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しおりを挟むそれからまた時が過ぎて。
今の私はというと……
「クロエしゃまー!」
「ふふっ、そんなに急いで走ると転んじゃうわよ」
芝生が一面に広がり爽やかな風が吹き抜ける。
あれから離縁の手続きは滞りなく完了。
最後までジュライア様は渋っていたが全てを理解した義両親の圧力によってサインをしてくれた。
だけど一度だけ、離縁後私の実家にジュライア様が突撃してきた事もありその時は流石に大変だったわ。
夜中に訪ねてきては復縁を迫ってきた。
最終的には騒ぎに駆けつけた自警団に取り押さえられ強制的に連行されたが、あの時の恐怖は今でも忘れられない。
『クロエ……君に惹かれていたのは本当なんだ』
去り際、ジュライア様は私の顔を見る事なく呟く。
あれは本心だったのか、それとも最後の悪あがきなのかは分からない。でも……少なくとも彼の表情は切なく今にも泣きそうだった。
ジュライア様の突撃が決め手となり、誓約書に書かれた『離婚後、決して相手に復縁を迫らないこと』の文言通りプレジット家は全財産を失った。
そして私はその資金を全て孤児院に寄付した。
「クロエしゃま、一緒にお絵かきしよー!」
「だめぇ!クロエしゃまはこれからお花のかんむり作ってくれるのぉ!」
休日は決まってこの孤児院を訪れて子供達と遊ぶのは私にとっても至福の時間だった。
そしてここにはあの時の赤ん坊も預けられている。
結局ヘレン嬢はあの子を迎えに来なかった。
伯爵家の後継者になれないと知るや否やあの子を捨てて行方をくらましてしまった。
でも……私はそれで良かったと思う。
愛してもらえない親の元にいるよりも、同じ境遇で育った子達と過ごす毎日の方が為にはなるでしょう。
「さぁさぁ、まずはみんなで何して遊びましょうか」
「ねぇクロエしゃま、あそこにいるのはだぁれ?」
「あそこ?」
クイっと私の裾を掴みその子は孤児院の入り口を指差す。
顔を上げそちらを見れば思わぬ来客に目を見開いた。
「カイ……」
風で乱れた黒髪をかき上げる姿に心臓がドクっと鳴った。
私の存在に気付いたのか小さく微笑みながらゆっくりとこちらに近づいて来る。
「久しぶりですね」
「……ええ、」
「全てが終わったはずなのになかなか捕まらないから避けられているのかと思いましたよ」
嫌味のように言うカイにビクッと肩が反応する。
まさか……この間から何となく気まずくて連絡出来なかったの、怒ってるのかしら。
未だに視線を合わせようとしない私とカイに周りの子供たちは興味津々なのかグイグイと腕を引っ張る。
「ねぇねぇクロエしゃま、この人だぁれ?」
「クロエしゃまのこいびとぉ?」
「カッコいいねぇ!結婚するのぉ?!」
特に女の子たちは目をキラキラさせながら質問攻め。
男の子たちはさほど興味のない子や何故かカイを睨み付けてる子に分かれた。
「お兄さん、クロエしゃまの事すきぃ?」
一人の女の子がカイの元へ駆け寄り訪ねる。
この年の子は特に恋愛話が好きだ、特にお姫様と王子様の物語なんて。
一瞬カイは私をチラッと見た後、ニヤリとまた意地悪く微笑みその女の子の頭を優しく撫でる。
「ああ、愛してるよ」
「なっ!」
「「「「きゃーーーー!!!」」」」
子供相手に何恥ずかしげもなく言ってんのよ!
「だから可愛い お嬢さんたち、クロエお姉さんと二人きりにしてくれるかな?」
「「「「いいよぉーーー!」」」」
必殺女殺しの笑顔は年齢関係なく女子たちの心を鷲掴みにする。そして女の子たちは男の子たちの手をグイグイ引っ張り孤児院の中へと戻って行ってしまった。
「………」
「………」
気付けば二人きり。
私は未だに視線を逸らし続けた。
「また無視ですか」
「だ、だって……貴方よく恥ずかしくないわね」
「はい。この日を待ち望んでいたんで」
あっけらかんと言うカイに苦笑する。
ホント、私ばかり振り回されてる気がするわ。
段々と緊張も溶け、私は側のベンチへと腰掛ける。
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