【完結】男装の麗人が私の婚約者を欲しがっているご様子ですが…

文字の大きさ
12 / 26

12 アシュレイ視点

しおりを挟む
※アシュレイ視点



『自分の体を大切にしない人間が、立派な騎士になどなれる訳ないでしょ!』

ある少女にそう叱られた事がある。

訓練中、俺のことをよく思っていなかった伯爵子息が教官に隠れてナイフを忍ばせていた。
ちょっと怪我をさせるだけと、未熟なそいつは背後から俺の利き腕めがけてナイフを投げる。寸前のところで避けたつもりだなナイフは利き腕を軽く掠めた。大騒ぎにしたくなかった俺は周りに気付かれずにその場を離れ止血しようとした。もちろん投げたそいつはボコボコにしてやったが。

その時、偶然その場にやって来た少女に怪我を見られてしまったのだ。

『かすり傷程度で騒ぐなんて、騎士の恥だ』

テキパキと手当てをするお節介な少女に、当時から無愛想な俺はそう言ってやった。見ず知らずの女に手当てされる自分が恥ずかしくて、強がって少女に八つ当たりするしか出来なかった。そして、自分のことかのように泣くのを堪えながら俺を叱ったんだ。

彼女はこのことを覚えているだろうか……いや、覚えているはずがない。
俺が彼女を、グラシャ=ノーストスを好きになったあの瞬間を知るはずもないだろう。




*****

「ついに明日だな、お前の結婚パーティー」

ミハエルの結婚披露パーティー前夜、エマーソン家を訪れていた。久しぶりに男同士で語り合おう!と、ケインが強引にここへ連れてきたんだ。

「独身最後の夜、どうよミハエル」
「独身って……この間、挙式を済ませたんだから俺はもう独身ではないよ」
「まぁまぁそうだけど!明日からエリザベス嬢と住むんだろ?流石の俺たちも新婚さん引っ張り出して馬鹿騒ぎは出来ねぇよ」

ケインはケラケラと笑いながらダーツをする。

「しっかしこの間の挙式は良かったな!お前の奥さんめちゃくちゃ綺麗だったし。なぁアッシュ?」
「ああ」
「俺ちょっと泣きそうだったもん」
「ははっ、ありがとう」

ミハエルは照れながらそう言った。

ミハエルは俺と同じ騎士学校に通っていた。が、数年前に父親であるエマーソン侯爵が体調を壊しその代わりに領主の仕事を継ぐため学校を辞めた。ケインは元々騎士に興味はなく今は貴族学校でふらふらしている。だからこうして3人集まるのも本当に久しい。

「シルも呼べば良かったのにー!」
「「………」」

ケインの言葉に俺もミハエルもピタッと止まった。

「あれ?何お前ら、どしたの?」
「いやぁ、シルビアは流石に……ね、アッシュ」
「……ああ」
「何でだよー、俺らいつも遊んでたじゃん!まぁ最近は全然だけどさ、せめてこういう時くらい」
「ケイン、シルビアはもう立派な令嬢レディなんだよ?今までみたいに簡単に遊びに誘っては周りが変な誤解をするだろ?」

ミハエルは諭すように優しい口調でそう言った。

実のところ、シルビアには婚約者がいない。
彼女の両親であるバレイン男爵夫妻は娘のためにいくつか縁談を持ってくるものの、本人にその気がないらしく全て断っているらしい。もしこのまま時が過ぎてシルビアが独り身であり続ければ、夫妻は良からぬ噂がたつ貴族の元へ娘を送り出さなければならない。

「僕たちがシルビアと一緒にいれば他の子息たちはますます敬遠するだろう。そしたらもっとシルビアは一人になるよ」
「んー……でもさ、」
「そこまで言うならお前シルビアを娶ってやれば?」
「えっ、無理無理!父上に殺される!」

ケインは思い切り首を振る。

「まぁそうだよな、女には女の世界ってもんがある訳だし。俺らがヘタに首を突っ込めばそれこそ大怪我しちまうもんな!」
「そうだね。だからこそアッシュ」

ミハエルは俺へと向き直る。

「ちゃんと守ってあげるんだよ、グラシャ嬢を」
「無論だ」
「そうだぞ?愛しの"初恋の君"だろ?」

ケケッとからかうケインをきつく睨みつけた。こいつは昔からこの話で俺を馬鹿にしてくる。

「お前に言われなくとも分かってる」
「本当か?愛してるの一言でも言ったのか?」
「そんな簡単に言える訳ないだろ」
「ハァ?!馬鹿かお前、そんなんじゃすぐに飽きられて捨てられるさ!」
「お前じゃないんだから問題ない」
「あるね!大ありだ!」

ダーツで遊んでいたケインは真っ直ぐに俺の元にやって来て、ビシッと指をさす。

「はっきりしない男が一番嫌われるんだぜアッシュ」
「………」
「ホントに愛した女には、いつだってお前が好きだと囁きながら抱き締めるのが正解だ」

ケインの言っている事はいつもくだらない。でも、今回だけは正論だ。

俺はグラシャに伝えていない。
君が好きだ。
初めて出会った時から君に惚れている。と。
それでも、何も言わない俺のそばで微笑んでくれる彼女に甘えきっていた。
タイミング?シチュエーション?そんなものどうでも良いはずなのに。

「……恩に着る、ケイン」
「へ?お、おお」

明日のパーティー、俺はグラシャに告白する。
自分の想いを全てぶつけよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

ぱんだ
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【短編版】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化進行中。  連載版もあります。    ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    義務的に続けられるお茶会。義務的に届く手紙や花束、ルートヴィッヒの色のドレスやアクセサリー。  でも、実は彼女はルートヴィッヒの番で。    彼女はルートヴィッヒの気持ちに気づくのか?ジレジレの二人のお茶会  三話完結

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

姉の婚約者に愛人になれと言われたので、母に助けてと相談したら衝撃を受ける。

ぱんだ
恋愛
男爵令嬢のイリスは貧乏な家庭。学園に通いながら働いて学費を稼ぐ決意をするほど。 そんな時に姉のミシェルと婚約している伯爵令息のキースが来訪する。 キースは母に頼まれて学費の資金を援助すると申し出てくれました。 でもそれには条件があると言いイリスに愛人になれと迫るのです。 最近母の様子もおかしい?父以外の男性の影を匂わせる。何かと理由をつけて出かける母。 誰かと会う約束があったかもしれない……しかし現実は残酷で母がある男性から溺愛されている事実を知る。 「お母様!そんな最低な男に騙されないで!正気に戻ってください!」娘の悲痛な叫びも母の耳に入らない。 男性に恋をして心を奪われ、穏やかでいつも優しい性格の母が変わってしまった。 今まで大切に積み上げてきた家族の絆が崩れる。母は可愛い二人の娘から嫌われてでも父と離婚して彼と結婚すると言う。

不倫した妹の頭がおかしすぎて家族で呆れる「夫のせいで彼に捨てられた」妹は断絶して子供は家族で育てることに

ぱんだ
恋愛
ネコのように愛らしい顔立ちの妹のアメリア令嬢が突然実家に帰って来た。 赤ちゃんのようにギャーギャー泣き叫んで夫のオリバーがひどいと主張するのです。 家族でなだめて話を聞いてみると妹の頭が徐々におかしいことに気がついてくる。 アメリアとオリバーは幼馴染で1年前に結婚をして子供のミアという女の子がいます。 不倫していたアメリアとオリバーの離婚は決定したが、その子供がどちらで引き取るのか揉めたらしい。 不倫相手は夫の弟のフレディだと告白された時は家族で平常心を失って天国に行きそうになる。 夫のオリバーも不倫相手の弟フレディもミアは自分の子供だと全力で主張します。 そして検査した結果はオリバーの子供でもフレディのどちらの子供でもなかった。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

処理中です...