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しおりを挟むそれからすぐに私とエドリックの結婚が正式に決まった。
というのも、エドリックの叔父にあたる前ユーフェリオ男爵を交えた食事の席で、いつものように暴走したお母様がどんどん話を進めていったのだ。母いわく『鉄は熱いうちに打て!』らしい。
すでに隠居している前ユーフェリオ男爵も『二人が決めたことなら』と快く了承してくれた。
結婚が決まり、私の生活は以前よりも目まぐるしいものになる。
結婚式の準備やお世話になった方々への挨拶回り、それから今度移り住むユーフェリオ領についての下調べも怠れない。
エドリック自身も階級を上げたようで、最近じゃ騎士団の宿舎で寝泊まりをするほど忙しいと手紙に書いてあった。
早速始まったすれ違い生活。
疲労で心が折れかけていたちょうどその時、あの男がやって来た。
■□■□■□■□■□
「どうして……」
見覚えのある金髪を見つけて思わず口元を押さえた。
「やぁカティ、久しぶり」
「何で……貴方がここにいるの、ドレイク」
あの日、確かに私は彼を拒絶した。
角の立たない言い方ではっきりと、なのに……。
「安心して、ちゃんと今日ここへ来ることは報せてあるよ」
「えっ?」
私には何の連絡も来ていない。というか仮に来ていたとしてもターニャが阻止しているはずだ。
「一体誰に……」
「あら、約束の時間よりも早いわね」
「っ、お母様?!」
後ろに立っていたお母様は穏やかな表情でドレイクを迎えた。
「本日はありがとうございます、おばさまっ!」
「まぁ、毎日のように連絡をもらってたらねぇ……」
「ごめんなさいっ!でも今僕、おばさましか頼れる方がいなくって……」
まるで子犬のような目で甘えるドレイクに悪寒が走る。
(なるほど、私じゃ話にならないと思って今度はお母様にいったのね)
いよいよドレイクも本気を出してきたという訳か。
「……まぁいいわ。話を聞きましょう」
「ありがとうございますっ!」
「カトレア、時間があるなら貴女も同席しなさい」
そう言ってお母様はスタスタと先に行ってしまう。
(……何を考えているの、)
私とエドリックの結婚をあんなに後押ししてくれたのに、今さらドレイクを招くなんて……もしかしてお母様はまだ諦めていない?
チラッと横目で見たドレイクの顔は勝ち誇ったようにニヤニヤしている。
そのまま無視し、足早にお母様の後を追った。
「それで?話ってなぁに?」
サロンに移動してすぐにお母様はティースプーンをくるくるさせながら話を切り出した。
突然すぎる質問に一瞬たじろぐものの、ドレイクはすぐにいつもの調子に戻して話し出す。
「……聞きました。カティとユーフェリオとの結婚話」
「あらそう。意外に広まるの早いのねぇ」
「っ、おばさまはその結婚に賛成なのですか?相手はあのユーフェリオですよ?」
……うん、イラっとするけどあえてスルーしよう。
「無愛想で人付き合いも悪い、まぁ伯爵になったみたいですけどそれも戦で成り上がったもんですし。乱暴な所は変わっていないですよ」
「……そう、」
「カティが可哀想だ!結婚はすぐに白紙に戻すべきです」
勝手に熱くなったドレイクは立ち上がり訴える。その目にはうっすら涙も……。
端から見れば、幼なじみの結婚を心配するいい青年。でも私はこれが彼の本心じゃないことを知っている。
「……勝手なこと言わないで。エドリックはいい人よ」
「カティ、いい加減目を覚ませよ。君はあいつに騙されてるんだ」
優しい口調のままドレイクは私の両肩をガシッと掴む。
力が入った手に眉をひそめるが、彼は力を緩めることも離すこともしない。
「カティはあの男の怖さを知らないんだ。気弱な君じゃ遊ばれて捨てられるのがオチだよ」
「っ……痛い、離して」
「君は世間知らずだからすぐ悪い男に利用されちゃうんだ。大丈夫、僕とレオナが絶対に守ってあげるから。だから大人しく言うことを聞いて」
ギリッと爪が食い込む感覚に恐怖する。
(この感じ……前と、一緒………!)
結婚当初、少しでも意見すればドレイクはこうして手に力を込めてきた。じわりとした痛みと長々と続く言葉でどんどん私の精神を蝕んでいく。
解放されたい、もう嫌だ……その気持ちが強くなって、最後にはもう全部どうでもよくなってしまった。
今だって微かに体が震えていた。
やり直すと決めてもあの恐怖が体に染み込んでいる。このままでは、また………!
「カティ、僕は心配だよ。ねぇ、こっちを見て?」
「っ……ぉ、ねが………助け、……!」
フッと意識を失いそうになる瞬間、誰かが肩に触れるドレイクの手を勢いよく引き剥がした。
「それじゃあドレイク教えてちょうだい?この子にぴったりのいい男ってのはどんな男なの?」
助けてくれたのは笑みを浮かべたままの……お母様だった。
「え?あ、いやぁ……まぁ」
「もしかして言えない?まさか今の貴方のように、女性の肩を押さえつけてペラペラ説教する男じゃないでしょうね?」
その言葉に急いで手を離したドレイクは気まずそうに視線を泳がせた。
「い、今のはちょっとムキになってしまって。ただ僕は、カティには優しくて彼女のことを理解している男の方が似合うと思って……」
「理解……そうね、大切よね」
「はいっ!」
ニッコリしたままうんうんと頷くお母様。
(やっぱりお母様はドレイクの味方なの?私のことは……本当にどうでもいいの?)
あの夜、私の気持ちがちゃんと伝わったと思ったのに。
「そこまで言うなら……ドレイク、貴方はちゃんとカトレアのことを理解しているのよね?ユーフェリオ伯よりもずっと」
「へ?も、もちろんですっ!僕ほどカティのことを分かっている男はいないですよ」
「なら、試してみましょうか」
そう言うと、お母様はパンと軽く手を叩く。
すると奥に控えていた侍女たちがてきぱきとテーブルの上にケーキを並べ始めた。
「こ、これは……」
「貴方がお土産に買ってきてくれた有名店のケーキたちよ。この中からカトレアの好きなケーキを一つ選んでちょうだい」
「え……か、カティの?!」
途端に顔色が悪くなるドレイクは、ひきつった笑顔でお母様に聞き返した。
(私の好きな……)
並べられたケーキを眺めながら、お母様が言わんとしていることをすぐに察した。
断言できる、この質問の答えは一つしかない。
「さぁ、証明してちょうだい?」
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