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『ホリックよぉ、どんなに腕が良くてもお前は絶対に出世は出来ないぞ』

一般兵になったばかりの頃、同僚の男はゲラゲラと笑いながら言ってきた。

平民出身だからか?そう聞き返すが、男やその仲間たちはニヤリと笑い首を振る。
そんな奴らが腹立たしくて、憎かった。

なんだ……俺には一体何が足りない?

どんなに剣の腕を磨いても、鋼のような身体を作り上げても俺は変わらず一般兵のままだった。

どいつもこいつも馬鹿にしやがって…!

そんな時、ある噂を小耳に挟んだ。

とある令嬢が結婚相手を探していると。しかも国王陛下と縁のある人物らしい。
相手の条件は不問、つまり貴族だろうが平民だろうが彼女のお眼鏡にかなった男が結婚相手に選ばれる。
いかにもお貴族様らしい贅沢な遊び……だが、それならば俺にもチャンスがある。

貴族になれば誰も文句は言わないはず。
そのためなら好きでもない女と結婚するくらいどうってことないさ。

だが初めてニーナと出会ったとき、俺の安っぽい考えは打ち砕かれることになる。
それはあいつの目だ。
ガラス玉のような目が俺の腹の底まで見透かしているようで……俺はつい、彼女に暴言を吐いてしまった。
あぁ、終わった。
見合いの場で暴言を吐く男なんて言語道断。そのくらい俺にも分かる。だがニーナは……

『ふふっ、威勢がよろしいこと』

そう微笑み、俺を婚約相手に選んだ。

そこで気付けば良かったんだ。
あいつは……ニーナは、少しいると。





■□■□■□


何故ここにニーナがいる?
国を追い出され、今頃どこかの国でのんびり過ごしていると思ったのに……

「ハハッ!わざわざお嬢さんから会いに来てくれるなんて、俺は運が良いっ!」

魔王の楽しげな声が聞こえる。
そんな声にも一切反応せず、ニーナはゆっくりと俺に近付いてきた。

「この男を殺したら探しに行く手間が省けた!おや、あのうるさい弟子どもはいないのかァ?俺に会いたくて単身やって来てしまったのか」

上機嫌な魔王に対し、ニーナの表情は変わらない。
ニーナは俺の側にやって来ると汗で髪が貼り付いた額にそっと触れた。

「お労しいですね、ホリック様」

久しぶりに聞いた彼女の声は瀕死の俺にもよく届く。俺の髪をかきあげるとニーナはそこに自分の額をピトっと当てた。
すると眩い光があらわれ、瞬く間にそれは俺の全身を包み込む。そして損傷した骨や臓器、体の至るところがあっという間に回復していった。

間違いない、この感覚……回復魔法か。

アリスが何十時間もかけて治した傷が、たった数秒で完治する。これがニーナの本当の力なのか。

「ニー……、ナ……げほっ、ぅっ!」
「無理なさらないで下さい。一気に全回復させましたから体が慣れてないのです」

トントンと背中を擦られてようやくゆっくりと呼吸が出来た。

「国が……魔物が、迫ってきている…、」
「ご安心を。エイとモランをそちらに向かわせました。恐らくもうそろそろ片付く頃合いかと」
「そう、か……、」
「国民たちは市街地の方に集めてシルフィや他の魔法使いたちに魔法壁を張らせています。万が一、攻撃が城壁内に及んだとしても被害者は出ないでしょう」

ニーナの報告に言葉が出ない。
圧倒的な力の差を見せつけられ、俺のプライドは再び粉々になってしまう。

ゆっくりと起き上がろうとするが腕に力が入らず、ズルっと手を滑らせたところをニーナに支えられた。

「っ……すまない、」
「いえいえ。もうすぐこの大神殿も崩れるでしょう、ホリック様は一度……」


「おいおいおいおいおいおいおい」


低い声と共に閃光が地面を走る。
真っ直ぐに俺たちを狙った光は、当たる直前に二手に分かれ後ろの壁にぶち当たった。
何かが焦げるような臭いと衝撃に、俺は再び視線を正面に移した。
そこには眉間に筋を立て怒り狂う魔王が……

「俺を無視するなんていい度胸だな、お嬢さん」
「………」
「いつもなら許してやるところだが今回はダメだ。俺の前で他の男を気遣うなんて許すわけ無いだろ、さっさとそのゴミ虫をそこに捨てろ。もう一度言う、さっさと……」


バァンっ!!!


魔王が何かを言い終わる前に再び閃光が現れた。さっきよりも威力は高く、それでいて物凄いスピードで魔王めがけて飛んでいく。
案の定、再びそれは弾かれるように上へとかわされ天井がガラガラと音を立てて崩落していった。

「まぁまぁ、本当に貴方という存在は」

落ちてくる砂埃を軽く払い、ニーナはニッコリと見惚れるような笑顔を見せる。


「本当に気持ち悪いのでさっさと私の前から消えてくださいな」

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