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第5章

第14話

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第14話

「ほらほらほら、おじさん起きてよ!
起きないとチューしちゃうよ」
「それはダメー!」

 あれから今度は早めに休むことになって、この日の昼からは酒厳禁で、それぞれが適当に遊んだり、装備の点検やダンジョンに持ち込む道具の買い出しなどの準備をおこなって、士郎の新しい服や武器に防具を買ったあと宿屋にて、パーティ全員が泊まることができる大部屋が空いたとかで、全員で大部屋に移ったものの、男と女が一緒の部屋で何かあってはいけないということで、男女のベッドの間に仕切り板を設置したときまでは意識はあったのだが、急な眠気で眠りに付いて目を覚ますと、仕切り板が無くなっている。

 寝起きでアマが口を尖らせて迫って来ているのを、必死にアミが止めているのを目を覚ました途端に見て、吹き出して笑ってしまった。

 そのあとシロヤマがシーバスを起こしている声が聞こえて、シーバスが寝ているベッドに視線を向けると、シロヤマがシーバスの布団の上に乗って身体を揺さぶっている。

「あ、おじさん、なに笑っているのぉ?
でも、起きたならいいや。
シロヤマ姉ちゃん、おじさん起きたよー。
もう、アミったら、あたしが本気でおじさんにキスするわけないじゃん」
「でもでも、今さっきのアマは本気でミーツさんの口を狙ってたもん」
「はいはいはい、アマとアミは士郎くんと一緒に馬車を出す準備を終わらせて!ボクはシーバスを手荒な方法で起こすからさ」

 シーバスはこれだけ騒いでいるなか、未だにイビキをかいて眠っているのをシロヤマは鼻と口を手で塞いで呼吸を止めるという、本当に手荒な方法で起こしにかかり、シーバスは息ができない苦しさで飛び起きた。

「ぶはあ、ぶはあ、ハァハァハァ、い、一体なにが起きたんだ。一瞬、夢で死んだ曾祖父さんが見えた。ん?シロヤマ、何で俺の上に乗っているんだ?」
「可愛い彼女が優しく起こしてやったんじゃない。でも、早く準備しないと出発するよ。早くしないと置いてっちゃうからね」


 彼女は手荒な方法で起こしたことについては何も言わず、起きたシーバスの上から降りて、そそくさと自分の荷物を取って部屋から出て行った。
 部屋内は既に俺とシーバスしか残っておらず、他の仲間たちのそれぞれが持っていた荷物が消えている。

「シーバスが最後に起きるのって珍しいね。
という俺もアマに起こされたばかりなんだけどね」
「多分だけど、シロヤマの仕業だ。
ミーツさん昨晩の寝るときの記憶はあるか?」
「いや無いね。シーバスも寝る直前のことは覚えて無いのかい?」
「ああ、だからシロヤマの所為なんだろう。
あいつは数多くの魔法を憶えているって前に言っていたから、俺たちに眠りの魔法を使っても不思議ではない。ただ何のために使ったのかが気になるところだが、あとで問い詰めなければならないが、ミーツさんは手出ししないで欲しい」
「分かった。でも手荒なことはしないようにね」
「もちろんだ。ただ、その間、俺の妹たちが邪魔をするかも知れないから、ミーツさんは妹たちに抱き付くとかして、止めて欲しい」
「ちょっと!兄ちゃんにおじさん!何やってんの遅いよ。女の子じゃないんだから早く用意してよね!」

 彼と昨晩について話し合っていると、部屋に遅いとアマがやってきて、シーバスの荷物を投げつけて、床に落ちていたであろう俺の服を手渡されて、初めて俺が半裸でいることに気が付いた。
気が付いたものの、目の前で腰に手を置いて怒っているアマをシーバスが着替えるから出て行けと言うと、アマはそんなの今更じゃと言いかけたまま、無理矢理部屋から退室させられた。


「ミーツさんのその反応じゃ、脱いでいたの知らなかったんだな」
「うん、知らなかった。だからシーバスは急に昨晩のことを話し出したんだね。さっきの話だけど、流石にあの子たちに抱き付くのは、ちょっと考えさせてもらうよ」


 扉の向こうから再度、怒った声が聞こえたことで、急いで服を着て部屋から退出したら、腕を交差に組んで頰を膨らませているアマがいて、膨らんでいる頰をシーバスが押さえて空気を出した。

「もう!兄ちゃんなにやってんの!早く行くよ!」

 彼女はシーバスの腹を殴ったあと、下に降りて行き、俺たちも付いて行くと、宿屋の前に馬車が既に止められており、御者席に士郎がいて荷台から覗き込むようにアミとシロヤマが顔を出した。

「ミーツくんにシーバス遅いよお。
男二人で何やってたのお?」
「兄様とミーツさん早く乗って下さい」

 急かされるように馬車に乗り込み、空が完全に明るくなる前に出発して、出発した直後のしばらくは御者は士郎からシロヤマに交代し、シーバスも彼女の横に座って昨晩のことを色々聞き出そうと尋問している。

 尋問をしだしたときは俺も聞き耳を立てて、チラチラと彼らを見ていたものの、シロヤマは話をはぐらかせてシーバスの身体を触ったりして褒めちぎり誤魔化した。
 そんな彼女にシーバスも最初は誤魔化すなと怒っていたものの、次第にデレデレとしだしたことで昨夜のことは無かったことになってしまった。
 俺もどうしても聴きたい訳ではなかったため、シーバスのデレてる姿を見て、仕方ないと思って諦めた。

 昨夜の話のことは完全に無くなったころ、シロヤマは本格的に案内をする気になったのか、馬に鞭を打ちだした。
 案内の最短ルートなだけあって、最初こそはシーバスとイチャイチャしていたとき、街道を通っていたのが、いつの間にか街道から外れて森の中を走っており、シロヤマが叫ぶ魔物という声に度々外に駆り出された。
 その頃にはシーバスも、一冒険者の顔になって魔物を倒していた。


「シロヤマ!こんな道しかないのかよ。
道なき道で、こんなところをいつまでも走ってると、馬も疲れちまうぞ」
「もう!シーバス、しょうがないじゃん。これが最短距離なんだからさ!それにもうしばらくこのまま走ったら、大きな崖があるから、崖下で休憩が取れるから我慢我慢ね」


 この辺りの魔物は俺にとって見たことがない魔物で、熊ほどのサイズのアリがいる。最初こそは楽に倒していたのだが、段々と群れをなして追いかけてくる数が手の付けようがないほどになっていた。
 森の中ってこともあって火を使うわけにもいかず、かと言って水で流そうと群れに向かって出すも、水に対する耐性が強いのか、泳ぐように向かってくる姿は少しの時間稼ぎにしかならなかった。

「シロヤマ、このままでは追いつかれるよ」
「ミーツくん分かってるよ!もうちょっとだから!」

 数が数なだけあって、接近戦で戦う士郎とシーバスは役に立たない。かといってアマとアミも水や土の魔法を放つも、少量の水はアリの身体を弾くだけで意味がなく、土魔法も鋭利な石を浴びせるように放っても、アリの外殻が頑丈であるため弾かれて、弾かれた石が馬車に当たってボロボロになってしまってる始末だ。

「仕方ない、森が燃えても直ぐに消せばいいだけだし、一気に燃やすしかないね」

 アリが馬車の荷台に今にも噛みつきそうなところまで迫って来ているのを見て、このままでは、掴まれて馬車を止められ、否応にも足を止めて戦わなくてならなくなって、パーティの誰かが怪我をすると思い、迫り来るアリの大群を想像魔法でシールドで囲い込んで、一気に高温度の炎を想像して燃やした。
 目の前に迫り来るアリまではシールドで囲んで無かったため、燃やしたときに目の前まで炎もやってきて、バチバチといった音とともに、アリも溶けだした。

「え、え?な、なに、なにやったの?
急にアイアンアントが燃えちゃってるけど」
「多分、ミーツさんだ。こんな大規模なことをやってのける人はミーツさんしかいない。
そうだろ、ミーツさん」
「そうだね。あのままじゃ掴まれてしまうのは時間の問題だと思ったからね。ちょっと大規模になっちゃったけど魔法を使ったよ」

 御者をするシロヤマが、急に燃え出したアリを見て、馬車を停止させて混乱しているのを、シーバスが俺がやったことにすぐに気が付いて、彼女に俺がやったことを教えている。
 段々と遠ざかるアリを見ながら、囲んでいるシールドの中に水を流し込んでシールドを解除させたら、溶けたアリや溶けかけのグロイ奴が流れてきて、それを見た士郎は馬車の外に顔を出して吐いている。


「ミーツくんがどんな魔法が使えるのかが、気になるけど、もう少ししたら安全な所に行き着くから、とりあえず先に進むよ。士郎くんは顔を出したままだと舌噛んじゃうよ」
「うえ、す、すいません。アマちゃんたちはよく平気だね」
「ここまで気持ち悪いのは中々ないけど、士郎さんみたいに吐くまではないかな。アミは大丈夫?」
「う、うん。でもずっと見てたら私も具合悪くなっちゃうかも」


 シーバスに俺がやったと説明を受けたシロヤマは驚いている。そんな彼女を見る限り、俺の想像魔法を教えたあの時はやっぱり、酔っ払って記憶になかったようだ。
 でも、ここで再度言わなくてもいいだろうと思い、沈黙していると、シロヤマは崖に着いたから何処かに掴まっていてと声を荒らげた。

 どういうことだろうかと、前の方に行って御者席から外を見ると、目の前に大きな崖があり、彼女は嫌がる馬を叩いて無理矢理崖に進ませると、馬は絶壁の崖の垂直に走り馬車は思いっきり傾いた。 何処かに掴まっていろというのはこういうことかと思っていると、軽くしか掴まっていなかったのか、士郎が崖下に向かって落ちてしまった。

「もう、だから掴まっていなって言ったじゃん。
しょうがないなあ」

 彼女はそう言うと、懐から細長い杖を取り出して軽く振ると、落ちた士郎の身体がぽわっと紫色に光って遠ざかっていく。

「これで大丈夫。あとは下で待っているはずだよ」
「シロヤマ、士郎に何したんだい?」
「落ちる速度が緩やかになる魔法だよ。これはそういう杖だから、無詠唱でもいいんだ。この道を案内するときは必ず用意するようにしてるんだよ」
「流石、俺の彼女だ。可愛いだけじゃなく、こういうことも事前に用意できるなんてな」

 こういう道具もあるのかと思い、彼女の行動に関心したが、彼氏のシーバスも彼女の有能に自慢げに語り出した。
 そんなシーバスの語りは無視して、見えなくなった士郎も、まだまだ見えない底を見つめていると、掴まる握力が無くなったアマとアミが落ちてきたことにより、今度は俺が両手で彼女らを掴んで、そのまま俺も想像魔法で緩やかに落ちる想像をしようとしたら、先にシロヤマが杖で俺に光を当てて紫色に発光したのち、緩やかに落ちていき、手を振るシロヤマを見ながら落下していく。

「やっぱりおじさんはあたしたちの事が好きで大切なんだね。だって、士郎さんは見捨てたけど、あたしたちは身を投げてまで来てくれたもんね」
「ミ、ミーツさん、本当ですか?本当に私のこと」

 俺の両脇にいるアマがニヤニヤしながら、茶化すようにそう言ってきたものの、アミはアマの言うことを本気に捉えたのか、真っ赤な顔をして見上げながら聞いてきた。


「違う違う。士郎も助けるつもりだったけど、先にシロヤマが動いたってだけで、お前たちを助けるために動いたのも、シロヤマよりも俺が早かったってだけだよ。シロヤマが同じ魔法を使わなくても俺は空を飛べるし、転移もできるからどうとでもなると思ったんだ。
 アマも茶化すのはほどほどにしなよ。アミが本気にするからさ。それに、大切な仲間だから動いたんだからな」
「ぶ~、このくらい別にいいじゃん。ていうかね。あれあれぇ?アミったら本気にしたのぉ?
あたしがこんなこと言うのは、しょっちゅうじゃん」
「べ、べ、別にアマの言うことなんて、本気で信じてないもん!」


 俺は彼女らが好きでとかではなく、仲間だから守ったことを言うと、アマは頰を膨らませたあと、アミにちょっかいをかけ出したものの、アミもアマから顔を晒して頬を膨らませた。
 こうして見ると双子の彼女らは性格や話し方こそ正反対だが、仕草がそっくりで面白いと思った。

「あー!おじさんアミ見て笑ってるぅ!なになに?何が面白いの?」
「え?え?私、何かしました?」
「ふふふ、アミの頬を膨らませたのがアマにそっくりでおかしかったんだよ。と、そろそろ下が見えてきたね」

 俺がそう言うと、アミは恥ずかしそうに俯いたものの、崖の底が見えてきたことで、下で大きく手を振っている士郎を見つけ、彼女らは笑顔になって士郎に手を振りかえしている。

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