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しおりを挟む「ふふふっ……あははっ!何よ、自分が浮気されてたからって負け惜しみしてるの?」
急に高笑いするラングレー嬢は私の腕をグッと引っ張る。目は完全に血走り、今にも噛み付いてきそうなくらい荒れていた。
「そうよね、だって貴女よりも私の方が何倍も女として魅力があるんですもの!どんなに綺麗でも男を悦ばした事がない貴女なんてただの人形よ!」
「ちょっと、痛っ……」
腕に食い込む長い爪。
痛みで顔を歪めても彼女は手を離す事なく、むしろもっと力強く握る。
「教えてあげましょうか?アルはね、何度も私を可愛いと言ったの!私が一番大事だって何度も……」
「黙れ」
振り払った手が頬を掠めた瞬間、力いっぱいラングレー嬢が引き離される。その衝撃で彼女の体はドスっと鈍い音を立てて床に転がった。
「ヴィンセント」
気付けば私はヴィンセントの腕の中に守られるように抱き締められていた。
「っ……ヴィジー、なにすんのよ」
「どれだけ醜態を晒せば気が済むんだ、エマ」
呆れるように言えば、私の顔をじっと見つめる。
「頬から血が出てる」
「あ……今さっき彼女の爪で引っ掻いたんだわ」
「すぐに医者に見せよう、君の綺麗な顔に傷が残ったら大変だからね」
「た、大丈夫よ!」
(ラングレー嬢の存在を完全に無視してる!)
私を心配するヴィンセントに笑いかけるも、床に倒れ込んだままのラングレー嬢を気にしてしまう。
「ちょっと!ヴィジー!」
「……うるさい」
「女の子を突き飛ばすなんて最低!謝りなさいよ」
ぎゃんぎゃんと騒ぐラングレー嬢。
でもヴィンセントは表情を変える事なくじっと彼女を見つめていた。そんな視線に耐えきれず次第に彼女のボリュームも抑えられていく。
「お前とはもう話す事はない」
「え……?」
「これが最後の言葉だ」
ヴィンセントは私から離れ彼女に歩み寄る。
「悪かったな、お前を好きになってやれなくて」
「「「え?」」」
その場にいた全員が固まる。
アルバートは目を大きく見開き、何が起こったか分からない様子でラングレー嬢を見ていた。
この状況を理解していたのはヴィンセントと、彼を見上げながら顔を真っ青にするラングレー嬢だけだった。
(好きになってやれなくて、って事は……ラングレー嬢は元々ヴィンセントが好きだったの?)
そしてヴィンセントは彼女に背を向ける。
するとどんな言葉をかけても気にした様子のない彼女が焦ったように手を差し出す。
「待ってよ、何で今更」
「………」
「わっ私がヴィジーを好きな訳ないじゃない!何それ、勝手に自惚れないでよ!」
「………」
「ねぇ何とか言ったら?!ねぇ!」
彼の背中に必死で訴えかけるラングレー嬢。それでもヴィンセントは振り返る事なくゆっくりと私に近づいてきた。
「お待たせ、シャロン」
「ねぇ!ねぇヴィジー!話は終わってな……」
「付き合わせて悪かった、手当をしてあげる」
「ヴィジー!」
徹底的に無視し続けるヴィンセントと、それでも必死に声をかけるラングレー嬢。その二人のやりとりがあまりにも切なすぎて、私は彼女から目を離せないでいた。
「え、エマ……もう帰ろう」
ずっと無視され続ける彼女を不憫に思ったのかアルバートが手を差し伸べるもその手を振り払う。
それまで強気でいたラングレー嬢は、まるで母親に置いていかれた子供のようにヴィンセントだけを見つめていた。
きっと彼女の心の底にはヴィンセントへの想いが残っていたんだ。でもそれが実らないと無意識に分かってしまい、寂しさを埋めるためにアルバートへ依存した。彼女がしきりに一番という言葉に執着していたのは、きっとヴィンセントの一番になりたかったという事なんだろう。
ヴィンセントに劣等感を抱いていたアルバート、そしてヴィンセントを愛するも振り向いて貰えなかったラングレー嬢。
心の弱かった彼らはきっとその傷を二人で慰め合っていたに違いない。
「行かないでよ、ヴィジー……」
ラングレー嬢の泣き声が聞こえる。
それでも、ヴィンセントが彼女を見ることは最後までなかった。
私はヴィンセントに手を引かれるまま、みんなを残してその部屋を出た。
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