人間ですが正妻にだってなれます

失くしもの

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特殊な結界とイーヌオの身体の秘密

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 帝宮はどこもかしこも隅々まで手入れが行き届いており、今日も美しい。
 そんな帝宮の中庭を眺めながら玉里院の通路を歩き、今日はひとつ気合いを入れてジュンシーさんとお話をしようと思っている。
 あの人の筋力やら腕力ではいつ如何なる間に骨が粉砕されるか分かったものじゃないが、悪い人じゃないことは明確なため仲良くなっておきたい。

 なんと言っても最強らしいし。


 ジュンシーさんの住む武楼殿は武神であるジュンシーさんの肉体を鈍らせないために沢山の鍛錬道具があったり、稽古場、道場があったりで構造が少し分かりにくくなっている。それにジュンシーさんはジっとしているのが苦手な性なので大抵外にいる方が多い。中庭の池の黄金の錦鯉に「金黒(ジンフェイ)」と名付けて日夜話しかけているらしい。

「あれ、確か武楼殿ってこの方向だったよね??」

 なにせこの玉里院だけでも有り得ないほどの敷地の広さがあるのでどっちがどっちだか分からなくなるのが常。

「とは言え勘で突っ切って結局違う~なんてのも嫌だしなぁ…」

 僕がそんな事を思いながら立ち尽くしていると、後ろからゾロゾロと足音が聞こえてくる。
 僕は、まさか…と思って後ろをゆっくり振り向く。
 やっぱりそう。この玉里院の中でこんなに大量の侍女を連れて歩くのはイーヌオさんだけ。

「おいそこの人間。お前は私の行く手を阻むつもりか?」

「あは、あはは~御機嫌ようイーヌオさん( ˊᵕˋ ;)良ければ武楼殿への方向を教えて頂いても…」

 僕が言い終わるその前に、イーヌオさんは白銀の骨組みで出来た扇子を僕に振りかざした。

 元々武器では無いものの、骨組みの細さ的にも力のまま振り下ろされてしまうとかなり大きな傷が着くに違いない。
 僕は為す術なく目を瞑っていた
 数秒後には頬に痛みが……来ない。

 どういうわけかゆっくり目を開けると、目の前には屈強で精悍な男性が仁王立ちし、人差し指だけでその扇子を止めていた。
 イーヌオさんは、華奢ながらも立派な男性としての筋力も腕っぷしも携えている。そんな彼の力を指1本で止めるとは一体誰が…


「相も変わらず筋がぶれていて力の掛け方がなっていない。この俺が稽古をつけてやろうか?」


「ジュンシー…お前また邪魔しやがって…」


 目の前に立ち、僕を庇ってくれていたのはジュンシーさんだった。
 ジュンシーさんはイーヌオさんとは犬猿の仲なのか火花が上がりそうな、という比喩がまさか現実になってバチバチと互いを睨みつけ合っている。


「私は華やかさと美しさ、強欲の神だから、生憎剣術を身につける必要はなくてね」


「はっ…笑  《強欲の神》などとよく自分で言えるものだな」


 曲がりなりにもお互いが神で、一触即発のこの雰囲気。神同士の争いなんて想像がつかない。

 頼むから穏便にぃ…( > < )


 この2人の圧で押しつぶされそうになった頃合。


「これ」

 誰かが扇子でぽんっとジュンシーさんの頭を軽く叩く。


「争い事は何も生まないと教えたでしょう」

 このおっとり口調は、ファンさん!!!


「ふん、俺は悪くありません(-ω-´  )」


 ファンさんには逆らえないのか、ジュンシーさんは悔しそうな顔をしてぷいっとそっぽを向いてしまった。


「爺が…」

 イーヌオさんはそれだけ言って華生殿の方へそそくさと行ってしまった


「はぁ…助けてくれてありがとうございます。」

 イーヌオさんの姿が見えなくなるまでその後ろ姿を見て、角を曲がって消えたところで2人に感謝を伝えるため振り向いた。


「じ、じじい…ඉ_ඉ」


 なっ、泣いてる?!?!


 振り向いた先には大号泣をして三角座りをしているファンさん。

「実はファンさんは妃の中でも最年長で、3000歳。本人もその事を凄く気にしているんだ…(´-ω-)」

 ジュンシーさんがそっと耳打ちして今こうやってファンさんがわんわんと大泣きしている理由を簡潔に教えてくれた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 {武楼殿}

 あの後、身体中の水分が枯渇しそうな程涙を流すファンさんをなだめ、3人でジュンシーさんの武楼殿で
 お茶を飲みながら雑談をしていた。


「あ、そういえばリェンチェ、玉里院にきて何か体の不調は無い?」

 談笑の最中、「あ、そうだ」と言わんばかりにファンさんは僕の体のことを心配して尋ねてきた。
 急にどうしたのだろうとは思うものの、普通に返答する。


「いえ、特に異常はありませんよ?何故です?」


「あ、殿下から聞いていなかったのか。実はね、玉里院には殿下(シユ)の強い仙術で特殊な結界が張ってあるんだよ。
 
それは、男でも子供がつくれる様になる仙術でね。人間なら尚更この強い仙気に滅入ってしまうかと思っていたけど、君は私が思うよりうんと丈夫らしい(*´˘`*)」


ほへぇ~…    と相変わらず神界の世の理からの逸脱ぶりに感嘆していた僕。
すると、ガタンッッ!!と音を立ててジュンシーさんが立ち上がる。


「これ、そんな音をたててはいけません。尊い身であることに自覚を持って、どこに出しても恥ずかしくないようにーーー」

「そう言えばな!!」


ニッコニコのジュンシーさんはファンさんのお説教を全無視して話をし始める。
ファンさんはやれやれと頭を抱えている。


「イーヌオは、元は天界で男娼をしていた男でね。地位と権力に貪欲なあいつは《放蕩の男色皇太子》の殿下の噂を聞いた時に、殿下の妃になって地位を掴み取るために、わざわざ修行をして中仙の等級を獲得し神界に昇ってきた。最初は神界五大美神と謳われており、殿下とも良好な関係を築いていた。
そんなある日、イーヌオは殿下の寝殿である輝光殿キコウ)に侵入。殿下に強い媚薬を飲ませ自らを襲わせる。が、その際殿下の仙術が中途半端にしか馴染んでいなかったためにイーヌオは生殖機能を失うし始末。殿下のお父上である帝君はイーヌオを死罪に問おうとしたが、そこを殿下が助ける形で妃に娶られた。
成り行きが成り行きだからイーヌオと殿下はあまり良い夫婦仲とは、お世辞でも言えないけどな。」


と、ジュンシーさんは軽くイーヌオさんの過去を説明してくれた。

「殿下の一番の寵妃(寵愛を注ぐ妃)はまぁ間違いなくファンさんだろうね!!」

ジュンシーさんは力強くそういう。
そのあまりの急な発言にファンさんは驚いてむせている。

「恥ずかしいからそういう事言うの辞めてくれないかな?!」


どうにも元は教え子と師という関係だったがために、そこから恋仲に発展したという事実が本人自身恥ずかしくて堪らないらしい。


「私は決して教え子をそういう目で見るような卑しい神ではない。正真正銘文学の神だ。私は決して教え子をそういう目で見るような卑しい神ではない。正真正銘文学の神だ。私は決してーーーー」


ファンさんは一生懸命に自分にそう言い聞かしている。
分かる。多分ああいうところこそが殿下のお気に入りポイントなのだろう。


「俺と殿下は、熱く硬い友情で結ばれた戦友ってところだな!!殿下も分類するなら武神だし、殿下の太刀筋はなかなか見事だ!」

「………ジュンシーはこんなこと言ってるけど、最初殿下に敵意剥き出しだったんだよ((ボソッ」


ファンさんが「こいつまじか…」みたいな目をした後そっと僕にそんな事を耳打ちしてきた。

「そーりゃそうだろ!最初は誰が男となんて結婚するか!!って思ってたよ!!」


どうやら聞く話によると、ジュンシーさんと殿下の結婚は政略結婚らしく、ジュンシーさんの上の名は「リ」というのだけど、このリ家は天界から神界にかけてずらりと名を馳せており、皇族の次に強い力を持った名武神一家で、そのリ家と皇族の繋がりを更に強固で確実なものにするためジュンシーさんが嫁に出されたらしい。
勿論、堅実なジュンシーさんは最初は《放蕩の皇太子》なんかに嫁ぐのはぜっっったいに嫌だったらしく、仕方なく妥協案として「自分の剣に勝てれば結婚してやる」といい、神界の総武将ともあろうジュンシーに勝つことこそは出来なかったもののジュンシーは殿下の見事な剣技に感心してそれで結婚したらしい。


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