溺愛攻めを怒らせた

冬田シロクマ 

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引っ越しの続き

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ヒステリックな女(ハル曰く)が、もう来ないようにと、引っ越しが始まった。
ソイツに家を特定された今、それしかないだろう、と。

「え…まじか」

驚いた僕を尻目に、ハルはニコッと笑った。
有無を言わさない、ハルの笑顔。
自分の口元が、ヒクッと引き攣る。

「二人っきりになれるとこがいいんだよ。完全に二人っきりになれるところが…」
「…」

嬉しそうに、ニコニコと笑ったハル。
僕は追いついていない頭で、ハルの言ってることを反復する。
僕がジッ…とハルを見ていると「ん?」と言って笑い、機嫌が良さそうにハルに「よしよし」と頬をなでられた。
ハルの手が気持ちよくて、目を細める。

どうせ、全部ハルの言う通りになるんだろうな。

少し時間が経ち、ロンは「はぁ」と、自分では小さいつもりの溜め息を吐いた。
ハルは注意深く、ロンの表情を観察している。

「…どうしても…どうしてもロンが嫌だっていうならやめる」

ハルは僕の顔色を見ながら、言っていた。

少し、譲歩した…

珍しいことで、ロンは少し驚く。 
今もまだ、上目遣いでハルは僕の顔を、うかがっている。

そして…少し言い方が子どもっぽい。

まるで、手に入れられなかった玩具おもちゃを我慢しているかの表情。
口元をキュッと固くしている。

「ああ…」

僕は片手で顔を覆う。
苦手だ。
この顔…

「…どうしたの?」

余裕そうに見せている、いつものハルの声。
だが微かに不安が滲んでいる…
見ると、やはり眉尻は下がり不安に満ちた表情だった。

一見いっけん大人びて見えるハルが唯一、こういう時は年下のように見える。
幼い、まるで小さな子どものように…

苦手だ。やっぱりこの表情…

心臓がキュッ…と苦しくなる。
僕は少し背伸びをし、ハルの口元に慰めるような、優しいキスを落とした。



急な引っ越しとは驚いたが、僕としてはどっちでもよかった。
どっちにしろ軟禁される。

「いやじゃないよ」

…他人だと捜索願は出せない。
親とは疎遠だ。

もう僕は、誰にも見つけてもらえない。
自分で選んだことだ。

ロンはハルに抱きつかれながら、ゆっくり目を閉じた。



どこに行くんだろう?

ガタゴト、と山道や不思議な音。
そして引っ越し先への移動中、ハルはずっと僕の手を握っていた。

やはり…というか、周りの好機な目。

似てない兄弟に見えなくもないが、大人になって、手を繋いで歩いているのは異様だろう。

…いまさら逃げる気もないし。

そんなことは、ハルもわかっていると思うが…
まだ不安なのだろうか…?

「ハル…」
「なあに」

ハルは嬉しそうに「ふふっ」と笑った。

「っ…」

ハルは周りが、まったく見えていないのか?
 
ロンに対してだけだが。
それに気づかない鈍感なロンは、不可思議ふかしぎといった顔をした。

僕は…ハルの、その笑顔を見て「手を離して」とは、とてもじゃないが言えなくなった。



人通りがほとんどない無機質な街。
外に歩くことを許された。
サクサクと、ロンが雪を踏む音。

どこまで歩いても人はいない。

「ロン!!」

ハルの声がして振り返る。
走ってきてマフラーを付けられた。
ハルの匂いが鼻をかすめる。
落ち着く…いい匂いだ。
口元が覆うぐらい、しっかりマフラーを巻き付けられる。
少し熱いくらいだ。

「心配した…。あまり遠くに行かないで。
行くなら俺と一緒にして。」

ハルの鋭い目つきが、こっちを見ている。
前髪が伸びて、その鋭い目に前髪がかかっている。
少し…前より怖くなったハル。
ハルの言葉に、一層空気がピリッとした。

「うん。言うこと聞く」

僕の言葉で、ハルの纏っている空気が、ゆるんだ。
自分の所有物のように、好きに触られ、頬ずりされる。
すべてはハルの機嫌通りに。
前よりは…少しは、僕の顔色を見ているようだが…
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