隻腕の聖女

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新しい世界

第11話

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やがて、陽が落ちて周囲が暗くなると、私達は塔を降り始めた。
どうやら、本当にこの塔は関係なかったらしい。

では、本命は一体どこなのか?
それは、とても意外な場所だった。

「湖を見てみろ。」
ベアトリスの言葉を受けて湖を覗き込んでみる。

夜になっても、明るい月明かりのお陰で湖に塔の姿が写り込む。
鏡のような湖に映った塔は、まるで本当にそこにあるみたいだ。

「手を伸ばせば塔に触れそう。」
私が思ったことを口に出すと、

「実際に触れるんだよ。」
と言いながらベアトリスが湖に飛び込んだ。
私が驚いていると、ベアトリスが湖から顔を出した。

「早く来い。時間がないんだ。」

戸惑いつつも、私はベアトリスを追って湖に飛び込む。

湖の中は、私が思っているものとは違っていた。
飛び込めばびしょ濡れになるかと思いきや、体は乾いたままだった。
それどころか、水中であるはずなのに、呼吸も普通にできる。
しかし、そうでありながらも、水に浮かんでいるかのような浮遊感はあるのだ。

まるで自由に空を飛べるようになったみたいだ。

「何してる?時間がないって言ってるだろ?」
私が困惑している間に、ベアトリスは既に逆さになったアルテアの塔の前までたどり着いていた。

泳ぐように手足を動かすと、思い通りに進んで行く。
本当に不思議な感覚だ。

そのまま塔の入り口にたどり着くと、不自然な出来事が起きていることに気付いた。

「扉が閉まってる。アルテアの塔の扉は開いてるのに。」
水に映って反転しているだけだと思っていた塔の扉が、
こちらでは閉まっていたのだ。

「ここは水鏡の塔とも呼ばれている。
 実際にはアルテアの塔とは別物さ。」

ベアトリスは閉ざされている扉へと徐々に近づいていく。

「この扉が、魂の選別をする。
 選ばれた者だけがこの扉を通れる。」
ベアトリスがそう言いながら扉に手を触れると、彼女は光になって消えてしまった。

私は、一体どうなるのか不安を感じつつも、ベアトリスに倣って扉に手を触れてみた。
すると、フッと、一瞬だけ無重力になった感覚に襲われ、気付けば塔の中にいた。

塔の上下はいつの間にか元通りになり、
先ほどまでいたアルテアの塔と何ら変わりないように思えた。

「本当は、さっきまで天井だった場所が床になってるから、
 重力が反転しているんだけど、それは今のあたし達には確かめようもないのさ。」
私は、ベアトリスが何を言っているのかよく理解できなかったが、
要するに、地球の反対側の人間も私達と同じように生活できているのと同じことらしい。

「ちょうどここと地球の裏側に位置する場所の人に聞いても、
 ここは地球の裏側です。なんて認識しちゃいないだろう?
 実際、その地球の裏側からしてみたら、
 あたし達のほうが裏側なんだが、そんなこと知ったこっちゃない。」
なんとなく、言っていることが分かるような、分からないような・・・。
私の頭はこんがらがり出してしまった。

「そんなこと説明している場合じゃなかった。
 早くしないと門をくぐる前に時が過ぎてしまう。
 急ごう。」
私は、困惑しながらもベアトリスを追って塔を登り出した。

塔の頂上につくと、アルテアの塔で見たのと同じ様な景色が広がっている。
でも、本当は湖の中なのだ。

「水鏡の世界の扉は、月のある夜の間しか開かれない。
 気付かなかったかもしれないが、湖を覗き込んだ時、そこにあんたの姿はなかっただろ?
 ここに、あたし達は存在しちゃいけないのさ。
 だから、さっさと水鏡の世界は通り抜けないといけない。」
言われてみれば、湖を覗いていた時、夜空と塔の姿だけがはっきりと見えていた。
本来であれば、そこに私の姿が映るはずなのに・・・。

「この世界に住む住人もいるらしいが、それは別の話だな。」
ベアトリスが何やら呟いている。

「さて、心の準備ができたらいくぞ。ヒルの世界へ。」
ベアトリスの指差す先は、ちょうど私達が湖に飛び込んだのと反対側、
私達の世界から湖を覗いた場所からは死角になる場所だった。

塔の中腹辺りから、門が直角に張り出すように建ててあり、
その門の中は禍々しい空気が渦巻いている。

塔の頂上から飛び降りるというのはそういう意味かと、私はようやく理解した。

アルテアの塔で、既に覚悟は決めているのだ。
今更怖くなどない。
私はベアトリスが見守る中、禍々しい空気が渦巻く門へとダイブした。
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