召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十一章 究極の先へ、賑やかに

りすとらくちゃりんぐ

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 ――辞めてもらった。

 領主ラングゲレイグによる非情な一言。
 世話になったヘイネルさんが、リストラ。
 最初に会った時は領主補佐だった。
 ところが、その座は仮面を付けたフェッカトールという人に奪われ、無役になった。
 そして、最後にクビか……。
 諸行無常。心の中で、そっとため息をつく。

「それは……でも、退職金で悠々自適ですよね」

 彼の今後を思うと悲しくなるが、なんとか救いを思いつく。
 ところが、退職金という言葉はこの場にいる誰にも通じなかった。

「退職金とは?」

 ラングゲレイグは首をかしげていたが、領主補佐のフェッカトールは興味津々だ。
 退職金という言葉に、目がキラキラと輝いている。
 言葉の意味が通じていないのはわかるが、他人の退職金でここまで興味をもたれると引いてしまう。

「えっと、仕事を辞めた人に渡す金銭の事で……」
「あぁ、餞別のことか? そんなものはない、いや金を渡す理由がわからぬ」

 え? 金を渡さず放りだしたの?
 なんて酷いことを。この世界は敗者に厳しい。過酷だ。
 頑張って再就職まで貯金でしのいでほしい。

「少し待て、其方は何か思い違いをしてないか? ヘイネルは職を辞し、このギリアにおける魔術師ギルドの立ち上げを行うことになったのだ。近々、魔術士ギルドのギリア支部長となる」

 なんだ、栄転だったのか。良かった良かった。

「あぁ、そうだったのですね」
「ふー。其方、何か酷いことを考えていなかったか? まぁ、いい。そこで其方を呼んだ理由に繋がる」

 元気な姿を見たいとか……そんな理由ではないのか。
 よくよく考えれば、そんなわけないか。

「呼んだ理由ですか?」
「そうだ。魔術師ギルドの支部を作るにあたり、支部長および支部に所属するうち2人はスプリキト魔法大学の卒業生であることが求められる。そこでお前たち、ギリア支部へと所属してもらう」

 ラングゲレイグは有無を言わさない口調で言い切る。
 魔術師ギルドに所属か。所属したら、魔法をつかってお金儲けできるんだっけかな。
 それならば悪い話ではない。いや、むしろ大儲けできるチャンスだ。

「こちらは領主命令と考えてください。それから、所属すると言っても、魔術師ギルド員としての権利は一切ありません。逆に、仕事も報酬もありません」

 ところが、仮面をつけた領主補佐フェッカトールの言葉でオレの皮算用は振りだしに戻った。いわゆる名義貸しってやつか。

「命令であれば仕方ありません。お受けします」

 ラングゲレイグは悪い人ではない。大丈夫だろうと思い了承する。

「うむ。魔術師ギルド側がうるさくてな。ギリアに関わりたくない、とは言ってもお前たちにでかい顔されるのも嫌だ……まったく我が儘なものだ」

 すぐにオレが了承したことに満足したのか、ラングゲレイグは笑顔になった。
 オレが断ることも考えていたのかな。
 笑顔のラングゲレイグは言葉を続ける。

「これは新生ギリアの第一歩だ」

 彼は力強く言った。
 新生ギリア?
 何かラングゲレイグには計画があるらしい。もっとも、突っ込んでは聞かない。
 ヘタをして、これ以上の仕事を回されると大変だ。
 大きな計画なら、いずれ噂なんかでオレ達が知ることもあるだろう。
 ということで城での用事はおしまい。
 お土産にグラプゥをはじめとして食材を買いこみ、酒場で食事をとる。

「ついでにウィローラットの肉はどうだい? カリカリに焼いたお勧めだ」
「じゃ、それも」

 市場での品揃えも、酒場の料理も、王都付近とは全然違う。
 値段も安く、気楽な雰囲気がとてもいい。

「ワインは、本当に薄めでいいのか?」
「えぇ」

 こじんまりとした酒場でのやり取りにも、ギリアへ戻ってきたことを実感する。
 酒場で出されるお酒の飲み方も違って、同じ国なのにずいぶんと違うのだ。
 ギリア特有の甘辛いソースで食べる煮魚が美味しい。
 そうこうしているとミズキの用事も終わり帰る。

「ピーンと来ちゃったんだよね」

 帰り道、ミズキが楽しそうに語る。
 彼女の用事は、服のデザインだったらしい。あんまり興味ない。

「がんばれ」
「でも、サイズ……どうしようかな。ノアノア、少し大きくなったからね。私とチッキーが手直ししてるから、なんとかなってるけど。さすがに、そろそろ新調しなきゃね」

 ノアは呪い子としての特性があるため、職人が怖がってなかなか仕事を受けてくれない。
 だから、服を作るにも大変だ。
 こちらの世界は、服は基本オーダーメードだ。中古の服だって調整が必要だ。
 S・M・Lなんて服のサイズは無い。毎回毎回、採寸がある。
 特に、ノアはそれなりの立場って設定だから、採寸に微調整……服を作るだけでも大仕事だ。

「さて、前のようにスターリオ様に頼むか、それとも魔法……獅子の心臓を使うか」
「だね」

 そう思ったら、服の悩みは案外簡単に解決した。
 それは町へと行ってから2日後の事だ。
 新しく近所に引っ越してきた人から、招待状が届いた。

「挨拶させてやるから、5人の従者と一緒に来いとか言ってるな。何様のつもりだ」

 手紙に目を通したオレは反射的に愚痴る。

「何様って、帝国の皇女様っスよね。あっ、3日後って日付指定まであるっスよ」

 オレから手紙を引き取ったプレインが手紙を見つつ言う。
 帝国の皇女ファラハ。それが、新しいご近所さんだ。

「皇女様はね、キラキラしてて、王子様と幸せに暮らすの」

 愚痴るオレとは違いノアはなんだかテンションが高い。

「キラキラ?」
「うん。あのね、お姫様ってすごいの」

 ノアはお姫様に会えると喜んでいる。どうやら、王都で聞いた物語の影響を受けて、お姫様に憧れがあるようだ。
 そうして訪ねた近所の新築。
 オレ達の屋敷よりも一回り大きいその屋敷で彼女は待っていた。
 メイドに案内された先、真新しい屋敷の奥だ。

「わわっ」

 ノアが小さく歓声をあげる。
 絨毯の引かれた部屋には、沢山の花。セレブの部屋って感じで、テーブルに椅子、ちょっとした小物ですら豪華なものだった。
 花の香りがフワリと漂う部屋で、部屋に入ってきたオレ達を出迎えるようにゆっくり近づいてくる。
 先頭の金髪の女の子がファラハ様か。
 確かにノアがいうようにキラキラしているな。年は……ノアより年上か。中学生? いや高校生くらいかな。
 そして、すぐ後ろに2人。白髪頭の大柄な老婆と女の子だ。
 白髪頭の老婆は、戦士っぽいな。見下ろされてはいるが不思議と威圧感が無い。優しげにニコニコとしている。
 女の子は、ノアより年下っぽい。三白眼っていうのだっけかな、白目が大きい人……目つきが悪い。ふと目が合った。ギロリと鋭い視線だ。
 ファラハの妹かと一瞬思ったけれど、絶対違うな。なんか怖い。

「皆ぁ、今よぉ。しゃがんで」

 それから、近寄ってきた彼女達を前にして揃って跪く。
 タイミングはロンロの掛け声に合わせたものだ。

「お招き頂きありがとうございます。ギリア領民ノアサリーナでございます。金色彩る収穫の頃合い、それにも勝る眩しいお姿に、夜の闇を持参しなかった身を恥じる思いでございます」

 さらにノアがロンロのアドバイス通りの口上を述べる。

「イフェメトのファラハです。これより後は、よしなに」

 その言葉に、金髪の女の子が答えた。思った通り、この人がファラハ皇女か。
 決まり切ったやり取りなのだろうが、どうにも慣れない。

「立ち上がり。従者を紹介しなさい」

 続けて、ファラハの後にいる目つきの悪い女の子が、偉そうに言った。
 その言葉に、ノアがオレ達を紹介する。
 それが終わると、ファラハが後の2人を紹介した。
 目つきの悪い女の子がタハミネ。白髪頭の老婆がルッカイア。
 お互いの従者を紹介し終えると、次は2人で席についてお茶を飲むことになった。
 従者のオレ達は後で立ってみるだけ。
 挨拶が終わったらとっとと帰るつもりだったのに、まだ続くのって感じだ。

「では、天のカーテンをくぐり抜けると、鉄がミスリル綱に?」
「えぇ。銀ならミスリル銀に変化するのです。それがもう一つの星降りです」

 ノアはと言えば、ファラハとの会話が楽しいようだ。
 最初こそ緊張気味だったが、すぐにリラックスした様子で話をしていた。
 面白い話をしている。
 天のカーテン……オーロラに、鉄を投げ込むとミスリルになるのか。
 ドロドロに溶けた鉄を、魔法で上空に転移させてオーロラにぶつけるらしいが、少し見てみたい。
 もしかしたら、オレ達でも出来るかな。
 そして、服の話はその時に出た。

「では、どうでしょう……お近づきの印に、服をプレゼントするというのは?」

 ミスリルの話の次に、ノアの服が少し小さいという話題になり、そこにタハミネが提案したのだ。
 採寸なんかも、ファラハの専属職人がしてくれるらしい。
 せっかくの申し出だ。断るのも悪いし、受けることにした。

「そろそろお召し替えの時間です」

 ファラハとノアの話は、タハミネがこう言葉を挟むまで続いた。

「お姫様。キラキラしてたね」

 急なお茶会に、ノアは上機嫌だった。
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