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第6章

第15話

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 レインが用意してくれた高級宿から、仲間たちが拠点としている宿に向かうのは少々遠いようで、事前にレインが用意してくれた自動魔導車という全自動で動く車に乗って、ヤマトの皇都の街並みを眺めながら向かっていると、裕福な国だというのが分かるくらいに出歩く人たちが幸せそうな表情をしている人が多かった。
 人種もさまざまで、獣人やエルフ見た目は普通の人間なのに肌が赤や青の人など様々な人たちが出歩いているのにも驚いた。

 店が立ち並ぶ前の道は、普通に歩行者用の歩道があって、次に馬車用の道路がある。中央部分の車線は魔導車専用道路となっているようだ。それぞれの道は大型トラックが二台並んで走っても余裕があるくらいに広く、道路から歩道に乗り込むような事故が起こらないように半透明のバリアが張られている。

 だが、そんな裕福な国で綺麗な街並みでも、裏に入れば分からないものだ。
 何故そう思ったかについては、今までの街並みはさまざまな高級店が立ち並ぶ貴族が暮らす地域だったのだろう。それが分かったのも、青い警備員らしき衛兵が守る結界型の門を通り過ぎてから街並みがガラリと変化したからだ。

 いきなり貧困層が現れた訳ではないものの、店が立ち並ぶ街並みや、道幅に、街を歩く人々の服装のグレードが落ち、店と店の隙間の道は薄汚れ、服が汚れている大人の姿が一瞬だが見えたところから、どの国でもこういった貧富の差はあるものだとつくづく思った。

「ミーツちゃんったら何見てんの?」
「ああ、一瞬だけど身なりが貧しい人が見えたから、こんな裕福そうな国でも貧富の差があるんだなって思っていたところだよ」
「そうねえ、この辺りはまだ裕福な地域だけど、もっとこの先を行ったら、そういう人はもっと見るわよ。この辺りはまだいい方よ。
 見ての通り、この辺りはまだ街並みが綺麗でしょ?だから食べる分には苦労しないわ。それに、そういう保護施設が貴族街を除く地域の所々にあるのにそこから抜け出して、勝手に路上生活を選んでんだもの、ミーツちゃんが気にすることじゃないわ」

 姐さんはそう言い、微笑んで車から見える彼処の店は美味しいから今度行こうとか言って話しを切り替えた。既に貧しい人の生活を守るための保護施設があるのかと思うと、姐さんの言う通り、俺が気にすることではないのかも知れないが、一瞬だが、子供の姿が目に入った時、何か引っかかるものがあったものの、現時点ではどうすることもできず、元の世界の車より乗り心地が良い椅子に座って姐さんやアマとアミが指を差しながら紹介する店の話しを聞きながら、うつらうつらと眠気に襲われて、話を聞きながらも眠ってしまった。

「あらあらミーツちゃん寝ちゃったわ。
昨夜はあまり眠れなかったのかしらね」
「おじさんおじさん起ーきーて~!もうちょっとで着くよー」
「もう!アマ、ミーツさんの寝顔見たいんだから起こさないで!」

 眠っている間もそう耳に聴こえてくる声なか、しばらくして身体を激しく揺すられて重たい瞼を開いたら車は停車しており、昨日泊まった宿ほどではないものの、中々立派な宿の前で俺とアマとアミを残して皆んなは降りていた。

「ミーツ起きたか、此処がこれからお前も拠点として暮らす宿だ。お前が別の宿が良いってんなら、自身で別に捜せ」
「シオンさん、ここいらでこの宿ほど良い宿はないじゃねえですか。仲間の人数分の部屋がある家借りるのも高いしよ」
「それは後々考えればいいじゃない。
 士郎ちゃんもミーツちゃんを待ってるわ」

 目を擦って車を降りたら、車はそのまま宿の敷地内に入って方向転換して戻ってきて来た道の反対車線を走り去って行った。

 宿は表から見ても大きく、この辺りでは一番大きい宿だそうで、表の建物はもちろんのこと、後方に複数ある建物も同じオーナーの宿で同じ料理とサービスを受けられるのだとかで、冒険者はもちろんのこと、一般人や下級貴族の泊まりもよくあるのだとか。
 この宿は姐さんが以前、ヤマトに滞在していた時にオーナーに惚れられて、いくらでも滞在して良いという永久パスを貰ったようだ。
 惚れられたのは恋愛としてではなく、武人としての姐さんに惚れてしまったそうで、物凄い武人が泊まる宿としての宣伝をしてもいい許可を姐さんに取った結果だそうだ。

「さ、ミーツちゃん、あたしたちが泊まるのはあっちの建物の最上階で、最上階の階部屋全部を使っていいの。
 と言っても、あまり部屋数はないから今までは、あたしは士郎ちゃんとアキラちゃんとで使っていて、シオンちゃんとシーバスちゃんが同室で、アマアミ姉妹が同じ部屋なの。
 唯一、一人だったヤスドルちゃんはミーツちゃんと同じ部屋でいいわね?これを機会に皆んなで話し合って、部屋割りを変えてもいいけど、今夜はこれで行きましょ」

 姐さんは表の宿で手続きをして来たのか、中に入って直ぐに古めかしい鍵を指に引っ掛け回しながら出てきて、泊まる宿を案内しながらそう言ってきたことにより、俺はヤスドルさえ問題ないなら構わないと答え、姐さんが案内する建物に近づくと出入口となる扉が見当たらなく、何処かに設置している転移陣で移動するのかと思いきや、姐さんが指に引っ掛けて回している鍵を建物の壁に突き刺した。
 突き刺された鍵は壁に吸い込まれて魔法陣が壁に現れた。

 その魔法陣に躊躇なく姐さんを始め、皆んな続々と入って行き、俺の両腕にしがみついて歩いていたアマとアミも、俺の腕を引っ張って魔法陣の中に入ると、建物内に入ったのだろう扉がいくつか並ぶ廊下の壁に転移された。
 廊下から見える窓から外を見ると、階の高い階層なのが分かった。
 最後の俺までが出て来たところで、壁に手を付いていた姐さんが、壁から手を離したら魔法陣が消えて壁から鍵が現れた。

「どう?どう?凄いでしょ!おじさん」
「うん。まあ、こういうのは皇宮でたくさん体験したから、特に今更驚かないかな」
「ぶー、もっと驚くと思って期待してたのに、なーんか残念。
 ね、アミもそう思ったでしょ?」
「ううん。私は別にミーツさんなら驚かないかなって思ってたよ」

 転移したことに驚いたかどうかをアマが期待した目で聞いて来たものの、俺の反応が期待した反応でなかったことにより、彼女は不貞腐れてアミに同意を求めるも、彼女にとっては俺の反応は予想通りだったようだ。

「士郎ちゃん、ミーツちゃんが帰ってきたわよ」

 俺と彼女らとのやり取りが終わる頃を見計らって姐さんがそう言いながら、一つの扉を開けた。

「あ!ミーツさん、お久しぶりです。済みません、この子が急に熱出しちゃって迎えに行けなくて」

 部屋には木桶を持った士郎がいた。彼は笑顔のまま、ベッドで眠っている子供の元に向かい、額に乗せている濡れタオルを交換して、人差し指で口の前に立ててシーッと言って共に部屋から退出した。

「スミマセンついさっきまで、うなされて苦しそうだったんで、僕たちの声で起こしたくなかったんです。回復薬を飲ませても、医者や治療師に見せても治せなかったんで、こうして看病していたんです。それで話は変わりますけど。
 ミーツさん無事に生きて入国できてなによりです。ミーツさんがあんな落とし穴の罠くらいでは死ぬはずがないと思ってましたよ」
「あの子はーー」
「そうです。ミーツさんがあのダンジョンで拾って僕に託してくれた子供です。名前はアキラって名付けました。あの子は後々、男性にも女性にもなれる種族らしくて、どちらでも違和感のない名前を付けました。今は男の子の身体ですけど、女の子の身体の時もあります。
子供のうちは不安定な性別なようです」
「そうか。じゃあ、早く元気な姿を見なきゃな」

 俺はそう彼との話を切り上げて今出た部屋に戻り、アキラのベッドに近づいて額に乗せたタオルをずらして手を当てた。別に触らなくても治療出来るし、見ることもできるからしなくてもいいのだが、何もせずにジッと見つめるだけでは不自然だと思って、額に手を乗せたのだ。
 アキラの額に手を乗せて、彼の身体状況を想像魔法を使って見つめると、僅かな黒い液体が身体の中を動き回っては肝臓や胃などの臓器にとどまってはブルブルとふるえている。それによって、今までスヤスヤと眠っていたアキラが苦しそうにうなされる結果となった。

「なるほど、これが原因か」
「え!ミーツさん、この子の病気が分かるんですか!ミーツさん助けて下さいお願いします」

 黒い液体が何なのか分からないまま、独り言のように原因を呟くと、それに反応した士郎は今にも泣きそうな顔で懇願して来たが、助けないという選択肢はないと最初から考えていたため、頷くだけで取り敢えず回復魔法を使ってみるも、液体は微弱に震えるだけで治療出来ないことに、普通の回復魔法ではどうすることも出来ないのだと思い、今度は想像魔法で黒い液体が身体の外に出るよう想像する。念のために身体に小さな傷を付けた。

 そうすることで、彼の身体から黒い液体が出て来て、出て来た黒い液体は士郎に向かって飛び向かうも、瞬時に姐さんが蓋付きの透明な瓶で捕まえて閉じ込めた。

「ミーツちゃん、これってなんなの?
 咄嗟に嫌な予感がして回復薬の瓶で捕まえちゃったけど」

 姐さんが捕まえた液体は回復薬漬けになってしまったものの、回復薬の中で消えずに震えているのを見る限り、この世界の寄生虫なのか、姐さんも知らないようで、捕まえた黒い液体が入った回復薬をふるふると振っている。

「姐さんが知らない物を俺が知る訳がないよ。
 想像魔法でこの子の身体を見たら、この黒いのが見えたから取り出しただけだからさ。
 取り敢えず危険かどうか分からないし、俺のI.Bに収納しておくよ」

 そう言って姐さんから黒いのが入った回復薬入りの瓶を受け取って、I.Bに収納した。
 黒い液体を取り出した後は、この後直ぐに目を覚ますも、今まで体力を消費していたのであろうか、身体を起こそうとするも、すぐにベッドに寝転がった。

「ほらほら無理しないの。憶えてる?ミーツさんだよ」
「分かんないだれ~?」
「ははは、あのダンジョンで俺と一緒にいた期間は、ほんの僅かだから分からないのも無理ないよ。士郎もこの子の前だとちゃんと保護者しているようで安心したよ」

 士郎はアキラの上体を起こして、持っていた回復薬を水差しに入れ替えて飲ませ、俺を見ながらそう話す。
 アキラはもちろん俺のことなんて憶えているはずもなく、初めて見るような顔で見つめてくるのに対して、俺も笑いながら答えた。

「さて、これでミーツちゃんの本当の仲間たちが勢揃いしたわね」
「え!ちょ、ちょっと待ってくれよ。
俺の仲間はあともう一人いるんだけど、姐さんとシオンは知らないだろうけど…」

 姐さんが大きく一度手を叩いて仲間たちが勢揃いしたと言ったことですぐさま、シロヤマのことを思い出して口に出そうとしたとき、シーバスが俺の口に手を置いて首を横に振った。

「ああ、シロヤマちゃんね。シロヤマちゃんはシーバスちゃんに手紙を残して出て行っちゃったわ。それに加えて、同族と色違いの種族の解放と故郷の復旧をしなきゃいけないとか言ってたわね。
 それで、ミーツちゃんが生きていたら渡して欲しいとシーバスちゃんが手紙を受け取っているわ。それをあたしが預かっていたから取り出すわね」

 姐さんはそう言いながら、腰に付けたポシェット型のマジックバックから手紙を取り出してそれを受け取った。皆んなにはちょっと読んでくると一言そう言ってから、部屋の隅にある椅子に座って読む。

『拝啓ミーツくんへ、ミーツくんがコレを読んでいるということは、ミーツくんはあの罠の階層から無事生還したってことだよね。
 ボクはミーツくんに謝らなければならないことがあるんだ。何故なら、ミーツくんをあの罠に落ちるよう仕向けたんだ。
 だから、ボクはもう仲間として一緒に居られない。それに、ボクもこれから忙しくなっちゃうから本来なら顔を合わせて直接謝るのが本当なんだろうけど、いつ帰ってくるか分からないからこうして手紙を書いたんだ。
 ボクの念願の夢のために指示されたこととはいえ、ミーツくんを貶めて本当にごめんなさい。あんなことしたボクを許して欲しいとは言わないけど、また何処かで再会した時には話しかけてくれると嬉しいな。
 その時は引っ叩かれてもいいかな。じゃあミーツくんが寿命迎える前に会えたら、また何処かで。シロヤマより』

 手紙を読んであんなことで、ここまで謝らなくてもいいのにと思いながらも読んだ手紙は綺麗に折り畳んでI.Bに仕舞い込んだ。

「ミーツさん、俺が言うのもどうかと思うが、あまりシロヤマのことを責めないでやって欲しい。あいつもあいつで苦悩したんだと思うんだ」

 手紙を読み終えたころを見計らって、俺に近づくシーバスがそう言ってきたものの、あの罠に関しては別になんとも思っていない。
 むしろ、あれくらいのことでこんな手紙を書いたシロヤマに怒っている。
 あれで俺が生きていくのに困るほどの障害を負ったのならば、罠に嵌めた彼女を許せないだったのかも知れないが、それなら彼女より指示を出したレインに怒りを覚えるだろう。

 俺の様子を見るシーバスには、怒ってないと一言そう言って、俺たちは冒険者として仕事をしようと言うと、待ってましたといわんばかりに、アマとアミが俺の両手を握って、なんの依頼を受けるかワクワクした様子で引っ張って立たせられた。

「と、取り敢えずギルドに行って見てみないと、どんな依頼があるか分からないから、行ってみようか。俺は全くの土地勘がないから案内を頼めるかな」
「私に任せて下さい!」
「あたしに任せて!」

 ほぼ同時に答える彼女たちにお願いをすると、俺の手を引っ張って走る彼女たちに、はいはいと付いて行くのをニヤついた顔で見つめる他のメンバーに、皆んなも一緒に行くよと言ったら、やれやれといった感じでシオンは壁に寄り掛かった身体を浮かし、姐さんとシーバスは分かった(わ)と言い、ヤスドルはカレーは食べないのかと言いながら士郎にまた今度ねと言って士郎に押されて外に出る魔法陣に入って行った。

 魔法陣は鍵を持っていれば誰でも開けるようで、俺以外のメンバーは皆、一人に一つずつ持っていた。アマとアミもどちらが使うか口論しているところで、ここはアマでいいんじゃないかと俺が言うと、アミは頬を膨らませるも、上機嫌のアマは魔法陣の起動をしたものの、俺にとってこういうのは意味がないことなので、一人で瞬間転移で下に転移したら、先程まで上機嫌だったアマがアミ同様に頬を膨らませて魔法陣から現れた。

「もう!なんで鍵を持ってないおじさんが、あたしより先に降りて来てるの!」
「ふふふ、そういえば、ミーツさんは転移魔法使えたんでしたね。ほらほらアマもそう膨れないの」

 つい先程まで頬を膨らませていたアミが、怒るアマを宥めて落ち着かせる。
皆んなで行動する前に士郎は、病み上がりのアキラを抱きかかえて、宿の人に見てもらうとかで宿の人にお願いをしに行った。
 まだ上にいたメンバー皆んなが下に降りてきて、子守のお願いをしに行った士郎が戻ってきたことにより、姐さんを先頭に歩いて姐さんたちが普段から利用しているというギルドに向かうと、本当にギルドかと疑いたくなるほどの掘立て小屋に入って行く仲間たちに驚く。
 小屋の中は見た目通り狭くて閑散としており、カウンターに座る受付嬢は頬杖ついて欠伸をしていた。

「あ!ダンクさん!こんな時間にどうしたんですか?」

 怠そうにしていた受付嬢は、姐さんを見つけると急に元気になって声を掛けて来た。

「ギルド本部に行きたいから、地下の転送陣を使わせてもらえるかしら」
「え~、いくらダンクさんでも、タダでは嫌ですよ~。それに、魔力タンクも残り少ないですから転送できる人数も限られますし」
「あら、それに関しては問題ないわよ。あたしたちのリーダーであるミーツちゃんが帰還したんだもの。魔力の補充くらいミーツちゃんにとって、容易いわ」
「え!まさか、本当に実在したんですか?パーティ名の『ミーツと愉快な仲間たち』のミーツって人が。って、まさかそこのおじさんがミーツちゃんって人ですか?」

 受付嬢が俺を見ながらそう言ってきたことにより、簡単にパーティのリーダーのミーツですと受け答えたら、本当に実在したんだあっと笑顔になり、魔力タンクを補充してくれるならどうぞどうぞと、カウンターの台を開けて床を数回叩いたら、地下に続く階段が現れた。
 階段を降りた先では上の小屋よりは広い部屋になっており、中央には皇宮で何度も見た転移陣が設置されていて、壁際に長方形で透明のタンクが十本並んでいた。
そのタンクのほとんどが空で、一本だけ灰色の液体が全体の1/10ほどしか入ってなかった。

「じゃあ、魔力の補充をお願いします」

 受付嬢はそう言いながらタンクの一つに触れると、床から丸い水晶が乗った台座が迫り上がった。
 水晶も液体と同様に灰色の濁った色をしており、正直触りたくないと思いつつも、水晶に触れて魔力を流し込んだら一瞬で全てのタンクが満タンになった。

「え!嘘。これだけの魔力タンクが一瞬で満タンになるなんて、普段からアミちゃんたちが話していたリーダーの話は全部本当のことなの?」
「ふふん、凄いでしょ!流石おじさんだね。これだけを一杯にするんだったら、シオンさんとアミとあたしで力合わせても何日かはかかるよ」
「うんうん。やっぱりミーツさんは素敵だな~」
「ミーツちゃん、転送陣を使ったら一人辺りタンク一つ近く使うから、ミーツちゃんは魔力を補充しつつ最後に来てちょうだいね。それと、ミーツちゃんギルド証は持っているわよね?持ってないと転送陣使えないから」

 タンクを満タンにした途端、受付嬢はあんぐりと驚きの言葉を口にし、何故かアマは自分のことのように自慢気にしており、アミは何が素敵なのかほんのり赤くなった顔で俺を見つめている。
 恐らく熱でもあるのだろう、後で解熱の回復薬か魔法でも使ってやろうと思った。

 最後に姐さんが俺は最後に転移陣に乗ってくるように言ったものの、先に俺が乗って場所を記憶して戻って来て、全員を俺が転移させたら良いのではないかと思ったものの、転送陣の間は転送陣以外での進入をした場合、罪に問われる時があるのだとかで、転送陣の間では転送陣を使った移動方法しかないそうだ。
 だが、本部の出入口はそういう制限が緩いそうで、ギルド証を所持していれば誰でも出入りができるようだ。

 一人二人転送するごとに魔力タンクの補充をしながら、俺の番になって転送陣で転移したら、皆んな揃って転送陣の間と呼ばれる場で待機していた。俺たち以外にも、他にも魔法陣が幾つもあって魔法陣から転移して来ては、そのままギルド証を掲げてながら扉に手を掛けて出て行く。

「ミーツちゃん、ギルド証を手に持って出て行くのよ。何処のギルドからの転送陣でやってきたか、ギルド証で分かるようになっているの」

 ここでもギルド証を使うのかと思いつつ、仲間たちが他の冒険者と同じようにギルド証を掲げて出て行くのを見て、俺の番になって同じようにやると、転送陣の間全体が赤く光って頭が痛くなるほどのサイレンが鳴り出した。

 俺の後ろには他の冒険者はおらず、俺だけが転送陣にいる状態でのブザー音にどうしたら良いか分からずに頭を押さえていたら、扉が開くのと同時にサイレンと赤い光が消えて、開いた扉から何人もの人が雪崩れ込んで来て身体を押さえつけられた。 
 俺も何がなんだか分からないまま、されるがままになるも、何が起きたか分からないのは姐さんたちも同様のようで、何で俺を押さえつけているかを同じような人に問い詰めている姿が目に入った。

 手首には手枷を付けられて連行されて行き、驚き心配する仲間たちには、何かの間違いだろうと一言そう言って、連行されて行ったら、別の部屋の転移陣に連れて行かれた。
 そこで俺の手枷は外されて、転移陣に乗るように指示されて言われるがままに転移陣に乗ったら、七色の光に包まれ目を開けたら、仮面を付けた者が、一面ガラス張りの窓から外を眺めていた。

「ふむ、ようやく来たか」

 仮面越しなのに声は篭ってはおらず、書物塔の主の声によく似ていた。

「どうした?初めて顔を合わせるわけでは無いだろうが、そこの椅子に座りなさい」
「声がよく似ていると思ってましたけど、やっぱり書物塔の方でしたか」
「驚いたか?書物塔の主がギルド本部の長を兼任していることに。それと、話し方も普段通りにするが良い。俺のことを知っている者は、この世の中で数人しか居ないのだから、お前も決して口を滑らすのではないぞ」

 彼はそう言うと、銀色の首飾りタイプのギルド証を投げて来た。
 彼のもう片方の手には俺の手に持っていたギルド証が握られており、彼が握った手を広げたら俺のギルド証が黒の仮面に変化した。

「今後、そのギルド証を使い、この仮面を被るといい。逆に今までのギルド証を使う時は、そのギルド証が指輪に変化する。
 特別な人間だけが複数のギルド証の所持を許されるのだが、一般的には同じ型の複数のギルド証を持つことは禁じられているため、お前もパーティメンバーの信頼を置ける者以外には他言するな」
「あ、ああ、分かった。何であんたは俺に此処まで良くしてくれるんだ?いくら俺が想像魔法の使い手だからといっても、あんたと何の関係もないんじゃないか」
「それは今話しても意味がない。ただ一つだけ言えることは前にも言ったが、強くなれ!神すら屠れるくらいの強さを身に付けろ。そうしたら、お前の疑問全てに答えてやろう。
 強くなるには手始めに、この国全ての超難関ダンジョン踏破し、最高難易度の神の塔と呼ばれるダンジョンを踏破しろ。神を復活させたら、俺の正体も教えてやれる」


 彼はそう話したのち、普通の人間が持っていても意味がないスキルを一つやろうともう一言そう言い、俺の頭を鷲掴みした。
 頭が段々と熱くなったものの、熱さはすぐに収まった。

「今授けたスキルは同調というスキルだ。対象者の頭に触れることによって考えや、思い描いた映像が分かるスキルだ。
 想像魔法使いにとって、もっとも使えるスキルだが、使い勝手を間違えたら、とんでもなく害にしかない」

 彼が授けてくれたスキルは同調というものだが、彼の説明がなくとも同調について理解できた。 試しに彼の頭に触れようとしたら、手を払い退けられて触ることが出来なかった。

「本来、想像魔法というものは神のみが使うことが許された魔法で、万能過ぎる魔法なのだ。
 お前が想像魔法で出せない物や現象があれば、お前の想像力が足りないということだ。
 お前の魔力さえあれば、神がかったこともできるが、やることによっては魔力が足りないこともあるだろう。例えば、神を回復させるための魔力補充とかな」

 突然、彼はそう話しだした。
 俺が想像魔法で出せない物があることを知っているかの口ぶりに驚きを隠せない。
 彼の最後のセリフで、あの神のいた空間の出来事も夢ではなかったのだと知らされた。

「突然こういうことを聞いて来たことに驚いているようだが、お前のことは何でも分かるが、一応聞いて置くが、武器は何から出せない?」
「えーっと、武器と呼べる物は何でも出せない」
「それはお前の想像力が足りないのだ。
 もっと簡単に想像したら良いのだ。ただの木の棒や鉄の棒は出せるだろう?それらは武器と認識してないだけで、充分武器として使える。
 そう考えたら木の棒や、鉄の棒の先を尖らせただけで槍となるそれらは出せないか?」

 彼にそう言われてハッとした。
 確かに今まで薪となる木や、鉄の鍋などさまざまな物を想像魔法で出して来た。
 俺が武器と認識してないだけで、充分武器として使える物が今まで沢山あったことを思い出す。

 今普通の二メートルほどの木の棒を想像魔法で手に出してみると、普通に出せた。
 今度は先を尖らせただけの鉄の棒を同じ長さで出してみると、想像通りの物を出せて驚く。
 次に今まで出せないと思っていた鉄剣を想像魔法で出してみたら、思い描いた絵柄の鉄の大剣が現れた。

「これでお前に出せない物は無くなったわけだが、これからは魔剣や魔導具などの特殊な物だけは、買ったり、こっそり授けたスキルの同調を使ってから出すのを薦める。
 そういった物は特殊な製法で作られることが多いのだから、想像魔法で出して見せびらかすようなことをすれば後々問題になることだろうからな」

 なるほどと思いながら、後で同調がどれだけ便利で有能な能力なのかの検証をしなければならないと考えていると、彼から仮面を装着している時は、別名で活動することも勧められた。
仮の名前で彼は『おっさん仮面』や『人外野郎』『俺が神だ』と名前として呼ぶにはどうなのだろうと考えるほどの名前が上がった。

「俺の考えた名だから気に入らなければ自分で考えて付けるがいい。またそのうち会うことがあるだろうが、その時にこそ、俺のことを話せるだけの強さを身に付けていたらいいな。
 最後に、超難関ダンジョンに行く時は一人で行くのを勧める。仲間とはいえ、お前より弱い者たちを連れていけば、早い段階で何人か必ず死を迎えることになるだろうからな。そのためのもう一つのギルド証でもあるのだから。
 最後にもう一つ、お前のステータスを弄った件についてだが、お前の急激に上がった魔力と減った体力のせいで、お前がダメージを受けるとき、なんも鍛えてない一般人レベルの紙装甲になっているが、そこは気を付けてくれ」

 最後に言い放ったことの説明を聞く時間もなく、彼は一方的に話を切り上げて手をこちらに向けて光る光線を放った。
 ここで攻撃するわけがないと思って目を瞑って光をそのまま浴び、目を瞑ったままでも光が分かるほどの明るさが収まったころ、目を開けたら目の前に俺の仲間たちがギルドのカウンターで、うちのリーダーを解放しろと訴えていた。

 俺の存在についてはまだ気付いていないらしく、必死に訴える姿の姐さんやシオン、シーバス兄妹に士郎と、言葉こそ発さないが殺気がダダ漏れのヤスドルの姿を見て、俺は良い仲間たちに出会えたことに心の中で感謝して、背後から仲間たちに近付いたら、いち早く察知した姐さんが身構えて警戒した。

「ちょっと貴方!背後から急にあたしたちに近付いて何するつもりなのかしら!」

 俺に対して急にそう言いながら身構える姐さんの態度に驚き、何を言ってんだい?と言葉を出そうとして自分が仮面を装着しているのに気が付いた。
 もしかしたら、この仮面には認識阻害の効果があるのかも知れないと思って、ここは人目があるため、俺だとバラさない方が良さそうだと思って、一言「済まない勘違いだった」と謝ってトイレの場所をギルド職員に聞いてからトイレの個室に篭った。

「全く、書物塔のあの人も、こういう効果があるって先に教えてくれてもよかったのに」

 そう独り言を愚痴りながら首に掛かっているギルド証を手に握ったら、ギルド証は人差し指に指輪として変化し、仮面はギルド証に変化して、首に掛かった状態になった。
 ふと、首に掛かるギルド証を見て、俺のランクのギルド証は紫色なのに、仮面にしたら黒なのは何故だろうと思ったものの、あの人が勝手にやったことなので、俺が今更不思議がっても仕方ないとため息を吐いてトイレから出たら、抗議が終わってションボリと落ち込んでいる仲間たちに駆け寄ると、今回もいち早く察知した姐さんが俺の名前を叫び抱き着いて来た。

「もう!もう!心配したじゃない!あんなこと、あたしでも初めて見たのに、何があったか教えてくれるんでしょうね?」
「ダンクさんばかりズルイです!早く交代して下さい!次は私の番です!」
「なになに~、アミったらどさくさに紛れておじさんの何処を触ろうとしているのかな~?」
「もう!アマの馬鹿!」
「全く、ミーツさんはあんな状況で連れて、こっちはこんなに心配したっていうのに何でそんなに平然としてんだよ」
「だな。まあ、俺はミーツが連れて行かれたからといっても大して心配はしてなかったがな」
「はいはいはい。アマちゃんとアミちゃんも落ち着いて、シーバスくんにシオンさんもあんなに心配していたのに、今更取り繕ってもミーツさん以外にはバレてますよ。取り敢えずのところ、何があったか聞きたいんで、完全個室のあそこの店でも行きませんか?」

 ぎゅうぎゅうに抱き締めてくる姐さんの背中を掴んで交代交代と言い出すアミに、それをからかうアマに、俺が何事もなく平然とやってきたことに呆れるシオンとシーバスを宥めるように士郎がそう言って、一旦ギルド本部から退出することになり、本部から歩いても左程離れてない何の看板も掲げてない店に入るなり、完全個室で防音の十人部屋希望と姐さんが店員も誰もいない液晶パネルに指でスラスラと書き始めた。 何の店か分からないまま、しばらく受付で待っていたら、液晶パネルに載っていた番号が店内に流れ、呼ばれた番号の部屋に移動して行く。

「ミーツちゃん、ここは冒険者専用の人に聞かれたくない話ができるお店なの」

 姐さんはそう言いながら番号と同じ部屋に入って続けて俺も入ったら、魔法陣が部屋の中央にあるだけで、あとは何もない部屋だ。
 てっきり魔法陣は転移陣かと思いきや、姐さんが魔法陣に乗ると部屋にテーブルと椅子が魔法陣から飛び出して、全員が部屋に入り切ると扉が消えて部屋全体の壁の色が一度透明になって、外から丸見えの状態になったあとに灰色に変わった。

 魔法陣は変わらずあるものの、飛び出た椅子に座ったらテーブル上にメニューが出て、メニューを見てみたら、食事のメニューにメンバーのそれぞれが頼み出して、俺がどれを頼もうか悩んでいたら、俺の隣に座ったアミに自分が気に入っているというメニューを勧められてそれにした。

 料理はテーブルの上に注文した順で現れ、アミに勧められて出てきた料理は、チャームワームの茹で汁という。パッと見は、色付きのうどんのようだが、よく見たら薄いピンク色の大ミミズであるのが分かり、見た目の気持ち悪さに吐き気がして、少々小腹が空いていたのが胸焼けで具合が悪くなった。

 そのチャームワームの茹で汁を旨そうに二つのフォークを巧みに扱って食べるシオンに、俺の前に置かれた茹で汁を差し出したら、おっ、いいのかと差し出された茹で汁をズルズルと啜る。茹で汁がお勧めだと言ったアミは残念そうな表情をした。

 結局、ゲテモノ料理を食べたのはシオンとアミだけで、他のメンバーは肉や魚などを注文して俺はそれらを少しずつ分けて貰って、久々に皆んなで食事を楽しんだ。
 


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