隻腕の聖女

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7つの断章編

第38話

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ゼクートは、活気のある声が飛び交い、
主要な街道になると、すれ違うのも困難なほどごった返していた。

「コンパスの針は海の方を指しているな。」
ベアトリスが面倒臭そうにため息を吐いた。

「まさか、また見て来いなんて言うつもりじゃないだろうな?」
リスバートの言葉を受けて、全員の視線が彼に向いた。

「冗談だろう?どこまで飛べばいいかも分からないというのに。
 戻ってこれなかったらどうする?」
リスバートが、声も上擦りながら反論する。

「まだ、誰も何も言ってないだろう?」
ベアトリスが冷静になだめる。

「でも、どうしたらいいんだろう?」
私は、頭を抱えた。

「空がだめなら、海しかないだろう?」
ベアトリスは至って冷静だ。

確かに、言わんとすることは分かる。
しかし、断章の近くには必ずルザーフの使い魔がいた。
今回も、例に漏れず、戦闘することになるに違いない。

その時、船上だと、非常に危険な戦いを強いられることになる。
リヒヤールの時も、それが理由で洞窟を通って陸路で戦いを挑むことにしたのだ。

!?

私は、あることに気付き、コンパスの針を再度確認した。

コンパスの針は、海を向いているように見えるが、
よくよく見てみると、水平線の手前に、薄っすらと半島が見える。

前回、リヒヤールを倒した洞窟のある半島だ。

「もしかしたら、あの洞窟かも。
 それなら陸路でいけるわ。」

「あの方角に洞窟があるのか。
 そこかもしれないな。行って見るか。」
リスバートが少し嬉しそうな顔をして言った。

私達は、ゼクートから陸路で西へ迂回して、半島にある洞窟へと向かった。

「ここか。確かに針はこの奥を指している気がするな。」
ベアトリスがコンパスを覗きながら呟く。

「真っ暗だったり、浸水したりして洞窟内はかなり大変だったけどね。」
洞窟を前にして、前回の記憶がよみがえってきた。

「そういうことは早く言えよ。」
ベアトリスが面倒臭そうな顔で文句を垂れた。

そんなことを言われても、洞窟を前にしてようやく思い出したのだから無理な話だ。
私も、もっと前に思い出していれば準備を万端にしてきただろう。

「何とかならないの?」
私はベアトリスに尋ねてみた。

「何ともならないことはないが・・・。」
ベアトリスは面倒臭そうな顔で答えた。
そんな彼女に全員の視線が突き刺さり、
耐えきれなくなったのか、不貞腐れながらも馬から降りた。

「分かったよ。やるよ。
 あたしも無駄に洞窟を歩き回りたくない。」

そう言うと、ベアトリスは何やら唱え始めた。
すると、彼女の足元に無数の小さな黒い影がパチパチと音を立てて現れた。
やがて、黒い影は背の部分がほんのりと赤黒く光るアリに変わった。

ベアトリスの周囲は赤黒く光るアリに覆われて、まるで絨毯のようだ。

「こいつらはドウクツアリ。
 洞窟をくまなく探索してくれる。
 そして、お目当ての品を見つけたら足跡フェロモンのように、
 光る粘液を塗って道を示してくれる。
 あたし達はここでしばらく待つだけさ。」
ベアトリスの説明が終わる前に、既にアリたちは洞窟の中へと進んでいた。
普通のアリとは違い、かなりすばしっこい。

「もう一つ便利なのが、最速で断章にたどり着けるように道を作ってくれる。
 アリだから、穴掘りもお手の物なのさ。」
ベアトリスが自信あり気に語る。

確かにものすごく便利だ。
前回もベアトリスと一緒に旅ができればどんなに楽だっただろう。
十邪星の中でも、かなりの手練れに違いない。

数十分後、探索を終えたのか、アリたちがベアトリスの元に戻ってきた。

洞窟の壁には、いつの間にか赤黒く薄っすらと光る線が引かれている。

「行こう。あとはあれをたどっていくだけだ。」
私達は、足元を照らす数匹のアリを従えて洞窟の中へと足を踏み入れた。
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