隻腕の聖女

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王の野望編

第50話

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ルザーフは私に歩み寄ってきた。

「あれは?一体?」
ヨハンは状況が呑み込めていなかった。
私は、彼が人間の姿をしているが、
本性はルザーフという悪魔であることを伝えた。

ヨハンは剣を抜き、ルザーフをけん制するも、
ルザーフは全く動じない。

「何の用?」
私はルザーフに問いかけた。

「右腕の調子はどうだい?」
ルザーフは距離をとって立ち止まった。

「おかげさまで。
 王も、なんとか倒すことができたわ。」

「そうか、そいつはよかった。」
ルザーフは何度か頷く。

「じゃあ、そろそろ君ともお別れだな。」
ルザーフはそういうと、悪魔の姿に変化した。
変化といっても大した変化はなく、
角と牙、それに鋭い爪が生えて、黒い翼があるほかは、ルースそのままだった。

なぜ、悪魔の姿に?と思う暇もなく、
ヨハンが横に大きく吹き飛ばされ、
眼前にルザーフが現れた。

「こいつは貰っていくよ。」
私の頭の整理が追いつく前にそれは起きた。

ルザーフはその鋭い爪で私の左腕を切り裂いたのだ。
気付けば私の左腕はルザーフの手の中にあった。

遅れて痛みがやってくる。

私は痛みに耐えかねて、叫び声をあげた。

「やっと手に入った。この時をずっと待っていたんだ。」
ルザーフは恍惚の笑みを浮かべる。

私は右手で傷を癒し、辛うじて意識を保った。

「右腕はそのままにしておいてあげるよ。
 ウェナの力は毛色が違うから吸収はできないんだ。
 もう使いどころもないしね。」
満足そうなルザーフは、浮かれた様子で、
アルケスの残した魔力の球まで羽ばたいていく。

ルザーフが球に手を掛けるその直前、
玉座の間の扉の方から放たれた衝撃波によって、
ルザーフは吹き飛んだ。

「誰だ?邪魔するのは?」
ルザーフは受け身をとって着地すると、扉の方を睨んだ。

「あんたが何考えているのか知らないけど、
 どうせろくな事じゃないんだろ?
 その腕と、アルケスの魔力をこっちに渡しな。」
ルザーフの目線の先にいたのは、ベアトリスだった。
つまりバルゼビアだ。

「ろくな事考えてないのはそっちだろ?
 ディメイアを復活させるとか正気か?」
ルザーフは静かにバルゼビアを否定する。

「ディメイア様とウルガリウス様さえいれば、またやり直せるんだ。」
バルゼビアがルザーフの説得を試みるも、

「やり直す?あんなガラクタな世界造り替えたほうがましになるだろうよ。」
ルザーフは意に介さない。

どうやらルザーフとバルゼビアが
同じ目的のために動いていたわけじゃないのは本当だったようだ。

そのあと、私の左腕と、アルケスの魔力を巡って
ルザーフとバルゼビアが争い始めた。

やがて、白熱した戦いのさなか、
バルゼビアも蛾のような羽が生えた悪魔の姿に変わり、
もみ合いながら天井を突き破って何処かへと消えてしまった。

私もヨハンも、二人の悪魔の力の前には成す術なく、ただ見守るだけだった。

「聖女様、無事ですか?」
悪魔たちの姿が消えると、ヨハンが私に駆け寄ってきた。

「えぇ、右腕の力のおかげで、もう痛みはないわ。」


この世界を脅かすディメイアの力は、
ルザーフ達によって持ち去られてしまった。

これでよかったのだろうか?
少なくとも、私自身を地獄に封じる必要がなくなったことには安堵していた。

しかし、ディメイアの力をあの悪魔たちの手に渡してよかったのだろうか?

いずれの手に渡ったとしても、
何か良からぬことが起こってしまうのではないだろうか?

私は、言い知れぬ不安を感じていた。
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