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しおりを挟む「単刀直入に言いますわね。今夜、お二人の結婚を皆様にご報告しましょう」
アシュレイ様の傷の手当てをしている時、エリザベスさんは満面の笑みでそう言った。
ミハエル様とケインは先に会場へと戻っているため、その部屋にはお医者様を含めて4人だけ。内緒話をするにはうってつけの場所とタイミングだ。
「「………え?」」
「ね?簡単でしょう?」
「ちょっ、エリザベスさん?!」
焦った私はアシュレイ様の顔色を伺いながら思い切り首を振ってしまう。
私たちが婚約者同士であるのは周知の事実。だからわざわざ大勢の前で言うつもりもないと思う。それに……。
「いくら何でも、その、急じゃないですか?」
「あら?ですが今日のゲストの中にはお二人が不仲だと思っている方もいるみたいですし。ここは堂々と宣言なさった方が宜しいと思いますよ」
ふふっと小さく笑った。
確かに、ついこの間までデートすらしたことない私たち。外聞的にはお家の為の割り切った関係だと思われてても不思議じゃない。
「……名案だな」
「アシュレイ様っ」
「俺が騎士学校を卒業し一人前になってからグラシャを迎えに行こうと思っていた……でも、これ以上君を悲しませるくらいならそんなプライドは捨ててやろう」
ポンポンと頭を撫でられる。
「俺と結婚するのは嫌か?」
「っ……そんな、絶対あり得ませんっ!」
涙声になり首を振ればまた優しく抱き締められた。
(嬉しい……どうしよう、顔がにやけちゃう)
想いが通じ合った今ではその言葉の意味も変わってくる。きっと今、私の顔は見っともないくらい緩みきっているはずだ。
「じゃあ決まりで良いですね?」
「ああ」
「では早速準備に移らないと!私もそろそろ会場に戻らないといけないですし、お二人には数人の使用人を付けさせますから」
そう言うと数人の侍女さんが部屋へと入ってくる。呆気に取られたままの私たちは、エリザベスさん同様ニコニコと笑った侍女さんたちに囲まれた。
「「「さぁお二人とも、お支度致しましょう」」」
*****
扉の向こう側が妙に騒がしい。
数時間前までいたパーティーももうすぐお開きになるのだろう。アルコールが程よく回った人たちの声が響いていた。
「中から合図があるまでこちらでお待ち下さい」
準備を終えた私たちに侍女さんの一人はそう言う。
中で何が行われているのか、どんな話をしているのかは分からない。それでも私たちはただじっと待っていた。
「グラシャ」
隣に立つアシュレイ様は優しく私の名前を呼んだ。
「俺は昔、ある少女に怒鳴られたことがある」
「えっ……と、」
(何故、急に昔の話を……)
「彼女は意地を張る俺を心配してくれた。自分の体を大切にしろと、そんなんでは騎士など務まらないと」
「……随分と厳しい言葉ですね」
「ああ。だがそれで目が覚めた、大切にしていたプライドなど実にくだらないものだ」
そっと手を取られ、私の指先に軽くキスを落とされた。
「っ!」
「あの日から今日まで、俺はずっと彼女を想っている。例え本人がそのことを忘れていたとしても、その思い出はずっと俺の中にあり続けるだろう」
「………まさか、それって」
私のこと?
そう聞き返そうとするが、記憶の奥底を探しても全く思い出せない。言ったような気がするが上手く言葉が見つからない。そんな私を察したのか、アシュレイ様は困ったように微笑んだ。
「申し訳ありません……その、私は」
「良いんだ、俺が君に伝えたかっただけだから」
アシュレイ様を見つめた。その優しい瞳に泣きそうになってしまう。
「愛してるよ、グラシャ」
「アシュレイ様……」
「だから、どうか俺の妻になってくれ」
(ああ……こんなに幸せな言葉を、まさか聞けるとは思わなかった)
家の為とかそんなんじゃなくアシュレイ様は私を妻にしたいと言ってくれる、それがこの貴族の世界でどれほど幸運なことだろうか。
抱き着きたい気持ちを抑えながら私は彼の頬へと手を伸ばす。
「はいっ……私を、貴方の奥さんにして下さいっ」
抑えきれない気持ちを真っ直ぐに伝えれば、アシュレイ様は本当に幸せそうに微笑んでくれた。
『さぁ!では、ご紹介致します!アシュレイ=スプラウト様とグラシャ=ノーストス様です!』
扉の向こう側から私たちを呼ぶエリザベスさんの声が聞こえ、ゆっくりと開き煌びやかな光が漏れ出した。
「行こうか、グラシャ」
「はいっ!」
アシュレイ様の腕に自分の手を添え、私たちはゆっくりと歩き出した。
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