底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂

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1巻

1-3

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 数時間後……はい! ハッキリ言って、洗濯をめてました! 滅茶苦茶めちゃくちゃ大変でした。
 一人の洗濯が終わったと思ったら、残り十人分くらいを連続でやらされました。
 足はガタガタ、腕はプルプル、震えが止まらない。
 おまけに腹が減ったのと、無理して生ゴミを食べて腹が痛いのとで、身体が壊れかけているのだと思う。
 それでも、十人ほどのをやったから、結構な報酬がもらえるんじゃないかなと期待したが……
 もう期待しない! 本日何度目になるか分からない〝死にたい〟が言葉に出た。
 たったの銅貨一枚だったからだ。
 あんな重労働したのに百円って……早く灰汁あくを試さなくてはと思う。
 一番安い果物が石貨三枚って言っていたから、仕方なく一番安い果物を三個買いに行けば、その果物とは小さな小さな姫林檎ひめりんごだった。
 姫林檎ひめりんごとは、祭りとかで売られているリンゴあめに使う林檎のことだ。でも、これはさらに小さい。俺の知っている姫林檎ひめりんごより一回り以上は小さいんではないだろうか? さくらんぼのような小さな一口サイズの林檎だった。それでも腹は減っているし、これから生ゴミを食べに行くよりはマシだと思って、試しに一個口に放り込んで食べてみると……メッチャ酸っぱかった。酸っぱすぎて喉のかわきがすごい。焼いたらちょっとは変わるかな? と思い火を探すが、道端でき火なんてしている人はいない。
 燃料の木だってタダではない。木を売り歩いてる人がいるくらいだ。
 かまどを使っている店にお釣りの石貨一枚を渡して、残り二個の姫林檎ひめりんごもどきを他の料理と一緒に焼いてもらえるように頼んだら快く焼いてくれた。受け取った焼姫林檎ひめりんごを一個食べると、まだ酸っぱさはあるが、ちょっとは甘くて美味うまくなった。
 店主の親父が俺が美味おいしそうに食べている姫林檎ひめりんごを不思議そうに見て、聞いてきた。

「なあ、あんた。それ美味うまいのか? あんたに言われて石貨一枚で焼いてやったけど、それって滅茶苦茶めちゃくちゃ酸っぱい果物で有名なやつだよな?」
「そうですね。そのまま食べると酸っぱすぎて舌がしびれますけど、焼いたらまだ酸っぱさはありますが、多少は甘くなって美味おいしいですね」

 素直に味の感想を答えてあげると、ビックリされた。知らなかったのか?

「あんた、もう一つ持ってるよな? 良かったらもらえないか? もちろん代金は払うからさ」
「いいですよ。店主さんが焼いてくれた物なんで、お金をいただけるんなら渡します」
「もちろんだ。とりあえず食べさせてくれないか? ちょうど今、両手がふさがってるし」
「いいですよ。じゃあ口開けてください。入れますよ」

 店主が大きく開けた口に、姫林檎ひめりんごを放り込んだ。店主は姫林檎ひめりんご咀嚼そしゃくしてから……目をカッと力いっぱい見開いた。

「おい、あんた金払うから、これをたくさん、買えるだけ買ってきてくれないか? 金は後で払うからさ」

 そう言われても、俺には金が全くない。

「すみません、金はさっきの石貨一枚が最後だったんです」
「はあ? あんた、自分の最後の食料を俺にくれたのか? あんたいいやつだな。それなら銅貨三枚渡す。これで買ってきてくれ」

 店主は銅貨三枚を渡してきた。俺みたいなやつに渡して盗まれると思わないのか? まあ、盗らないで買ってくるけど。先程の姫林檎ひめりんごを買った場所で、銅貨三枚で十個買おうとしたときにオマケを交渉したら、三個オマケしてくれた。

「買ってきましたよ。銅貨三枚も渡して、俺が盗ると思わなかったんですか?」
「あ、そうだな。でも、あんたが先に果物を俺にくれたじゃないか」
「それは代金を払うって言ってくれたからで、タダであげたわけじゃないですよ」
「そうだな。でも俺が食べたあと、聞いてない、食べてない、払うなんて言ってないと言い出したらどうする? どうしようもないだろ? 代金もらう前に食べさせるお人好しが、渡した金を盗るなんて考えもしなかったさ」

 店主の言い分に何も言い返せなかった。確かに俺は甘い。それで昔だまされたことが数多くある。

「まあいい。いいのを教えてくれたお礼と、買ってきてくれたお礼と、食べさせてくれた代金だ」

 俺が黙っていると、店主は鉄貨一枚を渡してきた。

「はあっ? 鉄貨? 石貨三枚じゃなくて?」
「焼いて食べると美味おいしいと教えてくれたのと、果物を十三個も銅貨三枚で買ってきたし、お礼だお礼! またなんかあったら、よろしくな」

 あれだけ頑張がんばった洗濯より多くのお金をこの短時間でもらったことにより、一瞬泣きそうになってしまった。あ、そうだ灰がいるんだった。灰汁あくのための灰をもらえないか聞いてみよう。

「ん? どうした? 灰が欲しいだって? 何に使うんだ、そんなもん」
「試したいことがあるんです。融通ゆうずうできるだけでいいんで譲ってもらえないでしょうか?」

 すると木桶一杯の灰をくれた。
 木桶は使用した後に必ず返すと約束をした。
 俺は店主にお礼を言いながら頭を下げて別れた。
 意外なところで臨時収入があったなと、顔がニヤけてしまう。でも、鉄貨一枚ではギルドに入れるような服なんて買えないだろう。
 ダンクさんにコレを預かってもらえるか聞いてみるついでに次の仕事をもらおうと、裏ギルドに向かった。だが、今日はまだ汚水掃除が残ってることを思い出して、昨日のうちに聞いていた場所に向かった。
 昨日ダンクさんから、たまに宝石も出たりすると聞いて、俺は少し期待をしていた。
 たどり着いたそこは、汚い川。つまり俺が受けた依頼は、この川のドブさらいだったのだ。
 汚水掃除といっても間違いではないが、ここまでとは……。油や糞が浮いた、とても川と呼べないような汚い水のまり場を前に、俺はザルを抱えながらパンイチで息をんだ。
 パンツの中に入れておいたスマホを、着ていたボロ布に包んで、脇の方の誰の目にも付かない場所に、木桶とともに隠しておく。
 俺以外に何人かこの依頼を受けた人がいたのが救いだったが、不思議と同じ灰色の服を着てる人ばかりだったから、友達同士か、冒険者のパーティだろう。
 俺は意を決して汚物だらけの汚水の中に入った! 入った瞬間、俺は吐いた。吐くものがなくてもずっと胃液だけを吐き続けた。
 時には潜ったりしつつ、頭まで糞や汚物だらけになりながらも、なんとか終わらせた……はずなんだが、あまりにも過酷な作業すぎて記憶が飛んでいた。ついでに、この依頼そのものの記憶を封印することに決めた。



 第四話


「あら、ミーツちゃんどうしたの? 次の仕事の依頼を見に来たの?」

 ドブさらいを終えた(はずの)俺は、いつの間にか裏ギルドに来ていた。
 身体中がなぜかとても臭いが、ここまで来る間の記憶が曖昧あいまいだ。先程のお金を預けられるかどうかを聞こうと思った。
 そして、もらったお金は鉄貨一枚だったはずなのに、なぜか二枚になっていた。とても不思議だったが、気にしないようにする。
 この少し臭いがする鉄貨については、思い出してはいけないような気がするからだ。

「それもありますけど、ダンクさんに聞きたいことがあって来ました。ギルドって、お金を預かってもらえたりはするんですか?」
「ミーツちゃん? ダンクさんなんて他人行儀ぎょうぎなこと言わないで! 呼び捨てか、あたしのこともダンクちゃんって呼んでちょうだいね? あと、あたしに丁寧な言葉を使わないで! それでお金だけど、表ギルドでは預かることができるシステムはあるわね。でも、裏ギルドには基本ないわね。ミーツちゃんの頼みだったら、条件付きであたしが預かってもいいわよ?」
「本当かい? 是非お願いします」

 俺はダンクさんにお辞儀じぎをした。

「タダじゃないんだけどなあ。シオンちゃんとのデートを一回とりつけてくれたら、ミーツちゃんが表ギルドに登録するまでの間、預かってあげる」
「え⁉ それは無理だ。さすがに俺の事情でシオンに迷惑をかけられない」
「ンマー! あたしのデートが迷惑ですって?」
「あ、いや、そういう意味でじゃないデスヨ」
「分かったわ。それなら、ミーツちゃんがもっとスリムになって魅力的になったら、ミーツちゃんにデートしてもらうわ。じゃなければ、やっぱりシオンちゃんとデートしたい」
「ダンクちゃんのデートってどんな感じ? それによってはシオンに拝み倒すから」
「あら、普通よ。一緒に食事したりぃ、買い物したりぃ、お外でピクニックでもいいわね。シオンちゃんと魔物退治をするのも楽しそうね」
「なら、一応頼んでみるよ。もしどうしても無理だと断られたら、俺が魅力的になったときにでもお願いします」
「いいわよん。ミーツちゃんでも楽しそう! だ・か・ら、早くスリムになって魅力的になってね♪」

 スリムにならないように心掛けようと、今このとき強く思った。

「あと、次の仕事お願いします」
「そうくると思って、前もって選んであげてたわよ」
「さ、さすがダンクねえさんっす。感謝します。ありがたいです」
「ちょっと待って! 今、ミーツちゃん、あたしのことなんて言った?」
「えっ? ダ、ダメでしたか? ダンクねえさんって呼んじゃ?」
「逆よ! いいわ。ダンクねえさん、いい響きだわ! そのうち何か、可愛かわいいアダ名もつけてもらうわよ」
「了解っす!」

 ダンクねえさんに自衛隊の隊員がするような敬礼をした。

「今回紹介できる依頼はこれね」


『汚水掃除』期限二日=鉄貨一枚
『井戸の掃除』期限一日=銅貨五枚
『表冒険者ギルドの掃除』無期限、綺麗きれいな度合いで報酬変動有り。最低報酬=銅貨一枚~鉄貨三枚。場合によっては監視あり
『主婦の洗濯代行』毎日常時依頼、度合いにより報酬変動有り。最低報酬=石貨三枚~銅貨三枚
『便所の糞み取りみ取った後の掃除まで』と『糞桶の回収及び糞桶掃除』毎日常時依頼=銅貨五枚(便所一件、もしくは糞桶三件)


「うん、見た感じ前回と一緒ね。というか、いつも大体変わらないわ。あと、貴族様の依頼が一件あるわね。『貴族様の屋敷にてしゃぶつの収集人及び掃除人』。期限は今夜のみ。報酬は働き具合で変動有りで鉄貨一枚~銀貨三枚。これは報酬はいいけど、ミーツちゃんだと無理かもしれないわね。貴族様の依頼なだけに、下着一枚の格好じゃ厳しいのよ。貴族様が嫌がるかもしれないわ」

 貴族の依頼か、少し興味があるな。
 やれるならやってみようかな?

「これって、面接みたいなのがあるのかな?」
「そうねえ、ちょっと待ってて。表ギルドの子に聞いてくるから」

 そうして席を立って、後ろのドアから出ていったダンクねえさん。俺はヒマになったから別の依頼を見ていたら、ダンクねえさんの隣の受付にいた細身のキツ目の七三分けが話しかけてきた。

「なあ、あんた、ダンクさんのどこがいいんだ? あの気持ち悪い化け物をよ。シオンさんと魔物退治? ハッ、自分が逆に退治対象じゃないかって思わないか?」

 一瞬、こいつ何言ってんだと、思考が停止した。

「兄さん、自分と一緒に働いてる仲間をそんな悪く言うもんじゃないよ。ハッキリ言って胸糞むなくそ悪いよ? ダンクねえさんがいなくなってから言うなんて、あんたクズだな」

 現代ならオネエの存在は当たり前だが、オネエが浸透しんとうしてないとみんなこんな反応になるのか? それとも、この七三が性格悪いだけなのか? それにしてもダンクねえさんがいなくなってから言うなんてありえない。

「七三のツリ目の兄さん、あんた、名前は?」
「俺か? 俺はキックだ」
「キックね。分かった、じゃあ俺はこの先もお前のところには行かないし、俺が表に行って有名になったとしても、お前は敵として見ることにした」
「ハッ、別にいいぜ。てか無理だろ? そんな下着一枚のオッサンが表に行くことも、ましてや有名になることもよ」

 クソー、絶対い上がってやる!
 そう心に強く誓った。

「ゴメンね~、遅くなっちゃって。ってどうしたの? キックちゃんと見つめ合っちゃって、ミーツちゃん、もしかしてキックちゃんが好みのタイプだったの?」
「違う違う、ちょっと言い合いになっただけだよ。なあキック、特に問題ないよな?」
「フン、ああ、そうだな。俺がこんなおっさんをまともに相手するわけがない」
「ふ~ん、何か気になるわね。キックちゃん? 後で詳しく聞かせてもらいますからね? で、先にミーツちゃんからね。ちょうど表のギルドに、貴族様の使用人さんが来ていたから連れてきたわよ」

 そうダンクねえさんが言うと、背後のドアから二十代前半くらいの男性が入ってきた。この人が今ダンクねえさんが言っていた、貴族の使用人か。

「こんにちは、貴方あなたがあの依頼を受けたいとおっしゃってた方ですね」

 貴族の使用人は、俺のことを上から下までジロジロ見たが、仕方ないことだ。ほぼパンイチの状態だし。

「服はこちらで簡単なやつを用意させますから、今夜にでも来てください」
「え? いいんですか? こんな身なりなのに」
「ええ、いいですよ。私もスラム出身者だから気持ちは分かりますし、貴方あなたのような身なりでも、やる気がある方に来てもらいたいですね」
「是非、行かせていただきます! ありがとうございます」
「良かったわね、ミーツちゃん」
「では、日が落ちる前くらいに来てください。場所についてはギルドに聞いてください。それと、貴族の居住区画には門番がいます。この鉄札を見せれば、中に入れますから。屋敷の門番にも同じように札を見せてください。では待ってますね」

 使用人は鉄札をダンクねえさんに渡し、今入ってきた扉から出ていった。

「ダンクねえさんのおかげだよ。ありがとうございました。あと、貴族様の屋敷に行く前に預かってもらいたいものがあるんだけど」
「いいわよん」
「さっきちらっと話したお金と、あと、この魔道具なんだけどいいかな?」
「あらあら、ミーツちゃん、魔道具なんて持ってたのね。これどうやって使うの? どんな用途で使うの?」
「今のところは俺しか起動できないようにしてるけど、こうやって起動させてと、はい」

 日本で撮りまくったスマホの画像を見せた。すごくビックリしているから、俺はさらに脅かしてやろうと思って唐突にダンクねえさんを撮ってみた。

「わ、何? 何? ピカッて光ったわよ。それに、カシャってなんの音? 何したの?」
「ダンクねえさんを撮っただけだよ」

 たった今撮ったダンクねえさんの画像を見せた。

「ミーツちゃん? スッゴイの持ってるわね。これ売ったら、白銀貨くらいになるんじゃないかしら」

 聞いたことのない貨幣を今聞いたが、今のところはスルーしておこう。

「でも、俺しか使えないし、バッテリーが切れたら、もう使うことも見ることもできなくなるから、そんなに価値はないんじゃないかな。あと、一度手放したら二度と戻ってこなそうだから嫌なんだよね。だからさ、ダンクねえさんに預かってもらいたいんだけど、無理かな?」
「分かったわ、あたしが責任持って預かることにするわ。でも、また今度見せてね。さっきのあたしの姿、一瞬女神様かと思ったわ」
「女神って……。まあそのくらい全然いいよ。じゃあ、そろそろ貴族様の屋敷に行きたいから、屋敷までの地図か何かあれば教えてもらえるかな」
「ああ、そうね。また、ちょっと待っててね、すぐ戻るから。キックちゃんと喧嘩けんかしちゃダメよ」

 あれ? キックと言い合いになったとは言ったけど、喧嘩けんかしたなんて一言も言ってない。なんで気が付いたんだろう。

「フンッ、良かったな。貴族様の依頼を受けられて! 身体中ゲロまみれになってくるがいいさ。明日どんな格好でここへ来るか楽しみだな、ククク」

 キックは俺の汚物まみれの姿を想像したのか、口元がニヤけていた。
 ホントに嫌なやつだ。こんなやつは無視だ無視。

「お待たせ~、今度は喧嘩けんかしなかったみたいねん」

 ダンクねえさんは現在地のギルドが描かれている地図を広げて丁寧に教えてくれた。
 そうして俺は早速貴族の屋敷に向かった。
 ギルドからもスラムからも遠かったが、なんとか日が傾く前に貴族の屋敷が建ち並ぶ地域に着いた。城の門番みたいなのが四人、その地域の境目の道端で立っていた。
 格好はゴテゴテの鎧ではなく、警備員みたいな制服を着ている。
 近付くと警戒したのか、剣と槍を向けてきた。
 あわてて貴族の使用人にもらった鉄札を見せて、仕事に来たと説明した。
 ジロジロ見られたが、なんとか貴族の屋敷の地域に入ることができた。ついでにどの屋敷か聞こう。

「私の依頼主の屋敷はどの建物か、分かるなら詳しくお教えいただけないでしょうか?」

 そう聞くと、警備員みたいな人が指さして教えてくれた。

「あんたスラムの人間にしては言葉遣いがしっかりしているな? 元貴族様かその従者だったりするのか?」

 やっぱり丁寧語で話すと貴族とか従者と思われるのか。いちいち誤解されるのは面倒だが、だからと言って、普通の初対面の人に乱暴な言い方はできない。

「いえいえ、私のような者がそんな大それた身分なわけがないですよ」
「それもそうだな。さすがに元貴族様なら下着一枚で貴族様の地域に来るなんてことはないか! ハハハ。引き止めて悪かったな。あそこの青い屋根のでかい建物が、あんたの探してる屋敷だ」
「いえ、ありがとうございます」

 お礼を言うとお辞儀じぎして屋敷に向かった。


 目的の屋敷は結構でかかった。間近で見た感じだと、小学校の体育館くらいかそれよりも大きいのではないだろうか。
 屋敷の前には門番が二人並んで立っていて、二人に鉄札を見せると一人が奥に歩いていった。
 しばらく門番の一人に見つめられながら、特に話すわけでもなく待っていると、先程ギルドにいた使用人が出てきてくれた。

「やあ、よく来てくれたね。とりあえず、旦那様や執事様、メイドさんの目があるから、これに着替えてくれるかな?」

 渡されたのは体操着みたいな服だった。
 上は黒のロングのTシャツに、下も黒色だがハーフパンツだ。

「よろしいのでしょうか? こんな上等なものに着替えさせていただいて。私みたいなものはこれの上着だけでいいのではないのですか?」
「いや、一応旦那様や執事様の目があるから、簡単な格好でもさせないと私が怒られてしまいますよ。パーティーだから、見すぼらしい格好で掃除させるわけにはいかないしね。貴族様はお酒をたくさんお飲みになって食事もよくお食べになるから、しゃぶつも多いんだ。だから大変だと思うけど、頑張がんばってね。本当は魔法でも片付けることができるけど、こんな仕事に魔法を使うと嫌がる人がいるんだ。あと、そこに井戸があるから、そこで顔や身体を洗って待っててね」

 今、使用人はなんて言った? 魔法?
 やっぱり魔法はあるのか?
 この世界は、勇者召喚があって魔道具まである世界だ。確かにあっても不思議じゃない。
 でも、街中まちなかで魔法を使ってる人なんて見なかった。特殊な職業で城が抱え込んでいるのかな? 今度シオンに聞いてみようと思った。
 着替えた服を一度脱ぎ、前に残飯の中から拾っておいたキャベツの芯みたいな物で頭と身体をガシガシ洗った。通りかかったメイドが、そんな物どこにあったのかと聞いてきたが、俺は正直にパンツの中に入れて持ち歩いていたと説明した。
 一通り洗ってもまだ多分汚れていると思うが、気分的にサッパリしてから着替えて井戸の前で待っていると、使用人が準備はできているからおいでと屋敷内に案内してくれた。
 案内された場所は、まさにパーティー会場だった。広さは外から想像した通りだ。
 多分、二、三百坪はあるのではないだろうか。ここだけでもすでに、学校の体育館くらいの広さがある。
 パーティーは立食形式で、あちらこちらから美味おいしそうなにおいがしてくる。
 一つ一つの料理の前にメイドが付いて、取りにきた人に料理をよそって渡すみたいだ。
 使用人たちはお酒をトレイ一杯に並べて会場内をウロついている。ガラスは希少なのか、コップは木や陶器だった。
 中身はきっとワインかエールだ。
 そして、貴族はそのほとんどが恰幅かっぷくがよく身なりのいい男性だ。女性がいないところをみると、男性のみのパーティーかもしれない。
 しばらくやることもなく、パーティー会場の隅の方で、水を入れた木桶としゃぶつを入れる木桶と掃除用の布切れを持ち、会場内を眺めていた。すると、端の方でフラフラと具合悪そうに歩いている男性が突然四つんいになったところで、ようやく俺の出番かと彼のもとに近付いていった。


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