隻腕の聖女

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7つの断章編

第5話

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トカゲ人間は木の上からこちらの様子を伺っている。
どうやら、攻撃できる隙を探っているようだ。

バルゼビアの使い魔は、とりあえず敵の登っている木を揺さぶってみるが、
敵は木から木へと飛び移ってしまってキリがない。

バルゼビアの使い魔も疲れてきているのか、
戦い始めの頃と比べて、動きが大分鈍ってきている気がする。

私は、敵を倒す方法を考えに考えた結果、
やはり私には右腕の力を使う以外のことが考え付かなかった。

問題はその使い方だ。

どう使えば敵に致命的なダメージを与えられるのだろうか?

治療と防御壁といった、
私の力では、敵に直接致命的なダメージを与えることはできそうにない。

やはり、バルゼビアの使い魔が迷いなく攻撃できる状況を作り出すことが、
勝利には一番確実な気がする。

つまり、完全に相手の動きを封じることができなければ、勝機はない。

そこで、私はあることを思いついた。
もし、この防御壁が物理的に相手と干渉することができるならば、
この防御壁で押さえつけてしまうのはどうだろうか。

身動きができないように押さえつけた状態ならば、
バルゼビアの使い魔も、敵に効率的にダメージを与えられるだろう。

それにはまず、使い魔の攻撃が届く場所に落とさなくては。

さきほどはチョロチョロと動き回ってくれていたおかげで、
防御壁に自分からぶつかってくれたが、今はほとんど動きがない。

危険な賭けになるが、
近づいて敵が飛び掛かってくるところを狙うしかない。

私はトカゲ人間の真下あたりへと駆け寄り、
敵の攻撃を誘った。

案の定、トカゲ人間は私に飛び掛かってきたので、
私は後ろに大きく飛んでそれを回避した。

トカゲ人間はそれを予期していたのか、
舌を長く伸ばして、私の右腕に絡みつかせた。
右腕が強く締め付けられる。

敵に引き付けられそうになるのを、踏ん張ってとどまりながら、
敵に向けて右腕の力を放った。

トカゲ人間は防御壁と木の間に挟まり、
ジタバタともがいた。

せめてもの抵抗なのか、
右腕がトカゲ人間の舌で強く締め付けられる。

舌が右腕に強く食い込み、引きちぎられそうだ。

しばらくして、ようやくバルゼビアの使い魔が敵に駆け寄り、
敵を殴り始めた。

兵士たちも駆け付けて、私の右腕に巻き付いた舌を
剣で何度も斬りつける。

やがて、だんだん舌の巻き付ける力が抜けていき、
敵がぐったりとし始めた。

まるで大人数で一人を虐めているみたいで、
少し心が痛んだが、相手は悪魔だ。
油断すれば、こちらの命がないかもしれないのだ。

私は、心の中で謝りながら、その光景を見ていた。

そして、私の右腕に巻き付いた舌が力なく解けた時、
バルゼビアの使い魔も攻撃の手を止めた。

敵は防御壁と木の間に挟まったまま力なくうなだれ、
ほどなくして、小さな魔力の球へと変わった。

「ようやく終わりね。」
私は、胸をなでおろして、その場にしゃがみこんだ。
敵の舌が巻き付いた右腕が、ジンジンと痛む。

いつの間にか、私のすぐ後ろにやってきていたバルゼビアが、
私の肩に手を置いた。

「お疲れ様。よくやってくれた。
 あいつの落し物はあたしが貰っていくよ。」
バルゼビアはトカゲ人間の球へと歩いていく。

彼女が球を拾い上げると、
彼女の手に吸い込まれるように消えていった。

いつのまにやらバルゼビアの使い魔の姿も無くなっていた。

「さて、と、いろいろと話さないといけないんだっけ?」
バルゼビアは、再び私のところまで歩いてきて、言った。

そうだった。
私はバルゼビアにいろいろと聞きたいことがあった。

なぜ、バルゼビアがこんなところにいるのか、
なぜ、彼女が悪魔と戦う必要があるのか、
あの後、ルザーフとなにがあったのか、
そして、この世界に今度は何が起きようとしているのか・・・。
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