19 / 26
19
しおりを挟む「すごい……」
私は呆気に取られることしか出来なかった。
「つ、捕まるなら大体倉庫だろ!そんなの証拠にならないさ!」
「あらそうでしょうか。いずれにせよ、捕まえた犯人に問いただせばおのずと答えは出ますよ」
「か、彼女たちが裏切るはずが……」
「あら、犯人が複数人だと知ってらっしゃるの?」
エリザベスさんは言葉巧みにシルビア嬢を追い詰めていく。
対するシルビア嬢の顔色はとても悪く、焦ったように早口で言い訳する。でも……当然周りの反応は薄く、彼女が窮地に立たされているのは目に見えて分かった。
「もういい」
会場がシンとなる。
「アシュレイ様」
隣に立つアシュレイ様は真っ直ぐシルビア嬢を見つめている。
自分のピンチを助けてくれたアシュレイ様に気を良くしたのか、シルビア嬢は涙目になりながら小さく笑う。
「アッシュ……やっぱり助けてくれたんだね」
「シルビア=バレイン、スプラウト侯爵家の後継者であるこの私が命ずる。今すぐにグラシャ=ノーストスへの謝罪をしろ」
冷たい言葉にシルビア嬢の顔が一変した。
「な……なんで、」
「俺はお前の無礼を何度も見逃してきた。何故か分かるか?こんなんでも幼少期を共に過ごした仲間だと思っていたからだ。身分差なんて本当は気にせず良い関係を続けたかった」
「じ、じゃあ!」
「でもそれをお前が壊したんだ。分かるだろ?お前は幼馴染である事を利用し好き放題し過ぎた。グラシャへの無礼な言動もその内の一つだ」
冷静に、淡々と真実だけを話すアシュレイ様。
その表情は怒りでもなく、呆れている訳でもなく、ただ無表情で……余計に恐ろしさを強調させている。
するとアシュレイ様の横からミハエル様、そしてケインがやって来て同じくシルビア嬢を見つめた。
「シルビア、そう言うことだ。僕たちも親友であるアッシュとグラシャ嬢を苦しめるお前をもう見過ごせない」
「同感だ。覚悟決めろよシルビア」
「ミハエル……ケインまで、そんな……」
ぺたんとその場に座り込むシルビア嬢。そこにはかつて堂々としていた麗人の姿はない。
「スプラウト家はバレイン家との絶縁を宣言する」
「エマーソン家も同じく」
「ジェランダ家もだ」
沢山のゲストが見届ける中で三人ははっきりとそう告げる。その瞬間、会場には自警団がやって来て座り込むシルビア嬢を強引に立たせた。そして、自警団の何人かは人混みの中からある男女を連れてシルビア嬢の元へと戻ってくる。
「父さん……母さん、どうして」
「この馬鹿娘がっ!」
「なんて事を……シル、貴女ほんとに……っ!」
父親である男性は激昂し、母親である女性は涙を流しながら顔を押さえている。見るからに人の良さそうな二人だが奔放なシルビア嬢を見るからにきっと厳しく育てなかったのだろう。そのツケが今まとめてこの家族に回ってきたのだ。
「これが最後のチャンスだ。グラシャに謝れ」
鋭く睨み付けるアシュレイ様にシルビア嬢はビクッと肩を震わせた。きっとこんなに怒っている彼を見た事がないのだろう、それまで飄々としていた彼女の態度が素直になった。
「も、申し訳、ございませんでした……ノーストス、伯爵令嬢様っ」
シルビア嬢に深々と頭を下げられバレイン男爵夫妻も同じように私に向かって頭を下げる。一時は彼女を恨んだりもした。でも、今は特別怒りも何もない。それはきっと私が今アシュレイ様からちゃんと愛されていると自覚したから……心に余裕が出来たのかも知れなかった。
「……もう貴女にお会いする事はないでしょうが、お体を大切にお元気で」
私から掛けられる言葉はせいぜいこのくらいだ。そして三人は自警団に引き摺られるように屋敷から出て行った。
一気に静かになった空気。
ひそひそと小声で話していた噂好きの令嬢たちも、引き摺られるようにして退出した彼らを見て言葉を失っている。
「アシュレイ様……」
「グラシャ、君がいなくなったと分かって俺は本当に怖くなった。どんな強敵と対峙した時よりも自分が怪我をした時よりも。もうあんな思いはしたくない」
そっと私の手を取るアシュレイ様は苦しそうに笑いながらそっと引き寄せる。
「今ここで誓う。もう君に辛い思いはさせない」
「っ!」
「だから俺の側にずっといてくれないか」
アシュレイ様は真っ直ぐな人。だからこの言葉が絶対に裏切られないと知っている。
私は大きく頷き、彼の胸に顔を埋めた。
「さぁ皆さまっ!ちょっとしたハプニングがありましたがそれもまた一興、今宵生まれ変わった二人に盛大な拍手をお送りくださいませ!」
エリザベスさんの声にハッとする。
(そうだ、今パーティーの最中っ!)
つい二人きりかと思ってて……。
周りを見渡せばじぃーっと私たちを見た後、わっと言う歓声と共に沢山の拍手が聞こえる。
「おめでとうございますっ!」
「お幸せに!」
えっと……とりあえずは、大成功なのかしら。
184
あなたにおすすめの小説
我慢しないことにした結果
宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。
和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」
同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。
幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。
外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。
しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。
人間、似た物同士が夫婦になるという。
その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。
ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。
そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。
一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。
他の投稿サイトにも掲載しています。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです
ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。
彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。
先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。
帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。
ずっと待ってた。
帰ってくるって言った言葉を信じて。
あの日のプロポーズを信じて。
でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。
それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。
なんで‥‥どうして?
幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!
佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」
突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。
アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。
アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。
二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。
婚約者が肉食系女子にロックオンされています
キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19)
彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。
幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。
そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。
最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。
最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。
結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。
一話完結の読み切りです。
従っていつも以上にご都合主義です。
誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
【完結】婚約相手は私を愛してくれてはいますが病弱の幼馴染を大事にするので、私も婚約者のことを改めて考えてみることにします
よどら文鳥
恋愛
私とバズドド様は政略結婚へ向けての婚約関係でありながら、恋愛結婚だとも思っています。それほどに愛し合っているのです。
このことは私たちが通う学園でも有名な話ではありますが、私に応援と同情をいただいてしまいます。この婚約を良く思ってはいないのでしょう。
ですが、バズドド様の幼馴染が遠くの地から王都へ帰ってきてからというもの、私たちの恋仲関係も変化してきました。
ある日、馬車内での出来事をきっかけに、私は本当にバズドド様のことを愛しているのか真剣に考えることになります。
その結果、私の考え方が大きく変わることになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる