隻腕の聖女

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王の野望編

第33話

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翌日、私が目を覚ますと、ガイツは静かにじっと天井を見つめていた。
「ガイツ、目を覚ましたのね!」
私は嬉しくてガイツに抱きついた。

「イヴこそようやく目を覚ましたか。
 激闘の後だから無理に起こしちゃ悪いと思ってな。
 ずーっと黙ってるのもしんどかったよ。」
ガイツは力ない笑顔で言った。
無理をして明るく振舞っているのだろう。

「ごめんなさい。私のせいで、こんなこと・・・。」
私は言葉に詰まってしまった。

「おい、やめてくれよ。
 これは悪魔との戦いの名誉の負傷だ。
 俺はあの時、死すら覚悟していたんだ、
 命があってよかったよ。
 それに、無力な俺が、少しでも聖女様の力になれて、
 誇らしいと思っていたところなんだ。」
今度はしっかりと私の目を見てそう言った。
その言葉に私は救われた。

「それよりも、俺が考えていたのは、
 この先イヴには着いていけないかもしれないってことだ。
 兵長から頼まれたんだけどな。」
ガイツは涙を堪えながら悔しそうに言った。

「あの時、失望したって言ったけど、
 それは、あの人が俺にとって憧れだったからなんだ。
 俺があの部隊に入ったのも、アリウスさんがいたからさ。
 俺にとっての英雄だった。
 それなのに悪魔と通じていたなんて・・・。
 
 冷静に考えれば、あの人の事だから、
 なにか重大な意味があったのかもしれないよな。
 あんなこと言って、
 こんなことになって、
 イヴにも兵長にも本当に申し訳ないなって思ってさ・・・。
 こうしていると、マイナスなことばっか頭に浮かんでくるんだよ。」
ガイツの目から涙がこぼれた。
私はガイツの胸へ、毛布越しに手置いた。

「苦しまないで、きっと全部良くなるから。
 生きてさえいれば。」
私がそう言うと、ガイツは私の手を見つめた。

「聖女様の手って暖かいんだな。
 手があるうちに握っておきたかったよ。」
ガイツに笑みが戻った。


二日後、私は覚悟を決めた。
私を守って、命懸けで戦ってくれたガイツのためにも、
私一人でも旅を続け、王を正す。

私はまず、ガイツにしばしの別れを告げに行った。

「そうか、行くんだな。
 援軍でも呼んでやれたらいいんだけど、それもしてやれない・・・。
 うすうす感づいていたかもしれないけど、
 兵長も俺も騎士をやめてきたんだ。
 もっと正確に言うと、抜け出してきたんだ。
 俺も、少し前から王の様子が変なことには気づいていたから。
 
 そんな折に、兵長から手紙が来たんだ。

 王を正気に戻すことができるのは、
 聖女様しかいないかもしれない。
 俺たちで守り抜こう。

 ってさ。 

 そんなわけで、今更城に支援を頼んでも、
 もう味方はいないかもしれない。
 それどころか敵の追手が来るかもしれない。
 
 相手がますます強くなるかもしれないってのに、
 イヴ一人にさせてしまってすまないな。
 友としては止めたいけど、
 この国の民としては、イヴに頼るしかないんだ。


 ・・・聖女様、どうかご無事で。」
ガイツは姿勢を正して、敬意を表してくれた。

「ガイツも、元気で。
 すべてが終わったら、
 アリウスと共に城へ、ウルスへ帰りましょう。」
私はガイツに微笑んだ。ガイツも私に微笑み返してくれた。

その後、神殿に立ち寄ってロスタートの球に触れた。
大きな力が流れ込んでくるのを感じた。

そして、辺り一面が真っ白くなり、
またウェナ様が目の前に現れた。

「ディメイア、確かに人間達はあなた達に許されない仕打ちをしました。
 しかし、あなたが消し去ったものの中には、
 何の罪もない人達が大勢いるのです。
 これ以上あなたを放っておくわけにはいきません。
 私と共に、眠りに就きましょう。」
ウェナ様がそう言うと、辺り一面が眩しいくらいに光って、
ウェナ様の姿も、私の体も、その中に消えていった・・・。

光が収まると、私の意識はフルトの神殿へと戻ってきた。
今回は鮮明に映像が見え、声もはっきり聞こえた。
ディメイアが力を取り戻してきているということだろうか?


シロエル、ヴェリ、ロスタートは消え、
ルザーフ、バルゼビア、リスバートは行方不明。
ウルガリウスは地獄の奥深くで眠り、
ディメイアは私の中、アルケスが王の中にいるとすれば、
リヒヤールで最後だ。

私は、馬に乗って、リヒヤールがいるとされる北のゼクートを目指した。
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