隻腕の聖女

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新しい世界

第10話

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塔の内部では、不思議と温かさを感じた。

気候的な話ではない。
何か、優しく心に語り掛けられているような気分になるのだ。

以前にもこの感覚は感じたことがあった。
ウェナ様の神託とよく似ている。

ベアトリスには感じないようだったが、
私は塔の最上階に至るまでの間、ウェナ様を傍に感じていた。

最上階にあったのは、アルテア様の剣が納められていたと思われる台座と、
美しい装飾が施された腕輪だった。

やはり、アルテア様の剣はアリウスによって持ち出されてしまった様だ。
しかし、もう一つの腕輪は何だろう。

私は、腕輪に近づいて、で触れてみた。

「イヴ、再び逢うことができましたね。
 これも、アルテア様の導きの賜物でしょう。」
久しぶりに頭の中に神託が聞こえた。
何故だかわからないが、私の頬を涙が伝う。

「これまでのあなたの旅をこっそり覗かせてもらいました。
 ルザーフの企みは阻止しなければいけません。
 私も全力で力をお貸ししましょう。
 その腕輪を右手にお召しなさい。」
私は神託のままに右手に腕輪を着ける。
すると、周囲の温かい空気が右手に吸い込まれていくような感覚を得た。

「剣を構えて、それが光に包まれている所を想像しながら右手を翳してご覧なさい。」
私は、剣を扱いなれている左手で剣を構え、そこに右手を翳してみた。
剣は淡い緑色の光で覆われた。

「その光は、ルザーフの魔力を中和します。
 これからの戦いで役立つことでしょう。」
私は剣を納め、両手を胸の前で組んで感謝を述べる。

ルザーフとの戦いを前にして、右腕の力が増し、戦いの術を身に着けることができた。
なにより、ウェナ様の神託が再び聞こえるようになり、私は心強い気持ちでいっぱいになった。

「なんだ?何があったんだ?」
ベアトリスには神託が聞こえないため、
終始意味も分からず眺めていたのだろう。

私は、先ほど起こったことを説明した。

「そういうことか、アルテア様の導きか・・・。不思議なこともあるもんだ。
 せっかくここまで来たんだから、屋上でこの世界を眺めてから行こうか。」
私は、それに同意し、屋上への階段を上がる。

塔の屋上からは、足元の湖はもちろん、それから少し遠方に行ったところにある海、
そして薄っすらとウルスの街が見える。

陽は落ちかけ、辺りは薄っすらとオレンジ掛かっていた。

「この世界は、アルテア様がお創りになられた世界だ。
 醜い人間もいるだろうが、世界には罪はない。
 必ず守らなければな。」
ベアトリスは、遠くの海を見つめながら言う。

「うん。」
私はウルスの街を眺めながら頷いた。
ウルスだけではない。
アインの村、ツヴァートに、ドラジア。
ヴィアの村、フルト、ゼクート、レイウェン。
そして、まだ名も知らない街がこの世界にはまだまだ存在する。

ルザーフを倒し、守ることができるのは、私達だけなのだ。

私は、意を決し、塔の頂上から飛び降りることを決めた。
塔のヘリに乗り上げ、右足を宙へと・・・。

「待て、死ぬ気か?」
ベアトリスが急に大きな声で話しかけてきたので、
驚いて体制を崩しそうになるが、何とかこらえる。

「え?どういうこと?」
私が困惑していると、ベアトリスが笑い出した。

「そうか、そんなこと言ったな。
 あれは半分冗談だ。」
ベアトリスの笑いが止まらない。

「冗談?本当に塔から飛び降りるところだったじゃない!」
私は怒りながらベアトリスに詰め寄る。

「塔から飛び降りるのは本当だ。だけど、ここじゃない。
 ちょっと考えたらわかるだろ?
 数百年この塔は封印されてたんだから。
 それじゃあ誰も行き来できないじゃないか。
 あたしみたいに空を飛べれば別かもしれないけど、
 そうじゃないのも出入りしてるだろ?
 ダナゴンとか、アリウスとか。」
ベアトリスがまだ半分笑いながら言う。

癪に障るが、言われてみればそうだ。
じゃあ、なぜアルテアの塔に登ったのだろう?

「この塔を勝手に登っていったのはあんただろ?
 あたしはそれについて来ただけさ。
 結果的に得るものがあったみたいでよかったな。」
ベアトリスの言う通りだったので、私は返す言葉に迷う。

「言ってくれたらいいのに。」
私は沸き上がった怒りをどう納めていいか分からず、
半ば独り言のように呟く。

「どうせ、夜まで時間はあったしな。」
ベアトリスが言うには、門をくぐるには、夜まで待つ必要があるということだった。

私達は、塔の上で、沈んでいく夕日を眺めながら、時を待つことにした。
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