召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十七章 立ちはだかる現実

ひかりかがやくはしら

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「え?」

 オレ達がこの世界に来たとき、命約数は100を超えていた。
 その後、最初の頃は気にしていたが、最後に見たときも100は超えていた。
 なかなか減らない数字に安心し、見るのを止めていた。
 それが、31?

「時間が無い……?」
「ふむ」

 テストゥネル様の、トカゲに似た右目がオレを凝視する。
 なんとも言えない強い視線に、声が出ない。

「テストゥネル様?」

 その様子に、カガミが声をあげた。

「問題ない。困難な望みを叶えるには時間がかかるものだ。命約が尽きるのは、まだ数年は先になろう」
「わかるのですか?」
「推測じゃ」

 それでも、龍神と呼ばれ、人知を超えた力をもつテストゥネル様の言葉だ。
 信じる他ない。

「先輩?」

 プレインの声が聞こえる。
 すぐ側にいるにもかかわらず、遠くから呼びかけられたように聞こえた。
 時間はある。
 だが、無限ではない。
 対策は?
 ヒントは、古い国を調べる。
 テストゥネル様が以前に教えてくれたヒントだ。
 古い国。
 この世の全てを手に入れようとした国。

「モルスス?」
「黒の滴を廃した今となっては、もう口にしてもよかろう。妾の知る限り、この世界に留まり続ける方法は、モルススが目指し、手に入れかけていた魔法の究極しかないだろう」
「魔法の究極ですか?」
「術者の願いを叶える魔法。それを魔法の究極という。かの国は、限りなく、その究極までせまっておった」

 願いを叶える。
 それで、テストゥネル様は、古い国を、モルススを調べるように言ったのか。

「願いを叶えるかぁ。上手くすればさ、行き来する扉? そんなの作るお願いできそうじゃん」
「それは無理よの」
「願いを叶える魔法でも無理なんスか?」
「この世界の神と同等の力を一時的に得ることで、願いを叶えるのが魔法の究極だからの」
「神様でも、無理?」
「2つの世界を繋げる事は、神の力では足りぬ。故に願いは叶えることはできぬ」
「そっか……」

 ミズキが下を向いて、小さく呟いた。
 いつの間にか、随分と室内は静かになっていた。

「だが、時間はある。ベストを尽くそう」

 そんな中、オレが言えるのはこの一言だった。
 絞り出すように発した一言。
 それを最後に沈黙が続く。

「ただいまー」

 それを破ったのは、程なくしてもどってきたノアの声だった。
 一緒に、クローヴィス、そしてハロルドとチッキーが戻ってきた。
 チッキーは、カゴに何かを乗せて、トコトコとテストゥネル様の方へと進み、手に持った籠を見せる。

「言われた通り取ってきまちた」
「うむ、これはいい木イチゴじゃな。口直しにちょうどいい」
「では、よそおってきますでち」
「うむ」

 頷いたテストゥネル様を見た後、チッキーは駆け足で隣の部屋へと進んでいった。
 そんなチッキーを、ノアは見送ったあと、オレ達の顔を見上げた。

「どうしたの?」

 そして不安げに聞いてきた。
 先程の事が、顔に出ていたのだろうか。

「何でもないよ。ちょっと難しい話をして疲れちゃった。ところで、ミランダの対策はうまくいきそう?」
「うん、クローヴィスとね、相談してね」
「どんな風に対策するんスか?」
「えっとね。ハロルドが前衛で、私が後衛。それで、ミランダを壁で覆っちゃうの」
「ノアノアが壁作るの?」
「そう。そしたらミランダの攻撃は壁の外に出ないからね、ハロルドがね、バーンって倒しちゃう」
「そっか。倒しちゃうか」

 呪いを解かれたハロルドは、ノアの言葉を聞いて、後ろで大きく頷いた。

「次こそは、不覚を取らぬでござるよ」
「そっか」
「本当はボクも参加したいんだけど」

 クローヴィスが声を上げる。

「うん。でもミランダはいつ来るかわからないしね」

 ノアは、そんなクローヴィスの言葉に対して、口をとんがらかせて言葉を発した。
 その様子が面白くて、思わず笑みがこぼれる。
 それから再びみんなで大きなテーブルを囲んでゲームをして遊んだ。
 夕方になった頃、テストゥネル様とクローヴィスは帰っていった。

「今日は楽しかった。クローヴィスが、瞬く間に計算したのには驚いたわ。妾の予想では、あと1000年は数の理解には至らぬとおもっておったからの。其方らには、礼をせねばならぬよの」

 別れ際、そんなことをテストゥネル様は言った。
 その日の夜。
 ノアが寝たあとで、サムソンの提案で地下室へと同僚達が集合する。

「テストゥネル様は古い国を調べろと言ったが、もう一つ、俺達があてにしていいものがあると思うぞ」

 同僚達が集まった後、サムソンが言った。

「足元の魔法陣か」
「そうだ。俺達が初めてこの世界に来た時に立っていた魔法陣」

 そう言って、つま先で地面をトントンと叩く。
 そこには巨大な魔法陣が広がっている。
 オレ達が最初に立っていた魔法陣。
 こうして見ると、この魔法陣はかなり異質だ。
 初めてこの場所に来たときはどの魔法陣も不思議なものにしか見えなかったが、今こうやって見ると、この魔法陣だけ特別な作りであることがわかる。
 まず読めない。
 そして、他の魔法陣と違い、この魔法陣は色違いの複数の線で成り立っている。
 色違いといっても線の濃淡で、複雑に描き込まれている。

「これは積層魔法陣。つまり、複数の魔法陣が重なった形で作られてるってことですよね?」

 カガミの言葉にサムソンが頷く。

「そうなんだ。それで……いくぞ」

 そう言ってポケットから一枚の紙を取り出し、魔法を唱える。
 魔法陣の外に歩きながら魔法唱えた後、再び口を開いた。

「この魔法陣から、ちょっと出てから、見ていてくれ」

 言われて、全員が立ち退いたのを見た後、サムソンが再度魔法を唱える。
 すると、魔法陣から光の柱が立ち上った。
 魔法陣と全く同じ幅をした円形の輝く柱。

「何だこれ?」
「これ、何したんスか」
「魔法陣を……積層魔法陣を分解する魔法を使ったんだ」

 分解。
 そういえば、特別な魔法を使うことで、積層魔法陣を分けて表示できるんだったよな。
 たしか、星落としは5枚の魔法陣から成り立っていた。

「でもこれって、なんか光の棒じゃん」
「よく見てみろ」

 そう言ってサムソンが少しだけ手を動かす。
 今度は柱が三つに分解される。

「えっ?」
「違う。これは光の柱じゃない」
「これって……まさか?」

 驚くオレ達を見て、サムソンが大きく頷く。
 それから、3つに別れた一番したの、柱を指さす。

「そうだぞ。これ、光の柱じゃない。膨大な数の魔法陣が重なりあってるんだ。線の濃淡に見えたのは違ったんだ」
「まさか?」

 細く薄い線で書かれた魔法陣。
 ものすごい枚数の魔法陣が重なって、線が重なったところが色が濃くなって……。

「重なった線の集まりが、ああいう形を取ってたんだ」

 オレの思考をまるで読んだかのように、サムソンが一言呟く。

「これって、一体、いくつぐらいの魔法陣重なってるんだろ?」
「想像もつかないっスね」
「ああ」
「最初は、元の世界に戻った後、召喚魔法でこの世界に舞い戻ればいいと思っていた。だけどな、ヒントとなるこの魔法陣が、これだぞ」

 投げやりな態度でサムソンが言う。
 そう言いたくなる気持ちもわかる。
 オレの希望、この世界にとどまり続けるためにヒントとなるもの。
 サムソンが言うように、元の世界に戻った後で、再びこの世界を訪れるための有力な手段。
 一つは古い国モルスス。
 そのモルススが手に入れかけていた魔法の究極。
 願いを叶える魔法。
 そして、もう一つは、この魔法陣。
 具体的に、そこには存在するのに、その実態は底知れない。
 この何千、いや何万……もしかしたら何十万という数の魔法陣が重なった、この積層魔法陣の謎を解かねばならないのだ。
 不確かなものと、膨大な物量。
 現実というのは、いつだって不確かなものだ。
 ついでに、無茶な障害を持ちだしてくる。
 まったく世知辛い。

 だけど、笑う。

 諦める気などないのだ。
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