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第4章

第41話

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第41話

「親父、居るか?
馬の用意出来ているんだろうな?」

グレムと再びあの汚い親父のいる小屋に入ったら、親父は怪しいくらいの笑顔で出迎えてくれた。

「へい旦那。馬の用意はできてるぞですはい。貧乏兵士のオメェに勿体ない雇い主だな。
旦那、こんな小僧じゃなくワシを雇った方がいいと思うぞですはい」

「いや、大丈夫ですはい。
グレムに案内して貰うんで、だから親父さんは馬だけを用意してくれれば大丈夫ですはい」

「ククク、おっさん。親父の変な言葉使いが移ってるぜ」

「うるさいぞ小僧!旦那、じゃあワシに付いてこいですはい」


グレムに喋りに対して指摘を受けた事で、自分が親父さんと同じ語尾になっていた事に気が付いた。

「ほら、グレム。良いから親父さんに付いて行くよ」
「おっさん、顔が赤くなってるぜ」


グレムはまだ俺を茶化して笑っている。
そんなグレムをもう無視して外に出て親父さんに付いて行くと、ピーちゃんの大穴がある方向に歩きだした。

俺は嫌な予感がして俺の後ろを歩くグレムにコソッと親父さんは俺を嵌めて、更に金を奪おうとしているんじゃないかと聞いた。


「おっさん、あの親父は見た目と口は悪いけど、商売に関しては信用できるんだぜ」

「そうか、なら良いけど。俺は一応警戒しておくからな。ロップにアッシュ起きてるか?
一応、お前達も警戒していてくれ」


【はーい。主様】
【んー、まだ眠いけど主様分かった】


一応警戒をしたまま親父さんに付いて行くと、案の定ピーちゃんのいる大穴に辿り着き、大穴の前には屈強な男達が四人並んでいたが、馬も同数の馬がいた。どういう事だと頭が?になったが、それは直ぐに分かった。


「さてさて、旦那。そんな小僧なんか雇わんで此処にいる男達を雇ったらどうだ?ですはい」

「おい親父!どう言う事だよ!
コイツ等と馬にどう関係あるんだ。それに俺はおっさんにっておい、コラなんだ掴むな」


グレムが話している最中に親父さんは男達に指示を出して、グレムを押さえつけた。
それでズルズルと大穴にグレムを連れて行った所で俺は声を上げた。


「ストップ!何している?
俺はグレムを雇ったんだ。それで親父さんは馬だけを用意すれば良い。こんな男達は要らない」

「でも旦那、こんな役に立たない小僧がいるから、他を雇えないんだろ?ですはい。
きっと何か弱みを握られているんだですはい」


ふぅ、これ以上何言っても無駄か、それならばとグレムを引きずって大穴に落とそうとしている男達に向かって殺気を飛ばした。

すると、男達は泡を吹いて次々と倒れていった。
最初から倒されていたグレムも泡を吹いて白目を向いて痙攣していて、泡を吹いて気絶しているグレムを肩に乗せて馬の所に向かうと、途中で親父さんも倒れているのに気が付いた。

殺気は男達に向かって飛ばした筈だが、どうやら俺の近くにいた親父さんも俺の殺気に当てられたみたいだ。

まだ気絶しているグレムを馬に乗せて四頭いる馬を纏めて、教会から少し離れた場所に転移して教会に向かって移動し、教会に近づいて行くとグレムの元仲間である男達が教会前でウロウロしていた。

まだ金を奪おうと考えているのか、警戒しながら男達に近づくと、男達は気絶したグレムが馬に乗せられているのに気付いた。


「おっさん、グレムに何した!」

「ああ、殺気に当てられて気絶してるんだよ。
じきに目を覚ますさ」

「ああん?なんだとぉ、おっさんがやったのか?
許せん!俺達の親友に!」


最初に裏切って金を奪っただけでは無く、追いかけたグレムを殴った奴等のセリフだとは思えなく、怒り狂ったように殴り掛かってきた。

だが、俺の頭に乗っているロップが殴りかかってきた男達を何時もの耳ビンタで倒した。


【ふあ~~ぁ、主様、警戒するレベルじゃなかったね】

もしかしたら、俺がさっき殺気を出した時、まだロップは寝てたのか?それとも警戒を解除するよう言ってなかったから、俺に危害を加えようとした奴を懲らしめたのか分からないが、俺の頭でスヤスヤと眠っているロップを撫でて男達はその場に放っておいて馬は教会前に待たせて中に入ると、大きなリュックを背負ったマリエさんが、子供達と一緒に目の前に立っていた。

兵舎で助けた女性達は未だに目は虚ろで放心状態でいるが、少しは意識があるのか長椅子に座っていた。あの猿ぐつわを噛ませた少女は、変わらず口を塞がれていて手も拘束されたままだが、足だけ拘束を解かれていた。

「あの、おじさま。グレムは一緒ではないのですか?」

「あー、グレムね。気絶しちゃったから表で馬の背に乗せてるよ」
「え!グレム~~」


マリエさんは気絶している事を言った瞬間、表に駆け出して行った。

出て行ったマリエさんに続いて俺も外に出ると、丁度馬の背で気が付いていたグレムが自身の頭を両手で抱えながら、マリエさんを宥めていた。


「おいおいおい、マリエ。なに?どうした?
俺もなんで馬に乗っているか分からないんだけど、マリエ何か聞いてる?何か恐ろしい物だった気がしたんだけど全く憶えてない」

「おじさまがグレムが気絶してるって言うから、またグレムが無茶したんだと思っちゃったじゃない」

「あ、そうだ。おっさんだ。あの時……いや考えるの止めとこう。多分ピーちゃんより恐ろしかった気がする。それはそうと、なんでコイツ等が伸びてるんだ?」

「え?キャー!」


マリエさんがグレムに駆け寄って行くのを見ていたが、マリエさんはグレムの事になると周りに目が行き届かないようで、グレムの元仲間達を踏んづけたり、蹴飛ばしたりしながらグレムに近寄っていた。


「で、おっさん。コイツ等はどうしたんだ?
知ってたら教えてくれ」

「あぁ、俺もよく分からないけど、俺が来た時には既に教会前にいたんだ。
それで気絶したグレムを見て殴りかかってきたんだけど、俺の使い魔がな」

「あー、それは仕方ねぇよな。おっさんに殴りかかってきたんならコイツ等が悪い。でも何の為に来たのかくらいは聞いておきたいぜ」

「そうだな。じゃあ、一番軽傷そうな奴を起こそう」

マリエさんに蹴られても踏まれてもいない奴は一人だけいた。それは一番最初に俺に殴りかかってきた奴で倒れてはいるが、目を開けて瞬きをしているところをみると男は狸寝入りをしていた。

俺がその男に近づくと、男も俺が近づいている事に気付き目を閉じたが、もう既に遅く男の腕を掴んで持ち上げると「うわー殴らないで」と叫んだ。


「お前等、今更何しにしたんだよ。
俺はおっさんとマリエ達と国を出るからよ。
お前等とは此処で最後だな」

「いやグレム。俺達はお前に謝りに来たんだ」
「何を今更」

「本当に悪かった!金に目が眩んでつい、グレムに手渡された金を奪って更に追いかけてきたグレムを殴ってしまった事を反省してる。
だから、俺達も一緒に連れて行ってくれないか?
勿論、お前から奪った金は返す。
そこで白目剥いてる奴が持ってるから」

「分かった。許してやる。でも次、同じ事をしたら許さないからな!」

「ああ!もちろんだ」

「グレム良いのか?なんか都合良くないか?一緒に付いてきて何か企んでいるんじゃないのか?」

「いやいやいや、俺達は何も企んでなんかない!
グレムを殴ってしまった後、仲間達と話し合ったんだ。本当にこれで良いのかってグレムみたいな良い奴を裏切って本当に良いのかって」

「お前等、よし!おっさん、コイツ等も連れて行くぜ!何かあれば俺の見る目がなかったと思って諦めるぜ」


グレムは俺以上にお人好しの性格のようだ。
信じたい気持ちも分からなくはない。元々グレムの仲間だった奴等だ。
ここは一つ俺もグレムを信じよう。

「分かった。なら今伸びてる奴等を起こして行こっかね」

グレムとマリエさんとグレムの仲間の奴とで気絶して尚且つ、マリエさんに追加で怪我を負った奴等を教会に運び介抱した。

そして、起きた奴等が先程の奴同様にグレムを見るなに謝ってグレムもそれを許して、さあいよいよ王都を出ようという時、何か背中がゾワリとした。

【怖い怖い怖い。主様!何か嫌な物がくるわ】
【ボクもなにか嫌な感じがするよ】

頭に乗っているロップが俺の頭をペシペシと叩きながら、何かに怯えている。こんな事は初めてだ。胸にいるアッシュもプルプルと小刻みに揺れている。

未だにゾワゾワするが、なんだろうと思いながらも外に出てみても何もない。
今直ぐにでも王都を出ないとしばらく出られない気がした為、馬に引かせるための幌付きの大きめの荷車を想像魔法で出し馬に繋げた。

「お、おっさん。そんな物どこにあった?
いや、どこから出した?」

俺が荷車を出した事でグレムを含めた全員が目を見開いて驚いている。
その中でグレムが何とか口を開いたって感じだ。


「グレム!そんな事より、急いで女性達と子供達を乗せるんだ。俺の使い魔達が嫌な物が来ると警告してるんだ。説明は後でしてやる!急げ」

「あ、ああ、分かったぜ。おい、お前等!
おっさんの言う通り、女達と子供達を馬車に乗せろ!」


グレムの指示でグレムの仲間達は女性達と子供達を乗せた後、自分達も乗り込んだ。
俺はそれを確認した後、御者席に座り王都の外に転移した。

転移した場所は王都の門のロップが兵士だったグレムの同僚を叩きのめした場所で、気絶していた筈の兵士達は一人もいなくなっている。兵士が居たら一緒に連れて行ってやろうと思っていたが、居ないならと馬車を動かしだした。

その時、だいぶ遠くだが森の方角から人の大群がフラフラとした足取りでこちらに向かって来ているが、何か様子が変だ。

なにか様子がおかしいと思って、こちらに向かって来ている人達をよーく観察していると、首や腕が抉れているから、こちらに向かって来ているのは腐人だ。昨夜森で遭遇した兵士も混ざっている。


「ロップ、お前達が言っていたのは、腐人のことだったのか?」
【主様、あんなのじゃない早く逃げて】


ロップが逃げてと警告した直後、猿ぐつわして手も縛っていた少女が縛っていた縄と猿ぐつわを解いて馬車から脱走してしまった。少女はこちらに向かってくる腐人の方角に走って行ってしまって追い掛けようと手綱を握った。

「お姉ちゃーん」
【主様!来る】

弟君の姉を呼ぶ声が響いた直後にロップが来ると言った瞬間、俺が巨大なスライムだった時のアッシュと戦った場所から大量の灰色の何かが湧き上がった。

何かは分からないが、自分自身と馬車を守るようにシールドを馬車全体を包むように張ると、目の前を走って逃げていた少女が走って近くまで来ていた腐人達に捕まり食いつかれてしまって「痛い痛い」と泣き叫んでいると、今度は灰色の何かが少女と腐人諸共包みこんで少女は断末魔をあげた。

声は直ぐに止んだが灰色の何かは王都に津波のようにうねり押し寄せ、高い王都を守る壁など簡単に越えて王都に入って行った。

シールドの中から見て分かったが、灰色の物体の正体はマダニだった。しばらくすると目の前が灰色一色だったのが段々と視界が開けて行き、灰色のマダニはまだまだいるがだいぶ少なくなった。

断末魔をあげた少女の所を見ると、腐人と共に少女は骨だけになっており、腐人の腕に絡みついた形で立ったまま残っていた。

俺は少女の骨に手を合わせて黙祷をした後、王都の方から「ピィィィーー」とけたたましい音が王都から聞こえ、王都の門の方を振り向くと、三つの頭を持った虎の体だが下半身はドロドロの状態のピーちゃんが門を突き破って出てきて、三つの頭の一つがクチバシから光線を出して灰色の虫達を一掃していった。

だが灰色のダニは既にピーちゃんを食い付いているのか、光線を出し続けていた頭のピーちゃんの肉がいきなり内側に萎んでいき、骨だけになってしまった。窪んだ目の所からマダニがカサカサと出てきては、他の頭や身体の部分に移動してピーちゃんも断末魔をあげて地面に崩れ落ちた。


このままここに居てはマズイと考え、シールドはそのままにして、まばらになった虫を潰しながら馬車を発進させた。

しばらく馬車を走らせて馬が疲れを見せた辺りで、シールドを解いてゆっくりと進むようにしたが、手にチクリと痛みが走り手の甲を見ると灰色のマダニが手の甲に噛み付いていた。

急ぎ、もう片方の手で潰すと馬車の幌の屋根からパラパラっと落ちてきて、たった今潰したマダニの死骸を喰らってる奴と俺の首を噛み付いている奴とがいる。

「アッシュ、俺に取り付いてるマダニから馬車に取り付いているマダニを喰らえ」
【はーい】

アッシュは俺の身体全体を包み込んでマダニだけを溶かした。手に張り付いているマダニだけがシュワシュワと溶けて行くのは見ていて面白かった。

俺に付いてるマダニをアッシュによって取り除いた後、俺から離れ馬に移動して馬の身体を包み込んだ後、素早く馬車の幌や荷台に移動して行った。

【主様~、終わったよ~】
「あぁ、ご苦労さん。ありがとう」
【わーい、主様に褒められた~】

アッシュは再び俺の胸に薄く伸ばして張り付いたから頑張った褒美で撫でてあげると、触手を俺の顔に伸ばして喜んだ。




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