4 / 261
1巻
1-4
しおりを挟む
第五話
貴族のもとに近付いて顔を覗き込むと、酒に弱いのか、それとも普段から飲み慣れていないのか、涙目になりながら嘔吐していた。
吐き切るまで見守っていようとしたが、あまりにも苦しそうに吐いているので背中をさすってやると、また大量に嘔吐した。
「貴族様、大丈夫でございますか?」
「うむ、少しは楽になった。礼を言うぞ」
背中をさすってあげただけだが、貴族はまだ少し苦しそうな顔をしつつ、顔をこちらに向けて礼を言った。
そして、たった今吐いたばかりのその貴族は、使用人の一人が持っていたワインを取り、口をすすいで床に吐いた。そしてまたすぐに食べに戻った。
正気かと目を疑ったが、彼は何事もなかったかのように他の貴族と談笑しながら飲み食いをしだした。
貴族の行動に呆然としていたが、そんな場合ではないと思い直す。吐瀉物を片付けないといけない。
まず、素手で吐瀉物を空の桶にすくい入れるのを繰り返し、それから濡らした布切れで床を拭く。先程の貴族が吐いたワインも拭いておく。
この単調な動作を、最初は躊躇した。
まず素手で人の吐瀉物を触るのが嫌すぎた。
でもゴム手袋なんて物はないし、俺がやらなければ他にやる人がいないため、覚悟を決めて無心でやった。
その後、やりとげたと達成感を覚えていると、あちらこちらで貴族たちが先程の貴族並みの吐瀉物を吐き散らかしていた。そして先程の貴族と同じように酒で口をすすいで床に吐き、また食べに戻るといった行動を取る。
「オー、シット!」
そう呟かずにはいられないくらい、至るところに吐瀉物が散乱していて、それで滑る貴族も現れ出したので、急いで片付けていく。
すると、最初は臭いだけで吐き気がしていたのだが、たくさんの吐瀉物を片付けるうちに、鼻が麻痺して普通に扱えるようになっていた。
木桶が吐瀉物で一杯なると、前もって聞いていたところに捨て、また桶の水が吐瀉物まみれになれば水を替えに行く。
それを繰り返しているうちにだいぶ余裕も出てきたので、他の苦しそうな貴族の背中をさすってやったり、吐きたいが吐けない貴族の口に指を二本突っ込んだり、吐瀉物を床にブチまける前に空の桶を貴族の口元に持っていったりもした。そこまでくるともう慣れたものだった。だが、床掃除をしている最中に頭に吐瀉物を吐き出されたときは、さすがに貴族に殺意が湧いた。
そんなパーティーも終盤に近付いていた。テーブルに並んだ料理が少なくなるにつれ貴族も酒を手に取ることが少なくなっていく。
それでもまだ吐いている貴族がいるため、俺の仕事は終わりではない。もう一度桶を変えようと早足に井戸に向かうと、井戸の石垣にもたれかかっている若い貴族を見つけた。
貴族が先に使うのであれば邪魔をしてはいけない。少し様子を見ていたら、若い貴族はフラフラと立ち上がると、そのまま井戸に落ちそうになり――思わず身体が勝手に動いていた。
「危ない!」
間一髪、井戸に落ちる前に若い貴族の身体を支えることに成功した。この貴族は他の貴族に比べて随分と身体が細い。大丈夫か? と思い、俺は顔を覗き込んだ。
青年は思いのほか綺麗な顔をしていた。髪は薄い水色で、月明かりでキラキラ輝いて見える。少女漫画に出てくるような美青年だ。
一見すると男装している女性かと思ったが、助けるために抱きかかえたとき、股間に手が触れてシッカリとした膨らみを感じたから、男性であることは間違いない。
意識がないようだから、近くを通りかかったメイドを呼び寄せる。彼女は酷く狼狽し、大声で執事を呼んだ。何事かとも思ったが多分、パーティーに出席している中でも位の高い貴族のご子息なのだろう。
メイドが大声を出したことにより、複数の使用人が井戸に駆け寄る。そしてメイドは使用人に改めて執事を呼んでくるように命令した。
いまだに美青年の貴族を抱きかかえたままの俺だったが、走ってきた執事がおそるおそるといった感じで、俺の腕から美青年の貴族を受け取った。ようやく解放されたので会場に戻ろうとすると、メイドに呼び止められ、頭を下げて礼を言われた。
そこまで大事な貴族をこんな吐瀉物だらけの俺が触って問題にならないか今になってドキドキしてきたが、今更考えても仕方ない。それに、罰を受けなければいけないならどうせ後で何か言ってくるだろうと、俺はパーティー会場に戻って吐瀉物の掃除を再開する。
その後もしばらく主催者の貴族と一部の貴族がバタバタとしていたが、俺の仕事は無事に終わった。
パーティーがお開きとなり、主催以外の貴族は帰り、会場内の片付けが始まった。すでに俺の出番はなかったので、道具を片付けて、使用人に依頼終了を言いに行く。すると、彼と執事とあのときのメイドが一緒にいた。
「今夜は本当に助かりました。あの方にもしものことがありましたら、私たちは旦那様とともに処刑されていたでしょう。旦那様に今夜のことを伝えたところ、貴方をお部屋に連れてくるよう命じられました」
というわけで、執事を先頭にメイド、使用人、俺の順番で一列に並んで歩き、貴族の部屋らしき扉の前で止まる。そして、ここで他のメイドがもう一着新しい服を差し出してきた。俺が今着ている服と同じもので、こちらに着替えろということだった。
吐瀉物まみれの服をよほど触りたくないのか、新しい服を持ってきたメイドは小指の爪先一本で引っかけて持っていった。
「貴方はここで少しお待ちください。旦那様は先にメイド長と使用人とお話しなさいます。それが終われば扉を開けますので、扉の前で待機していてくださいませ」
執事にそう言われ、一人大人しく扉の前で待つことになった。しかし、あのときのメイドがメイド長だったとは思わなかった。どうりで色んな人に命令ができるわけだ。と、一人納得していたら、扉が開いて中から執事が出てきた。
「さあ、お入りください。旦那様に今夜の出来事を貴方の口からお話しください」
執事に言われるままに部屋に入ると、中央に白い長テーブルと、それを挟む形で、三人はゆっくり座れる大きめのソファがあった。そのソファにはあの美青年の貴族と、この屋敷の当主が向かいあう形で座っていた。
美青年のソファの後ろには従者だろうか、鋭い眼光の男が立っていて、もう片方のソファの後ろにはメイド長と使用人が立っていた。
今、凄く緊張している。たとえるなら問題を起こして会社の社長の前にいる感じだ。
「お前が今回の吐瀉物収集係か?」
「は、はひ。そ、そうです」
つい緊張で噛んでしまったが、返事をすると美青年はクスッと笑った。笑った顔も可愛いが、気を取り直して背筋を伸ばし、今夜の美青年を助けた経緯を説明した。
「ふむ、なるほど。ならばメイド長の話と繋がるな。メイド長よ、今宵の不祥事は不問にする。それで使用人よ。この者をギルドに頼んで連れてきたことにより、大きな事故が防げた。お前は執事見習いになるが良い。で、最後に吐瀉物収集係のお前、パーティー中の他の貴族からの評判も良かった。そなたの名はなんというのだ? 褒美もいかほど欲しいか?」
「はい。私は今夜のみの依頼を裏ギルドで受けたミーツと申します。私はそこにいる使用人さんとの面接を経て、今夜の吐瀉物の掃除を行なってました。褒美は最初の依頼料だけで大丈夫です」
いくら偉い貴族を助けたからといって、たとえ褒美でも貴族に多くの金銭やお願いごとを要求して、後でゴタゴタしたくないってのが一番にある。
「うむ。だがしかし、君が依頼料のみでいいと言っても、この御仁がそれでいいと言ってくれない。それなら依頼料に多少の色を付けることにしよう」
「そろそろ、私にも話をさせてもらってもいいですか?」
「も、申し訳ございません。どうぞ、お話しくださいませ」
俺と当主との会話が終わりを迎えたと判断したのか、美青年が話しかけてきて、貴族は怯えるように美青年に頭を下げた。
「今夜は本当に助かりました。私はとある国の者でそれなりの地位にいます。貴方がいなければ私は死んでいたかもしれない身。貴方さえ良ければ、私の国に客人として招き、キチンとした職業を紹介しますよ」
美青年は笑顔で凄い話を持ちかけてきた。俺にはもったいないほどの話だ。それに俺は城から放り出されて一人でここまで来たわけではない。シオンやダンク姐さんがいたからここにいるわけだし、この二人に恩を返さずに俺だけどこかに行くわけにもいかない。
加えて、俺の服と荷物を奪っていったチンピラどもに、荷物だけでも返してもらいたいと思っている。
ここは申し訳ないが断ろう。
「申し訳ございません。もの凄く魅力的なお話ではございますが、私にはこの国で恩を受けた人が二人います。その二人に恩を返さぬまま、私だけいいところに行くというのは、いささか気が引けます。ですから、この話はなかったことにしてください」
そう断ると、美青年は驚いた顔をしていた。
それはそうだ。まだ正式な冒険者ではなく、いわばただの日雇い生活をしている者を客人として扱い、その上きちんとした職業を用意するという提案を断るんだ。またとない機会を自身で潰すんだから、驚いて当然だろう。
「へえ、私の提案を断るんですね。それでは、そのお二人に恩を返すまでは私の国には来ないというんですか?」
「そうですね。それに今はまだ冒険者ではないですし、冒険者として正式に登録した後になります」
「ああ、そういえば裏ギルドの依頼と言ってましたね。いくら吐瀉物の掃除係とはいえ、裏ギルドに頼まなければいけないほどの人材不足に、この家は大丈夫か心配になりますね。ですが、そのお陰で私が助かったのも事実。ミーツさん以外の方が来ていたら、私は助からなかった可能性もある。他国の貴族ですし、私が国に帰っても親にはこのことは報告しませんよ。ただし、ミーツさんとの出会いについては話しますけどね。ミーツさんが近々冒険者になるなら、いずれ私の国にも必ず訪れるときが来ます。そのときに問題なく入国できるように、貴方にはうちの家紋の入った物を何かお渡ししようと思います。それがあれば、よその国の王族や貴族よりも優位に立つことができるでしょう。申し遅れましたが、私の名前はレイン・ラインハットと申します」
美青年はレインと名乗り、従者が持っている鞄から、三つ首の龍の絵の浮き彫り細工が施された長方形の小さなレリーフを手渡された。
「いずれ冒険者になり、二人に恩を返したら、レイン様の国に行かせてもらいます」
社交辞令を言った。
だが、少し引っかかる。冒険者になれば必ず国を訪れると、このレインと名乗る美青年が言ったことにだ。
なぜ、冒険者になれば必ず訪れることになるのだろうか? だが今は考えても仕方ないことだし、さっさとこの場を切り上げて、報酬をもらって帰ろう。
「そのレリーフを国境の兵に見せると私に連絡が届くように通達しておくから、気兼ねなく来てくださいね」
レインは必ず来ると断言しているが、そんなことを言われたら余計に行きたくなくなるよ。だから、俺は軽く「そうですね」とだけ言って苦笑いをして答えた。
「そうだ! 信頼の証として、お互いのステータスを見せ合いましょう!」
レインは突然そんなことを言った。ステータス? ゲームとかにあるやつか? ステータスなんて出せるのか?
でも、もし出して、どこかに異世界人とかって書いてあったら面倒なことになりそうだ。
そもそも出し方も知らないので、正直にそのことを伝えよう。
「申し訳ございませんが、私はステータスの出し方を知らないのでお見せできません」
「貴様! そんなわけないじゃないか! 失礼だぞ! こちらのお方がステータスを見せ合おうと言っているのだぞ! こっちはいつでもお前を殺すことができる立場にあるんだ。いいからさっさとステータスを出せ」
レインの背後に控えていた従者が怒鳴り出した。剣を持ってないのにどうやって殺すのだろうと従者を見ると、手の平を俺の方に向けていた。
だが本当に知らないものは知らない。それよりも手の平を向けている従者を見て思わずニヤけてしまうと、彼はさらに怒り、手が発光し出した。咄嗟にレインが従者の前に手を出して制した。
「私はこの人と話しているんだ。君に発言する許可は与えていないはずだけど? それに、この人を殺す? 私の命の恩人だよ? 逆に君を従者の任から外すよ」
「レイン様! も、申し訳ございません」
レインは冷静に従者を黙らせて、先程の話を続けた。
「本当に知らないんですか? まあ仕方ないですね。常識ではありますけど、記憶喪失にでもなっているんですかね。それとも私に見せたくないとか?」
「いえ、本当に知らないのです。レイン様がおっしゃる通り、現在の私は記憶が混濁して、こちらの常識が全く分からない状況になっております。ですから、ステータスと言われましても、なんのことだか分からないのです」
レインの言った記憶喪失の話に乗っかり、記憶が混濁していると言うと、彼はニッコリと笑顔になった。
「いいでしょう。説明して差し上げます。通常ステータスとは、人に見せる物ではなく、信頼したい人や信頼してる人に見せる物です。だから、私たちも見せ合い、お互いの信頼関係を深めようではないですか! 手はじめに心の中で……」
「レイン様、申し訳ございませんが、今は多分知らないままの方がいいと思うのです。なぜと言われても説明はできませんが、ステータスはまたの機会にということにはできないでしょうか?」
喋っている最中に被せて断りの発言をしてしまったが、レインは驚いた表情をしているものの、特にショックを受けている風ではないみたいなので安心した。
従者を見ると、真っ赤な顔をしている。
相当怒っているみたいだが、レインの手前何も言えない様子で、握りしめた拳をわざわざ俺に見える位置に上げて、手から血が出ているのを見せつけた。
「そうか残念だね。では、別室で私のステータスだけ見せようか」
そんなに見せたいのか? レインは!
だが、断ることにした。
「申し訳ございません。レイン様のステータスもお断りします。いずれレイン様のお国に参りましたときではダメでしょうか?」
「うん。本当に残念だけどそうだね。そのときの楽しみにしておきますよ。でも、絶対にウチの国に来てくださいよ」
なんとか説得できたが、なぜそんなに自分の国に呼び込む? なぜか、かなり気に入られた。
それで話すことはなくなったのか、ただひたすらレインは俺を見つめて笑顔を見せていた。
「あの~レイン様、この者との話は終わりでしょうか? 夜も更けて遅くなりましたし、今宵は我が屋敷にお泊りになってはいかがでしょうか?」
「いや、大丈夫です。今夜は知り合いの家に行くことが決まっていますので、今日のところは失礼しますよ」
当主の提案を断ったレインは、いまだに顔が真っ赤になっている従者の方を振り向いた。
「あれ? なんで顔が赤いんだい? 理由は後で聞くね。今宵は楽しいパーティーでした。それでは私どもは失礼します」
レインは従者とともに部屋を退出した。
部屋にいたメイド長も一緒に出ていく。
レインが部屋から退出してしばらく沈黙が流れたが、屋敷からも出ていったのを音で確認した当主は、安心したのか盛大に溜息を吐いた。
「はぁ~~~、ようやく出ていかれたか。そこの者が、レイン様の褒美とステータスの見せ合いを断ったときは肝が冷えたぞ。そこの者、ミーツと言ったな。褒美は執事にもらうといい。執事よ、私に恥を掻かせない報酬を渡すがいい。私は疲れた。しばらくここで休んで寝床に戻る。お前たち全員、下がっていいぞ」
部屋を退出したあと、黙って歩き出す執事に、俺と使用人改め、執事見習いも黙ってついていく。たどり着いた部屋に執事が入り俺たちもそれに続いた。
部屋は真っ暗だったものの、執事がどうやったのか分からないが、蝋燭に火が灯る。
明るくなった部屋には中央にテーブルがあって、そのテーブルの上に三又に分かれた燭台が一つ、それに椅子が四脚あるだけだった。
「では、今夜の貴方の報酬の話をしましょうかね。貴方は依頼料以外で欲しい物はございますか?」
欲しい物はと考えると、あの吐瀉物だらけになった衣服を思いついた。ついでに、灰汁を作ったとき用の空瓶も欲しい。
「厚かましいようですが、可能なら今夜ワインなどが入っていたであろう空瓶をいただけないでしょうか? ついでに、着替える前に着ていた吐瀉物だらけになった衣服ももらえたらと思いまして」
「え? ワインもエールも瓶には入ってないですよ? 樽から出してましたけど。衣服については問題ないです。今、ミーツさんが着ている服も差し上げますよ」
あ、しまった! ウッカリしていた。
瓶なんて、そんなの簡単にほいほい作れないし、ガラスは高価だったはず。でも衣服をもらうことは大丈夫みたいだ。今着ている服ももらえるなんて、なんていい人なのだろうと感動してしまった。
「では、依頼料に色を付けるよう言われましたので、金貨一枚でよろしいでしょうか?」
執事は自身の懐に手を入れて金色に光る硬貨を一枚取り出すと、テーブルに置いた。
俺はその金貨と執事を交互に見つめてしまった。
最高でも銀貨三枚だった依頼料が、金貨一枚という成果にまでなって驚きを隠せないでいた。執事見習いも驚いた様子で金貨をじっと見つめていた。
「それが今回のあなたの報酬ですよ。これくらい渡さないと、私が旦那様に怒られてしまいます」
「あの? もし迷惑でなければ、細かいお金でもらえないでしょうか? 金貨だと使えるところが限られてきそうですし」
「そう言うと思ってました。先に金貨をお渡ししたのは、今回はこれくらいの働きをしましたということを形でお見せしたかったからです。では細かくして、銀貨七枚と鉄貨二十五枚に銅貨五十枚でよろしいですね。今は私の手持ちがないので、帰りの際に手渡しします。では、メイドのところにあの吐瀉物だらけになった服を受け取りに行ってください。執事見習いの貴方、案内お願いしますよ」
執事はテーブルの上に置かれた金貨を懐に仕舞った。
テーブルの上の金貨がなくなったことでようやく正気を取り戻した執事見習いの案内によって、部屋から退出する。
「あの、今夜は色々ありすぎて、頭が追いつかないですけど、あの貴族の方を助けてくれてありがとうございました。お陰で私は執事見習いになれました。帰りの道中はお気をつけてお帰りくださいね。パーティー後、貴族の屋敷から徒歩で出ていく者は、そこで働く者以外狙われやすくなりますから」
「大丈夫ですよ。いざとなったら大声を上げて全力で逃げますよ」
執事見習いに笑って答えたあと、吐瀉物だらけになった衣服を受け取りに行くと、衣服は井戸のそばの水を張った木桶に浸けられていた。俺はその衣服を軽く洗って絞りに絞った状態で手に持つ。
そして、執事見習いと再び歩いて屋敷の外の門まで行くと、執事が小さな麻袋を手に持って待っていた。
「報酬はこの麻袋に入ってます。今夜はお疲れ様でした。お気をつけて、お帰りくださいね。ああ、その麻袋も持っていかれて結構ですよ」
そう言うと、執事は麻袋を渡してきた。
この袋はもらっていいのかなと考えていたところだったので、どうやら俺はポーカーフェイスができないタチらしい。
こうして、今回の俺の仕事は終わり、帰路につく。といっても家があるわけではないのだが、こんなに報酬をもらったんだ。今夜くらいは宿に泊まるかなと、宿屋街に向かった。
貴族のもとに近付いて顔を覗き込むと、酒に弱いのか、それとも普段から飲み慣れていないのか、涙目になりながら嘔吐していた。
吐き切るまで見守っていようとしたが、あまりにも苦しそうに吐いているので背中をさすってやると、また大量に嘔吐した。
「貴族様、大丈夫でございますか?」
「うむ、少しは楽になった。礼を言うぞ」
背中をさすってあげただけだが、貴族はまだ少し苦しそうな顔をしつつ、顔をこちらに向けて礼を言った。
そして、たった今吐いたばかりのその貴族は、使用人の一人が持っていたワインを取り、口をすすいで床に吐いた。そしてまたすぐに食べに戻った。
正気かと目を疑ったが、彼は何事もなかったかのように他の貴族と談笑しながら飲み食いをしだした。
貴族の行動に呆然としていたが、そんな場合ではないと思い直す。吐瀉物を片付けないといけない。
まず、素手で吐瀉物を空の桶にすくい入れるのを繰り返し、それから濡らした布切れで床を拭く。先程の貴族が吐いたワインも拭いておく。
この単調な動作を、最初は躊躇した。
まず素手で人の吐瀉物を触るのが嫌すぎた。
でもゴム手袋なんて物はないし、俺がやらなければ他にやる人がいないため、覚悟を決めて無心でやった。
その後、やりとげたと達成感を覚えていると、あちらこちらで貴族たちが先程の貴族並みの吐瀉物を吐き散らかしていた。そして先程の貴族と同じように酒で口をすすいで床に吐き、また食べに戻るといった行動を取る。
「オー、シット!」
そう呟かずにはいられないくらい、至るところに吐瀉物が散乱していて、それで滑る貴族も現れ出したので、急いで片付けていく。
すると、最初は臭いだけで吐き気がしていたのだが、たくさんの吐瀉物を片付けるうちに、鼻が麻痺して普通に扱えるようになっていた。
木桶が吐瀉物で一杯なると、前もって聞いていたところに捨て、また桶の水が吐瀉物まみれになれば水を替えに行く。
それを繰り返しているうちにだいぶ余裕も出てきたので、他の苦しそうな貴族の背中をさすってやったり、吐きたいが吐けない貴族の口に指を二本突っ込んだり、吐瀉物を床にブチまける前に空の桶を貴族の口元に持っていったりもした。そこまでくるともう慣れたものだった。だが、床掃除をしている最中に頭に吐瀉物を吐き出されたときは、さすがに貴族に殺意が湧いた。
そんなパーティーも終盤に近付いていた。テーブルに並んだ料理が少なくなるにつれ貴族も酒を手に取ることが少なくなっていく。
それでもまだ吐いている貴族がいるため、俺の仕事は終わりではない。もう一度桶を変えようと早足に井戸に向かうと、井戸の石垣にもたれかかっている若い貴族を見つけた。
貴族が先に使うのであれば邪魔をしてはいけない。少し様子を見ていたら、若い貴族はフラフラと立ち上がると、そのまま井戸に落ちそうになり――思わず身体が勝手に動いていた。
「危ない!」
間一髪、井戸に落ちる前に若い貴族の身体を支えることに成功した。この貴族は他の貴族に比べて随分と身体が細い。大丈夫か? と思い、俺は顔を覗き込んだ。
青年は思いのほか綺麗な顔をしていた。髪は薄い水色で、月明かりでキラキラ輝いて見える。少女漫画に出てくるような美青年だ。
一見すると男装している女性かと思ったが、助けるために抱きかかえたとき、股間に手が触れてシッカリとした膨らみを感じたから、男性であることは間違いない。
意識がないようだから、近くを通りかかったメイドを呼び寄せる。彼女は酷く狼狽し、大声で執事を呼んだ。何事かとも思ったが多分、パーティーに出席している中でも位の高い貴族のご子息なのだろう。
メイドが大声を出したことにより、複数の使用人が井戸に駆け寄る。そしてメイドは使用人に改めて執事を呼んでくるように命令した。
いまだに美青年の貴族を抱きかかえたままの俺だったが、走ってきた執事がおそるおそるといった感じで、俺の腕から美青年の貴族を受け取った。ようやく解放されたので会場に戻ろうとすると、メイドに呼び止められ、頭を下げて礼を言われた。
そこまで大事な貴族をこんな吐瀉物だらけの俺が触って問題にならないか今になってドキドキしてきたが、今更考えても仕方ない。それに、罰を受けなければいけないならどうせ後で何か言ってくるだろうと、俺はパーティー会場に戻って吐瀉物の掃除を再開する。
その後もしばらく主催者の貴族と一部の貴族がバタバタとしていたが、俺の仕事は無事に終わった。
パーティーがお開きとなり、主催以外の貴族は帰り、会場内の片付けが始まった。すでに俺の出番はなかったので、道具を片付けて、使用人に依頼終了を言いに行く。すると、彼と執事とあのときのメイドが一緒にいた。
「今夜は本当に助かりました。あの方にもしものことがありましたら、私たちは旦那様とともに処刑されていたでしょう。旦那様に今夜のことを伝えたところ、貴方をお部屋に連れてくるよう命じられました」
というわけで、執事を先頭にメイド、使用人、俺の順番で一列に並んで歩き、貴族の部屋らしき扉の前で止まる。そして、ここで他のメイドがもう一着新しい服を差し出してきた。俺が今着ている服と同じもので、こちらに着替えろということだった。
吐瀉物まみれの服をよほど触りたくないのか、新しい服を持ってきたメイドは小指の爪先一本で引っかけて持っていった。
「貴方はここで少しお待ちください。旦那様は先にメイド長と使用人とお話しなさいます。それが終われば扉を開けますので、扉の前で待機していてくださいませ」
執事にそう言われ、一人大人しく扉の前で待つことになった。しかし、あのときのメイドがメイド長だったとは思わなかった。どうりで色んな人に命令ができるわけだ。と、一人納得していたら、扉が開いて中から執事が出てきた。
「さあ、お入りください。旦那様に今夜の出来事を貴方の口からお話しください」
執事に言われるままに部屋に入ると、中央に白い長テーブルと、それを挟む形で、三人はゆっくり座れる大きめのソファがあった。そのソファにはあの美青年の貴族と、この屋敷の当主が向かいあう形で座っていた。
美青年のソファの後ろには従者だろうか、鋭い眼光の男が立っていて、もう片方のソファの後ろにはメイド長と使用人が立っていた。
今、凄く緊張している。たとえるなら問題を起こして会社の社長の前にいる感じだ。
「お前が今回の吐瀉物収集係か?」
「は、はひ。そ、そうです」
つい緊張で噛んでしまったが、返事をすると美青年はクスッと笑った。笑った顔も可愛いが、気を取り直して背筋を伸ばし、今夜の美青年を助けた経緯を説明した。
「ふむ、なるほど。ならばメイド長の話と繋がるな。メイド長よ、今宵の不祥事は不問にする。それで使用人よ。この者をギルドに頼んで連れてきたことにより、大きな事故が防げた。お前は執事見習いになるが良い。で、最後に吐瀉物収集係のお前、パーティー中の他の貴族からの評判も良かった。そなたの名はなんというのだ? 褒美もいかほど欲しいか?」
「はい。私は今夜のみの依頼を裏ギルドで受けたミーツと申します。私はそこにいる使用人さんとの面接を経て、今夜の吐瀉物の掃除を行なってました。褒美は最初の依頼料だけで大丈夫です」
いくら偉い貴族を助けたからといって、たとえ褒美でも貴族に多くの金銭やお願いごとを要求して、後でゴタゴタしたくないってのが一番にある。
「うむ。だがしかし、君が依頼料のみでいいと言っても、この御仁がそれでいいと言ってくれない。それなら依頼料に多少の色を付けることにしよう」
「そろそろ、私にも話をさせてもらってもいいですか?」
「も、申し訳ございません。どうぞ、お話しくださいませ」
俺と当主との会話が終わりを迎えたと判断したのか、美青年が話しかけてきて、貴族は怯えるように美青年に頭を下げた。
「今夜は本当に助かりました。私はとある国の者でそれなりの地位にいます。貴方がいなければ私は死んでいたかもしれない身。貴方さえ良ければ、私の国に客人として招き、キチンとした職業を紹介しますよ」
美青年は笑顔で凄い話を持ちかけてきた。俺にはもったいないほどの話だ。それに俺は城から放り出されて一人でここまで来たわけではない。シオンやダンク姐さんがいたからここにいるわけだし、この二人に恩を返さずに俺だけどこかに行くわけにもいかない。
加えて、俺の服と荷物を奪っていったチンピラどもに、荷物だけでも返してもらいたいと思っている。
ここは申し訳ないが断ろう。
「申し訳ございません。もの凄く魅力的なお話ではございますが、私にはこの国で恩を受けた人が二人います。その二人に恩を返さぬまま、私だけいいところに行くというのは、いささか気が引けます。ですから、この話はなかったことにしてください」
そう断ると、美青年は驚いた顔をしていた。
それはそうだ。まだ正式な冒険者ではなく、いわばただの日雇い生活をしている者を客人として扱い、その上きちんとした職業を用意するという提案を断るんだ。またとない機会を自身で潰すんだから、驚いて当然だろう。
「へえ、私の提案を断るんですね。それでは、そのお二人に恩を返すまでは私の国には来ないというんですか?」
「そうですね。それに今はまだ冒険者ではないですし、冒険者として正式に登録した後になります」
「ああ、そういえば裏ギルドの依頼と言ってましたね。いくら吐瀉物の掃除係とはいえ、裏ギルドに頼まなければいけないほどの人材不足に、この家は大丈夫か心配になりますね。ですが、そのお陰で私が助かったのも事実。ミーツさん以外の方が来ていたら、私は助からなかった可能性もある。他国の貴族ですし、私が国に帰っても親にはこのことは報告しませんよ。ただし、ミーツさんとの出会いについては話しますけどね。ミーツさんが近々冒険者になるなら、いずれ私の国にも必ず訪れるときが来ます。そのときに問題なく入国できるように、貴方にはうちの家紋の入った物を何かお渡ししようと思います。それがあれば、よその国の王族や貴族よりも優位に立つことができるでしょう。申し遅れましたが、私の名前はレイン・ラインハットと申します」
美青年はレインと名乗り、従者が持っている鞄から、三つ首の龍の絵の浮き彫り細工が施された長方形の小さなレリーフを手渡された。
「いずれ冒険者になり、二人に恩を返したら、レイン様の国に行かせてもらいます」
社交辞令を言った。
だが、少し引っかかる。冒険者になれば必ず国を訪れると、このレインと名乗る美青年が言ったことにだ。
なぜ、冒険者になれば必ず訪れることになるのだろうか? だが今は考えても仕方ないことだし、さっさとこの場を切り上げて、報酬をもらって帰ろう。
「そのレリーフを国境の兵に見せると私に連絡が届くように通達しておくから、気兼ねなく来てくださいね」
レインは必ず来ると断言しているが、そんなことを言われたら余計に行きたくなくなるよ。だから、俺は軽く「そうですね」とだけ言って苦笑いをして答えた。
「そうだ! 信頼の証として、お互いのステータスを見せ合いましょう!」
レインは突然そんなことを言った。ステータス? ゲームとかにあるやつか? ステータスなんて出せるのか?
でも、もし出して、どこかに異世界人とかって書いてあったら面倒なことになりそうだ。
そもそも出し方も知らないので、正直にそのことを伝えよう。
「申し訳ございませんが、私はステータスの出し方を知らないのでお見せできません」
「貴様! そんなわけないじゃないか! 失礼だぞ! こちらのお方がステータスを見せ合おうと言っているのだぞ! こっちはいつでもお前を殺すことができる立場にあるんだ。いいからさっさとステータスを出せ」
レインの背後に控えていた従者が怒鳴り出した。剣を持ってないのにどうやって殺すのだろうと従者を見ると、手の平を俺の方に向けていた。
だが本当に知らないものは知らない。それよりも手の平を向けている従者を見て思わずニヤけてしまうと、彼はさらに怒り、手が発光し出した。咄嗟にレインが従者の前に手を出して制した。
「私はこの人と話しているんだ。君に発言する許可は与えていないはずだけど? それに、この人を殺す? 私の命の恩人だよ? 逆に君を従者の任から外すよ」
「レイン様! も、申し訳ございません」
レインは冷静に従者を黙らせて、先程の話を続けた。
「本当に知らないんですか? まあ仕方ないですね。常識ではありますけど、記憶喪失にでもなっているんですかね。それとも私に見せたくないとか?」
「いえ、本当に知らないのです。レイン様がおっしゃる通り、現在の私は記憶が混濁して、こちらの常識が全く分からない状況になっております。ですから、ステータスと言われましても、なんのことだか分からないのです」
レインの言った記憶喪失の話に乗っかり、記憶が混濁していると言うと、彼はニッコリと笑顔になった。
「いいでしょう。説明して差し上げます。通常ステータスとは、人に見せる物ではなく、信頼したい人や信頼してる人に見せる物です。だから、私たちも見せ合い、お互いの信頼関係を深めようではないですか! 手はじめに心の中で……」
「レイン様、申し訳ございませんが、今は多分知らないままの方がいいと思うのです。なぜと言われても説明はできませんが、ステータスはまたの機会にということにはできないでしょうか?」
喋っている最中に被せて断りの発言をしてしまったが、レインは驚いた表情をしているものの、特にショックを受けている風ではないみたいなので安心した。
従者を見ると、真っ赤な顔をしている。
相当怒っているみたいだが、レインの手前何も言えない様子で、握りしめた拳をわざわざ俺に見える位置に上げて、手から血が出ているのを見せつけた。
「そうか残念だね。では、別室で私のステータスだけ見せようか」
そんなに見せたいのか? レインは!
だが、断ることにした。
「申し訳ございません。レイン様のステータスもお断りします。いずれレイン様のお国に参りましたときではダメでしょうか?」
「うん。本当に残念だけどそうだね。そのときの楽しみにしておきますよ。でも、絶対にウチの国に来てくださいよ」
なんとか説得できたが、なぜそんなに自分の国に呼び込む? なぜか、かなり気に入られた。
それで話すことはなくなったのか、ただひたすらレインは俺を見つめて笑顔を見せていた。
「あの~レイン様、この者との話は終わりでしょうか? 夜も更けて遅くなりましたし、今宵は我が屋敷にお泊りになってはいかがでしょうか?」
「いや、大丈夫です。今夜は知り合いの家に行くことが決まっていますので、今日のところは失礼しますよ」
当主の提案を断ったレインは、いまだに顔が真っ赤になっている従者の方を振り向いた。
「あれ? なんで顔が赤いんだい? 理由は後で聞くね。今宵は楽しいパーティーでした。それでは私どもは失礼します」
レインは従者とともに部屋を退出した。
部屋にいたメイド長も一緒に出ていく。
レインが部屋から退出してしばらく沈黙が流れたが、屋敷からも出ていったのを音で確認した当主は、安心したのか盛大に溜息を吐いた。
「はぁ~~~、ようやく出ていかれたか。そこの者が、レイン様の褒美とステータスの見せ合いを断ったときは肝が冷えたぞ。そこの者、ミーツと言ったな。褒美は執事にもらうといい。執事よ、私に恥を掻かせない報酬を渡すがいい。私は疲れた。しばらくここで休んで寝床に戻る。お前たち全員、下がっていいぞ」
部屋を退出したあと、黙って歩き出す執事に、俺と使用人改め、執事見習いも黙ってついていく。たどり着いた部屋に執事が入り俺たちもそれに続いた。
部屋は真っ暗だったものの、執事がどうやったのか分からないが、蝋燭に火が灯る。
明るくなった部屋には中央にテーブルがあって、そのテーブルの上に三又に分かれた燭台が一つ、それに椅子が四脚あるだけだった。
「では、今夜の貴方の報酬の話をしましょうかね。貴方は依頼料以外で欲しい物はございますか?」
欲しい物はと考えると、あの吐瀉物だらけになった衣服を思いついた。ついでに、灰汁を作ったとき用の空瓶も欲しい。
「厚かましいようですが、可能なら今夜ワインなどが入っていたであろう空瓶をいただけないでしょうか? ついでに、着替える前に着ていた吐瀉物だらけになった衣服ももらえたらと思いまして」
「え? ワインもエールも瓶には入ってないですよ? 樽から出してましたけど。衣服については問題ないです。今、ミーツさんが着ている服も差し上げますよ」
あ、しまった! ウッカリしていた。
瓶なんて、そんなの簡単にほいほい作れないし、ガラスは高価だったはず。でも衣服をもらうことは大丈夫みたいだ。今着ている服ももらえるなんて、なんていい人なのだろうと感動してしまった。
「では、依頼料に色を付けるよう言われましたので、金貨一枚でよろしいでしょうか?」
執事は自身の懐に手を入れて金色に光る硬貨を一枚取り出すと、テーブルに置いた。
俺はその金貨と執事を交互に見つめてしまった。
最高でも銀貨三枚だった依頼料が、金貨一枚という成果にまでなって驚きを隠せないでいた。執事見習いも驚いた様子で金貨をじっと見つめていた。
「それが今回のあなたの報酬ですよ。これくらい渡さないと、私が旦那様に怒られてしまいます」
「あの? もし迷惑でなければ、細かいお金でもらえないでしょうか? 金貨だと使えるところが限られてきそうですし」
「そう言うと思ってました。先に金貨をお渡ししたのは、今回はこれくらいの働きをしましたということを形でお見せしたかったからです。では細かくして、銀貨七枚と鉄貨二十五枚に銅貨五十枚でよろしいですね。今は私の手持ちがないので、帰りの際に手渡しします。では、メイドのところにあの吐瀉物だらけになった服を受け取りに行ってください。執事見習いの貴方、案内お願いしますよ」
執事はテーブルの上に置かれた金貨を懐に仕舞った。
テーブルの上の金貨がなくなったことでようやく正気を取り戻した執事見習いの案内によって、部屋から退出する。
「あの、今夜は色々ありすぎて、頭が追いつかないですけど、あの貴族の方を助けてくれてありがとうございました。お陰で私は執事見習いになれました。帰りの道中はお気をつけてお帰りくださいね。パーティー後、貴族の屋敷から徒歩で出ていく者は、そこで働く者以外狙われやすくなりますから」
「大丈夫ですよ。いざとなったら大声を上げて全力で逃げますよ」
執事見習いに笑って答えたあと、吐瀉物だらけになった衣服を受け取りに行くと、衣服は井戸のそばの水を張った木桶に浸けられていた。俺はその衣服を軽く洗って絞りに絞った状態で手に持つ。
そして、執事見習いと再び歩いて屋敷の外の門まで行くと、執事が小さな麻袋を手に持って待っていた。
「報酬はこの麻袋に入ってます。今夜はお疲れ様でした。お気をつけて、お帰りくださいね。ああ、その麻袋も持っていかれて結構ですよ」
そう言うと、執事は麻袋を渡してきた。
この袋はもらっていいのかなと考えていたところだったので、どうやら俺はポーカーフェイスができないタチらしい。
こうして、今回の俺の仕事は終わり、帰路につく。といっても家があるわけではないのだが、こんなに報酬をもらったんだ。今夜くらいは宿に泊まるかなと、宿屋街に向かった。
321
あなたにおすすめの小説
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。