隻腕の聖女

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7つの断章編

第9話

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最初に動いたのはベアトリスの使い魔だった。
その重厚な腕が、振り回したハンマーのように敵に襲い掛かる。

カマキリのような悪魔は、細い腕でそれを受け止める。
見た目に似合わず、かなり頑丈なようだ。

敵は、ベアトリスの使い魔の腕を振り払い、
そのままの勢いで斬り付ける。

敵の鎌のような手が、ベアトリスの使い魔の胸のあたりを傷つけ、抉った。
悪魔も痛みは感じるのか、低いうめき声をあげる。

ベアトリスの使い魔がひるんで、好機だと思ったのか、
カマキリのような悪魔は腕を振り回しながら前進を始めた。
細い腕は鞭のようにしなって動きが読み辛い上にリーチも長く、
その鎌は周囲の壁を抉るほど鋭かった。

私達は攻撃の隙を与えられず、後ずさりする一方だった。

「敵も必死なようだな。」
リスバートが呟く。

相手のスタミナはいつまで続くのだろうか。
もし、このまま、洞窟の入り口まで後退したら、ベアトリスが危険だ。

何処かで踏みとどまらなければいけない。
それは、現地で戦っている私たちの役目だ。

私は右腕に祈り、ベアトリスの使い魔の前方に防御壁を張った。
防御壁は、ベアトリスの使い魔を覆うほどの大きさになり、敵の攻撃を受け止めた。

敵はそんなことを気にしないかのように再度腕を振り上げて、振り回し続けた。
カマキリの鎌は、防御壁を突き破ろうと、ピッケルのように何度も叩く。

防御壁は、叩かれるたびに徐々に薄くなっていくのを感じた。

私はこのまま耐えきるのは無理だと判断し、一旦、防御壁を解除した。
それと同時に、傷の癒えていたベアトリスの使い魔が再び敵に殴りかかった。
相手も負けじと鎌を振り下ろす。

ベアトリスの使い魔の攻撃が相手に当たる刹那、
カマキリの鎌が、ベアトリスの使い魔の右腕を斬り付ける。

敵は、洞窟の壁に衝突して、軽くふらつく程のダメージを負ったようだが、
ベアトリスの使い魔も、右腕が大きく抉られる大きな傷を負っていた。

「大丈夫?」
私はあまりの痛々しい傷に、ベアトリスの使い魔のことを気遣った。
使い魔の傷は人間とは違い、みるみる塞がっていくものの、
心なしか、先ほどよりも癒える速度が鈍くなっている気がする。

恐らく、悪魔は魔力を傷口に集中させることで回復を行っているのだろう。
であるとするなら、魔力が尽きてしまえば、その回復も望めない。

ベアトリスは魔力を使い魔に費やしてしまえば、
自身は戦力にはならなくなるようだし、

思い起こしてみれば、アルケスなどは魔力が枯渇したことにより、
皮膚も軟化し、剣でも容易に傷を与えることができた。

悪魔にとって、魔力が尽きることは、
脆く非力な存在になることを意味するようだ。

敵の疲労感と、ベアトリスの使い魔の疲労感を比べると、
圧倒的にベアトリスの使い魔の方が疲れていそうだ。

つまり、このままいけば、
先に魔力が尽きてしまうのはベアトリスの使い魔の方で、
そうなれば、私たちは勝てないかもしれない。

リスバートは戦いに向いていないことを自覚してか、
見守るばかりで、役に立ちそうにもないし、
私の後ろに隠れている少女に戦力を期待するなんてもっての外だろう。
やはり、ここは私が何とかするしかない。

でも、今の私には傷を癒す力か、防御壁しかない。
攻撃に加勢することはできそうにない。

ベアトリスの使い魔の魔力が尽きてしまえば、
攻撃手段は一切なくなるといっても過言ではない。

このままではまずいかも・・・。

私がそう思っていると、
一瞬、洞窟の中がまばゆい光で満ち、
直後、バチバチと、何かがはじけるような音が耳元で激しく鳴る。

カマキリのような悪魔が大きくのけぞり、うめき声をあげる。
見れば、カマキリの左腕が焼け焦げて落ちていた。

一体、何が起こったの?
私は困惑して立ち尽くしていた。
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