売っちまっていいのか?」

 
 え? 嘘でしょ? それが本当なら...........。

「そ、それは、ほ、本当のことなんですか?」

「ん? ああ、やっぱり知らなかったんだな。本当の事だ。まあ、この話を聞いたら普通は冒険者ギルドに.........」

 うぉおおお!! やった!!! やったぞ!!

 天は俺に味方したんだ!!!! 

 ふははははっ!!! 

 まさか、気乗りしなすぎてテンションがダダ下がりする案件と化していた、冒険者ギルドに直接アクセサリーを持っていて相場を確認するというイベントが今ここで達成されてしまった!!

 あー、まじ良かったよ。

 だって、異世界の冒険者ギルドなんて荒くれ者の集まりが定番だろ? そんなとこ絶対行きたくないよ。あー考えてるだけで嫌な気分にしかならない。

 よし、もう考えるのは止めだ。

 イベントは消化する前に達成された。それで万事おっけーだ!

 本当におっちゃんには感謝してもしたりないな!!

「教えてくれてありがとうおっちゃん!!! 本当に本当にありがとう!!! じゃあ、早速これ買い取ってください!!」

「あっ? お前俺の話聞いてなかったのか?」

「何言ってるんですか!! 聞いてましたよ! 冒険者ギルドに直接卸した方が高く売れるんですよね? ええ、完全に完璧に理解しましたよ!! それじゃあ早く買い取ってください!!」

「おお?? わ、わかったよ!! 買い取る! 買い取るから一旦落ち着けって!!」

 おお! 良かった! これで商談成立だ!!!

 ふっふっふっ。それにしても、冒険者ギルドに直接卸せば、最高で今売れた値段の倍になるのか.......。

 よし、決めた。お店を開いたら、今売れた値段の倍の値段を定価にして売ることにしよう。
 冒険者ギルドが倍の値段で買い取るなら、それを定価にするのはなんの問題もないはずだ。
 ぼったくりなんて言わせない。これが異世界の定価なんだからそれでいいだろう。
 

「おい、レイ! 金用意してきたぞ! 受け取れ!!」

 おっちゃんがそう言うと、テーブルの上に大量の硬貨を置いて確認するように促してきた。
 俺は一枚一枚確認するのが面倒だったので、アイテムボックスに直接入れて、確認する。
 うん、きっちりあるぞ。

 って、え? おっちゃんなんで俺の名前知ってるんだ?

「ん? なんだその顔? ああ、名前なんで知ってるのかって思ってんのか? それならお前の作った指輪とネックレスに銘が打って合ったのを見たからだぞ?」

 あー。なるほどなるほど。そういうことか! びっくりして損したな?

「そういえば、自己紹介をしていなかったですね。俺はレイっていいます! 近々、今売った品を中心としたお店をこの街で開く予定なのでよろしくお願いします!」

「お!? なんだ、お前商人でもあんのか? それに店を構えるって...........ははっ。なんだかとんでもないやつと知り合いになっちまったのかもな! っと、俺はこの街で防具屋を営んでるビルスだ! よろしくなっ!」

 厳ついおっちゃん改め、ビルスさんはそう言うと俺の方に向かって片手を向けてくる。
 俺は、一瞬ドキッとしたが、慌てずに落ち着いて自分の方も片手を差し出し、ビルスさんと握手を交わした。
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