4 / 39
4.世界一人の話を聞かない男
しおりを挟む
***
次の日の朝、私は学校をズル休みする気でいた。
もちろん昨日の一件が原因だ。
学校に行けば絶対に獅童がいる。
あの顔だけ変態男のことだから、どうせ私のことを言いふらして回っているに違いない。
そうじゃなくても、今はあの男を視界に入れることすら嫌だった。
だけど私の学力はかなり低く、一回でも授業を休むとその次の授業からついていけなくなってしまう。
数学や物理なんて教科書を見て理解できた試しがない。
そして最悪なことに今日は数学も物理もある日だった。
朝からそんな葛藤を繰り返した結果、私は今教室の前に立っている。
一度深呼吸をして教室後方のドアからこっそり中を盗み見ると獅童はいなかった。
ほっとして胸をなでおろす。
教室に入ったら迅速に自分の席に行って、音楽を聴きながら唯が来るまで待てばいい。
そこにあの男の介入できる余地はないはず…。
よし、いくぞ!と気合をいれて足を踏み出した瞬間、聞き覚えのある低い声が後ろから聞こえてきて私の体がピシリと固まる。
「おはよ、夏菜」
おそるおそる振り返ると、そこにはあの顔だけ変態男がにこにこ笑って立っていた。
え、この人昨日私のこと泣かせたよね?
どういう神経してたら何事もなかったかのように挨拶できるの?あとなんで私のこと名前呼びなの?
この人、人格破綻者とか、サイコパスとか、そういう類の人?
「お前、目がクリっとして可愛いよな」
私が混乱していることなんてお構いなしに、私の前髪を指で流す獅童。
私は慌てて後ずさってその手から離れた。
私、昨日触らないでって言いましたよね?
あれ?
「そこ邪魔。夏菜行くよ」
あまりの非日常な出来事に涙目になっていると、登校してきた唯が颯爽と助けてくれた。
獅童は私が教室に入った後もじっとこちらを見ていた気がするが、きっと気のせいだ。
唯はズンズンと自分の席に突き進んで到着した瞬間、ぐりんっ!とすごい勢いでこちらに振り向いてきた。
いつも亀のようにノロノロと動く彼女にしては珍しい動きだ。
「昨日、何があったか、簡潔に」
「あ、えーとですね、」
いつも半分しか開いていない彼女のまぶたが今日は全開まで開いていてめちゃくちゃ怖い。
昨日のことを一から説明したいけれど、そうすると最悪だったファーストキスのこととか、それが原因で泣いちゃったこととか全部話さないといけなくなる。
一連の出来事を思い出すと情けないやら恥ずかしいやらで、顔が赤くなっていく。
「殺してくる」
「わーまって!!殺しちゃダメ!!」
殺意の波動をまとい歩みだした唯を必死に止める。
唯は抜けてる私に対して異常に過保護になるときがあって、今がまさにその時だ。
…正直に話したとして唯の怒りが収まるかはわからないけど、結局すべて隠さずに話をした。
唯の瞳孔は終始開いていた。
「殺害方法は絞殺か溺死か…」
「ダメ!!!人殺し!!!ダメ!!!」
「…分かった。つまり、夏菜はあのゴミから口止め料としてキスをされて、夏菜が泣いて嫌がって、ゴミがゴミらしく謝ってきたと」
ゴミとは獅童のことだろうか…
「う、うん」
「そしたら次の日から何故かなれなれしく話しかけてくるようになったと」
「うん」
「ころ「殺しちゃダメだからね!!」
「…しばらくはアタシのそばを離れないようにして」
「ゆ、ゆいぃ…!」
それから唯は宣言通り、登校時も休み時間も下校時もずっと一緒にいてくれた。
唯には感謝してもしきれない。
もともと私は唯にベッタリだったからずっと唯と一緒にいるのは楽しかった。
…たまに般若のような顔になっていたけれど、何があったのか聞く勇気は私にはない。
あと、私の正体については1日経っても2日経っても広まる様子はなかった。
SNS上でも噂らしい噂はない。
もう絶体絶命だと思っていたけれど、どうやら獅童は秘密にしてくれているみたい。
ファーストキスを奪われたのは高い代償だったけど、それで学生としても歌い手としても今まで通りの生活ができるのなら、背に腹は代えられない。
次の日の朝、私は学校をズル休みする気でいた。
もちろん昨日の一件が原因だ。
学校に行けば絶対に獅童がいる。
あの顔だけ変態男のことだから、どうせ私のことを言いふらして回っているに違いない。
そうじゃなくても、今はあの男を視界に入れることすら嫌だった。
だけど私の学力はかなり低く、一回でも授業を休むとその次の授業からついていけなくなってしまう。
数学や物理なんて教科書を見て理解できた試しがない。
そして最悪なことに今日は数学も物理もある日だった。
朝からそんな葛藤を繰り返した結果、私は今教室の前に立っている。
一度深呼吸をして教室後方のドアからこっそり中を盗み見ると獅童はいなかった。
ほっとして胸をなでおろす。
教室に入ったら迅速に自分の席に行って、音楽を聴きながら唯が来るまで待てばいい。
そこにあの男の介入できる余地はないはず…。
よし、いくぞ!と気合をいれて足を踏み出した瞬間、聞き覚えのある低い声が後ろから聞こえてきて私の体がピシリと固まる。
「おはよ、夏菜」
おそるおそる振り返ると、そこにはあの顔だけ変態男がにこにこ笑って立っていた。
え、この人昨日私のこと泣かせたよね?
どういう神経してたら何事もなかったかのように挨拶できるの?あとなんで私のこと名前呼びなの?
この人、人格破綻者とか、サイコパスとか、そういう類の人?
「お前、目がクリっとして可愛いよな」
私が混乱していることなんてお構いなしに、私の前髪を指で流す獅童。
私は慌てて後ずさってその手から離れた。
私、昨日触らないでって言いましたよね?
あれ?
「そこ邪魔。夏菜行くよ」
あまりの非日常な出来事に涙目になっていると、登校してきた唯が颯爽と助けてくれた。
獅童は私が教室に入った後もじっとこちらを見ていた気がするが、きっと気のせいだ。
唯はズンズンと自分の席に突き進んで到着した瞬間、ぐりんっ!とすごい勢いでこちらに振り向いてきた。
いつも亀のようにノロノロと動く彼女にしては珍しい動きだ。
「昨日、何があったか、簡潔に」
「あ、えーとですね、」
いつも半分しか開いていない彼女のまぶたが今日は全開まで開いていてめちゃくちゃ怖い。
昨日のことを一から説明したいけれど、そうすると最悪だったファーストキスのこととか、それが原因で泣いちゃったこととか全部話さないといけなくなる。
一連の出来事を思い出すと情けないやら恥ずかしいやらで、顔が赤くなっていく。
「殺してくる」
「わーまって!!殺しちゃダメ!!」
殺意の波動をまとい歩みだした唯を必死に止める。
唯は抜けてる私に対して異常に過保護になるときがあって、今がまさにその時だ。
…正直に話したとして唯の怒りが収まるかはわからないけど、結局すべて隠さずに話をした。
唯の瞳孔は終始開いていた。
「殺害方法は絞殺か溺死か…」
「ダメ!!!人殺し!!!ダメ!!!」
「…分かった。つまり、夏菜はあのゴミから口止め料としてキスをされて、夏菜が泣いて嫌がって、ゴミがゴミらしく謝ってきたと」
ゴミとは獅童のことだろうか…
「う、うん」
「そしたら次の日から何故かなれなれしく話しかけてくるようになったと」
「うん」
「ころ「殺しちゃダメだからね!!」
「…しばらくはアタシのそばを離れないようにして」
「ゆ、ゆいぃ…!」
それから唯は宣言通り、登校時も休み時間も下校時もずっと一緒にいてくれた。
唯には感謝してもしきれない。
もともと私は唯にベッタリだったからずっと唯と一緒にいるのは楽しかった。
…たまに般若のような顔になっていたけれど、何があったのか聞く勇気は私にはない。
あと、私の正体については1日経っても2日経っても広まる様子はなかった。
SNS上でも噂らしい噂はない。
もう絶体絶命だと思っていたけれど、どうやら獅童は秘密にしてくれているみたい。
ファーストキスを奪われたのは高い代償だったけど、それで学生としても歌い手としても今まで通りの生活ができるのなら、背に腹は代えられない。
0
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
義父の連れ子から逃れたい。猛勉強して志望校変更したら、家庭内ストーカーになった義弟
東山 庭子
恋愛
親の再婚で姉弟となった南と蓮。女癖の悪い蓮と離れたくてこっそり志望校を変えた南は、その後蓮の歪んだ溺愛に悩まされていく。
続編「義母の連れ子と結婚したい♡ 追いかけて追いかけて、やっと捕まえた義姉と俺のイチャラブ日記♡」
→https://www.alphapolis.co.jp/novel/440565753/636968278
佐久間 蓮(さくま れん)
佐久間 南(さくま みなみ)
椿→南の友達
亜耶→椿のハトコ
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる