隻腕の聖女

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新しい世界

第8話

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「2人のことは、お任せください。
 聖女様のお仲間として丁重におもてなしさせていただきます。」
翌日、城を去る時、ヨハンに、レイリアとリスバートが街に残ることを伝えた。

「もしかしたら、人に化けて悪魔が現れるかもしれないから、
 見たことがない人が来たら気を付けてね。」

「分かりました。注意します。」
ヨハンならば信頼ができる。
本当に良い仲間に恵まれて、私は幸せ者だ。

そういえば、知らない人と言えば・・・。
「ガイツの墓にガーネットの指輪が供えられていたのだけど、
 ヨハンは何か知っている?」
私が尋ねると、ヨハンは首を傾げる。

「指輪?心当たりはありませんね。」
ヨハンがそういうと、側近が何かを思い出したようだ。

「この前、城を訪れた方ではありませんか?
 ほら、ガイツ様のお知り合いとかいう。」

「そんなこともあったような・・・。
 しかし、私もよく知らない者だったので。
 残念ながら、記憶が曖昧なんです。」
記憶が曖昧だというのなら仕方がない。
私は、それ以上この話をするのは諦めた。

結局ここでも正体は分からず仕舞いだった。

それにしても、ヨハンすらも知らないというガイツの知り合いとは、
一体誰なのだろうか?

その日の、太陽が一番高い時、私とベアトリスは、
多くの人に見送られながら街の門をくぐり、
新しい旅に向かうことになった。

ところで、
「地獄ってどう行くの?」
肝心なことを聞いていなかった。
地獄に行こうにも場所も行き方すらも分からない。
どこに向かおうとしていたのだろう・・・。

もしかして、「死ななければ行けない」
なんてことはないだろうか?
流石にそこまでの覚悟はできていない。

「アルテアの塔ってあるだろ?」
ベアトリスが、具体的な場所の名前を挙げたので、私はホッとした。
地獄門は実際に存在する門のようだ。

「その頂上から飛び降りるんだ。」
当たり前のようにベアトリスが言い放つ。

アルテアの塔と言えば、この周辺では一番高い塔だ。
その頂上から飛び降りたりしたら、確実に助かりはしない。

予想は、悪い方に的中してしまったようだ。
私は、その場に立ち止まり、凍り付いてしまった。

「あ?どうかしたのか?」
ベアトリスが私の異変に気付いて立ち止まった。

「もしかして・・、
 死なないと行けないとか・・・、
 そういう・・やつ?」
私が恐る恐る尋ねると、ベアトリスは笑い出した。

「なんだ、そんなこと心配してたのか?
 大丈夫、少しチクッとするくらいだよ。」
ベアトリスは笑いながら馬に跨る。

痛いとかそういう話ではなくて、
死ぬとなったら、話が大きく変わってくる。

私は不安になりながらも、馬に跨り、
とりあえずアルテアの塔へと向かった。
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