隻腕の聖女

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王の野望編

第7話

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2日も経つと私たちの怪我も癒えた。
その間、アインの村にお世話になっていたのだが、
この村にとって、ザーロは厄介者だったようで、
それを追い払った私たちは、とても親切にしてもらえた。
もっとも、ザーロが悪魔だと気付いていた人はいなかったようだが。

バーの外から様子を伺っていた野次馬から私達のの様子が広まり、
「悪魔を浄化する聖女」として、ここでもまた慕われることとなったのだ。

村で過ごしている間にアリウスが合流した。
そろそろ次の悪魔を探しに旅立ちたかったが、私たちは途方に暮れていた。
悪魔を探そうにも手掛かりがない。
仮に居場所が分かったとして、倒すことができるのだろうか。
「神託では、あれは使い魔だと言っていた。きっと悪魔の中でもそんなに強くなかったんだと思う。」

「悪魔か。にわかには信じ難いな。」
アリウスは難しい顔をしていた。

「実際に見ても未だに信じられない。あれは夢じゃないんだよな?」
ガイツは不安そうに私に聞いてきた。

「夢だったら怪我なんてするわけないし、実際に村の人達も見てたでしょ?」
私自身にも言い聞かせるように言った。

「ザーロといったか?聞いたことない名前だ。
悪魔といえば十邪星だが、知っているか?」
アリウスはやけに悪魔に詳しそうだった。

「小さい頃におとぎ話で聞いたことがあるような気がするけど。」
私は小さい頃の記憶をたどった。
確か、名前は忘れてしまったけど、神様を裏切って新しい世界を作った使徒がいて、
それに賛同した9人の使徒が集まった。
その十人の使徒たちは神様から追放されて、と呼ばれるようになった。
悪魔の作った世界は地獄と呼ばれ、
破壊することができない丈夫な門、によって隔離された。
やがて彼らはそれぞれに軍団を作り、十邪星と呼ばれて恐れられるようになった・・とか。

「ウルガリウス、ディメイア、ルザーフ、バルゼビア、
リヒヤール、アルケス、リスバート、ロスタート、ヴェリ、シロエル、の十人だ。」
アリウスがすらすらと名前を挙げる。

「随分詳しいのね?」
私はアリウスがあまりに詳しいので少し怪しさを覚えた。

「これはあまり外には出ていない話だが、
王は地獄門を開けようとしたことがある。」
アリウスの言葉に、私は驚きのあまり言葉を失った。

「強大な力を得ようとして地獄の悪魔の手を借りようとしたのだ。
結果は私も知らないのだが。
ともかく、そのせいで王はおかしくなってしまったのではないかと、
私は考えている。」
アリウスが言っていた王の異変の心当たりとは、まさしく悪魔のことだったのだ。

「実は私も神託で聞いていたの。王は悪魔だ、って。」
私はアリウスにあの不気味な神託のことを伝えた。

「本当か?ますます地獄門の一件調べてみる価値があるな。
今度、町についたら部下に調べさせるよう連絡してみる。」

「王の背後にきっと恐ろしい悪魔がいるかもしれない。もっと力を蓄えなくちゃ。」
十邪星が王を操っているかもしれないのだ。少し怖くなってきた。

「バルゼビア・・・バルゼビアか!
ザーロが言っていた。バルゼビアの配下だって。」
ずっと何かを考えこんでいたガイツが言った。

「どうやら、本当にとんでもないことに足を踏み入れてしまっているのかもな。」
アリウスは深くため息をついた。

悪魔がこの世に蔓延っているのだろうか?いつから?
悪魔に心を奪われてしまったのは、王だけではないのかもしれないのだ。
私にはそれも怖かった。

「とりあえず北のツヴァートへ向かおう、この付近では一番大きな街だ。」
私はアリウスの言葉に頷くと、次の悪魔を探しにアインの村を旅立った。
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