8 / 27
08 ジュライア視点
「何なんだあの女は!」
自室に戻った後力いっぱい扉を閉める。
あまりに苛つきすぎて呼吸が荒れ汗も吹き出る。
私が稼いだ金?
プレジット家の当主は僕だ!
なのに久々に帰ってみれば食事の用意もしていないし、使用人達は完全にクロエの言いなりになっていて僕に気を遣おうとしない。それどころか若い侍女なんかは睨み付けてくる始末だ。
「くそっ!」
今思えば出会った時から気に食わない女だった。
結婚を申し込む為あいつの家に行った時、クロエは人ごとのように今後の話を聞いていた。
まるで僕の事なんか最初から興味がないとでもいった態度で、淡々と両親からの話に頷いているだけ。
「こんな筈じゃ……っ!」
正直、彼女は貴族令嬢の中でも美しい方だ。
人形のようにバランスの良い顔と身体、没落寸前の子爵令嬢にしておくには勿体ないと思った。
僕に尽くせばそれなりに愛してやらないでもない。
もちろんヘレンの次に、だが。
デスクの上を見れば下らない書類が山積みになっている。
これはクロエが寄越した仕事のほんの一部、こんなもの使用人がやればいいのに……。
『旦那様、これを終わらせれば給金をお出しします。愛する人に会う為にしっかり働いて下さいね』
悪魔のような笑みで言うクロエにゾッとした。
金のため……そう、彼女に会う為だから仕方なく言うことを聞いてやってるだけだ!
「ジュライア様、ようやくお会いできました!」
ヘレンがいる娼館を訪れたのは僕が屋敷に出戻ってから3ヶ月経った後だった。
「すまないヘレン……ちょっと仕事がね」
「あたしすっごく寂しかったんですよぉ?今まで毎日会いに来てくれたのにぃ」
そう言ってぎゅっと僕の腕に抱き付く。
貴族令嬢には考えられない薄手の洋服のせいでダイレクトに肌の柔らかさが伝わる。
上目遣いも可愛い。
拗ねた顔も全部可愛い。
「今日はお泊まりしますよねぇー?」
「いっいや、家に帰るよ」
「えぇー?!一緒に居てくれないのぉ?!」
流石に1日彼女を拘束なんて出来ない。
少なくとも今日持ってきた3ヶ月分の賃金では無理だ。
「……じゃあ今度街にお買い物に行きたぁい」
「すまない、仕事があるんだ」
「美味しいもの食べにデートしよ!」
「……ヘレン、ごめん」
ただ謝る事しか出来ない。
ヘレンと会う時は基本レストランに行った後にショッピングして、その後甘い夜を過ごすのが定番だった。
それも当分出来ないだろう……。
「……ジュライア様、もしかしてヘレンの事嫌いになっちゃったの?」
うるうると大きな瞳で見つめられる。
ああ、そんな顔をさせたくないのに……!
僕はヘレンの身体を力いっぱい抱き締めた、なかなか会えない分彼女のぬくもりが凄く温かい。
「そんな事ない!ヘレン、君としたあの約束だって忘れてないよ」
そう、これは2人だけの大切な約束。
3年後ヘレンは娼館での借金を払い終え自由の身になる。
そしたら彼女をプレジット家に迎え入れるつもりだ。
可哀想なヘレン、両親が亡くなり一人ぼっちの彼女は仕方なくここで働いているんだ。本当はこんな仕事嫌だろうに……。
「嬉しい!私、早くジュライア様の正妻になりたい」
ぎゅうっと抱き付く彼女に愛しさが込み上げる。
今すぐにでも彼女を妻にしたかった。
でもその障害は思った以上で、まず父上はヘレンの存在を認めなかった。娼婦は貴族に向かないと言って首を縦には振らない。
だが、今やプレジット家の当主はこの僕だ。
流石の父上も認めざるを得ないだろう。
「ねぇジュライア様」
甘い声が聞こえ顔を向ければ軽いキスを落とされる。
見上げる顔はさっきまでの可愛さから一変、頬を赤らめ色っぽく映る。
「久しぶりに会えたから、今日はいっぱい愛してねぇ?」
まるで発情した雌のように媚びる彼女にゾクっとする。
彼女は僕がいないとダメなんだ。
失いかけていた男としての自信が彼女によって復活する。
「愛してるよ、ヘレン」
彼女に愛を囁けば天使のような笑顔が見れる。
あの女とは……クロエとは大違い。
そのままベッドに彼女を押し倒し柔らかい肌に口付ける。
ふと今日庭先での出来事が脳裏を過ぎる。
若い男相手に笑顔を見せる妻、何故このタイミングで彼女を思い出してしまうのか分からない。
「ジュライア、さまぁ」
甘いヘレンの声と匂い。
なのに僕の頭にはあの高飛車な妻の顔がチラつく。僕には見せた事のない笑顔で、今日も彼女はあの男と話しているのだろうか。
「……くそっ」
何もかも消してやる。
僕は再び目の前の快楽に身を預けた。
あなたにおすすめの小説
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
殿下の御心のままに。
cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。
アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。
「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。
激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。
身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。
その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。
「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」
ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。
※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。
※シリアスな話っぽいですが気のせいです。
※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください
(基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません)
※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして
Rohdea
恋愛
──婚約者の王太子殿下に暴言?を吐いた後、彼から逃げ出す事にしたのですが。
公爵令嬢のリスティは、幼い頃からこの国の王子、ルフェルウス殿下の婚約者となるに違いない。
周囲にそう期待されて育って来た。
だけど、当のリスティは王族に関するとある不満からそんなのは嫌だ! と常々思っていた。
そんなある日、
殿下の婚約者候補となる令嬢達を集めたお茶会で初めてルフェルウス殿下と出会うリスティ。
決して良い出会いでは無かったのに、リスティはそのまま婚約者に選ばれてしまう──
婚約後、殿下から向けられる態度や行動の意味が分からず困惑する日々を送っていたリスティは、どうにか殿下と婚約破棄は出来ないかと模索するも、気づけば婚約して1年が経っていた。
しかし、ちょうどその頃に入学した学園で、ピンク色の髪の毛が特徴の男爵令嬢が現れた事で、
リスティの気持ちも運命も大きく変わる事に……
※先日、完結した、
『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』
に出て来た王太子殿下と、その婚約者のお話です。
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
〖完結〗私を捨てた旦那様は、もう終わりですね。
藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢だったジョアンナは、アンソニー・ライデッカーと結婚していた。
5年が経ったある日、アンソニーはいきなり離縁すると言い出した。理由は、愛人と結婚する為。
アンソニーは辺境伯で、『戦場の悪魔』と恐れられるほど無類の強さを誇っていた。
だがそれは、ジョアンナの力のお陰だった。
ジョアンナは精霊の加護を受けており、ジョアンナが祈り続けていた為、アンソニーは負け知らずだったのだ。
精霊の加護など迷信だ! 負け知らずなのは自分の力だ!
と、アンソニーはジョアンナを捨てた。
その結果は、すぐに思い知る事になる。
設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。
全10話で完結になります。
(番外編1話追加)
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。全て読ませて頂いております。ありがとうございます。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」