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第5章

第34話

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第34話

 氷の階層から次の階層に行くと、十畳半ほどの部屋に転移された。
 もちろん俺一人、シロヤマに貰ったキューブは無反応だ。彼女は休憩所は無いと言っていたが、しばらくここで休憩できるのではないかと思っていたら、たった一つしかない扉が開いてアマが部屋に入ってきた。

「あ、おじさん無事だったんだね。良かったよ」

 彼女はそう言いながら近付いてくるが、キューブの反応がなく、俺は剣を差し向けて立ち止まらせてキューブはどうしたと言うと、転移後に落として無くしたとかで持ってないとか…。
 そういうこともあるかと思い、剣を下ろして抱き着こうとしてくる彼女を待つと、腹部に激痛を感じて腹を見たら彼女の手が針のように鋭く尖って深々と腹に突き刺さっていた。

「え、まさかこんなにそっくりなのにアマじゃないのか?」
「あたしだよ。おじさん、おじさんおじさんおじさんおじさんおじさんおじ…」


 彼女の目に光がなく、無表情のまま壊れたレコードのように俺の名前を連呼し出したことで、シロヤマが言っていた誰も信用するなということの意味をようやく分かって、彼女の頭を思いっきり殴り飛ばしたら頭は吹っ飛んで、頭だけケラケラと笑ったあと黒いモヤに包まれて消えた。
 頭が消えたあと身体も同じように消えたものの、身体を刺された事実は消えてないため、急いで想像魔法で治療して開いたままの扉を見たら、こちらの部屋に入ってこようとする複数のアマやアミの姿があった。
 どの彼女もおじさんミーツさんと連呼して抱き着こうとしてくる姿に身震いするも、こうも分かりやすい感じで進めたらいいのにと思いながら彼女らを焦熱剣で斬り伏せって行く。

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 ミーツが魔法陣に乗って偽物のアマに襲われているころ、シロヤマは部屋に転移後、続け様に転移してきたシーバスにナイフを差し向けながらキューブも同時に向けたら、キューブが光って仲間であることに安堵した。

「シロヤマが急にナイフを向けるから驚いたぞ」
「よかったよ。ボクが今見せてるキューブが光らなかったら、シーバスを迷いなく突き刺してたからね」
「恐ろしいな。この階層はそんな危険な所なのか?この道具が壊れて光らなかったり、逆に光りっぱなしってことはないのか?」
「それは無いね。そんな複雑な作りじゃないから、余程運が無い限りは途中で壊れるようなことは無いと思うよ」


 シロヤマはそうシーバスに言ったあと、二人同時に「あ!」っとミーツのことを思い浮かべて、二人で苦笑いをしながらあの人ならきっと大丈夫だと言い合い、扉を開けて影が擬態した仲間たちを倒しながら進んで行くと、シロヤマは突然立ち止まり、進んだ先の部屋の壁を触りだして隠し通路を見つけた。


「お、こんなところに隠し通路か?俺はお前と一緒でラッキーだったな」
「シーバスごめんね。ボクちょっとやる事が出来ちゃったから、この通路を使って先に進んでてよ。途中で仲間が現れても、ここを通る仲間なんて居ないから、どんな姿でも心を許しちゃダメだよ。だから先に上で待っててね」


 シロヤマはやる事ができたからとシーバスを隠し通路に進ませて、彼女はシーバスにキスしたあと一人で先に進んで行った。


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「ちょっと!アミ大丈夫!おじさんがくれた回復薬飲んで」
「う、うん。アマありがと」

 アマとアミは手を繋いだ効果もあってか、同じ部屋に転移され、ミーツの時同様にアミは偽物のミーツに刺されてしまったのだが、なんとか二人で倒して魔法陣に乗る前にミーツが渡した回復薬で回復した彼女たちは、お互いを見つめながら無言でキューブを取り出して光を確かめた。

「あ、シロヤマ姉ちゃんが言ってたのって、こういうことなんだ。じゃあ、これから交代でキューブで確認して偽物たちを倒して行こう」
「う、うん。でもミーツさんの偽物はアマがやってくれる?私は偽物でもミーツさんを倒したくないもん」
「あたしだって嫌だよ!おじさんの場合は一緒にやろうよ」
「え?まさかアマもミーツさんのことが…」
「あははは、まさか!本当に違うよ?でもあたしもおじさんのこと大切な仲間でリーダーだと思ってるからさ。だからおじさんを倒すときは一緒にやろうよ」
「そうだったの…分かった。それならミーツさんの偽物のときは一緒に倒そう!多分、私の勘だとアマもミーツさんのこと異性として好きなんだと思うんだけどね」
「だから無いってば!いくら強くて頼りになっても、あたしはおじさんには興味ないよ。
 あたしはアミの恋を応援するのが性に合ってると思うけど、おじさんはすっごく鈍感だからおじさんを攻略するのは難しいよ。ってこんな話をこんな場所で話している場合じゃないね。
今度は兄ちゃんとあたしたちを真似て来たよ」

 アミはアマのミーツのことを異性として見てないという言葉を信じていないものの、アマの言う通り、ここであれこれと考える暇はないため、二人でキューブをそれぞれが片手に持ちながら影を倒しながら進んで行く。


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「ちょ、ちょっとヤスドルくんストップストップ!僕です士郎です。だから殴らないで!」

 士郎は転移後の部屋内でヤスドルがアマやシーバスを殴っている場面に出くわし、ヤスドルが士郎の方向に向いて拳を振り抜こうとしたとき、士郎は咄嗟にキューブを差し出してヤスドルに叫んだ。

「あ、光ってるということは士郎さんか」
「僕だということは分かってもらえてホッとしたよ。ヤスドルくんはなんでシーバスさんを殴っていたの?」
「あれを見れば分かる」


 ヤスドルは士郎に拳が当たるギリギリのところでキューブを見て止め、士郎の質問に殴り飛ばしたシーバスを見てもらった方が早いと思って後ろ向きで親指で指差した。
 士郎は殴り飛ばされたシーバスを見て驚いた。
 シーバスが黒いモヤに包まれて消えたからだ。そして、士郎はもう塞がりかけているが、ヤスドルの腹に空いている複数個の穴にも驚き、こういうことかと士郎は理解した。

「シロヤマさんが渡してくれたこのキューブが無かったら、僕も殴られていたってことだよね。
それに、ヤスドルくんも大変な目に会ったんだね。無事にこの階層をクリアしたらシロヤマさんにお礼を言わなきゃだね」
「ああ」

 ヤスドルは素っ気ない受け答えをしたあと、ヤスドルの後ろを士郎がキューブを構えながら進む形で部屋を出て進む形をとって行くこととなった。


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 ミーツ以外のそれぞれが合流したあと、一人で進んでいるミーツは困ったことになった。
 シロヤマが渡してくれたキューブが光りっぱなしになっているからだ。
 光っているから仲間と思って安堵するも、近付いたら刺されるということが何度も起こって、ミーツは疑心暗鬼に陥っていた。


「焦熱剣、俺は誰を信じればいいかな?
キューブが光りっぱなしだし、今のままじゃ本物の仲間が現れても斬りかかってしまいそうだよ」
【別にいいんじゃねえか?仲間だろうが全て斬っちまえよ】
「そういうわけにはいかないだろ!
一体どうしたら…って、またアマとアミだよ」

 俺は唯一信じられる焦熱剣に話しかけるも、期待していた答えが返ってこず、疑心暗鬼なまま進んでいると、よくかち合うアマとアミに遭遇して刺されるということが頻繁に起こって、ローブの腹回りはボロボロで今にも千切れそうになっている。今回も判断が出来ずに刺されて殴り飛ばして斬り倒した。

 この影は無抵抗のうちにこちらから攻撃したら、本物っぽい仕草やセリフを吐いてこちらを油断させる厄介な性質を持っているようで、彼女たちを似せてやってくる本体が影の偽物は、次第にキューブまで持ち出すようになって来ていた。
 このままでは本当に本物すら斬ってしまいそうになってきたところで、一旦休憩がてら考える時間が欲しいと思って想像魔法で岩壁を四方に出して囲んだ。

「ふふふ、ミーツさん隠れんぼですかあ?」

 偽物のアミが岩壁を突き抜けてそう言いながら、またも俺の腹部を刺した。
 影だからか、物理的な物を通り抜けられるのだろうか、壁ごとアミを殴り飛ばして抜け出すと、今度はこんなところにいるはずがないグレンやモアまでもが現れ始めた。

「ミーツ、お前は相当強くなったみたいだな。
俺はお前と久々に会えて嬉しいぞ」
「ミーツさん、私の告白を聞いてください」

 他の影どもとは違い、彼らの手にはナイフが握られていて、他の偽物たちをと同様に握手を求めてきたり抱き着こうとしてきたが、流石にこれは騙されないと思って焦熱剣にて斬ったら、いつもみたいにモヤになって消える寸前に、本物みたいに苦しそうに血飛沫をあげて血を吹き出したことに本物をやってしまったと一瞬、そう思ってしまった。


「ここの影どもは倒すごとに本物っぽく見せてくるな。もういっそのこと、誰も倒さずに刺されながらでも一気に突っ走るかな」
【チッ、仕方ねえな。お前さんよ、あいつらを視覚に頼りすぎて見過ぎなんだよ。もっとMPを目に集中させて見てみろよ。俺様にはどいつもこいつも影にしか見えねえぜ】

 独り言のつもりで呟いたのだが、焦熱剣が影を見分けるヒントをくれたことにより、前に腐人になる前の青年を助けた時みたいに、焦熱剣の言う通りに目にMPを集めて見てみると、人型の影がハッキリと見えた。

 観察していると、影にも二通りあって、影の中に銀色に光る歪な形の塊があるヤツと金色に光る丸いヤツとがあって、金色のは銀色のヤツより数が少ない。
 銀と金でどう違うのか、目を元に戻して斬り倒してみたら、金色のは先程の血飛沫を上げてからモヤになり、銀色のはすぐさまモヤになって消えるヤツだった。

 またも目にMPを集めて集中して、影の中にある銀色の塊に向かって手を突っ込んでみたら、ひき肉の中に手を突っ込んだ感覚に似た感じを感じながらでも、銀色の塊を引っこ抜いてみたら、肉の感触は消えて銀色の塊を纏う影が消えた。

 金色のでも同じ現象が起こるかを試そうと金色の影に手を伸ばしたら、手首をバッサリと斬り落とされてしまった。 痛みに耐えながらすぐさま想像魔法で手首の再生をして、今度は斬り落とされないように素早く金色の塊を掴んで引っこ抜いたら、銀色のとは違って、断末魔の叫びを上げながら霧散した。

 銀色のはひき肉の感触だったのが、金色のは本物の肉体の肉の感触があったものの、手は身体の中にすんなり入って、なんとも気持ちの悪い感じだ。 銀と金の塊をそれぞれを手に持って見ても、塊から影が発生する雰囲気がないため、一度でも影から引き抜いた塊は安全のようだ。
 ただ、銀と金の違いといえば、抜き取るときの感触と、銀の方は無抵抗で抜き取れるのに対して、金の方は塊を抜かれまいと抵抗して攻撃を仕掛けてくることくらいだ。

 塊を持って考えている時も銀の方は一度抱き着いてから刺してくるのに、金の方は警戒しているのだろうか、後方に下がったところを見る限り、金は自分で考えることができるのだろう。
逆に銀は決まったパターンでしか行動できないように見える。
 両手に持った銀と金の塊はI.Bに収納して、未だに腹や背中を刺してくる影の核となる銀の塊を抜きまくっていたら、あっという間に銀色の塊の影が居なくなり、金色が残った状態で奥の方で固まっていたのが、次第に固まってくっついたのが、核となる金色の塊が一つ二つと合体していき、最終的には金の大きな塊となった。

「ゔおぉぉぉぉ、ミーヅぢやゃゃゃん」

 合体した影は俺の名前を叫びをながら大きな影の拳を振り下ろしてくる。
 こんな狭いところで大きくなってどうするんだと思いつつも、現在の見た目は誰になっているのだろうかと視覚を元に戻したら、色んな人が合体していた。
 顔はダンク姐さんだが、身体は女性の胸が付いており、振り下ろしてくる拳は拳ではなく、手自体がシーバスが持っている剣で出来ており、それを斬り落ろしてくる。

「なんて見た目だ。こんな狭いところで巨大化する意味が分からない」

 まともに見られないと思ってまた目にMPを集めて、影の状態を見つめると、影の方が動きが分かりやすくて、避けるときも難なく避けることが出来る。
 ただ影の中にある大きな塊をどうやって取るかと悩む。考えるのも面倒になって適当に影の部分を小刻みに斬ったら、影が消える前に核となる塊が消えて影も消えた。

 それで倒したと思って次の部屋に移動すると、また同じ核を持った巨大な影が出現している。
 憶測でしかないが多分、核に傷を付けたり抜き取ったりをしなかったら、こうやって同じヤツが現れるのではないかと考えた。
 そうしたら今まで殴り飛ばして倒していたヤツはただ消えただけで、別の部屋で現れていただけってことになる。

「なるほど、完全に倒すにはあの核を取り除く必要があるのか」

 俺はそう呟きつつ影の観察をしていると、影は前の部屋でも叫んでいたように、ダンク姐さんの声を真似して影を動かして攻撃を仕掛けてきた。
 またも影だけを攻撃して退かせてもいいが、何度もコレが出てくると思うと面倒だと思い、先に剣を影の方に投げて壁に刺さるのを確認したあと、足に力を込めて身体ごと影に突っ込んで入り、大きな金の塊を手に取ったらそのままの勢いで突き刺さった剣の下辺りまで勢いに任せて突き抜けたら、核を失った影は断末魔をあげながら霧散した。

【お前さんが急に俺様を投げるから驚いたぜ】
「ああ、ごめんごめん。ただ影に突っ込んだだけじゃ次の部屋に繋がる扉に当たって次の部屋に行ってしまうと考えたんだ。だから道標としてお前を投げたんだよ。それにしても大きいからか、肉の中に入っていく感触は気持ち悪かったな。
 まだ救いは肉の生暖かい感じがなかったのが救いだけど、手だけじゃなくて身体ごとだったから、もし次に同じヤツが現れたら焦熱剣を核に向かって投げるかな」
【お前さんがそんなことやったら、俺様は二度とMPを注ぎ込まれたって力を貸さないからな!】
「ははは、冗談だって悪かった。同じような状況になったら、剣の力でレーザービームでも撃つよ」

 剣を投げるという発想は半分本気だったのが、意外と焦熱剣が怒ったことにより、急遽冗談だと言って機嫌を直させた。
 剣いわく、なんでも影の中は色んな人間のMPが混ざり合ったように渦巻いており、とても気持ちが悪い感覚らしいのだ。
 それに無闇矢鱈と投げられたくないそうで、常に俺に身に付けて欲しいそうだ。

「焦熱剣は甘えん坊さんだなあ。俺の使い魔たちと一緒だ」
【ち、違えよ!お前さんの魔力が心地いいだけだかんよ】
「またまたあ、照れちゃって」

 今回は完全に俺が悪い。焦熱剣をからかい過ぎて、ただでさえ赤い剣がドス黒く色が変化して剣の柄の部分が熱すぎて触ることもできなくなってしまい、仕方なくI.Bに収納して機嫌を直してもらうことになった。
 この階層に関してだけは無手でもなんとかなりそうだと思って、次の扉を開きながらも、襲いかかってくる影の核を取り除いてはI.Bに収納していたら、新たな核を持った影が現れた。

 ただその影は攻撃をしてくるわけでもなく、部屋の隅で怯えるように縮こまっているのだ。
 影の核となる部分はハート型のピンク色だ。
 目を通常に戻して見てみると、俺の知っている人でもなく、手を伸ばして頭を撫でてみると、目をつぶって無抵抗だ。

「君は話せるのかな?」

 そう話しかけるも目を瞑ったまま首を振る振ると、横に振るだけで話せないみたいだ。
 これはもう無視して先に進んでいいかと思って、部屋の扉の一つに手を掛けると、新しい影の手が俺の手を掴まえて止めた。

「え?ここには入るなってこと?」

 そう聞いたら、影は大きく頷いた。
 それでも何があるか知りたいという好奇心が勝って扉を開けて次の部屋を見ると、真っ暗闇で足元も何もない空間が広がっていて、宙に暗闇なのに黒く輝く球が浮いていた。
 指先だけでも闇の中に手を伸ばそうとしたら、影に今度は両手で手首を掴まれてそのまま扉を閉められたものの、扉の下の隙間から闇が部屋の中に入ってきたことにより、敵意がない影とともに別の扉を開けて次の部屋に移動したら、目にMPを集中をしなくても、敵意のある悪い影と敵意の無い良い影の違いの見分けができるようになっていた。

 姿形は人型だが、人型の中に金色と銀色の核となる塊があるのと、部屋の隅に縮こまっているピンク色の核を持っているヤツとが普通に分かり、見た目こそ俺の仲間たちを真似ているが、身体の中心や肩などの様々な場所に核がある影なぞ倒すのは造作もなく、素早くかつ的確に影どもの核を抜き取り、他のピンクの核を持った影と共に別の部屋に移動して行くと、またもや扉に手を掛けたときに手首を掴まれてしまった。

 このときにはピンク色の影は十体ほどにまで増えていて、またあの闇の部屋かと思いながらも強引に扉を開けたら、ピンク色の影ばかりがいる部屋で、部屋の隅に幼児が影に抱かれた状態でいる。 幼児を観察するように見ていると、この階層の影が持っている核がないことに気付き、もしや本物の人間ではないだろうかと影を掻き分けて影に抱かれている幼児を抱きかかえると、裸の三歳くらいの男の子だった。

「この子はなんで、こんな所で無事だったんだい?って、君らは話せないんだったね」
「話・せ・ます。この・子は・ここに・来た人間が・死ぬ前に・産んだ・子です」

 つい、話せない影に話しかけてしまったら、本当は話すことができるが、途切れ途切れで上手く話せないようだが、内容は理解できた。

「なるほど、この部屋に俺を入れたく無かったのも、この子を守りたかったんだね。でも、このまま死ぬまでここに居させるのかい?俺だったら地上に連れて行ってやれると思うよ。
生まれてから、ずっとここまで育てたから別れたくないかもだけど、この子の未来を考えたら人間の街で人間同士で暮らすのが一番じゃないかな」


 俺がそう言うと、影たちは影同士で集まって話し合いでもしているのか、聞き取れない言語で話だして、しばらく待っていたら、話し合いの結果、俺に託すことが決定したようだ。
 俺に預けられた幼児は裸なため、俺のボロボロになったローブの上半身を破って幼児に着せたら、少々ぶかぶかだが服を着ているように見える。俺の下半身の部分のローブは上手いこと股間が見えないように腰巻きにして結んだ。

「さてと、じゃあそろそろ行くよ。この子のことは任せて欲しい。俺の仲間たちも良い奴らだから、俺にもしものことが起こっても、俺の代わりに地上まで連れてってくれると思う」

 幼児を抱きかかえて部屋を退出しようとしたとき、幼児は親代わりとしてずっと一緒だった影と離れ離れになることを察知したのか、急に泣き叫びだした。
 親代わりだったであろう影の一体が近付いてきて、幼児に自分の核となるハートの塊を自分で引き抜いて幼児に握らせ、微笑みながら消えた。

 これにより幼児は更に泣き叫ぶも、他の影もどうしたらいいか分からず、おろおろと狼狽えている。ここは無理矢理にでも黙らせて先に進むべきだろうと考え、幼児に着せたローブの一部を口に突っ込んで黙らせて勢いよく、扉を開けて次の部屋に向かった。 もちろん、次の部屋でも銀と金の影はいるが、そこはもう慣れたもので、核を見ないでも何処にあるかとか分かるようになっており、片手で幼児を抱き、もう片方の手で素早く核を抜き取って行く。

 そうしてかなりの部屋を回ったころ、ピンクの影に肩を叩かれて思わず核を抜き取りそうになるも、ギリギリで踏み止まり抜かずに済んだところで、今いる部屋から上にあがるための道順を地面に書いて見せてくれた。
 影の一部で書くときガリガリと嫌な音が聴こえていたが、そこは気にしないようにしながら見てみると、現在いる部屋からそう遠くない位置にあり、場所によっては永遠にループする部屋の扉もあった。

「ありがとう。助かったよ。
じゃあ、今度こそお別れだ」

 俺がそう言って握手を求めると、影はコクリと頷いて握手をした後、ハート型の核を数十個ぽろぽろと両手の平を仰向けにしてから出した。
零れ落ちる核を拾って返そうとするも、首を横に大きく振って拒否された。

「いい・その子・を・育て・る・のに・必要」

 また話し辛そうに影は喋り、養育費代わりという訳かと納得して貰った核はI.Bに収納して、今度こそお別れだと思って手を振って憶えた道順に部屋を回るも、途中で何処でどう間違えたか分からないくらいに迷った。
 しかし、そんな俺に影だけに陰ながら付いてきていた影に正しい道順で付いて来てもらい、魔法陣がある部屋に行き着いた。
先程、自信満々で別れを告げたのに、少々恥ずかしいが今度こそ別れを言い、迷うことなく魔法陣に乗ったら、光に包まれて光が消えたころに仲間たちが目の前に現れた。


□□□□□□


 シーバスを隠し通路に行かせたあとのシロヤマは、とある部屋で二人組のフードを被った者たちと対峙していた。


「こんな所で話って趣味悪いよね。
大体さあ、今ボクは案内中だったんだよ」
「それは悪いと思ってますよ。だからこうして影が入って来られないように結界を張っているんじゃないですか。あと、念のために防音も兼ねてますので、今でしたら大声を出されてもいいですよ」
「チッ、お前はまどろっこしいんだよ!とっとと要件だけ言って帰ろうぜ!なんで態々、伝言のためだけにこんな所まで来なきゃいけないんだよ」
「それは、あの御方のご命令だからでしょうに…」

 フードの者たちはシロヤマに、とある伝言を伝えにだけのために来たのだ。


「はあ、話が逸れましたけど、あの御方の伝言を伝えます。貴女が案内しているパーティリーダーを次の階層である罠の階層にて、落とし穴の罠に嵌めて落としなさい。さすれば、貴女の望みは叶えてくれるでしょう。
 念のために任意の罠を発動できる魔道具と不可視のメガネで罠の配置が分かる魔道具を渡しておきます」
「ふ、ふざけんな!最初はシーバスの知り合いだかなんだか知らないけど、胡散臭いおじさんだなあって思ってたけど、今は立派なボクたちのリーダーだよ?
そんな人を落とすって君たちは正気かい?」
「それが上からの命令です。私どもはSSランクといえども、あの御方たちに頼まれれば、ただの使いパシリにしかならないのですからね。
そうでないと、貴女のエルフ族復興は夢のまた夢で終わりますよ?また貴女一人で地道に探してあと、数百年は掛かるでしょうね。
そうなると、今生きているご家族やお友達と生きている間の再会は無理でしょう」
「くくく、お前も人が悪いぜ。わざとコイツが断れねえ言い方をしやがるんだからな」


 シロヤマは唇を強く噛んで、唇から血を流しながらも彼らの伝言を聞き入れ、か細い声で「分かったよ」と声を発したことで、彼らは伝言は終わりだと言ったあと、念のためにもう一度リーダーを落とし穴に落としなさいと言って、彼女に先程彼が言った魔道具を手渡して別の隠し通路から部屋から退出した。

「ミーツくん……ごめんょ」

 彼女はそう呟いたのち、彼らが使った隠し通路は使わず、何度も案内人として来た事があるこの階層を突破し、仲間たちの誰よりも早くに次の階でもある罠の階層に辿り着いた。








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