隻腕の聖女

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新しい世界

第18話

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「来るぞ、構えろイヴ。」
ベアトリスが悪魔の姿に変身して魔力の刃を構える。

私は涙をぬぐって、立ち上がり、
左手に剣を構え、レイリアに向けて右手を突き出し、
彼女と私達の間に防御壁を発生させた。
その壁は、まるで、私とレイリアが敵であるとはっきり区切る境界線のようだった。

しかし、レイリアは攻撃をためらっているのか、
既に準備は終えているはずなのに一向に撃ってこようとはしない。
ベアトリスも、レイリアに攻撃するのをためらっているのか、
自分から仕掛けることはしなかった。
もちろん、私だって攻撃なんてしたくない。

しばらく硬直した時間が過ぎる。

実は、はっきり言ってしまえば、防御する範囲が広くなりすぎたせいで、
防御壁は発生した時点でかなり薄く、
レイリアの全力の攻撃を受け止めきれるとは到底思えなかった。

避けるにしても、彼女の攻撃は光のような速さだ。
まず不可能だろう。

時間が過ぎていくほどに互いの緊張感は増していく。

耐えきれないような緊張感の中、
やがて、レイリアの涙が枯れ、足元は次第にフラフラとして、
呼吸が乱れて荒くなり、視点も定まらなくなった。

ベアトリスが構えを解かずに困惑している。
それは私も同じだった。

しかし、しばらくして、
レイリアの状況を、私も経験していることを思い出した。
最初に戦った、十邪星シロエルとの戦いの時だ。

体中のすべての力、いや命が左手に吸われて行く感覚。

今、レイリアは、命を魔力へと変換しているのだ。

「どうして?レイリア。なぜルザーフなんかのために命を?」
拭ったはずの涙が再び流れる。

私の言葉が聞こえたのか、ベアトリスはレイリアが今どんな状況なのかを察したようだ。

「それが、お前の答えなら、
 あたしも真正面から受けてやるよ。」
ベアトリスが、今にも飛び出しそうな態勢をとり、
私に防御壁を外すようにと、目で合図する。

「いくぞ!」
ベアトリスが叫ぶ。
それは、レイリアに向けて発したと言うよりも、
自分自身がレイリアを貫く覚悟をするために発したようにも聞こえた。

私は、決心して防御壁を外す。

ベアトリスが、刃を前方に構えると、勢いよく飛び出し、
一条の光のようになってレイリアに向かっていく。

しかし、レイリアは、そこから私達の予想を裏切る行動に出た。
急に体を捻り、後方のルザーフに向けて左手に込めた力を放ったのだ。

狙いをつける際、レイリアの目がほとんど見えていなかったせいか、攻撃は少し外れて、
ルザーフは左腕を失う程度に留まってしまった。

だが、そんなことより、もっと最悪な出来事が起きてしまう。

あまりの急な展開に、ベアトリスは攻撃を止めることができず、
彼女の刃は、レイリアの腹部を貫いてしまったのだ。

「あぁ、そんな・・・・。」
あまりの悲劇に、私はとうとう眩暈がしてきた。

ベアトリスが後ろへと跳ね飛んで私の隣に戻ってくる。

「レイリア、どうしてこんなこと・・・。」
私の目は、眩暈と涙で霞んでしまい、
玉座に座ったルザーフとは別に、
もう1人ルザーフが刃を構えているように見える。

いや、本当に2人いる。
玉座に座っているのは、
以前、ベアトリスから奪い取った力を使い、
ルザーフが作り出したデコイだったのだろう。

「私は無感情な人形なんかじゃない。
 私にだって守りたい仲間がいる。」
レイリアが咳き込みながら、か細い声で言った。

「がっかりだよ。まさか、使い魔にまで裏切られるなんてな。
 なんて可哀想なんだ、俺は。
 やっぱり、いつでもどこでも孤独な存在なのか。」
ルザーフが、危なっかしくレイリアの目の前で刃を風車のようにくるくる回しながら、
悲劇のヒーロー気取りで語る。

「生まれ方を選べるのならば、
 イヴおねぇさんの友達に、生まれて・・・」
レイリアの声が途切れた。

「レイリア。」
ベアトリスの悲痛な声が周囲に響き渡る。

私はその瞬間、レイリアの方を見ることができなかったが、
初めて聞いたベアトリスの取り乱した声に、
私は何が起きたのかを悟った。

もう、嫌だ。
どうしてこんなに悲しい思いをしなければいけないのか・・・。

「レイリアは、ディメイアの力を持つ聖女様の左腕に、
 十邪星達の力を貸し与えて作った人形だ。
 ディメイアの力は不要だが、これは、返してもらわないとな。」
ルザーフが、レイリアだったと思われる赤黒い球を拾い上げた。

「しかし、こんな小道具で俺を騙せると思ったのかね?
 使い魔ごときになめられたものだ。」
刃を手にしたルザーフが、
玉座に座っているルザーフの持つ断章の入った皮袋を切り裂くと、
中からは手ごろな大きさの石がゴロゴロと転がってきた。

レイリアは、私達が集めた断章を差し出したりしていなかったのだ。

「さて、余興も終わったところで、メインイベントといこうか?」
玉座に座っていたルザーフが消滅し、刃を手にしたルザーフだけが残った。

ルザーフだけは、私の命を懸けても許しはしない。
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